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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第23話




『いってらっしゃいませ!』

着いた時と同じように、家臣団が庭に敷かれている道を挟んで二列に並び一斉に臣下の礼をとる。

「うむ、いってくる」

フォーナ様はそれに頷き、プッチーノさんが開けた扉から馬車に乗り込んだ。次いで俺が、そしてプッチーナ、最後にプッチーノさんだ。

御者は宮殿からとは変わっていつも馬車を操縦している御者係さんだ。

「さて、それでは参りましょう」

プッチーノさんが御者に声をかける。馬車は動き出し、庭を通り門をでて、城壁に合わせて内側に曲がっている道を通りつつ街の斜め右、宮殿の門へ向かう。

馬車の中では、後ろの席の奥側にフォーナ様、その横になる手前の席にプッチーノさん。前の席の奥側、フォーナ様の前の席に俺が、そして俺の前の席にはすぐに扉を開けられるよう、プッチーノさんが座っている。

「楽しみですね、クロン」

「はい、フォーナ様。礼儀作法については少し心配ですが、それでも宮殿で食事が出来るだなんて」

田舎者の俺としては、この皇都に来てからの数々の待遇は非常に新鮮なものでかつありがたくも申し訳なくもあった。
それだけ俺に期待されているのだとは思うが、もし勇者候補として役に立てず失敗してしまった場合の後のことが怖くもある。

ただいまは、折角お呼ばれした晩餐会パーティなのだから、六年分精一杯楽しもうと思う。

「……私も楽しみ」

プッチーナがぼそりと呟く。ドレスのどこかに変声機を隠してあるのか、女性の声ではあるが、あの聞いた瞬間頭の中を支配した甘ったるい声ではない。普通の子供の声といった風だ。

「ええ、プッチーナもいつも色々と頑張ってくれていますからね。その年で大したものです。是非羽を伸ばしてください」

「そんな、ありがたいお言葉を頂戴するなんて……」

プッチーナは胸の前で手を組み、キラキラとした目でフォーナ様の事を見上げる。彼女はフォーナ様のことを相当慕っているんだな。

「ですがプッチーナ、晩餐会ではくれぐれも粗相のないように!   フォーナ様の御名みなを傷つけることがあってはなりませんよ!」

そんな浮かれ気味のプッチーナに対し、プッチーノさんがすかさず釘をさす。

「プッチーノ、私は自らの評判にあまり興味はありません。ですが……そうですね、私が仕えるランガジーノ殿下のお顔を汚すことになるかもしれません。プッチーナだけではなく、三人ともにお願いですが、羽目を外しすぎないようにだけは注意してください」

「はい、わかりました」
「「御意」」

そんな会話をしながら馬車は進む。そして男爵の邸と騎士爵の邸がある区画の境目に差し掛かった時----


「きゃぁあああー!」


突然、女性の悲鳴が聞こえた。

「フォーナ様!」

「ええ!   貴族街で悲鳴など、普通ではありません。馬車を止めてください!」

フォーナ様は御者に命令する。と、馬車は速度を落とし、白輝石で出来た道の端に等間隔に作られている停留所に停止した。

「プッチーノ、頼みましたよ」

「はい、我が主人様」

ドレスのため機動力がないフォーナ様は、まだ動きやすい服装であるスーツを来たプッチーノさんにこの場の対応を任せた。プッチーノさんは馬車の扉を開け声の下方向へと駆け出していった。

「あの!   俺も行きます!」

だがそれは俺も同じだ。子供とはいえこのスキルもあるし、ある程度の対応はできるはずだ。

「クロン、駄目です、何が起こっているのか判明するまでは、ここにいてください。貴方の立場をしっかりと考えてください」

しかし、フォーナ様は俺が同行するのを許さない。

「でも……」

いつもフォーナ様に世話になってばかりなんだから、こういう非常事態では少しでも力になりたい。

「でも、ではありません。貴方は今は私の家臣なのです。主人の命令は聞いてください」

フォーナ様は、久し振りにみる凍りつくような冷たい目をされた。

「……はい、すみません」

俺は、この時点で逆らうのをやめた。これは本気で怒っているときの目だ。それにフォーナ様のいう通り、俺はフォーナ様から与えられた命令を確実に守らなければならないのだ。

