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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第34話


「なあ、カッツ。メスオーガってなんなんだ?」

俺の前を歩くカッツの背中をちょんちょんと突く。

「ばっ、お前、口に出すなよばかっ」

「え?」

カッツは小声だが、注意するように鋭く言う。何をそんなに起こっているのだろう?

「お前、本当に知らないのか?」

「ああ、うん。ティナリア先生はいったい何を言われたんだ?」

「……仕方ないな。いいか、その言葉は、人目につくところでは絶対に口にしちゃダメな言葉なんだ。勿論、一人の時に使っていいってわけでもないけど」

「はあ?」

「オーガという魔物は知っているな?」

「まあ、聞いたことはある。頭に二本の角がついた人型の魔物だろ?」

一般的には、強い魔物として知られている。”オーガに棍棒”や”オーガもおだてりゃ火で炙る”など、ものの例えにも使われる魔物だ。

「そうだ。そのオーガの頭は、赤い髪の毛をしているとも言われているんだ。更に、オーガの特徴といえば?」

「えっと……頭が悪いとされているんだっけ?」

「その通りだ。つまり人に向かって、特に女性に向かって”オーガ”という言葉を使うことは、頭の悪くて魅力のない馬鹿な女性と罵ることになるんだ」

へえ、そうなのか。

「でも、それなら普通の悪口と変わりはなくないか?   ティナリア先生は、やけに怒っていたように見えたけど?」

「うん、ただの悪口じゃぁない。赤毛の人は、昔はオーガの生まれ変わりとして忌み嫌われていたんだ、つまりは差別だな。貴族が平民を見下すのよりももっと酷い、人として扱われなかった時期もあったくらいらしい」

「そんな時代が……でも、今はさすがに違うよな?」

「ああ、時代とともに髪の色や目の色など、身体の特徴を揶揄する風潮は減っていった。だが、今でも嫌味を込めて差別用語を使う奴は結構いるんだよ。特に赤毛の人はオーガと言われていじめられることもあるという」

「なるほど、それで空気が凍りついたのか」

「そうだ。お前、本当に知らなかったのか。結構有名な話だと思っていたが?」

「まあ、俺の生まれたところは田舎だし、そういういざこざを起こしている暇があれば畑を耕せ!   って感じだったしな」

「ふーん。ま、ともかく、あの二組の先生は後で厳しく処罰されるだろうな。この学園は生徒は皆平等に扱うべきというところからもわかるように、さっきのような下らない争いを嫌うらしいから」

「そうか。あんな奴、別にいなくなっても困らないがな」

態度から察するに、平民を見下していたようだし。ある意味、典型的な貴族だといえよう。

「そろそろ着くぞ、心しておけよ!」

ティナリア先生が言う。俺たちは会話をやめ、前を向く。

「私たちは二組の後に入るから、暫くは待機だ。だからと言って気を緩めるんじゃないぞ。今年はなんと、今上陛下のご臨席も賜るんだ、光栄に思えよ!」

えっ、陛下が!
生徒達の間に一気に緊張が走る。

「うんうん、それくらいの緊張感を持てよ。あ、あと、神子殿下やロンデル王国の国王陛下もいらっしゃる。他国の要人も沢山だ。お前達の一挙一動、一挙手一投足、全てを見られているからな。国の代表として振る舞う気でいいくらいだ。栄えある神皇国の未来を示すため、頼んだぞ!」

