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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第8話


馬車は、大通りを進み、宮殿へ向かって行く。街並みは、俺の村では考えられないような大きな建物がずらりと建ち並んでおり、その建物の窓からも手を振っている人がたくさんいる。

やがて馬車は、先ほどくぐった門よりは縦横人一人分ほど小さな門に到着した。街の入り口は格子状だったが、この門は中が全く見えない両開きの大きな鉄扉でできている。


「ランガジーノ・ミサ・フォン・グリムグラス第三皇子殿下の、おなーりぃー!」


門に立つ人が声を上げ、旗を持つ人が大きく振る。そして上に並ぶ人たちが、さっき聞いたのとは違う音色で楽器を鳴らした。

鉄扉が両側へ大きく開く。門の先には、これまでの鼠色の石畳とは違い、白い石でできた道が敷かれていた。

馬車は、ゆっくりと動き出す。街並みを抜けて来た時よりも遅いな。


門の先の街並みは、先ほどの民衆がいた所とは違い、殆どが道と同じような材質の、白い石で出来ていた。それに建物の高さも揃えられている。建物の間も広く取られており、水が上へ吹き出すナニカや、綺麗に象られた樹木が生え揃っていた。しかも、全ての家に門が備え付けられている。

これが、ランガジーノ様が言っていた貴族街だろう。先ほどまでは市街と呼ばれる一般民衆の住むところ。ここはその名の通り貴族様たちが住むところだ。


「お帰りなさいませ、殿下!」


馬車の窓から外を見ると、家に負けないくらいの豪華な服を着た人達が、跪いてそう言った。馬車が進むにつれ、その横の道端に跪坐く人たちが次々と口にする。その人たちの後ろには、使用人と呼ばれる人たちだろう、くるぶしまであるスカートを着た人や、ピシリと決まった礼服を着た人たちが同様に跪いている。

ちなみにこの跪坐く動作は、宿で副騎士団長様がやっていたのと同じだ。”臣下の礼”と呼ばれるもので、貴族になるならばいついかなる時も無意識にできるようにしなければならないのだそうだ。
それも、膝の角度や手先を揃える、頭を下げる速さやその角度など全て決まっているらしい。貴族も踏ん反り返っていたらいいわけではないのだな。

俺は自分が乗っている馬車に貴族様たちから頭を下げられることにむず痒さを覚え、視線を馬車の中に戻した。









そしていよいよ、天上宮殿グリムグラセスが目の前に現れた。
宮殿はこれまた門に守られており、街の入り口にある門よりも高く、分厚くみえる。さらにそれを囲む城壁には、綺麗な模様が彫ってある。
門は格子と鉄扉を併せたもので、二つの頑丈そうな格子の奥に、大きな鉄扉が佇んでいる。あの反対側にも格子があるのだろうか。


「ランガジーノ・ミサ・フォン・グリムグラス第三皇子殿下、ただいまご帰還なされました!」


副騎士団長である、ガルムエルハルトさんが、城門に向かって叫ぶ。
すると、今度は楽器もならず旗もふらずにそのまま門が開いた。
格子が上へ上げられ、鉄扉が音を立てて開く。
そして馬車は城門が開いたのを確認すると、ゆっくりと動き出した。

城門を潜ると、まず大きな板が見えた。城門から続く道は大きな川で遮られており、その間の奥に板がはね上げられている。道も白い石は同じだが、継ぎ目が見えないほどぎっちりと敷き詰められている。まるで白い泥を塗りたくったかのようだ。

馬車が川の手前、色の違う石が横一直線に敷かれているところでピタリと止まった。すると、奥にある板がゆっくりと降りてくる。板は鎖でさえられており、馬車の中でもジャラジャラと大きな音が聞こえてくる。
やがて板は完全におり、川に橋がかかった。成る程、こうして敵の侵入を防ぐんだろうな。ここまでも門があったし、なりより街自体がとても大きいので、ここまで侵入するのは大変そうだが、それでも念には念を入れて、ということなのだろう。

