妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第69話 観客役が加わりました


「よっしゃ、初めてのお客さんだぜえええええ!」

「いえええええええええい!!」

「「!?」」

案の定と言うか、楽器を持ち性格が様変わりした大迫くんと小田原さんに流湖たちはびっくりしているようだ。誰だってこんなの驚くわな。

「ああ、二人は演奏するとなるとこうなってしまうんだ、気にしないでくれ」

「う、うん、わかった」

「びっくりしたっ」

「よし、伊導。いけるか?」

「おお、大丈夫だ」

「では!」

そうして大迫くんのドラムの前拍で演奏を始める。

「へえ、なかなかいい感じじゃん」

「だねっ! 泰斗かっこいい……」

「はいはい、惚気は後にしてね〜」

やはり人前だと緊張するが、他の三人とも上手く演奏できているな。

そうして俺のソロパート。

「おおっ、ソロパートもあるんだね〜! いけてるじゃん!」

「うん、伊勢川くん意外と上手いっ」

ハイテンションな演奏を続け、そうして続いて泰斗のソロパートへ。よし、繋ぎが上手くできたぞ。さっきはあんまり駄目だったけれど、成功してよかった。

「泰斗……しゅき」

「あはは、霞ったら。でもやっぱバンド組むだけのことはあるな〜皆。私も今度何かやってみようかな」

「うんうんっ、じゃあ私もいい?」

「じゃあ二人で帰りに楽器見に行く? また買うことはできないけどさ、ここみたいにレンタル出来るところでやらして貰えばいいし」

「さんせーっ」

その後のベース、最後にドラムとソロパートが終わり、また全員での演奏。

「おうおう、ノッてきたノッてきた!」

「これなら全然人前で演奏できるっ、泰斗の晴れ舞台が楽しみ」

最後に、泰斗のギターがジャーンと余韻を残して演奏終了だ。

「おおーー! すばらしー! ぶらぼー!」

「ぶらぼーっ!」

パチパチパチ、と二人が惜しみのない拍手を送ってくれる

「いやあ、どうもどうも!」

「ありがとう、二人とも」

「よっしゃああああああああ! 上手くできたぜええええええ!」

「ふおおおおおおおおおおおお!!」

「こちらこそありがとう、皆。今日は聴けて良かったよ! これなら当日も安心だね!」

「まだ結成したばかりなのにすごいっ」

「流石にたまたまだとは思うけどな。緊張のおかげで上手い具合にテンションが上がっていたのかも?」

「確かに、5時間ほど練習しているとはいえ、二回目の練習日でこれはなかなかすごいんじゃないか? 俺たち相性がいいのかもな!」

泰斗は俺たちに向かって笑顔でそう言う。

「元々定期的に楽器を触っていたし、皆知っている曲っていうのもある。それに伊導くんも言うほどブランクを感じさせないっていうところも関係しているだろう」

ドラムから離れた大迫くんがいつものテンションに戻り冷静な分析をする。

今回演奏する予定の曲はだいたいの人が聴いたことのあるだろうアップテンポな楽曲だ。歌は無く、途中で各パートのソロ部分があるのが特徴的だと言える。

「だねー、この分だと他の曲もいい感じに仕上がってくれるかも?」

と小田原さんが言うと。

「え、他の曲もあるの?」

流湖が訊ねてくる。

「ああ、そりゃな。一グループにつき三曲まで演奏できるんだ。だから俺たちも後二曲練習しなきゃならないんだよ」

「まずは一つずつ慣らしていって、最後に通しの練習をして行こうって話をしているんだ! だからこの曲が思ったより進みが早くて正直助かってるぜ」

泰斗が捕捉してくれる。
そうだな、うちの文化祭は準備期間が1ヶ月ちょっと。一曲一曲にそれほど時間がかけられないため、躓いていては当日にいい演奏ができなくなってしまう。
ので皆の息が合うバンドだとわかったとはとても良いことなのだ。勿論、日程だけじゃなく演奏する面でもメリットは大きい。

実のところ俺もこの曲を演奏する上で不安なところはまだまだあるにはあるし、さっきだって演奏を褒めてくれてはいたが、ちょっとミスってしまっていた。各楽曲の詰め・・をしていけばもっといい演奏になるのは確実だろう。

「それじゃあまだまだ観客役出来るね〜!」

え?

