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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第32話


「クロン様、おはようございます!」

「おっ!?   は、はい、おはようございます、フォーナ様」

朝、昨日泊まった学園の寮から以前待ち合わせ場所として指定していた入り口へ出向くと、フォーナ様が玄関で待ち構えていた。

「今日から六年間、改めてよろしくお願いしますね!」

フォーナ様は今まで見たことがないような笑顔だ。あの家臣達の弔い以降、今までも少しずつ豊かになってきていた感情表現が、一気に爆発したように思える。きっと、家臣たちの想いを受けて張り切っているのだろう。
空回りだけは、しないで欲しい。

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

「フォーナ様、私も同居人として、またクロン様を支える世話係として仲良くしてください。よろしくお願いしますね」

エレナさんと共に頭を下げる。

「エレナさん!」

「ひゃっ」

「うおっ!」

と、フォーナ様がエレナさんに勢いよく抱きついた。そしてそのままそのたわわな胸元を揉みしだく。俺は慌てて目をそらした。

目線の先では、プッチーナがじっとりとした呆れ顔でこちらのことを見ていた。

「プッチーナ、来てくれたのか」

「……眼福で、良かったね。胸を揉んだ今度は、胸を揉む様子を見て楽しむとか、やっぱりクロンは変態」

プッチーナは俺の視線から逃れるように自分の胸を両腕で防ぐ。

「い、いや、だから説明したじゃないか。あの時は襲撃の緊張感もあって無理やり感情を抑え込んでいた気がしたから、驚かせてみようと思ったんだって。それに俺の気も死の恐怖からか高ぶっていたから、二人きりの状況に少し興奮してしまったんだ」

「それが何故胸を揉むことに?」

「そこに山があるから……ごめん、平地だっブベッ!?」

「死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「ご、ごめんよ。いたっ、やめて、すまなかった!」

「プッチーナ、それくらいにしておきなさい」

後ろにいたプッチーノさんが止めに入る。プッチーナは兄が近づいてくるのに気がつくと、すっと立ちあがってすましたように横にたった。
嫌、今これだけボコスカ殴っておいて全然物静かには見えないから。

プッチーナは一見感情が乏しそうに見えるが、実のところは豊かなのだ。ただその声質のせいで、変声機に合わせて長話をするのが苦手なだけで。

そこらへんは、フォーナ様と似たところがあるな。
フォーナ様も、あの後自分の心の内を打ち明けてくれたが、子爵として、貴族としての役目を果たそうと一生懸命になり、貴族社会で生きていくうちにいつしか自分の本心を曝け出すのを恐れるようになったらしい。いつも冷静にみえるその姿も、実は結構頑張って取り繕った結果だという。
つまりは努力して、あの凜とした、逆に言えば冷たい感じのアンナファーナ・デュ・フォーナを”創り上げた”のだ。

今では人前では冷静な子爵を演じているが、家臣達の前では表情や感情表現がだいぶ豊かになって来たとプッチーノさんは言っていた。今こうしてエレナさんとふざけているのも、俺たちをその姿を見せられる一員に加えてくださっていると考えていいのだろう。

「兄さん、この変態が本当に私と一緒の場所で暮らすの?」

プッチーナは不服な様子を隠そうともしない。

ちょっと待て、今なんて言った?   私と一緒の場所?

「当たり前だ。お前もクロン殿も、学園生なのだ。授業で一緒になることもあるだろうし、共に助け合う時もあるだろう。仲たがいをしては駄目だ」

は?   プッチーナが、学園生??

「あの、何かの冗談で?」

プッチーノさんに確認する。

「冗談などではありませんよ、クロン殿。プッチーナはこれからクロン殿と一緒に六年間をこの学園で過ごします」

「ということは、プッチーナはスキルホルダー!?」

「えっへん」

プッチーナが無い胸を張る。

「いやいや、本当に?   一体何のスキルを?」

「……私のスキルは、<感応波チャームボイス>、相手を魅了することができる」

相手を魅了ミリョウ

「それにつまりどういうことなんだ?」

「簡単、相手を私にメロメロにさせる。プッチーナ様大好き!   状態に」

「はあ、意味がわからん……」

「……実際にやってみる。じゃあ、周りに声が漏れると困るから、私に耳を近づけて」

「はあ」

俺はいう通り、プッチーナの口元を耳を近づける。

「……大好き」

ゾクゾクっ

「結婚して」

んあっ!

「ちゅう、しよ?」

ひっ……

プッチーナが囁くごとに、体にえもしれぬ快感が走る。頭からつま先まで痺れたようにフワフワとする。
俺はプッチーナのことを無意識に抱き締めていた。

「……これでわかった?」

「ふえ?   あれ?   ご、ごめん!」

が、プッチーナが変声機をつけると、すぐに頭がまともになる。俺は慌ててその身体を抱き締めていた腕を離し、プッチーナから離れた。

「私のスキルは、一度魅了すると相手が受け入れられる限度までの行動を命令できる。また、この状態はこちらから任意で解除することができる。今は命令せずに解除したけど、このまま私にキスしたと言ったらクロンは恐らくしていた」

な、何と恐ろしいスキルなのだ……

「……なるほど、今のでわかったよ。あの最初に会った時に、頭が少しピリピリとしたのも、プッチーナのスキルが原因だったんだな。まさか一目惚れでもしたのかと思った」

「ふーん」

後ろを振り向くと、エレナさんがいつの間にか近くまで来ていて、俺のことを真顔で見つめていた。あの、なんか怖いんですが?