「分かればいいのです」

フォーナ様は薄っすらと微笑んだ。
その美貌も相まって、この冷たい時と柔らかい時の差が、家臣たちの心を掴む要素になっているような気がする。18歳で子爵に叙爵されただけあって、部下の扱いにも長けているんだと思わせる。俺だって今いいように心を動かされた。

「……クロン、生意気」

プッチーナが呟く。

「はいはい、すみません」

プッチーナとは出会ってそんなに時間が経っていないが、なんだか昔からの付き合いのような態度で接することができる。不思議なものだ。

「さて、プッチーノが戻ってくるまでどうしましょうか?  まずは、この後、何が起こってもいいようにクロンはスキルを使う準備をしてください」

「はい、それは大丈夫です。いつでも使えます」

「……クロンのスキルって、何なの?   スキル持ちってことは聞いているけど」

あれ、そこまでは知らないのか。フォーナ様の家臣達にはどこまで情報が出回っているんだろうか?

「それは」

俺はフォーナ様を見る。フォーナ様はコクリとうなづいた。プッチーナには教えても大丈夫ということだろう。

「俺のスキルは--」
「フォーナ様!」

しかし話しかけた瞬間、御者さんが客席の前についている窓を外から開けて、叫んだ。

「何ですか?」

馬車の中の空気が一瞬にして変わる。



「ま、魔物が!   あれは魔物ですっ!!!」



「魔物!?」

「はい、目、目が赤いハエがたくさん飛んでいます!   しかも人と同じくらい大きいやつが!」

何だって、ハエの魔物?   しかも大きさのハエが?

「そんなはずは……皇都は瘴気があふれ出さないように巨大な魔法陣で覆われているのですよ。魔物が発生するはずはありません」

フォーナ様も驚いたようにそのいつも鋭い目を見開く。

「で、ですが、現に上空を宮殿の方へ飛んでいっています!」

え、宮殿に!

「ちょっと見てきます、フォーナ様!」

俺は、フォーナ様の顔をじっと見る。

「……仕方ありません。ただし危ないと思ったらすぐに戻ってきてください。私たちはこの通りの格好なので、クロンを一人で行かせたくはないのですが……」

道が綺麗に舗装されている貴族街とはいえ、ドレスでこの街中を走り回るのは難しいだろう。

「わかりました、お約束します」

俺は一つ頷く。そして馬車の扉を開け外に出ようとした時。

「まって!」

大きな声が聞こえた。

「え?」

俺は後ろを振り返る。フォーナ様も声のした方を珍しく驚いた顔をして見ている。

「私も、いく!」

プッチーナが、椅子から立ち上がる

「プッチーナ、何を言っているのですか?」

「……フォーナ様、私もフォーナ様のお役に立ちたい。お願いします」

プッチーナはドレスだというのに、跪き頭を下げる。

「ですが、その格好では……そもそも貴方は子供なのですよ」

「……それはクロンも同じのはずです」

「クロンの実力はある程度知っています。ですがプッチーナが戦えるかどうかは私には判断できません。御者の言う通り、本当に魔物だとすれば、あなたの身を危険に晒すことになってしまいます。それは私の望むことではありません」

「……私の方が先輩なのに……」

プッチーナはフォーナ様の説得に視線を下に向けてしまう。と、その時。


「うわあああ!」


御者さんが叫び声を上げた。俺は馬車の扉を開け外に飛び出る。するとなんと、御者さんの頭を大きなハエが、その尖った口で貫いていた!

