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妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第70話 叔父さん、現る


「あの、どちら様でしょうか?」

声をかけてきたスーツの男は、見るからに高級車とわかる物の前でスマートな立ち姿を披露していた。

「ああ、これはすまないね。立場を名乗れば……君の叔父さんということになるかな」

叔父さん……?

「叔父さんということは、つまりは--」



「--そう、君のお父さん、雄導の兄である神川有導かみかわうどうだ。」



おそらくこの前父さんの話にちょろっと出ていた、親族を宥めてくれたという人だろう。でもその人が何故今ここに? というかどうして俺の顔を知っているのだろうか。

「やはりそうですか、初めまして。伊勢川伊導です」

「うんうん、よろしくね。それと、そちらのお嬢さんはどちら様かな?」

叔父さんは流湖に向かって話しかける。

「えっと、伊導くんの友達の、折原流湖と言います」

「ほうほう、じゃあ君がアパートを貸してくれていると言う」

「え? どうしてそれを」

俺のことといい、情報源は一体どこなのだろうか?

「なんだ、簡単な話だよ。父と母から聞いていたんだ。つまり伊導くんからいうおばあさん達だね」

「ああ、ばっちゃん達か!」

そうか、そりゃそうだな。叔父さんは父さんのお兄さん。つまりは同じ父と母から生まれたのだから、二人から俺の話を聞いていても何ら不思議ではない。
流湖についても、先日この町に来た時の出来事を話たのだろう故に名前などは知っていたということか。

「なるほど、だから俺の顔も」

「そうだね、写真を見せてもらっていたし、それ以前に君のことは調べさせて・・・・・もらっていたからね」

「調べさせて……?」

「まあ、大したことじゃないよ。生まれてこの方事情により会うこともできなかった甥の事を気になるのは当たり前だろう?」

叔父さんは蓄えた口髭をなぞり何かを含んだような笑顔で言う。

「まあ、そう言われると」

父さんが義理の妹である母さんと結婚したせいで、親族からは疎まれていた。叔父さんがその後親族とは仲をとりなしてくれたと聞いたが、やはり俺に会うのは戸惑われたのだろうか?

「あの、私はお邪魔だと思うので、これで……伊導くんまたね」

流湖はおじさんに頭を下げ、俺は手を振る。

「ん? ああ、すまないな。また明日」

気を遣ってくれたのだろう、なんだか申し訳ないがせっかくの好意に甘えておこうか。

そうして流湖が去ろうとするが。

「ちょっと待ちたまえ」

「え?」

声をかけられた彼女が立ち止まる。

「えっと、なんでしょうか?」

「折角だ。君も家に送っていこうじゃないか。いや、寧ろ雄導の家においで。こうして出会えたんだ、何かの縁だと思って欲しい。それに、合わせたい人も出来た」

「「合わせたい人?」」

俺と彼女は声を揃えて言い、互いに顔を見合わせる。

「とにかく二人とも是非、乗ってくれ」

そう言うと叔父さんは車の運転席側のサイドガラスを叩く。



「--はい、ご主人様」



え!? し、執事? 秘書? 召使?
分からないが、叔父さんに引けを取らないダンディさがある男性が車から出てきた。
この前このエリアで試着した執事のコスプレそのものの服を着ており、しかもあの時の俺なんかよりずっとサマになっている、いかにもな雰囲気の人物だ。

