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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第29話


ガルムエルハルト様は足の調子が悪いからと言って、また後で詳しく説明するから今は休んでいていいと退室を促した。どうしたのだろう、ハエの魔物にやられたのだろうか。
それで俺たちは今、仮眠室に戻って来た。

「……クロン、これからどうするの?   入学式までここにいるの?」

二人してベッドに腰掛ける。プッチーナはこれからの予定が気になるようだ。

「え?   新年の催しは?   って、そんなの行われるわけないか」

「……当たり前。被害自体はそれほど多くないとはいえ、皇都全域が被害を受けた。魔物の発生地点とみられる、南方にある貧民区画は特に酷いみたい。逆にこっちの方、裕福な市民や上級貴族はあまり被害を受けていない」

皇都は北に行くほど位が上の人間が住む。金持ちは被害に遭わず、生活に困っている人たちが大きな被害を受ける。この差が何か問題を産まなければ良いが……

「そうなのか。そうだなあ、まずはフォーナ様に無事なことを報告したいんだけど……今は忙しいんだったな」

フォーナ様の邸も魔物に襲われ被害が出た。そのため自らが被害の確認と復旧に努めているという。

「……暫くは会えないと思う。クロンとの同居も入学した後になるかもね」

「そうか、残念だな」

と、プッチーナが睨みつけてくる。

「むっ」

「な、なんだよ?」

「……クロン、変態」

どうやら俺がフォーナ様という女性と暮らすことを楽しみにしていると捉えられたようだ。

「なっ、そ、そんなんじゃないから!   フォーナ様は俺の師匠でもあるし!   早く色々なことを教えてもらいたいなってことだよ」

「ふうーん」

だがまだ信じてもらえないようだ。ここは話を晒そう。

「こほんこほん……その学園の被害はどれくらいなんだろうか?」

「……学園と宮殿は大丈夫。無傷だって変態」

「ぐっ……え、無傷?」

「うん」

プッチーナは即答する。

「でも、あれだけ沢山のハエの魔物が北の区画のほうまで来ていたんだぞ?」

「……学園や宮殿には、障壁が張られている。ほら、あの入学試験の時に客席に使われていたでしょ?   すけべ君」

語尾はもう気にしないことにしよう。プッチーナとはあってまだ日は浅いが、それでもかなりのフォーナ様信者だとわかるくらいだからなあ。主人に近づく危険はなんであろうとも排除するつもりなのだろう。いや、俺、危険な存在認定かよ。

障壁……ああ、確か魔素機器、だったか。それでフォーナ様は本気でやっても全然問題はないと仰ったのだったな。本気でやった結果四十位な訳だが……

というか、なぜプッチーナが入学試験のことを?

「なあ」

「……なに?   夜の狼さん」

がくっ。

「その前に、俺はフォーナ様を襲うなんてしないから!」

「……信じられない。そう言って言い寄って来た男は今までいっぱいいた」

いっぱいいたのか。そりゃあの美貌ビボーだもんな。道を歩くだけで声を掛けられてもおかしくない。

「嫌でも、俺の暮らすことになったのはフォーナ様の側からだから。俺が言い出した訳じゃないし」

「……それは第三神子殿下の提案だと聞いた。クロンのことは大体聞いたから知ってる。嘘はダメ」

「いやいや、嘘とまではいかないだろ」

「でも断ってないし」

「そりゃあ……第三神子に言われたら、ねえ?」

「……確かに。ごめん、言いすぎた」

プッチーナはようやく納得?   したようだ。

「謝らなくていいよ。プッチーナは、本当に主人のことが大切なんだなってわかったからさ」

「当たり前。フォーナ様は神皇帝かみの次に凄い人だから」

プッチーナの目がキラキラと輝く。どうやら本気でそう思っているらしい。

「は、ははは。そこまで言うか」

「何か問題が?」

「いえ、とんでも」

「そう……でもそれとこれとは別」

「へ?」

プッチーナは再び先程の、裸で外を走り回っている人を見るかのような目をする。

「……フォーナ様だけじゃないんでしょ?   エレナとかいう侍女もつくとか……やっぱり変態」

しまった、そっちがあったか……というかエレナさんは大丈夫なのだろうか?   宮殿は無傷だという話だが。

「……あ。因みにそのエレナさんは無事だと言ってた。今は本来の仕事で忙しいらしい」

ほっ、良かった。

「……むぅ?   その安心のしよう、やはり」

「な、なんだよ。そんなにいうならほら。こうしても俺はなにも感じない。今はそんな男女のことを考える余裕はない、な?」

もみもみ。

両手でプッチーナの胸を揉む。

「……ひゃ」

「ひゃ?」

もみもみもみ。

「ひゃあーー!!」

キィーン!