馬車は橋が架かったのを確認し、再び動き出した。

「それにしても、ランガジーノ様も大変だなあ」

ランガジーノ様は街の入り口から貴族街、そして宮殿の敷地に入ってもずっと外にいる。皇族が態々顔を見せるのは、民にその威信を見せつけるのと、街の安全が国によって担保されていることを誇示するためらしい。

「はあ、一方の俺は田舎から来た村人……ここにいるのが本当に嘘みたいだ」

馬車はそれでも進む。橋を渡り、貴族街で目にしたのとは比べ物にならないくらい広くて豪華な庭を抜けると、遂に宮殿の入り口までやって来た。

門は、ピカピカと黄色に光っている。
あれ?   も、もしかしてこれ……金!?

宮殿の門はなんと、全て金でできていた。

「神皇国、すげー」

俺は思わず言葉を漏らす。

「ははは、凄いだろう?   だがあれは皇帝陛下専用の門なんだ。自分たちは横の門を潜るんだよ」

ランガジーノ様が、いつの間にか馬車の中へと戻って来ていた。

「お帰りなさい、ランガジーノ様。横の門ですか?」

「ああ、あれとあれだ」

ランガジーノ様が指す方向を見ると、今の金ピカの門よりは小さいが、それでも大きい門が左右それぞれの少し離れたところに備え付けられているのが見えた。
んん?   あの門、もしかして……銀!?

「あ、あの、なぜここの門はこんなにピカピカなんですか?」

俺は恐る恐るランガジーノ様に訊ねる。

「ああ、驚いただろう?   あれは、大昔からああらしいんだよ。何代も前の皇帝の趣味らしくてね。本当はこの宮殿全体が金色に輝いていたらしいんだけど、流石にそれは目立ちすぎるしお金もかかる、ということで門だけに落ち着いたんだ」

「そ、そうなんですか」

落ち着いたと言っても、馬車何台分の門なんだ、これ?
神皇国、俺の想像するよりもはるかに大きな国なんだなあ……


馬車はランガジーノ様のいう、皇族専用の門へ進路を変える。そして門の前に着くと、先ほどと同じくガルムエルハルト様が、ランガジーノ様の到着をつげた。

銀色の門はこれまでよりもゆっくりと開く。そして馬車はその中へお供を連れて入って行った。


宮殿の中に入ると、馬車が停まるための場所があり、そこに横付けされた。そして、馬車の扉が開く。

「お帰りなさいませ、ランガジーノ殿下。そして、ようこそいらっしゃいました、クロン様。どうぞ、お気をつけてお降りくださいませ」

扉を開けたのは、白髪に髭を生やした、凛々しい老人だった。

「ありがとう、セバスティアノン、クロンくん、大丈夫かい?」

「あ、はい」

ランガジーノ様が降り、続いて俺が降りる。気を遣われたが、馬車の車高はそれほど高くないため手こずることなく降りられた。

このおじいさんは、セバスティアノンと言うらしい。噂に聞く執事シツジというやつだろうか?

「ではクロンくん、早速今上陛下に謁見……と言いたいところだが、その服では会うことは許されないだろう。着替えてくれるかな?」

「え?」

俺は今、村でいつも着ていた服をそのまま着ている。少しボロくなっているが、普通の布の服だ。

「セバスティアノン、頼んだ」

「畏まりました、殿下。クロン様、どうぞこちらへ」

セバスティアノンさんがそういうと、後ろに控えていた何人かの使用人と思われる女性が、俺の周りをささっと囲み、強制的に廊下を歩かされる。

「さあ、クロン様、参りましょう!」
「ええ、参りましょう!」
「男の子……くふっ」
「じゅるり……」

あの……皆さん、笑顔なのに怖いんですが……

「ら、ランガジーノ様?」

俺は咄嗟にランガジーノ様を見る。が、

「皆、大事なお客人だ。お手柔らかにな?」

と苦笑いをしながら言い、セバスティアノンさんに連れられて俺とは違う方向へと歩き去って行ってしまった。

『はいっ!』

「お手柔らかにって、なんですか〜〜!?」









「うう……」

辱められた……母さんにも触られたことないのに……

衣装室とやらへ連行された俺は、そこに待ち受けていたさらなる刺客との闘いに、敗北した。
手際よく服を脱がされ、身体のあちこちを揉みくちゃにされた俺は、貴族街で見た貴族様たちに勝るとも劣らない格好をしていた。

