妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第78話 小鳥さんたちは今日も元気です


--ちゅちゅちゅちゅーんちゅーんちゅちゅちゅちゅーんちゅんちゅちゅちゅちゅーんちゅんちゅちゅちゅちゅーん!

遙か銀河の彼方から聴こえてきそうな小鳥さん達の鳴き声で目を覚ます。

「ううーん」

「むにゃ……お兄ちゃん……」

横を見ると、右手に真奈。左手に流湖という布陣で三人川の字で並んでいるのがわかる。

ああ、そうか。昨日二人を怒った後に逆に怒られたのち、罰として三人で同じベッドで寝ることという謎の刑を受けさせられたのだったな。
ご丁寧に俺の腕に抱きつくように丸まっている二人を見て、俺はため息を吐く。

「幾ら何でも三人は狭すぎたなやっぱり……」

ベッドは勿論一人用であるので、無理やり窮屈に寝そべったいる両隣に存在する四つの柔らかいモノが腕に押しつけられ、そういう気はなくとも少しドキリとしてしまう。

「もう6時か、そろそろ起きないとな」

学校までは車で1時間ほど、ここを出るには7時半が限度だろう。

「おい、起きろっ、寝坊するぞ」

と、抱きつく二人の手を振り払い揺さぶって目を覚まさせる。

「にゅ〜ん、後5時間……」

「昼になっちまうわ、何言ってんだアホっ」

「うーん、お兄ちゃんペロペロ」

「ちょ、おいやめなさい!」

再びしがみついてくる二人から逃げるようにベッドから降りる。真奈に至っては寝言を漏らしながら指を舐めようとしてきた。一体どんな夢を見ているんだ……?

「あいてっ」

「ふぎゅっ!」

二人の頭を軽くチョップすると、ようやく覚醒したのか目を擦りながら上半身を起こす。

「あれ、おふぁよ〜伊導くん」

「おはよー、お兄ちゃん……」

「はいはい、おはよう。ほらさっさと着替えて、今日は早く出ないといけないんだからな?」

「あっ、そうだった!」

「今何時? 6時過ぎかあ、流石に眠いよお兄ちゃん」

「知りません! 昨日二人があんなことをするからだろう?」

結局寝たのは2時を過ぎた頃だったため、そりゃ眠いだろう。俺が起きられたのが不思議なくらいだが、そもそもそうなったのはこの二人が俺に襲い掛かってきたからであって断じて俺の責任ではない。

「むむむぅ、取り敢えず顔洗ってくるね〜」

「じゃあ私も」

そう言って二人は連れ立って洗面所へ向かう。


--コンコン


「ん、はい?」

二人が寝室を出ると同時に、リビングの方から扉を叩く音が聞こえてきた。

「どちら様で」

「おはようございます、伊勢川伊導様。昨日はよくお休みになられましたでしょうか?」

扉を開けると、メイドさんが一人立っており、頭を下げてそう訊ねてきた。

「ああ、はい、まあ……でもこんな豪華な部屋に泊まらせてもらえて、嬉しいですね。これから泊まる機会があるかどうかなんちゃって」

「伊導様がお望みならば、似たようなお屋敷をご用意できるでしょう」

「え?」

「なにせ、それには一つ未来様と結婚していただくだけで良いのですから……」

メイドさんはニヤリと口角を上げてさらりと言ってのける。

「いやいや、なんでそうなるんですか!?」

「なにせ私達も、お二人の仲を応援しておりますので……それでは準備ができましたら広間の方までお願い致しますね」

ウィンクをし、彼女は立ち去っていった。

「なんなんだいったい、使用人たちが未来と俺の仲を応援してるってことか? 意外と出歯亀根性があるんだな」

もっと職務に忠実で自分の感情を表に出さない職だと思っていたが。主人の孫の気持ちを尊重するという意味では忠実と言えなくもないのか……?
どちらにせよそんなことを言われたところで結婚なぞする気はないけどな。そもそも知り合ってまだ一日なんだぞ?
未来の方は既に好感度が振り切っている様子だが……もしあれが理瑠のような演技だとしたら人間不信に陥りそうだな。

「あ、お兄ちゃん、明日の合唱コンクール来てよね! 流湖先輩も是非!」

「ああ、わかってるさ」

「うんうん、行くよ!」

いつの間にか制服に着替えた二人と会話をしつつ、俺もさっさと準備をする。

今日は金曜日なので、明日の10月20日土曜日にはいよいよ真奈の最後の合唱コンクールだ。勿論家族総出で行くつもりだし、じっちゃん達も来る予定だ。
流湖達高校組にも声をかけているが、恐らくは観に行けるだろうということなので、真奈の晴れ舞台を共に観賞するとしよう。

