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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第33話


リビングを経て寝室に入ると、壁に服が掛けられていた。

「あれが制服です、これからはあの服を着て毎日を過ごしてもらいます」

「わかりました!」

制服は以前に採寸を済ませてある。本来ならば事前に来て確認をしておくべきだったのだろうが、色々あったせいでその時間がなかった。

白い長シャツを着、紺色のズボンを履く。そして赤い上着を羽織り、あのネクタイを首に巻く。ネクタイの色は今年の一年生を表す黄色だ。

壁に立てかけられている姿見で自分の格好を確認する。

ん、ネクタイが少し曲がっているかな?   やり方はプッチーノさんから教えて貰ったけど、まだ不慣れなせいかきちんと締められていない。

「クロン様、私がやりますよ」

フォーナ様が横から俺のネクタイを結び直す。

「あ、ありがとうございます」

何だか恥ずかしいな、これ。

「むう!」

鏡に反射したエレナさんの頬が大きく膨らんでいる。な、何を怒っているのだろう?

「エレナ、可愛い顔が台無しですよ」

フォーナ様もそれに気づき、俺のネクタイかきちんと出来ているかもう一度確かめた後、エレナさんに近づき頬を両手のひらで軽く押した。

「ぷしゅー……」

エレナさんは怒った様子を隠そうとしない。何をそんなに怒っているのだろうか?

「私の仕事なのに」

「「え?」」

「私の仕事なのに〜!   貴族様の間では、妻が夫のネクタイを締めるのが流行っているらしいのです!   せっかくの機会だったのに」

いやいや、まだ夫婦が何ちゃらを主張するつもりなのか?

「確かに、私たちはクロン様のためにこの学園にいます……でも、この歳で夢のひとつくらい見せてもらってもいいじゃないですぁか〜〜!」

「はあ……」

フォーナ様がひたいを押さえ溜息を吐く。

「仕方ありませんね……これからはクロン様の着替えはエレナに任せることにします。その代わり、他の仕事もきちんとこなしてくださいね」

「本当ですか!   やった!」

エレナさんは途端に目をキラキラと輝かせる。そんなに男に飢えているのか……?   いや、そもそもこれは喜ぶことなんですかね?

「あの、俺の意見は?」

「却下です」
「クロン様は、ただどっしりと構えておいてください!」

俺、一応この部屋の主人なはずなんだが……




二人に後のことは任せて部屋を出た俺は、教室へ向かう。
と、教室の前でプッチーナに出くわした。

「よう。お、可愛いな、その制服」

「……そうかな?」

プッチーナは一回転する。制服のスカートが浮き上がり、細い綺麗な足が見えた。膝丈より少し上くらいの長さなので、それよりも上まで見えそうになり、俺は視線を背ける。

「……どうしたの?」

「い、いや、なんでもないぞ、うん。似合ってるな」

「……ありがとう。教室、入る?」

「そうしようか」

俺は教室の扉の上に、壁から突き出すように掲げられた教室名が書かれた札を見上げる。

一年一組。今日から一年間、ここが俺の学び舎となる。頑張ろう!

「あ、クロン様!」

「ん?」

教室に入ると、目の前の席に女の子が座っていた。その女の子を何人かの男女が囲んでいる。邪魔だなあ。

って、アーナジュタズィーエ様!

「お久ぶりです、アーナジュタズィーエ様」

俺は臣下の礼をとる。以前、友達になってと言われたが、やはりどこか気後れしてしまう。

「やめてください、私とあなたの仲ではありませんか」

アーナジュタズィーエ様は周りの人間に視線の先を開けるように言い、こちらに顔を向ける。頬を赤らめ、片手を添えた。

「クロン、アナスタシア様とは知り合いなの?」

アナスタシア?

「え?   プッチーナ、王女殿下と会ったことがあるのか?」

「……王女殿下?」

あれ、プッチーナはアーナジュタズィーエ様の身分を知らないのか?

