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俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第7話


夕方、日が沈むか沈まないかの時刻、今日宿泊する宿場へ到着した。
今日で五日目、途中ある街にはどこにも寄らずに、一直線へ皇都へ向かっているが、それでも後三日は掛かる。俺のいた村は、やはり結構な田舎だったらしい。

「殿下!   到着いたしました!」

「うむ、ご苦労」

馬車の御者が、ランガジーノ様に告げる。

「では、クロンくん、行こうか」

「はい」

俺たちは、馬車を降り宿場へ入って行った。




『お待ちしておりました!』

騎士様が横一列に並び、一斉に膝を降り頭を下げる。

「うむ、おもてを上げよ」

ガチャリと音を立て、これまた皆一様に頭を上げた。ランガジーノ様、本当に偉い人なんだな。

「殿下っ……!   ご無事でなりよりです」

列の真ん中にいた、一人豪華な鎧を着たおじさんが跪いた姿勢で一歩前に出て来てそう言った。器用だな。

「心配をかけたな、ガルムエルハルト副団長」

「いえ、これも我らが務め、殿下のことは信じておりました」

「よくいう、私があの村に直接出向くと言った時、どれほど諌められたことか」

「それも、務めであります故」

「全く、いつもいつも堅苦しいやつだな、お前は。皆、楽にして良いぞ」

ランガジーノ様はやれやれと言った様子で、首を横に振った。先程から何か、俺と話している時と態度が違う。どっちが本当のランガジーノ様なのだろうか?
騎士様たちは立ち上がり、手を後ろに回して直立不動の姿勢を示す。

「それで、そちらの子が?」

ガルムエルハルトと呼ばれたおじさんは、俺をその鋭い目で睨みつけた。こ、怖い……

「ああ、そうだ、紹介しよう。クロンくんだ。そしてクロンくん、彼はガルムエルハルト。私の所属する第八騎士団の副団長だ。団長は私、ランガジーノが務める。後ろに並んでいるのは、その団員たちだ」

「よ、よろしくお願いします」

俺は第八騎士団とやらの人たちに向かって頭を下げる。

「うむ。改めて、栄えあるグリムグラス神皇国において、畏れ多くも屈強なる第八騎士団の副団長を仰せつかっている、ガルムエルハルト・ド・ボンバルディウスだ。一応、男爵位を賜っている法衣貴族だ。よろしくたのむ、クロン殿!」

だ、男爵!?  この人も貴族様だったのか……
ガルムエルハルト……うんたら様は、手を差し出してきた。でもこれ、握って良いのかな?   ランガジーノ様と違って、粗相をしたらすぐさま切り捨てそうな人なんですが。

「ガルム、お遊びはその辺にしておけ」

え、お遊び?

「はっ!   クロンくん、よろしく」

ガルムエルハルト様は、真一文字に結んだ口元を緩め、笑顔で再び手を差し出してきた。

「あ、えと、よろしく、です」

俺は恐る恐るその他を握る。鎧の上からだが、力強さが伝わってくる手だ。

「ガルム、彼はこれからこの国にとって、世界にとっての重要人物だ。くれぐれも、な?」

「存じております、ジーノ様」

そう、俺は世界を救う”勇者候補”として選ばれたらしいのだ。未だに頭の中はこんがらがっているが、一先ずの理由は知った。

「クロンくん、ここから栄えある皇都までは、我らが共をする。大船に乗ったつもりで任せてくれたえ」

「はあ、どうも」

大船に乗ったつもり、というのはよくわからないが、とにかく護衛をしてくれるらしい。

「それで、準備はできているな?」

「はっ、どうぞこちらに」

ガルムエルハルト様は、宿の一室へと俺たちを案内した。









「こちらが必要書類です」

ガルムエルハルト様は、ソファに座った俺たちに何枚か紙を差し出した。宿場は皇都に近づくほど、豪華な部屋が増えて行ったり、宿自体も高級なものが出てくるらしい。この宿も、外見からして結構な値段がしそうな所だ。今座っているソファも、俺が村で使っていた手作りの椅子がただの木屑に思える程だ。

「確認しよう。クロンくん、字は読めるか?」

ランガジーノ様が話しかける。

「ある程度は。計算も、少し」

「そうか、君のお父さんは行商人だったね」

なぜランガジーノ様がそんなことを知っているのかというと、俺のことを調査していたかららしい。”勇者候補”の家族は皆、その素性を詳らかにされるのだ。何と、三年前、俺がこの”技”、学園で言うところの”スキル”を発現してすぐに調べ始めたらしい。
神皇国、恐るべし。

