話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第82話 アパートだったナニカ


「あの、冗談じゃなくて?」

「なぜこのようなことに一々冗談など申さなければ?」

「あ、ですよね……」

未来はやはり本当に、このアパートに住むつもりのようだ。
恐らくは豪さん達大人組の干渉によるものだと思うが……

「では早速」

偽の婚約者様はそういうと何故か、大家の部屋、つまりは流湖の住む一階一番端の部屋の扉を開ける。

「え?」

何か間違いがあるんじゃなかろうかと慌てて後を追いかけて中に入ると--



「おかえりなさいませお嬢様、ご主人様」



よし、見なかったことにしよう。
俺はすぐさま百八十度回転し部屋から出る。

「ふう、幻覚を見るなんて俺も疲れているようだ」

まさかこの一部屋の中にあんな大きな玄関が存在するはずはないしな。

「伊導様?」

未来が中からタタタッと俺を追いかけて外に出てくる。

「ん、どうした? 俺は今夢から現実に帰還する方法を模索しているんだ、少し放っておいてくれないかな?」

「あの、夢とは……?」

「あはは、未来も変なことを言うなあ。だってこの入り口なのにあの大きさの玄関、というかもはや一つの部屋が現れるわけないじゃないか」

「いえ、現実ですよ! 戻ってきてくださいまし伊導様っ」

肩を掴みガクガクと揺さぶられるがままな俺。

「アハハー」

「ほら、もう一度ご覧くだされば」

そのままずるずると扉の前までひきずられ、再び中の様子を見せられる。

「おかえりなさいませ、ご主人」

再びあのメイドさんだ。

「……もう一度お願いします」

「おかえりなさいませ、ご主人」

「……はあ、あのなあ、未来」

「はい?」

「これはやりすぎだろおおおおおおお!」

俺は隣の折原家に向かう。流湖が今日は親父勇二さんは休みだと言っていたのでおそらくは在宅だろう。

インターホンを連打すると、中からかったるげな表情の勇二さんが現れた。

「はいはい、なんだ伊導くんか。なんか困ったことでもあったか?」

「それどころじゃありませんよ! なんですかあれはっ!!」

「ああ? アパートのことか?」

「ええ、あの内装は一体どうなってるんですか? なんも話聞いてないんですが」

「いやあすまんな。俺だって急な話でびっくりしたんだが、昨日君たちが学校へ行った後すぐさま工事が始まってな。お金も渡されたから断れなくなっちまって……だって10億円だぜ?」

「えっ、10億っ?」

アパートを改造するお詫びがそんな大金とか、ぶっ飛んでるなあ金持ちは。

「きちんと元々住んでいた住人も他の建物に移れるよう便宜を図ってくれたし、まあ外観はこのままで中だけ建て替えるって言われた時はびっくりしたがな」

このアパートは各階5部屋の12畳プラスユニットバスという少々大きめな建物だ。その中身を作り替えるとなると、そこそこの大工事になるはずなのだが、1日半で終えてしまうとはどんな技術なのだろう。
外の外観は本当にそのままなので、部屋ごとのドアや二階への階段なんかもそっくり備え付けられたままだ。でもそこまでして偽装する必要があるのだろうか。

「伊導様、ささ、私達の愛の巣へ向かいましょう」

「あ、おいっ」

勇二さんに会釈した未来は俺の腕を取り無理やり自身の新居へ引っ張って行く。

「これでおわかりでしょうか? 私がここに住むのも本当、建物を買い取ったのも本当ですわ」

「ああ、わかったよ……」

現実逃避するのはやめよう、成ったものは元に戻せないのだから。

「では改めて」

彼女が扉を開けると、またあのメイドさんが挨拶をしてくる。どうやら中を管理していたのはこの人一人だけのようだ。

「おかえりなさいませ、お嬢様、ご主人様」

「ど、どうも」

「ただいま戻りましたわ」

お嬢様はともかく、ご主人様は流石に恥ずかしいな。

「どうぞお入りくださいませ」

未来の鞄を取った次は、俺の物を取ろうとするが。

「あ、俺は自分で……流石に悪いですし」

「でも仕事ですので」

「いや、いきなりメイドさんにお世話になるのは緊張するというか」

「でも仕事ですので」

「…………」

「でも仕事」

「ああはいわかりましたよっ、どうぞ!」

「かしこまりました、ご主人様」

メイドさんは恭しくお辞儀をすると、奥へ引っ込んでいく。そのどこか勝ち誇ったような顔はなんなんでしょうか、俺一応ご主人様なんだよね……?