そこまで言われるとは。だが俺もあの誓約書に署名をし、難しい入学試験を受け、ここにいるのだ。大丈夫、自信を持て。

「お、おい、どうしよう……」

だが、カッツはそうはいかないようだ。ガタガタと身体が震えている。

「心配するな、俺もお前も、まだ子供なんだぞ?   先生はああ言っているが、少しくらい失敗したって大したことはないさ」

カッツの手に肩を置きそう言ってやる。実際は神皇帝陛下のいらっしゃる前だから、子供と雖も許してもらえるとは限らないが。謁見した俺だからわかることだ。

「そ、そうだろうか?」

「ああ。だからいつも通りに振る舞えばいいだろうさ」

「そうか……わかった、気にしないことにするわ。俺は、一組の生徒の一人なんだからな、違いを見せてやるぜ」

カッツはどうやら気を持ち直したようで、拳をぐっと握る。

「そうだ、そのいきだ」

と、ティナリア先生が話しかけてきた。

「お前がカッツだな、そのスキル同様、何事も切り分けて考えればいいのだ」

「はい、わかりました、先生」

そういえば、カッツのスキルってなんなのだろう、まだ知らなかったな。今度聞いてみよう。

俺たちの横を、二組の生徒が通っていく。どうやら次のようだ。

「よし、いくぞお前ら、ネクタイは曲がってないか?   スカートをパンツに挟むなよ!」

そして、俺たちの番が来た。




「皆さま、暖かい拍手でお迎え下さい、今年の入学優等生たちである、一組の生徒です!」

扉の奥から、女性の声が聞こえて来た。俺たち、やっぱそういう扱いなんだな。

----パチパチパチ

会場から大きな拍手が聞こえてくる。ティナリア先生に続き、一番前のアナスタシア様が扉から大講堂へ入る。二番目、三番目と大勢の観衆に迎えられながら順番に入場する。

「じゃな!」

そしてカッツが行く。次は俺だ。

カッツと少し間を開け、係員の誘導に従い道を進む。

大講堂の中は、正面に大きな壁画があり、両脇から旗が垂れ下がっている。部屋の左右は二階席となっており、俺たちのことを沢山の人が見下ろしている。

俺たち新入生は、部屋の奥(手前側)から通路を挟んで左右に二十人ずつわかれて八組、七組と座って行き、一番前、下り坂の一番下に一組が座る。
俺の席は、通路を挟んで左側の一番奥だ。

俺が着席すると拍手が止み、大講堂の一番奥、一段高くなっているところにたっている女性が話し始めた。

「では皆様ご起立ください、神皇帝であらせられる、バルフェルンハルト・ゴッディス=グリムグラス陛下が御入堂されます!」


言われた通り椅子から立つと、左右の二階席の更に上にある通路から、荘厳な音楽が聞こえてきた。

「今上陛下の、おなーりーぃー!」

と叫ぶ声が聞こえ、俺たちは来賓共々土下座をする。

「----面をあげよ」

これで三度目となる声色、陛下のあのよく響く低い声が聞こえる。頭を少し上げ、目線はそのまま床に向けたままだ。

大講堂が緊張に包まれる。今ここは、神皇帝陛下が支配しているのだ。生きるも死ぬもあの方次第、祝いの席だろうか入学式だろうが関係はない。

「……我は嬉しく思う。こうして、栄えある神皇国の次代を担う子供達の晴れの日を見られるのだから。だがその素晴らしい日を壊すような真似はしたくない。よって、我はこの玉座から見物させてもらうことにしよう。司会のもの、後は頼んだぞ」

「御意」

司会の女性は拡声器でもつけているのだろう。両手を地についているはずだが、声が会場に響き渡る。

「では皆様、先にお座りください」

女性が言う。俺たちが顔を上げると、入った時から目についていた、段上に置かれた前を布で遮られた椅子に人影が座っているのが見える。陛下はあそこからご覧になるようだ。

「続いて、学園長からの祝辞です」

予定通りに入学式は進む。司会の合図で、左右の一階部分、ティナリア先生達などが座る、恐らくこの学園の職員たちだろう人達が座っているところの、右側の一番前の席から、一人の女性が立ち上がった。

んん?   女性というより、女の子……だよな?

女の子は段を上がり、神皇帝陛下と肖像画に一礼をした後、段上の真ん中まで歩いて行き、司会の人が置いた箱の上に乗った。女の子の前には、棒の先に何かがつけられた物が置かれている。

「……あー、あー!」

あっ、声が聞こえてきた。あれも拡声器なのか?

「皆様、おはようございます」

女の子は明らかに女の子の声だ。プッチーナの地声より少し低いくらいの声色だろうか。

「そして新入生の皆さん、初めまして。私がこの国立学園学園長の、アバ・バリバティーです」

アバと名乗る女の子は、先が尖った丸い帽子をかぶり、ローブを羽織っている。靴も先がくるりと上に向いて尖っている。しかも全身黒尽くめだ。

いかにも怪しい。本当に学園長なのか?

