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妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第81話 帰り道


放課後、授業が終わるや否や、またまた群衆に囲まれた未来を置き去りにしてこっそりと教室を立ち去ろうとしたが。

「あ、伊導様お待ちになって」

「あっ」

やんわりと腕を引かれ、クラスメイトたちの視線を一瞬にして浴びた俺はそれを振り払うこともできず、恐る恐る返答する。

「な、なんでしょうか神川さん」

「あら、そんな他人行儀な呼び方はやめてくださいな。いつものように未来とそう仰って?」

「いやいや、いつもって出会ってまだ二日とちょっとじゃないか!」

「まあ、私と伊導様の仲は時の長さで測れるような浅はかなものではありませんわ。愛に期間は関係ない、その密度が大事なのだと思うのです」

未来はヨヨヨとしなを作る。それをみたクラスメイト(特に男子)の半分は頬を赤らめ興奮し、もう半分は俺を責めるような視線で射抜く。

「ちょっと待てお前たち、朝から誤解を与えているようだから改めて言っておくが、この娘と俺はいとこなんだよ。だからちょっと馴れ馴れしいところもあるし、若干妄想癖っぽさも含まれてはいるけれど、至って健全な関係だからな!」

後回しにして更なる余計な誤解を招くよりも、はっきりと明言しておいた方がいいだろうと思いそう言ってのける。

「本当か?」

「ああ、事実だ。だが今ここでは言えない事情もあって、未来との関係は少々複雑な部分があるから完全に説明したとは言い切れないけれど、一先ずそういうことだから、な?」

泰斗の問いかけに乗っかるように補足説明をすると、殆どのクラスメイトは分かってくれたようで、ようやく引き下がってくれた。
だが一部の生徒はまだ怪しんでいるのか、特に俺に向けての胡乱な視線が突き刺さる。だから別に取ったりしないから、告白するなりアタックするなり勝手にしろよなもう。

「酷いですわね、伊導様。私のことを妄想癖だなんて」

「嘘は言っていないつもりだが?」

「全くもうですわ……まあそんなドライなあなた様も素敵ですが」

なぜそう変換されるっ!

「でも構いませんわ、正直ずっと人混みに呑まれて余り良い気分ではありませんでしたし。ありがとうございます、やはりお優しい方ですね」

と見惚れる笑顔を向けてくる未来。どうしてこう一々とこちらに対する好感度が上がるのか……神様も不平等だな、世の中にはモテたくてもモテない人はいっぱいいる一方で、俺のように恋人を作る気がないのに次々と異性が寄ってくる人間もいるのだから。いやいや、こんなことを思っていたら多方から刺されそうだ。




これも前流湖が言っていた強制力や修正力というものなのだろうか? 世界は結局一つところに収束する。どのようなパターンを選ぼうとも、決まった地点に全てがたどり着く。そのようなものがあるのだと流湖は考察していたのだ。

俺としては、そんな人の人生が予め決められたレールの上を走っているとは思いたくない。それにもしその仮説が正しければ、真奈が苦しんでいるのは起こるべくして起こった運命ということになる。
だがそんなことを認めるわけにはいかない。不幸になる人が不幸になる予定だったなんて誰にも決められることじゃないし、予測できることではないはずだからだ。真奈の病気は絶対に治してやるのだ。