「まあ……!」
「お似合いですわ、クロン様!」
「素敵ですわ」
「殿方の裸……はあはあ」

連れて行かれた部屋には何故か、俺より少し上くらいの女の子が何人かおり、着替えの手伝いをすると言ってこれまたベタベタと身体中を触られたのだ。

「そう……よかったよ……」

『はい!』

女の子達は、皆一様に目がキラキラ、いや、ギラギラと輝いている。
偶に、将来有望、だの、成長が楽しみ、だのと聴こえてくる。一体何を楽しみにされているんですか……?

「では、クロン様、こちらに」

使用人の一人が、扉続きの部屋のドアを開ける。

「はい、わかりました……」

俺はトボトボと部屋へ入っていく、とその直前、女の子達が

『またね〜!』

と手を振りつついった。
またね?

「あ、はい」

俺もとりあえず手を振り返し、部屋へ向き直る。俺は女の子達の嬌声を聞きつつ、部屋へと足を踏み入れた。




「やあ、お疲れ様」

部屋の中には、ランガジーノ様とガルムエルハルト様、セバスティアノンさんがいた。また、ランガジーノ様の隣には初めて見る男の人が座っている。

「クロンくん、とりあえず、紅茶を一杯」

ランガジーノ様は俺にソファへ座るように促す。でもこのソファ、とても高級そうなのだが、俺なんかが座っていいのか?

「どうしたんだ、クロンくん?」

「いや、その……失礼します」

俺は気をつけながら、ソファにゆっくりと座った。

おお!?   なんだこの柔らかさは!   感じたことのないふかふかさだ。流石宮殿。

「クロンくん、そんな顔をしなくても、これからは同じような待遇が受けられるんだ。いまのうちに慣れておいてほしいね」

ランガジーノ様が言う。え、同じような待遇……?   学園にも、このソファのような高級品がたくさんあるってことか?
……やっぱ帰ろっかな!

「そんな難しく考えることはない。クロンは選ばれし勇者候補の一人なのだからな!」

ガルムエルハルト様がそう言う。そんなものなのかなあ?

「とりあえず、ほら」

ランガジーノ様は俺に紅茶を差し出す。

「ありがとうございます、いただきます」

俺はカップを手に取ると、紅茶を飲む。
はあ、落ち着く。いい香りだ。紅茶なんて、村にいた頃は飲んだことがなかったけど、馬車の座席に机が備え付けられていて、ランガジーノ様がやたらと紅茶を飲ませたかったのだ。そのせいで、ある程度香りの違いがわかるほどにまでなってしまった。

「ふう……」

俺が一息ついたのを見ると、ランガジーノ様は隣に座る男の人を指す。

「クロンくん、紹介しよう。彼は貴族への礼儀作法の指導を家業にしている、フランポワン男爵だ」

また貴族様か!!
俺は念のため姿勢を正す。

「クロン殿、礼儀作法を指導致します、フランポワン=ド=ガブリュエルであります。どうぞよしなに」

フランポワン様はソファから立ち上がりそう言うと、右手を前に、左手を後ろにして腰を折った。なんと華麗な動作、流石は礼儀作法の先生だ。

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」

言われなくてもわかる。皇帝陛下にお会いする前に、俺に礼儀をたたき込もうと言うわけだ。

「はい。早速ですが、練習しましょう。今上陛下はお忙しい身であらせられる。あまりお待たせするわけにはいきません故」

「はい、お願いします」

俺はもう一度頭を下げる。

「はい、では、礼の仕方から学びましょう」



そうして、地獄の数時間が始まった----


          

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