ランガジーノ様は、その立場を使って俺の他にも”勇者候補”を迎えに行っているとか。第三皇子というのは、程々に大切にされ、かつ身分を乱用しやすい、とランガジーノ様は苦笑いをしながら話していた。
確かに、いきなり皇子様が迎えにくれば、そうやすやすとは断れないだろう。まあ、権力に敏感な国民もいるため、皇子のことを知らない人には、最初のうちは身分を隠して交渉することがほとんどだとか。

「クロンくん、この書類は、君を学園に迎え入れるために必要な書類だ。いくつかサインをしてもらわなければならないのだが、いいかな?」

ガルムエルハルト様がペンを俺に差し出す。

「はい、わかりました」

どれどれ、書類には何と書いてあるのか?


【崩れについて、他言無用】

崩れ、とは、この世界が滅亡するかもしれないという予言の隠語だ。

最初にその話を聞いたときは頭が真っ白になった。未だに半信半疑だが、魔物に、しかも滅多に出てこないという王に襲われた身としては、もしかしたら世界滅亡の兆候なのかもしれない、と思えはする。
俺がここから誰に他言するというのか?   学園は崩れのことを知っている人が集まるだろうし、ここにいる人たちもおそらくはそうだろう。

大丈夫だ。

【九歳から十五歳まで、逃げ出さず学園で学ぶことを約束する】

六年間、これも予め聞いていた。

今更村には戻れないし、学園では相応の待遇がなされるらしいから、生活の心配もない。それに、俺のこの”技”がゆくゆくは世界を救う役に立てるというのであれば、吝かではない。

大丈夫だ。

【神皇国に忠誠を誓う】

忠誠を誓う……よくわからないな。俺はただの村人だ。
でも、お金を出してくれるのは神皇国なのだから。

まあいいかな?

【勇者としての振る舞いを心がける】

これも、あまりピンとこない。
でも、世界を救うはずの人が、あちこちで暴れまわるのはよくないよね。

大丈夫だ。

【自己責任を全うする】

これは、どういうことだろう?
自分の行動には自分で責任を持てってことかな?

まあ、大丈夫かな?



書類に書いてあるのは、以上だ。

「本当に、いいのかい?」

横のソファに座るランガジーノ様は、何やら苦々しげな顔をしている。前のソファに座るガルムエルハルト様も、俺がスラスラとサインをしたことにだろうか、驚いている。

「え、まあ、学園に入ることは、もう仕方のないことかな、と思っていますし」

「そうかい……」

ランガジーノ様はそれでも納得していない顔だ。

「本当に、よく読んだんだね?」

「はい、きちんと読みました」

読むと言っても、1行ずつしかない書類だ。ちょっと引っかかるところはあるものの、おかしなことは書いていないと思う。

「わかった……君がいいというのなら、こちらからは何もいうことはない」

「はあ?」

なんかモヤモヤするが、サインをしたのだ。この文章は忘れないようにしよう。

その後、いくつかの書類に目を通し、その日は寝た。










夜、宿泊客の殆どが寝静まった頃。

「----ジーノ様、本当によろしかったので?」

「……何が言いたい、ガルム」

「彼の力、あれはあまりにも強大です。使い方を誤れば、何百人もの人を一度に葬ることが出来る」

「……その通りだ。彼の使う”ビーム”は、鎧ですら貫くことは容易だろう。しかも、魔法とは違い詠唱なしで発動でき、遠距離から攻撃もできる。正に、動く砲台だ」

「ええ。我が神皇国においても、大砲は未だに大きく動かしにくい。鉄砲も研究が難航している。魔法も戦闘においてはタイムラグが大きい。そんな中、彼、クロンのあの力が投入されれば……」

「侵略戦争になってもおかしくない、か」

「はい。今は世界の危機、神皇国上層部も足踏みをしていますが。もし危機を避けることができたならば、すぐに踏み切る可能性も大いにあります」

「ふん、世界の危機か。予言だというが、実際は歴史研究に基づく”事実”なのだ。300年に一度、地脈に溜まった瘴気があふれ、沢山の魔物が世界を蹂躙する。過去の記録を照らし合わせ、明らかになったものだ。今更予言などと曖昧な表現をしなくても」