「ああ、言い忘れていました、クロン様。私はこの学園にいる間、アーナジュタズィーエ王女ではなく、ただのアナスタシアとして過ごすことにしていますので。学園の規則でも、生徒に上下はないことが明確に記されていますからね」

「なるほど、そういうことでしたら。アナスタシア様、改めてよろしくお願いします」

「どうせなら、敬語もやめてもらいたいのですが……まあ、まだ知り合って日も浅いですからね。徐々に打ち取けていけたらな、と思います」

そういうアーナジュタズィーエことアナスタシア様も、敬語なのだが。

「……アナスタシアは、王女なの?   さっき寮であった時にも、そんな会話をしていたけど?」

プッチーナが首を傾げ訊ねる。

「はい、そうですよ。ロンデル王国はご存知で?」

「勿論、確か南にある王国のはず」

「私はそこの第一王女なのですよ」

「!   ……そうとは知らず、大変な失礼を」

「その通りだ、全くなんという!」

プッチーナがスッと臣下の礼をとると、取り巻きの一人の女の子が出てきてプッチーナの前に偉そうに足を開けて腰に手を当てて立つ。

「メシュナ、何度も合わせないでください」

「あっ……し、失礼しました」

メシュナと呼ばれた女の子は、一例をし取り巻きの元へ帰った。

「ごめんなさいね、短い間に二度も嫌な思いをさせてしまいました」

「いえ……お気になさらずに。それより、まだ敬語を続けた方が?」

「え?」

プッチーナは立ち上がり、アナスタシア様の手を取る。

「あなたと私は、きっといい関係を築ける。そんな気がする。だから、私からも友達になってほしい」

「え、ええ……勿論です!   よろしくお願いします、プッチーナ!」

「……こちらこそ」

えっ!?

プッチーナがアナスタシア様の手の甲にキスをした。
周りにいる男子どもが顔を赤くする。俺も同じく火照っているのがわかる。そりゃ、美人が美人にこんなことをすればびっくりするよな。

「……さっきのお返し」

「うふふ、プッチーナったら……ところで、プッチーナとクロン様は、お知り合いなので?」

アナスタシア様がこちらを向いて訊ねる。

「はい、そうです。まあなんというか、色々と縁がありまして」

「そうなのですね!   三人、仲良く出来たらと思います」

「はい、俺もそう思います」

「……私も」

俺たちは、互いに微笑みかける。


「こらー、席につけー!」


だが、後ろから突然声が聞こえ、こちらのことを遠巻きに眺めていた生徒たちが慌てて自分の席に着く。俺も急いでおそらくそこだろうという左奥、一番後ろの席に座った。

「では、最初のホームルームを始める!」


教師は赤毛を後ろで束ねた、母さんと同じくらいの年頃の女性だ。

「先ずはこの後の入学式について説明する。と言っても、寮の方に事前に段取りの書かれた紙が配布されているはずだ。お前ら、ちゃんと確認しただろうな?」

教師が笑っているのか怒っているのかわからない顔で大声をあげる。扱きモードのフォーナ様みたいな人だ。

「よし、そこのお前、私達はまず何をすることになっている?」

教師が自分の目の前にいる生徒を指差す。眼鏡をかけた男の子だ。

「はい、クラス順に入学式の行われる大講堂へ入ります。僕たちのお披露目な訳ですから、しっかりとした身なりと態度が求められると考えます」

「その通りだ!   入学式には、実技試験の時とは違い貴族や官僚、大商人、他国からの来賓など有力者と呼べる奴らがたくさん来る。お前たちはすでに国立学園の生徒なんだ、国を背負っていることを自覚し、くれぐれも粗相のないよう!」

『はい!』

おお、息があったぞ。さすがは優等生ユートーセイ(エレナさんが成績のいい生徒のことを指してそう言っていた)の集まりだな。

「その後の流れもその様子だと皆分かっているようだな。では、最後に私の自己紹介だけ。この一年一組の担任を務める、ティナリアだ。一年間よろしく!」

『よろしくお願いします、ティナリア先生!』

「うむ。では早速、式場に向かうとしよう。講堂の席順の関係で、私達は一番最後に入場するからな!   お前たちは入学試験で好成績を収めたゆえ、今ここにいる。それだけ注目度も高いと思え」

ティナリア先生は、生徒たちを見渡す。

「お前たちの顔つきが、一ヶ月後どうなっているかが楽しみだ。では、番号中に廊下に並べ!   わかっているとは思うが、この右端の一番前にいる者が出席番号の一番、左端の一番後ろにある者が出席番号の四十番だ」

クラスの席は、六列あるうちの両端の二列が六人で、中の四列が七人となっている。机は動かせるみたいだ。
というかこの教室、俺が座学の試験を受けたところと同じところなんだよな、これも何かの運命だったりして?

