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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第13話


いつものように朝食を食べ、紅茶を飲み、ソファで寛ぐ。フォーナ様は食器洗いを、エレナさんはシーツの洗濯をしている。

なんと優雅な朝だ……!

「クロン様、では早速出かけましょう」

「はいっ!!」

が、その優雅な時間も終わりを迎える。これから、身体中を酷使する地獄の特訓が始まるのだ!

俺は立ち上がり、手荷物を纏める。

「参りましょう」

そういうと、フォーナ様と俺は今日も、朝日を浴びながら訓練所へと向かうのであった。





時は冬の二月終わり。寮に入ってからもう一ヶ月半は経つ。

俺は寮で暮らし始めてすぐ、『まずは基礎から鍛えましょう』というフォーナ様の提案で、訓練所での走り込みや、体幹の鍛錬、学園から貸し出される武具を使った戦い方の練習などをし始めた。
が、フォーナ様は見た目に似合わず武闘派な女性で、徹底的に扱かれたのだ。走る時の姿勢から剣の握り方まで一つ一つを丁寧に・・・教わり、俺は毎日クタクタになるまで鍛え続けた。
お陰で少し力がついた気はする。が相変わらず、剣の振り方はめちゃくちゃだ。だって、刃の部分だけで70センチはあるんだから。持ち上げで振り下ろすだけで精一杯だ。

「クロン様、そうではありません。もっと、腰を使うのです」

「こ、こしを……ぐっ!」

「足が閉じてますよ、重心が傾いたら持ちにくくなるに決まっています。それにただ腕力で剣を振り回すのではありません。剣の動きに身体を合わせるのです!」

しかもフォーナ様は、俺を指導するときだけはいつもの冷静沈着な様子は何処へやら、やたらと熱くなるのだ。目もギラついているし、見下される時とは違う怖さがある。

ここにいるのは俺だけではない。他の勇者候補も何人かお供を連れて訓練をしている。が、要らぬ騒動を防ぐという名目で、入学するまで互いの接触は禁止されているので、名前も知らないたまに見かけるという間柄でしかない。見て見ぬ振りというのもなかなか辛いものがあるな。せっかく同じ境遇の仲間が近くにいるというのに。
勇者候補以外の、元々この”国立学園”に通っている一年生から四年生、つまりは春からの新二年生から新五年生は遠征中だ。六年生は年が変わると同時に卒業したためもういない。そのため、上級生が帰ってくるまではどの施設も使い放題だ。

冬の三月になる前に、一旦学園を出、いよいよ試験が始まる。残り二週間ほど、その間に知識と実技両方を習得しなければならない。

「うう、おおおお!」

俺は声を張り上げて気合いを入れる。剣を振り回すのではなく、かといって振り回されても駄目。当てたい方向に身体全体を使って剣先を誘導するのだ。

すると、一瞬、剣先に力が伝わる瞬間が生まれた。

「おおっ?   ととと、うわあっ!」

が、すぐに剣を振り上げられずに、そのまま地面に倒れ込んでしまう。

「はあ……」

フォーナ様が片手で頭を押さえる。俺と訓練を続けるうちに、徐々に感情が見えて来た気がする。

「クロン様、惜しかったですね。今、少しだけですが、振り下ろすその剣筋に意思が宿った風に見えました」

やっぱり、気のせいじゃなかったんだ!

「今のはどうされたのですか?」

フォーナ様が近づいて来て、俺の手を取って立ち上げてくれる。

「ありがとうございます。あの、振り下ろす時に少しだけ力を加えたら、スッと振り下ろせたんです。まあ、そのまま地面にぶつけてしまったんですが」

「そうですか……」

フォーナ様は俺の言葉を聞き、顎に手を当て考える仕草をする。その様もいちいち美しい。

「クロン様、今の感覚を忘れずに、素振りを後百回続けましょう。まだお昼前です、ちょうどいい頃合いになるかと」

「ひゃ、100回!」

「……何か?」

ギロリと睨まれた。

「い、いえっ!」

これが、世に聞く鬼教官か……


昼、訓練所をでて着替え、待合室で休憩していると、エレナさんが歩いてくるのがみえた。フォーナ様は訓練が終わるといつものように無口になってしまうので、ちょうど人恋しくなっていたところだ。
俺は椅子から立ち上がり、エレナさんを出迎える。