「ですが、民が混乱に陥ると、それこそ大変な事態になります。皇帝陛下のご決断は誠に正しいことだと」

「皇帝陛下……だが、あの入学誓約書に国への忠誠をねじ込んだのも、父上だ。父上は、学園を能あるものの育成機関としてではなく、軍事教練場としてしか考えていない」

「神皇国の歴史に侵略あり。今上陛下だけではなく、この国の歴史は、領土の拡大と経済の掌握によって成り立っています。それを批判されるのは」

「わかっている、わかっているが……どうして、皆仲良くできないのか?   同じ人間なのに、なぜ血を流さなければならないのか?   この不穏な時勢に、魔物討伐のためと言って隣国もまた軍事力を増強している。いずれ我が国と衝突するのは、火を見るより明らかだ」

「殿下……恐れながら、その心中お察し致します」

「やめろ、らしくもないことを言うな」

「はは。本当、大変なことになりますな。いや、もうなっていますか」

「そうだな、これが、笑い話で済めばいいが……」

こうして、夜は更けていった。









「はえー、なんじゃこりゃー」

目の前には、大きな門。そしてそこへ出入りする、人、ひと、ヒト。

俺は遂に、グリムグラス神皇国が首都、ソラプイワードに到着したのだ。城壁と呼ばれる、石造りの壁が何重にも街を囲み、街道からの出入り口である城門には、何人もの騎士様が守りを固めている。

そして、ここからでも見える、大きな建物。あれが、この皇都を象徴する天上宮殿グリムグラセスだ。皇帝陛下のお住まいであり、それに連なる皇族が住むほか、この国の政治経済を支える沢山の官僚と呼ばれる人たちが働いている。

「どうだい、クロンくん?   これが、我が栄えある神皇国が誇る、大陸一の都市だ」

ランガジーノ様が話しかけてくる。だが俺は、馬車の覗き窓から顔を出し、この街の大きさに呆気にとられていた。

「ははは、もうすぐ入門だ。馬車から顔を出さないでくれるかな」

「……あ、はい!   すみません」

俺は顔を引っ込める。

馬車の周りには、第八騎士団の騎士様たちが隊列を組んでいる。当然、目立つ。俺は、その事実に今更ながら気づき、先程の自分の行動を恥ずかしく感じた。

「そうがっつかなくても、これから嫌という程見られるよ。学園は宮殿のすぐそばにあるからね」

「はい、でも、やっぱりすごいですね!」

「そう言ってもらえると、皇子としては誇らしいかな」

ランガジーノ様はいつものはにかむ笑顔を見せた。相変わらず歯が光っている。

馬車が門に到着した。門には三種類あり、一般人用の通用門と、荷物を持った商人専用の商用門、そして貴族専用の正門だ。
俺たちの馬車は、当然正門からだ。正門は、大人が縦に五人並んだくらいの高さがあり、大人が三人両手を広げて並んだくらいの広さがある。


「ランガジーノ・ミサ・フォン・グリムグラス第三皇子殿下の、おなーりぃー!」


門の脇に立っている、大きな旗を持った騎士様が叫ぶ。そして手に持つ旗を大きく左右に振った。すると、どこからか楽器を鳴らす音が聞こえてきた。上からだろうか。
旗には、馬車と同じ紋様が描かれている。あれは、この国を表す国章というものだそうだ。そして皇族の家紋でもある。

馬車は楽器が鳴り終わると、お供の騎士様たちを連れて入門する。門からは門と同じ広さのきれいに整地された石畳の道が真っ直ぐと伸びている。

「クロンくん、まずは宮殿へきてもらう。大丈夫かな?」

「え、このままですか!?」

「そうだ。私はこれから馬車に登って、民に挨拶をする。君はここで待っているといい」

ランガジーノ様はそういうと、馬車の前方にある扉を開け、上へ登って言ってしまった。

「まさか、いきなり宮殿へ連れて行かれるとは……」

このまま学園に行くと思っていたのに。どうしよう、凄く緊張する……


『ワアアーッ!!』


通りをある程度抜け、何もない更地から建物が並ぶ街中へ差し掛かると、大きな歓声が聞こえてきた。恐らく、ランガジーノ様が民衆に向かって手でも振っているのだろう。

「ランガジーノ様、やっぱすごい人なんだなあ……」



俺は今更ながら、場違いな所に来てしまったことを実感する。
馬車はそんな俺の沈む気持ちとは裏腹に、軽快な足取りの馬にひかれ宮殿へ続く道を進んで行った。


          

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