「そ、それで、ふそのスキルがなんで学園に入るんだ?   言っちゃ悪いが、特に役立つとは思えないが。そりゃ、好きな相手に好きになって貰うとかなら出来るかもしれないけどさ」

「……私のスキルは相手の限度まで命令できる。つまり戦場で死ぬことを覚悟している兵士なんかに死ね、といえば自害させることもできるし、隠れて汚職をしている官僚に証拠を見せろ、と言ったら見せて貰うこともできたりする」

「え、それってとんでもないスキルだよな?」

「その通りです、クロン殿。ただ、今はまだ発展途上のスキル、これからさらに効果を高められるかもしれません。それに今は人にしか有効ではありませんが、もしかしたら先日の魔物を魅了することもできるようになるかもしれないのです。非常に伸び代のあるスキルと言えるでしょう」

プッチーノさんが説明してくれる。

「なるほど、それで学園に入って勉強しようということか。因みに、プッチーナは何組なんだ?」

「一組」

「え?」

「……だから、一組。クロンと同じ」

「ええっ!?」

「あと、試験の順位は二十三位だった。」

「何だって…ま、負けた……」

「当たり前、昔からフォーナ様に鍛えられていたから。付け焼き刃とは違う」

「小さい頃から子爵家に仕えているんだもんな。最初はびっくりしたが、知り合いが増えたのは嬉しい。じゃあ、改めて、よろしくな!」

「その……よ、よろしく」

プッチーナは少し横を向き、そう言う。心なし顔が赤く見えるのは気のせいか?

俺たちはこれからの学園生活について色々と相談をしながら、一先ず寮に向かった。





プッチーナは女子寮の為途中で別れた。俺のフォーナ様、エレナさんの三人は、男子寮の5018号室へ向かう。
男子生徒の集まるこの建物に女性が使用人として付くのはどうかとも思われるが、何か問題を起こせば本人だけでなくその親族にも大きな影響があるため滅多なことは起こらないらしい。特に貴族の多く集まるこの学園ではなおさらだ。

「ふう、ただいま〜」

誰もいないはずの部屋だが、何となくそう声を出したくなった。
すると、後ろから肩を軽く叩かれる。

「「お帰りなさいませ、ご主人様」」

フォーナ様とエレナさんが、二人して俺に頭を下げた。

「え、えっと?」

一体何をしているのだろう?

「こうしてみると、何だか不思議な気がしますね」

「侍女なのに今まで主人がいなかったので……夢が一つ叶いましたっ!」

なるほど、俺の呟きに乗ってきた訳か。

「クロン……いえ、クロン様は今日からこの部屋の主人です。もしご用があれば何でもお申し付けください」

「私も、出来る限りのことしますよ!」

「ありがとうございます、フォーナ様、エレナさん。お世話になります」

「いいえ、こちらこそ、人に仕える者の気持ちを知る上で勉強になります。やはり、為政者は施策を振るわれる者の立場に立たなければならないと思いますので。それに殿下の秘書として日が浅いので、ここでの生活を将来に活かせたらとも思いますし」

フォーナ様はやはり真面目な部分は変わっていないらしく、キリリとした目でそう言う。

「わ、わたしは……今はクロン様に仕えることで精一杯ですが、将来の旦那様にするようにお世話をできたらいいなと思います!」

え、エレナさん、それはどうなんですかね?

「こほん、わかっていらっしゃるとは思いますが、節度のある生活を求めます。クロン様、学園に入学した目的をお忘れではありませんよね?」

「はい、それは勿論。勇者候補として俺のこのビームを有効活用できるように勉強するためです」

「その通りです。この学園は表向きはスキルホルダーの養成学校ですが、その実は国家にとって益のある人材を見定めることが目的です。クロン様が署名された誓約書も、国家に対する忠誠などを求められたと思いますが、あれは裏切ればタダじゃおかない、という国からの忠告でもあるのです」

あの紙にはそんな意味があったのか。

「私たちも同じような書類に署名をしています。この学園に来た以上、お世話係であっても、自らが”国立の学校にいる”という自覚を持たなければなりません。勿論、エレナもですよ」