「うわっ!」

プッチーナの変声機から耳をつんざく轟音が聞こえ、俺は胸から手を離し慌てて耳を塞ぐ。

「し、しんじらんない!   変態!   狼!   ハエ!」

「ちょ、ちょっとプッチーナ、機械が!」

変声機が壊れたのか、プッチーナの声が一度だけ聞いたあの地声になっていた。

「こ、ここここころす!   しね!」

プッチーナは俺の胸をポカポカと叩いてくる。結構痛い。

「プッチーナ!」

「うるさい!」

「ぐはぁ!」

今度は顔を殴られた。かなり痛い……

「うううううう!」

プッチーナは顔を真っ赤にし涙目で睨んでくる。

「ぷ、プッチーナ!」

俺は立ち上がり、大股で近づいてくるプッチーナをそのままの勢いで抱きしめた。

「な、なぁっ!?」

「プッチーナ、聞いてくれ!」

「むうっ!?」

プッチーナの腕を上から抱き止める形で暴れようとするプッチーナを押さえる。

「プッチーナ、今のは悪かった。でも、もう無理はしなくていいんだ!」

「……え?」

プッチーナは俺の言葉を聞き動きを止めた。

「俺にはわかるんだ。親の村にはプッチーナと同じように、我慢をする女の子が、いたからさ」

勿論、アナのことだ。

「……何の話?」

そう言いつつも、プッチーナは聞いてくれるようだ。俺は抱きしめていた腕をほどき、手でプッチーナの腕を優しく掴む。

「俺の幼馴染は、母親を亡くした時に同じようにいつも通り振舞っていた。でもあるとき急に泣き崩れたんだ。当たり前だろ、自分の親が死んで、もう二度と会えないのにそれからずっと何にもないように過ごせるわけがなかったんだ。……今のプッチーナは、その時のあいつに似ているんだよ。正直、見ていられない」

プッチーナも大切な人をついこの間亡くしている。友達であり御者としての先輩でもある男の子を。

「……そんな、無理なんてしてない」

「嘘だ。俺にはわかるんだ。プッチーナはそのうち我慢の限界がくる。その時、我慢していたぶんが一気に湧き出てきてしまうんだ。だから、今のうちにちゃんと悲しまないと。変な言い方かもしれないけどさ」

アナは泣き始めてから一ヶ月以上ふさぎ込んだままだった。それからだ、アナが異常に俺に懐くようになったのは。
後から父さんや母さんから、大切な人であるほど、現実が受け入れられないものだと教わった。いつも村の運営で忙しい村長に頼るわけにもいかず、俺を母親の代わりにしているのだろうとも。
プッチーナにはそうなってほしくない。目の前で知り合いの女の子が壊れる・・・姿はもう見たくないのだ。

「……よく、わからない。でも、あの人に会えないのは悲しい。でも、悲しみかたがわからない……」

プッチーナは家臣として、幼い時から必死に働いてきたのだろう。年頃の女の子が感情を表に出さないなんて、本来ならば駄目なことなのだろうが、それはプッチーナの立場が許さなかったのだ。
物静かなのも、その己を抑えようとする姿勢から自然にそうなっていったものかもしれない。

だが今は、今だけは泣いて悲しんだらいいと思うのだ。

「なら、ここで泣こう」

「……え?」

「俺が、抱きしめてやるから、泣けばいい」

俺はもう一度プッチーナを抱き締める。今度は押さえ込もうとするのではなく、包み込むように。
そして頭をゆっくりと撫でる。

「ほら、俺が付いているからさ」

プッチーナはピクリと震えた後、髪留めを外す。髪留めは、あのネックレスの先についていた三日月だった。

「……ぐすっ……うううう」

遂に我慢が出来なくなったのか、プッチーナは静かに泣き始めた。叫ぶでもなく、暴れるでもない。ただ俺の背中に手を回し、涙を流す。

夜になるまで、部屋の中はプッチーナの鼻をすする音と、”ごめんなさい”という一言が小さく響くのみであった。









---クロンが意識不明の頃---

<フォーナ子爵邸>

「うう……」

「フォーナ様、しっかりなさいませ。もうすぐ着きますぞ」

「ええ、ありがとうございます、プッチーノ」

頭痛のため頭を押さえるわたくしをプッチーノが励ましてくれる。やはり咄嗟にスキルを使ってしまったことに対する身体の負担が大きかったようだ。

あのハエの形をした魔物達を撃退する前に、クロン様--今は”クロン”でしたね--の魔力が尽きてしまったようで、私は自分の保有するスキル、絶対零度アイスエイジを使用した。
このスキルは、対象を内部から凍りつかせる正しく必殺の魔法だ。私はこのアイスエイジのおかげで子爵になれた。だがこのスキルはその力の大きさ故か、消費する魔力量も多い。多用できないスキルなのだ。