「クロン様!」

エレナさんは、フォーナ様とは対称的なほんわか笑顔で近づいて来る。服装は今宮廷(宮殿のこと。宮殿で働く人はそう呼ぶらしい)に仕える侍女の間で流行のメイド服というものだ。

メイドとは、侍女の中でも下級の雑用係のことだ。とあるメイドが考案した服だそうで、ロングスカートにひらひらのついたエプロンを重ね着し、頭には、カチューシャと呼ばれる髪飾りに同じようなひらひらをつけたものを被った格好を指す。

そしてその手には、昼食が入ったバスケットと呼ばれるわらを編んだ籠を持っていた。

「エレナさん、いつもありがとうございます!」

「いいえぇ、これも未来の……あっ、クロン様の為ですから!」

恐らく勇者様と言おうとしたのだろうか。万一聞かれたらまずいと思い、慌てて言い直したのだろう。エレナさんの顔が赤くなっている。そしてなぜか足をもじもじさせている。膝がかゆいのかな?

「これ、どうぞ!   勿論アンナファーナ様のぶんもあります!」

エレナさんは籠の取っ手を両手で持ち、俺たちに差し出して来た。

「いつもありがとうございます」
「助かります、エレナさん」

俺たちは三人連れ立って、休息のために用意してある軽食用スペースへ向かった。


----冬の三月のある日、入学試験にて

「次は、この方をお願いします」

「はい、畏まりました」

一人の女の子が、椅子に座っている。ドレスを着、頭には宝石がついた髪留めをつけている。

「おお……!」

女の子が両手をかざすと、向かい合って座っていた兵士の腕が、瞬く間に元どおりになった。

「ありがとうございます!」

兵士は立ち上がり、女の子に対して礼を言う。

「いいえ、きちんと治せて、良かったです」

女の子も、晴れやかな笑顔でそれに応答する。兵士は幼いながらもその整った顔に赤面する。

「君はもういい。出て行きたまえ」

「はっ!   失礼致しました!」

試験官が兵士に向かって、そう命令する。

兵士は早速、治った腕を使い敬礼をし、部屋から出ていった。

「流石です、王女殿下・・・・

「やめてください、私はまだそのような立場に相応しい人間ではありません……」

「ですが、殿下の祖国もようやく安定しました。これからは、そう呼ばれる機会も増えていくでしょう」

「はい、そのようですね……」

「それにしても!   このスキルは素晴らしい!   あの兵士は、何年も前に----」

徐々に興奮する試験官を横目に、女の子はバレないよう小さく溜息をついた。









今日は、入学試験二日目。三日間ある座学の試験の中日だ。

「ああ〜〜、腰が痛い……」

俺は試験官が部屋から出ると同時に、大きく背伸びをする。

「お疲れ、さん!」

「うおっと!   ああ、お疲れ!」

後ろから、背中を叩かれた。俺は振り返って返事をする。

俺の後ろに座るは、この学園に入学するために遥々皇都へやってきた、地方都市の中堅商会の一人息子だと言う、カッツだ。
俺より一つ年上の10歳で、茶色の短髪に少し薄めの茶色い目という、この神皇国ではよく見かける風貌の男の子だ。

「やっぱ難しいよなあ、入学試験。勉強しといて良かったぜ」

「ああ、そうだな。俺なんて、ここ一ヶ月寝る以外は鍛錬と勉強ばっかしていたくらいだし……」

カッツとは、昨日、試験一日目に向こうから話しかけられ、そのままこうして会話をする間柄になった。

俺はフォーナ様の指導による鍛錬と、本を読むのが好きだというエレナさんの指導による勉学に励んだ。おかげでだいぶ自信がついたし、今日もフォーナ様は冷たい目で、エレナさんはほんわか笑顔で宿から送り出してくれた。

三月になったため、俺三人は一度寮を出、貴族街に近い、市街では高級店と呼ばれる宿に寝泊まりしている。宿代等のお金は将来へのツケ・・だといって、ランガジーノ様がポケットマネーと呼ばれるお小遣いから一括で払って下さった。ありがたや。国も、そこまで面倒は見てくれないらしいから、助かった。