「は、はい、すみませんでした……そうですよね、私たちはクロン様が少しでも学業に集中できるように雇われているのですから」

「その通りです。ですのでクロン様は、私たちがお世話をするぶん、頑張ってくださいね」

フォーナ様はそういって、少し口角を上げた。

「はい!   精一杯頑張ります!」

「いい返事です。では、部屋に着きましたので、この後行われるホームルームとそれに続く入学式の段取りを確認しましょう」

俺たち三人は、5018号室へ足を踏み入れた。









「……ここが、私の部屋」

女子寮の四階、4042号室の名札には”プッチーナ”と書かれている。

私は部屋の入り口の扉を開けた。

「……おお」

中には広い部屋があった。様々な家具が予め配置されており、どうやらここは寛ぐための部屋であるようだった。来客にも使えるだろうか。

私はまず着替えないといけないため、寝室を探す。いくつかある扉を順繰りに開け、風呂や台所などをさっと確認した後、部屋の右側手前の扉を開ける。
そしてそこがベッドが置かれた寝室であった。聞いていた通り、ベッドの壁にハンガーが吊るされており、そこには制服が掛けられていた。

私は早速手に取り着替える。ヒラヒラの紺色スカートに薄めの白い長袖シャツ、そしてボタンが三つ着けられた紅色の上着。
首元には、一年生であることを表す、黄色の蝶ネクタイをつける。よし、この蝶ネクタイの裏側に変声機を隠しておこう。

「……かわいい」

私は寝室に備え付けられている鏡を前に、くるりと一回転する。スカートがヒラリと舞う。別に自画自賛をしている訳じゃない、この制服が個人的に気に入ったのだ。

「……お兄ちゃんやクロンに見せたら、喜ぶかな」

以前なら、私は真っ先にお兄ちゃんに見せただろう。だが今は、クロンという男の子が選択肢に加わっている。私の中で、三人目の仲がいい男性だ。一番目は勿論、お兄ちゃん……プッチーノ。二番目は……死んでしまった。

私は、あの子の形見の髪留めを触る。それは黄色い三日月の形をしている。

「……私、頑張るから。六年間で、きっと成長してみせる」

私は制服と一緒に配布されている指定の鞄を手に取り、荷物を入れる。そしてこれまた指定の黒い革靴を履き、部屋をでた。

と、向こうから誰かが歩いてくる。早速、学園生に出会うことになるとは。

「……なに、あれ」

歩いてくるは、何人目の人。それも一人の女の子を中心に固まっている。

「……ドレス?」

こんなところにドレスを着てくるなんて、金持ち貴族の娘な、馬鹿かどちらかだろう。いちいち着替えるのも大変だろうに。

「あら?」

中心にいた女の子が、私に近づく。周りに侍らせているのは皆女性だ。というか、明らかに学園生なのだが?

「あなた、4042号室の方で?」

女の子は金髪を肩で切りそろえている。目の色は、綺麗な金色だ。

「……はい、そうですけど?」

「あら、そうなのですか!   私、4043号室に住むことになりました、アナスタシアと申します。どうぞお見知り置きを」

アナスタシアさんは、ドレスをつまみカーテシーをする。やはり貴族様のようだ。

「……プッチーナ、です」

「まあ、プッチーナさん。よろしくお願いしますね!」

「はあ……こちらこそ」

私は一応、臣下の礼を取る。

「平民、失礼だぞ!」

ん?   取り巻きの一人が私たちの方へ近づいてくる。

「……はい?」

「王女殿下の前で、なんたる無礼!    そこは土下座だろうが!」

「いっ!?」

女は跪く私の手を指定靴で踏みつける。そこが硬く加工してあるため、かなりの痛みが走る。

「ま、待ってください!   何をしているのですか!」

アナスタシア様が、慌てて私のことをかばう。手がヒリヒリと痛む。少し、血も滲んでいる。

「王女殿下、これは躾です。能無しの駄犬に対する!」

「あうっ」

女は王女殿下と呼ばれたアナスタシアさんから私を引き剥がそうとする。肩を掴まれ勢いよく壁に突き飛ばされた。

「待ちなさい」

「ですが!」

「私が待ちなさいと言っているのです!   これは命令です!」

「はっ!   し、失礼いたしました」

女は土下座をする。どう見てもただの貴族に対する態度じゃない。

「構いません。あなたは私の護衛なのですから。ですが、ここは友好国の国立学園なのです。ことを荒だててしまっては、我が祖国に迷惑をかけることになってしまいますよ?」

「そ、それは……」

「謝りなさい」

「はい?」

「彼女に、謝りなさい」

「で、ですが……」

「何ですか、謝らないのですか?   誇り高きフェズメクフェイスト家の人間が、そんな無能だとは思いたくありません。悪いことをすれば、不当に相手を傷つけてしまえば謝るのは当然です」

「……ま、誠に申し訳無かった」

女は私に歩み寄り、頭を軽く頭を下げ、すぐに上げて私のことを睨みつける。

「メシュナ!」

「くっ……も、申し訳ありませんでした」

今度は深く頭を下げる。

「よろしい。すみません、でした、私の部下がとんでもないことを。御怪我、大丈夫ですか?」

アナスタシア様がその絹のような手で私の手を包む。

「……お気になさらず。怪我には慣れていますから」

「……ご厚意、感謝致します」

アナスタシア様は私の手の甲に口付けをした。

「なっ!?」

すると、私のことを痛めつけた女が驚いた様子で声をあげる。

「これは、友好の証です。改めて、隣人として、そして同じ国立学園新入生として、よろしくお願いしますね」

アナスタシア様は、にっこりと笑った。


          

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