「まあ毎年のことじゃが、新入生は私のことを疑っておるようだな」

アバはウンウンと頷く。

「だが安心して欲しい、わしが学園長であることは、このわしが保証しよう!」

自称学園長が、どうだ!   とでも言わんばかりの自信満々な顔をする。ない胸を張り口角を上げる。

……シーーン

「……うえっ?   そ、そこは『おお!』だの『すげぇ!』だのと感嘆の声を上げるところじゃろうが!」

「……こほん、学園長、祝辞のほうをお願いいたします」

「そ、そうじゃな。仕方ない奴らじゃ。ゴホンゴホン!   さて、新入生の諸君にまず言っておきたいことがある。この学園は、ただの育成機関ではない!」

学園長は肘を曲げ拳を握る。

異能持ちスキルホルダーという特殊で特別な能力を持つ者達を、国のため、未来のために使える人間・・・・・にする場所なのだ。地方都市にあるようなただお勉強をすればいいという学校ではない。人によっては戦争に行くだろうし、人の死に目に会うこともあろう。そういういかなる状況にあっても、冷静な対応を取り自分の持つスキルを最大限発揮するための精神力を養う必要がある!」

学園長の力説は続く。

「つい先日、この皇都をハエ型の魔物、ベルズが襲撃した。魔物によってたくさんの人が死に、経済的な被害も大きい。この中にも家族や知り合いが被害にあった者もおろう。しかし、それは今回に限った話ではない!   知っての通り、ミナスティリアス帝国が生意気にも栄えある神皇国に侵攻してきたのだ!」

陛下の名でこの事実が知らされたのは六日のことだ。魔物の襲撃に続く衝撃が街を駆け巡るか思われたが、人々は意外にも冷静だった。
何故ならば、新興国は過去に帝国に勝利しているからだ。そう、国境線を決めたという数十年前の戦争だ。俺の暮らしていた村が出来た原因でもある。

更に、第一神子殿下が一人で帝国軍12万人を殲滅したという情報も入ってきた。正直全く信じられないが、現に侵攻は一時止んでいる事から返り討ちしたことは事実なのだろう。
グリムグラスの血筋は偉大であるということを知らしめるために持ったと考えるのが妥当だと思う。ランガジーノ殿下も前よりも人気が出ているらしいし。

「戦争というものは、すぐに終結するものではない。第一神子殿下のご活躍により一時は休戦となっているが、帝国がまたいつ侵略を再開してもおかしくないのだ」

そこで学園長は、一度話を止める。皆を見渡し、そして口を開いた。

「……今、ここで明かそう!   諸君ら学園生には、帝国軍討伐遠征に参加してもらうっ!」

学園長の言葉を聞き、会場がざわつき始める。

討伐遠征……ガルムエルハルト様がおっしゃっていたアレのことだろう。

「静粛に!   まだ学園長の祝辞は終わっておりません!   続きをお願いいたします!」

司会の訴えによって騒が次第に収まる。

「皆が驚くのも無理はない、だが安心してほしい。何も学園生だけで戦争をしに行けと言っているのではない。神皇国軍に帯同してもらうだけだ。だがこれは、お遊びでないことは確かだ!   更にいうと、全員が行くわけではない。半年後にある期末試験の結果により、成績上位者を連れて行くことになる。新入生だけではなく、二年生から五年生までも同様に遠征軍の対象になる。頭に入れておくように!」

学園長は二階席に座っている、俺たちと同じ制服を着た人たちを見る。

「では最後になったが、祝意を述べよう。新入生、いや、一年生の皆!   ご入学おめでとう!   君たちの頑張りに大いに期待するっ!   以上で話を終わる」

学園長は台から降りて、神皇帝陛下と肖像画に頭を下げ階段を降りた。

「……学園長、ありがとうございました。では続いて、新入生代表の宣誓です。一年一組、アナスタシアさん、前へ」

「はい!」

アナスタシア様が返事をし、椅子から立った。


          

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