「とにかく俺は帰るから。そっちは迎えの人とかいるんだろ?」

「はい。ですので伊導様も次いでに乗って行かれては?」

「ん、なんでだ?」

「だって同じ方向ではありませんか」

「そうなのか?」

「ええ、そうですよ」

話し方から推測するにどうやら彼女は転校してからの拠点をウチの近くに構えたようだ。

未来は再びニコリと笑うと、俺の腕を取ろうとしてきたので自然に避ける。だが送ってくれるというならばその好意には甘えようかな。

そうして戯れつく未来とそれを見た生徒たちからの嫉妬の目線を避けつつ校門に向かうと。

「お待たせいたしました」

車の外では千葉さんが今日もダンディに佇んでいた。
俺たちが近づくのを見ると車の扉を開く。

「どうぞ伊導様も」

「それじゃあお邪魔します」

一瞬躊躇したが、千葉さんに促されたので未来に次いで後部座席へ乗らさせてもらう。

「では」

「よろしくお願いします」

車がゆっくりと発進すると、早速とばかりに未来が話しかけてくる。

「伊導様、これから隣の席の者同士改めてよろしくお願いしますね?」

「あ、ああ」

まさか席順まで神川家の力を使って……なんて事は流石にないと思いたい。

「でも、あの喧騒に暫くは巻き込まれるのかと思うと少し嫌になるな。未来はうんざりしてないのか?」

「まあ、人に囲まれる、話し相手をするなどというのには家柄上慣れておりますので」

「なるほど、お嬢様はメンタルも強くなるんだな」

「そういうことですわね。でもそんな私も貴方様にメロメロにされてしまったわけですが❤︎」

「いやいやっ」

未来は千葉さんがいるにも関わらず俺の左腕にその双子山をムギュリと押し付ける。

「というか未来って積極的すぎるくないか? 穿った見方かもしれないが、お嬢様ってもっとお淑やかで男の人に触られるなんてキャー! みたいな印象があったんだが」

ズリズリとお尻を近づけ離しまた近づけの攻防を繰り広げながら訊ねてみる。

「そうですわね、確かに私はお爺様やお父様の方針でそれなりの教育を受けて参りましたわ。ですが、ただ淑女であればいいというものではない、というお爺様の考えもあって、その反対、つまりは積極的かつ庶民的な行動もできるような教育も同時に受けておりました。ですので、両方に対応できるポリバレントなお嬢様ということになりますわね」

「そんなサッカー選手みたいな……でもなるほど、俺に対して積極的な理由が少しわかった気がするよ」

まあそもそも本当に一目惚れ程度で俺なんかと結婚したいと思うまで好きになったのか、という最大の疑問が残る訳だが。

「それに、教えの中には既成事実も含まれておりますのよ?」

そういうと前屈みになった未来は顔を近づけ、甘い吐息を吐く。お嬢様は口臭にも気を使っているのであろう、スイーツのような甘い匂いが鼻をくすぐる。

「おいっ?」

「伊導様さえ宜しければ、今ここでひと時のランデブーもやぶさかでは……」

と言いかけると、ちょうど車が止まり、千葉さんが運転席から降りる。

「あら、残念ですわね。続きはまた後ほど、という事で」

「いやいや、後ほども何もないからっ!」

助かったと思いつつ否定のツッコミも忘れない。不要なフラグはしっかりとバキバキにしておかなくては。このタイプの女性には言質を与えてはならないのだ、とここ数週間でようやく学んだ俺である。

「どうぞ、伊導様、お嬢様」

「すみません、どうもお世話になりました」

「いえいえ、これも神川家の利益になることですので、私の働きでご主人様やお嬢様の為になるならば幾らでも」

千葉さんは根っからの仕事人なのだろう、仕事の質の高さにその冷静な受け答えには男として大人の魅力を感じるな。

「では参りましょう」

「うん……え?」

どうしてか、未来も共に車を降りて、学校指摘のカバンを両手に持ちアパートの前に俺と横並びになるように佇んでいる。

「あの、未来さん?」

「はい、なんでしょうか?」

「お車、行っちゃいましたよ?」

千葉さんの運転する高級車は、本来乗せておかなければならない主人を置き去りにして既に出発してしまっている。

「それが?」

「いや、それがって、ここから近いと言っても一人で歩いて帰るのか?」

「なんで歩く必要がありますの?」

「ええっ、それはなんだ、まさか電突は実は未来の技術を先取りしていて、バンブーコプターでも開発しているとか言うんじゃなかろうな?」

「バンブーコプター……?」

未来は何を言っているんだこの人はという不思議そうな顔つきだ。

「いや、通じなかったらいい。そうじゃなくて、ここ俺のアパートだけど、ちょっと寄って行きたいとか? 後でまた千葉さんに連絡するのか?」

「なぜ千葉に連絡をする必要があるのですか。彼の私を新しい自宅まで送るという仕事はもう終わりましたのに」

「……は?」

なんか話が噛み合っていないような、嫌な予感がするような、まさかおなじみの展開になる悪寒がするような。

「だって私の家は、今日からこのアパートなんですもの」

未来は目の前の俺と真奈の二人暮らしの拠点プラス流湖の修行先である折原家所有のアパートを見上げて微笑んだ。

          

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