しかし、あの場面ではハエの魔物を誰かが倒さなければならなかった。魔物の飛ぶ速さはプッチーナが操縦する馬車よりほんの少し速いくらい。放置すれば追いつかれるのは明らかであった。
殿下はスキル持ちではなく得意の剣技も速さのある馬車の上では発揮するのは難しい。プッチーナのスキルも対戦用ではない。クロンは魔力の使いすぎで失神。となれば、私しかいなかったのだ。

残った魔物は五匹。アイスエイジは何体もの敵をまとめて相手にできるスキルだ。私は五体同時にアイスエイジを発動し、ハエ達を凍らせた。結果、今こうして四人とも生きている。

だが、一人。御者の男の子を亡くしてしまった。私が子爵に叙爵された時から就いてくれている子だった。プッチーナとも仲が良さそうで、恋人までとはいかないものの、同僚の枠を超えた仲の良さであることは間違いなかった。
プッチーナの悲しみは理解できる。私も両親を亡くした。その亡くした原因を片付けた結果、子爵になったというのも運命だったのだろうか。もしあの男の子があんな死に方をする運命だったのだとしたら、神様はなんと残酷なのだろうか。

……嫌、今のは今上陛下を批判するような思想だ。

わたくしたちはクロンをプッチーナに後の世話を頼んで第八騎士団の分舎に預けた後、一度邸に戻ることにした。途中無事合流したプッチーノを連れ、馬車に乗っている。御者は第八騎士団の方が護衛も兼ねて名乗りを上げてくださった。

「あ、あの……子爵様、これ、よろしければお飲みくださいませ。邸から持ち出した薬効のある紅茶です。茶器を勝手に使ってしまいましたが、お苦しそうでしたので……」

と、女性が声をかけてくる。

この方は、プッチーノが騎士爵の邸で保護したサキだ。ハエの魔物に襲われていたところをプッチーノが助け出したという。だが、主人である騎士を含め、彼女以外の全員が殺されてしまっている。今後の処遇を考えなければ。

「ああ……ありがとうございます」

私は手渡された茶器を手に取り痛む頭を我慢しながら紅茶をすする。

…………苦い……

「……あれ、痛みが和らぎました」

紅茶を呑んですぐに、頭の痛みが少し引いた。

「あのその、即効性のある薬草を使ってますので」

「そうなのですが、助かりました。ありがとうございます。茶器のことは、気にしなくていいですよ。半使い捨ての安物ですから」

「そ、そう言って下さると助かります……」

サキは気まずそうにしていたその顔を少しだけ、緩めた。だが私の立場も関係しているのだろう、未だに厳しい表情であることは変わらない。

「フォーナ様、もうすぐのようです」

馬車の横につけられている窓から、カーテンを指で少し開いて外の様子を覗き、プッチーノが言う。

「そうですか、わかりました」

そして間も無く、馬車が邸へついた。


「なっ!」


私たちは馬車から降りる。
邸の前の門では何人もの護衛が倒れており、皆一様に干からびているような骨と皮の姿へ変貌していた。

「フォーナ様、少しお待ちを!」

プッチーノが開いた門から庭をかけ邸へ向かう。

「子爵様、一度馬車へ!」

護衛を務めてくださった騎士団員の方がそう言う。だが私は目の前の光景を呆然と眺めるだけであった。




「酷い有様……どうしてこんなことに……」

邸の中は血やそれ以外の液体で汚れており、魔物の死体や人間の死体が何体も転がっていた。まるで強盗に襲われたかのような惨状だ。実際は、強盗よりもタチの悪い存在にだろうが。

「フォーナ様、お気を確かに」

ふらりと揺れる私の体を、プッチーノが慌てて抱きかかえる。いつも私のことを支えてくれた家臣達が、無残な姿となってそこらへんに転がっているのだ。しっかりしろと言われても無理な注文だ。

自分で言うのもなんだが、私は冷静た方だと思う。でもこれは冷静でなんていられない。魔物に対する怒りももちろんだが主人として何もして上げられなかった私自身に対する怒りが大きい。そして悲しみも。

「でも、こんなの……理不尽過ぎます。彼らは何もしていないのに、皆いい人ばかりで……うううう……」

私は立っていられなくなり、地面に両手をつける。何年振りかもわからない涙が、こんな形で溢れ出すだなんて……

「子爵様……ぐすっ……」

サキは同情したのか、それともこの光景が騎士爵邸と重なったのか、私の横で一緒に泣く。だが私は構う余裕もない。

「……少し、外に出ます」

この場に居たくなくなったわたしは、玄関から庭へ飛び出した。



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