「なんて?」

「だから、観客役だよ〜。これで終わりだったらいつまでも来ていても意味が薄くなるけど、あと二曲もあるんだったら完成するまで聴きに来てもいいでしょ? 今日だって私たちがいたからある程度緊張できただろうし」

「ええと、それは……」

と周りの三人を見渡す。

「うーん、良いんじゃないか? 毎日来られてもちょっと困るかな、と思うけど。僕としてはたまにならば全然構わないよ」

「あたしもー」

大迫くんと小田原さんは消極的賛成なようだ。

「泰斗はっ?」

「俺は、そうだな。本当は文化祭で聴かせてやりたかったって思いもあるけど、二人が協力してくれるって言うんなら別に断ることはないと思うぜ? ただし、大迫のいう通り入り浸るのはやめてほしい。あくまで、練習に付き合ってくれるってことならだからな?」

霞の問いかけにそう答える泰斗。なるほど、俺だけが否定的なようだ……

だって、昨日からの流湖との気まずさったら、今の彼女がなぜ平気な顔をしているのかびっくりするくらいだ。何も言ってこないから、こちらも合わせて態度を作っているが、ぶっちゃけどう接していいか手探りな感じがしてしまっているところが事実だ。

「伊導くん、ダメかな?」

「ねえ、お願いっ」

「伊導、そんなに拒否するほどでもないと思うぜ?」

「ああ、嫌なら別に構わないが」

「もっと上手くなりたいなら、刺激は必要だと思うー」

判断を決めかねていると、五人からの圧力をかけられる。

「んんんんん、わかった。じゃあ週に一度だけならいいぞ。それとある程度聴いたら帰ること。今日みたいに1時間ほど観客役をしてもらって、それが終わったらおしまいだ。どうだ、この条件ならいいが」

一応の折衷案だ。これが無理なら俺は拒否するしかない。

「どう?」

「私はそれでもっ、泰斗の助けになるなら喜んで」

「じゃあ自分も〜。文化祭、成功させようね!」

流湖は手を差し出し握手を求めてくる。やはり昨日今日のことはここでは表に出さないでと暗に示している気がするな。

「ああ。んじゃよろしくな」

「ほいっさ〜」

そうして流湖と霞が練習の外部パートナーとして決まり。
ブースの片付けをして一同外へ。

「それじゃ、今日はここまでだな! 俺は霞と帰るから、皆も気をつけてな!」

「おう、また明日な!」

「さようならっ」

二人はカップルらしく腕を組んで帰っていく。

「では、僕たちも」

「さようならー」

「ああ。二人もお疲れ様!」

大迫くんたちもまた、泰斗たちとおなじように歩き去っていく。

「伊導くん、行こっか〜」

「ああ……」

うう、気まずいが同じところに住んでいるのにここで別れるのも変だし、ついていくか。
そう思い、駅の方へ向かう流湖に追いつこうと歩き出す。

「ねえ、今日のこと気にしすぎじゃない?」

「え? な、なんで?」

「だってあからさまに困ったような顔してたじゃん〜。皆わからなかったみたいだけど、私はわかるよ。だって伊導くんのこと好きだもん」

「お、おう、そうか?」

そんな恥ずかしいことをこんな往来でよく堂々と言えるな、そのメンタリティは感心するよ。

「私もきついこと言ったかもしれないけど、現実を直視することは大切だと思うな〜。世界に抗えとか、そういう中二病みたいなことを言っているわけじゃないよ? ただ、私は真奈ちゃんとあなたのことを心から心配しているから、ああいうことを言ったの。もちろん私の恋心から来る願望も混みなのはわかるだろうけどね?」

「うん、そうか……わかった、俺の方が色々と気にしすぎていたようだ。流湖の気持ち、素直に受け止めるよ。ありがとうな」

最近色んなことがあってナイーブになっていたようだ。俺ももっと他人の好意をそのまま受け止める心の広さが必要なのかもしれない。真奈に偉そうなことは言えないな。

「いえいえ〜お礼は婚約指輪で!」

「はあ、あのなあ……」

にしし、と笑顔でそんなことを言ってのける流湖なら呆れつつ、ホコ天から表通りに出る。と----



「----すみません、もしかして伊勢川伊導くん、かな?」

          

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