「はい、さっさと並んだ!」

先生の掛け声で、生徒たちが廊下に列をなす。俺は一番後ろなので、皆が並ぶのを待っていればいいだろう。

「よお、久しぶりだな」

と、茶髪の男の子が声をかけてきた。

「あ、カッツ!   久しぶりだな!   合格したんだ!」

「あったりまえだ。お前気づいていなかったみたいだが、前の席なんだぜ?」

え?

「ということは、カッツは三十九番ということ?」

「ああ、その通りだ」

「俺、最下位……」

「あはは、そういうことになるな!   まあ、一組に入れただけでも凄いことなんだ、そう気を落とすなよ」

カッツが肩をバシバシと叩いて来る。

「ありがとう……ははっ」

「そこ、うるさいぞ!」

俺たちの声に気づいたティナリア先生が近づいて来る。

「「すみませんっ!」」

「ふん、流石は一組の落ちこぼれどもだ」

カッツの前に並んだ女子が俺たちのことを嘲けて笑う。こいつ、さっき俺やプッチーナに絡んできたメシュナとかいうアナスタシア様の取り巻きじゃないか。

「おい、そういうお前も三十八番目なはずだか?」

だがそれにすかさずティナリア先生が突っ込む。一列に並んだ生徒たちからクスクスと静かな笑い声が聞こえてきた。

「それは……くっ、覚えておけよ!」

いや、今のは俺たちは何も悪くないよな?

「いい加減にしろ!」

「ひゃんっ!」

先生が手に持っていた木の板でメシュナのことを軽く叩く。生徒達から先程もよりも大きな笑い声が出る。

「全く、本当にあのトカレツ家の子女なのか?」

「うう……」

メシュナが下を向き黙りこくる。なんだ、こいつは貴族なのか?

「まあいい、この学園では身分は関係ない、皆が同じ一生徒だ。肝に命じて置くように」

先生が列の一番前に立ち、俺たちに向かって言う。

『はい!』



「おやおや、今年の一組はやけに騒がしいですねぇ。これだから平民が混ざると困るのですよ」



後ろから、ねっとりとした嫌味のある声が聞こえてきた。
振り向くと、金髪を後ろに撫で付けた長身の男が、二組の生徒と思われる子達を並ばせていた。

「……エセスナ!   お前、二組の担任になったのか」

「おやまあ、ご存知なかったので?   二組なぞと言う落ちこぼれに興味はないとでも?」

「何を言う、興味がないのはお前の動向に関してだ、イシュマエール家の吹き出物君?」

「ぐっ、平民がっ!」

エセスナと呼ばれた金髪男は、拳を握り額に青筋を立てる。

「経歴と同じく、格好つけて地味〜〜な黒髪を金髪に染めたあんたには言われたくないよ。平民だろうが貴族だろうが、できる奴はできるし、できない奴は落ちこぼれるだけだ。それはお前がよく知っていることのはずだがな?」


「言わせておけば!   覚えておけよ、このメスオーガが!」


瞬間、空気が凍りつく。な、なんだ?

メスオーガと言葉を投げつけられたティナリア先生が、うつむき身体を震えさせる。が、顔を上げ満面の笑みで俺たちの方に向き直った。

「さ、行こっか」

先生は再び列の先頭に立ち、俺たちを大講堂まで誘導しようとする。それにエセスナ先生が慌てて声をかけてティナリア先生の前に立ちはだかる。

「ま、待て!   何故平気な顔をするのだ!」

「ん?」

「いや、だってだな……」

エセスナ先生は一体何を焦っているんだ?

「はあ。このことは、上に報告させてもらいますよ、エセスナ・イシュマエール先生。皆、急ぐぞ、時間がない」

「な、ま、まて!   いや、待ってください!」

エセスナ先生が縋るように列を追いかける。だが、生徒達もティナリア先生も、それらを一切無視する。

少し歩いて振り返った時に見えた、エセスナ先生の呆然とした表情が、目に焼き付いた。


          

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