「伊導様、そんな隣で立っていらっしゃらずにどうぞお入りくださいませ」

「あ、うん」

未来が吹き抜け二階建ての上階廊下部分から階段を優雅な仕草で降りてくる。
そうして共に歩きながら構造を説明してくれた。

改めて内部を見回すと、アパートの一階三部屋分くらい、ざっくり計算しても36畳が丸ごと大きな部屋となっており、大きめのLDKと表現したらいいだろう。

全面がモデルルームみたいな綺麗な現代的洋風で、キッチンもアイランド型、リビングには大きなソファに大きなテレビにトールボーイ型スピーカー。ダイニングエリアには8人がけの大きめの机に高級そうな食器棚まで。

奥の壁一面はガラス張りになっており、外にある元々アパートの敷地にあった庭が丸見えだ。表からじゃ完全にもとの状態に見えるようなマジックミラー的謎技術が使われているらしいが……『電突』ってどれほど力があるのか、本当に広告代理店一筋なのだろうか?

「そしてこちらにはお手洗いと物置が。その左側には客間がありますわ」

一階は完全な真四角というわけではなく、"P"を右に90度回転させたような形で左上に廊下が突き抜けている。
その先っちょにあたる部分に計15畳分にあたるトイレ、風呂、物置の扉が並んでいる。
手前側にある残りの12畳分は客間となるわけだ。

「大きなお風呂だなあ」

「そうですか? これでも小さい方なのでは」

「あはは……」

そこはやはりお嬢様なのか、普通はこんな大きさの風呂がある家なんてないぞ。

それぞれの部屋を少し覗かせてもらうと、トイレは一畳と普通の大きさだが、風呂は6畳と広さがある。
物置も8畳もの空間があり、様々な物を収納できそうだ。

「次は二階へ参りましょう」

「ハイ」

二階はLDKの真上にあたる右側に元々の洋間だった部分を横に繋げた8畳の部屋が2つ。
そして左側二部屋分も元の間取りを横にしたような12畳が二部屋並ぶ形となっている。また廊下の真ん中2畳分は突き当たりとなっており"ト"のかたちの廊下に部屋がくっついている形だ。
その二階の少し広めに作ってある廊下には手すりが付いており、一階を覗ける形となっている。

「私はこの吹き抜け上の片方の部屋に住まわせてもらうことになっております」

「そうか、じゃあ俺と真奈がそっちの部屋でいいのか?」

「そうなりますが……大変不本意なことに、お父様やお爺様、叔父様雄導との話し合いで、真奈さんと伊導様は同じ部屋で暮らしてもらうことになってしまいしました」

未来は少し拗ねたような言い方をする。

「ええっ!? まあ、アパート暮らしで少しは慣れているが……また共同生活か」

「そこは譲れないとのことでしたので。その隣のお部屋には、流湖様が住まわれますわ。なお、私の隣の部屋には、メイドの羽貞うていが住み込みで働くこととなっております」

叔父さんや豪さんが決めたことだ。今更ひっくり返ることはないし、まあそもそもの最初の目的は、真奈の依存症を治すことと、俺と真奈が二人暮らしをして恋人ではなく兄妹としての関係を確立させるための強硬策だったからな。
今更また同じように二人暮らしをしてくださいと言われたからといって拒否する理由にもならないし。

つまりはこのアパートだった豪邸では、俺・真奈・流湖・未来・羽貞さんの五人暮らしとなるわけか。こうなればもう、シェアハウスみたいな物だと割り切るしかないな。
どの道未来と一緒に暮らすのは年明けまでになるはずだし。

「私としては、今すぐにでも伊導様と相部屋でよろしかったですのに」

「いや駄目だから! あくまで嘘の婚約ってこと本当にわかってるんだよね!?」

「愛に障害は付き物ですわ!」

「はあ、どうしてそこまで俺のことを好きになれるかねえ……」

「お嬢様、ご主人様、お待たせいたしました」

一通り観て回ったタイミングで、メイドさん……羽貞さんが声をかけてきた。

その後ろには、口をぽかんと開けた流湖の姿があった。

          

「妹が『俺依存症』を患った件」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く