試験が始まった昨日からは、またこの学園に寝泊まりしている。寮を一時的に間借りし、俺はあの部屋へと戻っていた。

「そういえば、カッツはどんなスキルを持っているんだ?」

「ああ。俺はな……秘密だ!   そのうちを楽しみにしておけよ!」

カッツは笑顔でそういう。座学試験の後に行われる実技試験は基礎体力と剣の取り扱い、そしてスキルの能力を査定する試験だ。座学試験と実技試験、それぞれ半分ずつ点数になるので、どっちか一方だけ良くても受からない仕組みとなっている。

「なんだよそりゃ」

「まあまあ、きっと驚くぜ。クロンの方こそ、どうなんだよ」

「俺は光を出せるんだよ」

「光?   ピカッてか?」

「ううんと、もっとシュビッ!    って感じ」

「なんだそりゃ」

カッツがハハハと笑う。

「まあ、俺のも見てのお楽しみ、ということで」

「そうするか。じゃ、次のテストの確認をしないとな」

「ああ、そうだな。今日はあと二科目か……」

カッツが前に向き直したのを見て、俺もエレナさんお手製の冊子を確認する。




----カーン、カーン

「そこまで!   手は膝の上に。そこ、終わったからと言ってキョロキョロしない!」

鐘がなると同時に試験官が告げる。これで最後のテスト、三日目が終わった。

「ふう」

試験官が出て行く。俺は長い溜息を吐き、机に突っ伏した。

「お疲れさん! クロン」

カッツが昨日と同じく俺に話しかけてくる。こいつはいつも元気だな。どんだけ体力があるんだよ。あと背中をバシバシ叩かないで欲しい、地味に痛いのだが。

「そっちこそ。どうだった?」

「ああ、手応えは感じたぜ。後は、祈るしかないってところだな」

「そうか……俺は既に答え合っているか不安な問題が何個かあるなあ」

一ヶ月の突貫だったため、やはり粗い部分はある。それでも、できるだけの知識を絞り出したつもりだ。あとは、結果発表を待つだけ。明日から行われる実技試験と合わせて、もし受かっていれば、もうすぐに入学式だ。

「まあまあ、切り替えていこうぜ。明日はいよいよ本番、スキルのお披露目だ。噂で聞いたんだが、あの第三神子殿下がいらっしゃるとか。くう〜!   俺のスキルが殿下の目に留まって、実家の商会が話題になったりしねえかなあ!」

「えっ、ランガジーノ……第三神子殿下が!」

カッツは学園に入学する以外にも色々な思惑があるようだ。やはり、ランガジーノ様は特別な人なのだと改めて感じさせる。そんな人と付き合いがある俺は、世間から見れば羨ましいと思われるのだろうか。

「ああ。だが、飽くまで噂だ。願望も入っているんじゃねーかな。この学園は、貴族の娘さんたちも何人も受けるわけだしな。スキルといっても、しょぼいのをスキルと言い張る奴もいるようだし、実技試験は毎年何人もの貴族様が見にこられるというから、入学試験が目的のやつもいるだろうよ」

そう、実技試験は一般公開、とまではいかなくても、申請が受理された貴族は見学することができるのだ。試験に落ちたスキル持ちを雇う目的もあるだろうし、勿論受かった受験生に目星をつける目的もあるだろう。
そしてフォーナ様も、申請が通れば見に来てくださることになっている。この一ヶ月半の成果、見せつけなければ!

「クロン、気合が入ってるな!」

「え?」

俺は、知らずうちに拳を握りしめていた。

「ああ、ちょっとな」

「ふーん、もしかして、憧れてる貴族の娘さんがいたり?   この学園は貴族街にあるからな、ここに来るまでに一目惚れでもしたか?」

受験生は一度に集められてこの学園に連れてこられた。立地上貴族街を通らなければならないため、俺たちの周りを何人もの兵士が囲んでの大所帯だった。

「そんなんじゃないけどな」

というか、フォーナ様は正に"貴族様"そのものだし。

「へいへい。じゃ、俺はそろそろ部屋に帰るわ。明日のために、少しでも体を休ませねえとな」

「わかった。じゃ、またな!」

「おう、次は入学式で会えたらいいな!」

カッツはそう言い残し、教室から出ていった。
実技試験は一人ずつ行うため、カッツと出会う機会はない。俺たちは一つ目の受験教室のため、明日早速実技試験がある。

さて、俺も準備をしますか!


          

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