「ひゃあぁぉぉあぁおぉダズゲデエエエエエエ」

赤い目をしたハエはお尻を飲み物を飲んだかのように膨らませ、その六本ある脚で御者さんを掴み、頭を針の口で何度も突き刺す。その度に御者さんは口から赤い泡を吹き出し、奇声を上げ続ける。更に身体が痙攣し手足がミミズのようにじたばたと暴れ始めた。

「あへぇ……へっ……かはっ」

俺が呆然と眺めていると、御者さんの身体の痙攣が、止まる。口を突き刺していたハエは、頭から口を抜き羽を動かして空中へ浮いた。それと同時に、赤い目が数度点滅する。

そしてハエに何かを吸われた御者さんは全身からあらゆる液体を垂れ流し、御者席から頭から地面へ落ち死んだ。

「な、な、なんだこいつは」

ハエがそのたくさんの丸が集まったような三つの大きな眼で俺を見る。針のように尖った口元からは、血ではないナニカがポタポタと垂れてくる。

俺が目の前の光景に衝撃を受け、動けないでいると。ハエは”ブーン”と音を縦長、ゆっくりと俺に近づいてき、そして俺の頭の上でまた浮遊を始めた。

ブーン、ブーンと激しく羽音を鳴らしながら、俺のことを見つめて来る。そしてその針の口をひくひくと動かした瞬間。


--ザン!


魔物ハエの羽が、目の前で真っ二つに割れた。

「クロンくん、今だ!」

魔物は一瞬よろける。俺は声を聞きその隙に左手の指に集中する。

「<光あれビーム!>」

そして、一条の光がハエの頭から尻にかけてを貫いた。
ハエは赤かった目が黒くなり、地面へ落下する。

「……ふう」

危なかった。もう少しで俺も殺されるところだった。先ほどのあまりに酷い光景には、すぐに頭が反応できなかったのだ。人の頭を貫くだなんて、なんと恐ろしい魔物だ。

そうだ、さっき羽を切り落とした人は!?

「クロンくん、大丈夫かい!」

「あっ、ランガジーノ様!」

羽を切り落としたのは、全身に鎧を纏ったランガジーノ様だった。鎧の顔を隠す部分を立ち上げ、声をかけて来る。

「ランガジーノ様、どうしてここに!」

「細かいことは後だ。あの馬車には誰が乗っているんだい?   見た所御者が殺されてしまったようだが?」

ランガジーノ様は相当焦っている様子だ。ここは必要な会話だけをするように心がけた方がよさそうだ。お礼なら後からでも言える。

「はい、フォーナ様とその家臣のプッチーナです」

「やはりそうか、あの家紋はフォーナ子爵家のだからね」

フォーナ様の馬車を見、そう言う。

フォーナ子爵家の家紋は、氷を象った縦の菱形に右斜め上から剣を左斜め下に突き刺したものだ。美しさと冷たさ(冷静さ)を保ち、そしていつまでも皇族を守る剣であるという意思表示なのだそうだ。

「ランガジーノ様はどうしてここへ?」

「この皇都は今魔物に襲われている。最初は市民街の貧民区画から現れたそうなのだが、何しろ空を飛ぶ魔物だ。集団で一気に宮殿まで近づいてしまってね。知っての通り、僕は騎士団団長だから、その討伐に出ていたのさ。それで貴族街の騎士爵区画に現れたと言うので駆けつけたら、何やら見たことのある顔の男の子が襲われていたんだ」

「それが、俺だったと」

「そういうことだ。クロンくんは晩餐会に向かう途中だったんだね?」

「はい。フォーナ様の家で着替えさせてもらって、四人で一緒に……」

「四人?   話を聞く限り、三人しか載っていないようだが?」

「家老のプッチーノさんが様子を見ると言って出ていかれたんです」

「なるほど分かった。その行方は騎士団で探しておこう。とにかく、まずは馬車を避難させよう!」

ランガジーノ様は剣に手を当て周りを見渡し期間が無いか確認する。

「でも、御者が……」

先ほど殺されてしまったばかりだ。

「誰も操縦できないのかい?」

「……そうですね。プッチーナなら操縦できるはずです。俺が邸に行くときに御者をしていましたから。でも、ドレスですよ?」

「今は非常事態だ。操縦しやすいように袖や足元を切り落としても構わないだろう。弁償ならこちらでするから、今はその方に任せよう」

「そう仰るなら、わかりました!」


          

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