「文化祭の時は私のお店にもきてよね〜? サービスし・ちゃ・う・ぞ❤︎」

「え?」

「ちょっと先輩、何してるんですかっ」

彼女は自らの胸に俺の手を当て、そのまま胸の谷間に挟み込んでしまう。

「何想像してるのかにゃ〜? むふふ、むっつりだねやっぱり」

「や、やめろよっ、そっちが変なことをしてくるのが悪いんだろ!」

顔が熱くなった俺を揶揄うように笑う。

「お兄ちゃんなんでそんなすぐに絆されるの? もっとしっかりしてよもう」

「そう言われましてもな……俺だって男なんだから、仕方ないだろ」

そう、不可抗力なのだ……たとえ俺の手が包まれていた流湖の胸を意識してしまうのも全て地球の意思なのだ。

「全く! というか先輩もあんましお兄ちゃんに酷いことしないでくださいよね」

「酷いこと? でも移動くんは喜んでいるみたいだけど」

「関係ありません、昨日だってあんなに凄いことを色々とゴニョゴニョ」

真奈は抗議をするが、次第に顔が赤くなり尻すぼみになる。

「そういう真奈ちゃんだって、私に辞めろって言う割にはやるときはやるじゃん。ね、ここは共闘するときは共闘した方がいいと思わない? 昨日みたいな状況とかさ、まずは伊導くんをその気・・・にさせないとどうやっても攻略できないよこの人は」

「人を邪悪なオーラを纏った魔王みたいな言い方するなっ!」

「ううーん、確かに昨日のアレで暴発しないとは流石にびっくりしましたけど……お兄ちゃん本当に性欲あるの?」

何故かジト目で俺のことを睨みつけてくる妹様。

「何を言っているんだこら! そんなはしたないこと言うんじゃありません!」

「ええー、今更だと思うけどなあ……」

真奈とアレコレしているのは、あくまでその『俺依存症』に対処する為であって、妹とイケナイことをしたいわけでは断じてない。
うん、断じてないのだ、確かに少し興奮したりもするがそれは致し方ない反応であって、俺が進んでそうなっているわけではないのだ。

「とにかく早く行かないと。そういえば身体は大丈夫か?」

文句をいいいじける真奈に体調を訊ねる。昨日は流湖が発端とはいえ結構接触していたからな、また何時ぞやのようにハイになっていたら大変だ。

「今の所はなんともないよ。やっぱり意識して摂取を切り替えられるのがわかったのは凄い発見だったよ! これでお兄ちゃんに抱きついても大丈夫なわけだから」

「まあ、確かにな」

なるほど、昨日もきちんとフェロモン俺成分を摂取しないように頑張っていたようだ。
新たなことがわかるほどその身体の仕組みの謎が深まっていくが、依存症になってしまったのは真奈自身の意思ではないのだから、本人にもわからないことだらけだしこれからも色々と調査を続けていかなければならない。

「真奈ちゃんみたいに、私も『伊導くん依存症』になったら大っぴらにイチャつくことができるのかなあ……あ、ごめんね真奈ちゃんっ! 別に病気のことを軽く見ているわけじゃないんだよ?」

「え? ああ、いえ、お気になさらず。私も役得なところあるなって正直思っているので」

「そうだったのか」

まあ俺のことを好きと公言しているのだから、その人とベタベタくっつく正統(?)な理由があるのはある意味嬉しいことではあるのだろうか。

「こんな時間か、広間に集まれって言われているから、早く行かないと」

時計を見ると6時半だ、もうすぐここを出発しなければならない。真奈も合唱コンクールのリハーサルがあるらしいし休むわけにはいかないだろう。

「はーい」

「いこ、お兄ちゃん」

そうして早速と言うべきか、俺の腕に抱きついてくる真奈。

「あっ、ずるい〜!」

それを見た流湖も当然と言うふうに反対の腕に抱きつく。

「お前らなあ……」

両手に花、というと聞こえはいいが、実際はくっつかれると案外鬱陶しいものだ。

そうして外に出ると、先ほど話をしたメイドさんが待機していて、汚物を見る目で睨まれた。主人のことを蔑ろにして朝から女を侍らすクズ男とか思われたのだろうか(泣)

          

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