「ご主人様……? 叔父さんってなんか偉い人なんですか?」

「ん、ああ。そうだよね、運転手なんか出てきたらそう思うか。まあ、そんな大層な身分じゃないがね」

と肯定も否定もしない返答をする。

「とにかく、二人ともどうぞ。千葉、頼んだぞ」

「お任せください。さあ、どうぞこちらへ」

千葉、と呼ばれたその男性が後部座席の扉を開けてくれる。

「じゃ、じゃあ……すみませんお邪魔しますね」

「ありがとうございます、神川さん」

少し緊張した様子の流湖と共に車に乗りこむ。

しかし後部座席の奥、三人乗りの左端の座席に、一人の女の子が乗っていた。

「え、えっと」

俺は叔父さんに振り返り、本当に乗っていいのかと目配せをする。
だが乗車を催促するように頷くだけで、このが何者なのかを言おうとはしない。

「あまり長くは停めておけませんので、申し訳ございませんが……」

千葉さんがそういうので、俺たちはおっかなびっくりとドラマなんかでしか見た事ないような高級車に乗り込む。

「し、しつれいしま〜す」

「お邪魔します……」

そうして女の子、俺、流湖という並び順で腰を落ち着けた。

「では、いこう。千葉」

「はい」

仕える主人(?)が助手席に乗りシートベルトを締めたのを確認し、車を発進させる。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

四者一様に無言だ。千葉さんだけが、時折誰かと無線のような物で会話をするのみ。それ以外は至って静かだ。車の性能故か、外の音が殆ど聞こえてこない静音な環境なのも相まって緊張した空気が流れる。




「…………さて、着いたようだな」

「あ」

叔父さんの言う通り、この空気に耐えようとしていると、いつのまにか住み慣れた我が家、俺の実家の伊勢川家についていたようだ。

「少々お待ちください」

そう言って降りた千葉さんが後部座席の両扉を開けてくれる。左隣にいた謎の少女が先に降りるが、気が引けたので流湖に続いて右側から降りることにする。

「「ありがとうございました」」

その開けてくれたダンディな男性に向けて二人揃ってお礼を言う。

「いえ、これも仕事ですので。では私は中で待機しておりますのでここで」

とこれまたサマになっている綺麗な一礼を披露し、再び車に乗り込んでいった。

……ふと車の後ろを見ると、似たような車が二台、この車にぴったりと縦列駐車しており、声には出さないがびっくりしてしまった。もしかしてだが、政治家とかが乗る車によくついている護衛か? 千葉さんが無線で通信していた相手と考えれば辻褄もあう。
でも、叔父さんって本当何者なんだ……

「あら、おかえりなさい!」

すると気がつかないうちに家から出てきていた母さんがこちらに寄ってくる。その顔を見て俺ははようやく、日常空間に戻れた気がした。

「それに流湖ちゃんも一緒なのね。伊導だけだと聞いていたのだけれど」

「ああ、実は練習スタジオに差し入れに来てくれたんだよ。そのまま一緒に帰ろうとしたら、叔父さんがいて……ここまで送ってくれたんだ」

「そうだったのね。ささ、流湖ちゃんもいらっしゃい」

「え、でも、家族団欒なんじゃ」

と流湖は車に乗る時のように遠慮した表情を見せる。

「いいのいいの、いつも伊導がお世話になっているんだし、それに私のことは母親だと思っても構わないのよ? もう遠慮する仲でもないでしょう。勿論、本当のお母さんの代わりになることはできないけれど……でも、いつでも頼ってほしいわ」

「そんな……ありがとうございます」

流湖と母さんが抱き合う。イイハナシダナー、でも知らず知らずどんどんと外堀を埋められていっている気がするのは気のせいだろうか……母さん、そんなに流湖と仲良かったっけ?

そうして三人で家の中へ。叔父さんと少女は既にリビングにおり、父さんと話をしていた。

「伊導、帰ったか」

「おかえりお兄ちゃん!」

「あれ、真奈も居たのか」

死角になっていてわからなかったが、キッチンの方から声がし、妹もこの家に来ているようだった。

「…………」

そうして謎の少女は、叔父さんの横に並んでソファに座って、父さんと対面するような形で涼しげに飲み物を飲んでいる。

「伊導、早速だがこっちにこい。折原流湖さんはすみませんがダイニングの方へ」

「ああ」

「はい、お邪魔します」

流湖はいつものふんわりした喋り方ではなく、真面目モードだ。そうして言われた通りそれぞれの場所へ座ると。
叔父さんが話を切り出した。



「さて、話がある……我が娘、神川未来の婚約者となってほしい」

          

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