妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第68話 思わぬ来客


私は校門の前に立ち、一人ごちる。

「へえ、ここがマギ高か……」

校内からは部活動に勤しむ生徒たちの元気な声が響いてくる。

「ほら、行こう」

「うん」

私は手を繋ぐ同伴者に連れられ、校舎へ。

……中は特筆すべき点があるわけではない、いわゆる学校、高校の校舎という雰囲気だ。教室で友達とお喋りしている生徒や、自習をしている生徒など。そんな子供たちの様子を眺めながら、職員室へと向かう。

「「失礼します」」

部屋の中はコーヒーやお菓子など、生徒が見たらずるいと怒りそうな物の匂いが漂っている。そして幾人もの教師が仕事、雑談、休憩など重い思いの時間を過ごしている。

教師たちの何人かは私たちのことをみ、誰だろうかと推測するような視線を向けてくる。

「こちらに、大隈先生・・・・はいらっしゃいますか?」

同伴者は訝しげな視線などまるで感じていないかのように堂々とした態度で、目的の人物を探す。

「大隈先生ですか? 失礼ですがどちら様で……?」

応対した教師が誰何すると。

「ああ、これは失礼いたしました。わたしはこちらにいる我が娘、神川未来かみかわみくの父親----神川有導かみかわうどうと申します」

『!!!!!』

その名前を聞いた瞬間、我関せずと己のしていることを続けていた教師たちも一斉にこちらを振り向き、驚きで表情を固めた。





❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎





ともかく今日は文化祭で演奏するために臨時に結成したバンドの練習日だ。泰斗達と共に、前回使用した格安スタジオへ。

「今日から本格的に練習だな!」

「ああ。一応二人で少し合わせてきたぞ」

大迫くんと小田原さんは部活が同じでかつ付き合っているので、大体いつも一緒にいるという。なので楽器があるところないところ関係なく、時間があれば練習してくれていた。

「俺も練習してるぜ!」

泰斗も、家で高校に入ってから親に買ってもらったギターを使って練習をしているという。

「俺は……ちょっと家族で問題があって出来なかった、すまん」

と皆に頭を下げる。つまり、俺だけが皆よりも遅れをとっているというわけだ。じっちゃんばっちゃんが来たり、真奈や流湖と話をしたりと色々忙しくはあったが、三人に負けないように頑張らなければ。

「そうなのか? いや、気にすることないさ。そういうこともあるだろう」

「うんうん、だねー」

「伊導は妹さんのこともあって色々大変だからな、でも俺に言ってくれたら一緒に練習するから遠慮しないでよな!」

しかし三人はそんな俺に対して怒るわけでもなく、逆に気遣ってくれた。なんといい奴らなのだ、申し訳なくなってくる。

「ありがとう皆、俺もこのバンドを成功させたいという気持ちは強い。頑張って上手く演奏できるようにするよ」

大雑把にではあるが、大迫くんたちには妹の病気のことは教えてある。なのでもし途中で帰ることになったとしてもある程度の理解を得ることは出来るであろう。

「んじゃ、やりますか!」

そうして中に入り、当てられたブースで練習を始める。

「うーん、ここはもう少しテンポ良く弾けるようにしないとだな……」

「だな! ちょっと詰まってるぞ。伊導、頼んだ」

「すまない、頑張る!」

俺のキーボードソロから泰斗のギターソロに移るフレーズがまだうまくいかない。

「--おっしゃあああああてめえら練習続けるぜえええええええええ!!」

「--おりゃああああくよくよするなよいどおおおおおおお!!」

相変わらずな人の変わり様な二人だが、このテンションに助けられているところもある。

「ああ、それじゃあもう一度たのむ」

「おっけー!」

そうして練習を繰り返し、2時間ほどして。

「ふう、疲れたな」

「だねー」

楽器から離れた途端、いつものテンションに戻る大迫くんと小田原さん。本当どういう頭の中身をしているんだ……人格が完全に入れ替わってるじゃないか。

「少し休憩してから、また再開しよーぜ。思ったよりもいいところまで進んでいるな」

泰斗がジュースを一口飲み、そう言う。

「そうだな、やっぱ全員経験者っていうのが大きいんじゃないか? 思いつきで組んだバンドとは言え、自画自賛かもしれないが中々サマになってると思うし」

「伊導が引き受けてくれてよかったぜ」

「ああ、阿玉の言う通りだ」

「だねー」

そうして皆で雑談をしていると。



「失礼しまーす!」

「お邪魔しますっ」



突然ブースの扉が開き、二人組が入ってきた。

「え? か、霞?」

「あれ、流湖……」

美術部の仲良しペアがやってきたのだ。

「部活はどうしたんだよ?」

「もうとっくに終わったよっ?」

「だから私たち、ちょっと様子を見にきたんだ〜」

二人は中に入ると、霞は泰斗の隣に、流湖は隣にきて、大迫くんたちに挨拶をする。

「どーも、伊導くんの彼女になる予定の折原流湖です!」

「初めましてっ、泰斗の現在進行形で彼女の増田霞ですっ」

そして同時に隣に立つ男子生徒の腕を掴み組んだ。

「ああ、君たちが。増田さんのことは話に聞いてるよ。でも折原さんの彼女候補って?」

「そ、そうだぞ、変なこと言うなよ!」

俺は流湖をやんわりと振り払おうとするが、ギュッと密着してきて離そうとはしない。

「そのままの意味ですよ〜、伊導くんは私の大好きな人なんです」

「な、なるほど……伊勢川も大変だな」

「ああ……」

大迫くんはなんとなく察してくれたようで、憐憫の眼を向けてくる。

「どうも、折原さん増田さん。私が小田原綾乃、で、こっちの眼鏡が大迫宏一。ちなみに私とコウは恋人ですー」

「そうなんだ! じゃあカップル三人組だね〜! よろしく小田原さん!」

「おい流湖、いい加減にしろよ」

「なんで〜、いいじゃん〜。それとも、私の胸にドキドキしちゃってるのかな? ん?」

そういうと彼女はさらに俺に密着するように抱きついてくる。ぐっ、柔らかい感触が……!

「こほん、その、付き合ってもいないのにそういうことをするのはどうかと思いますけど」

と大迫くんが流湖を見ながら咎めるように言う。顔が若干赤いのは気のせいか?

「あれ、大迫くんもそういうこと言うタイプなのか〜。でも、私と伊導くんがただならぬ関係じゃないっていつのは確かだよね?」

流湖が俺に同意を求めてくる。

「そりゃ言い方によるけど確かに浅い関係じゃないとは思うが……とりあえず離してくれ」

先程よりも強く腕を引くと、なんとか離してくれた。

「それで、何か用があってきたのか? まだ俺たちは練習しているから、遊ぶことはできないぞ」

「いやいや、それくらいわかってるよ〜。ちょっと見学に来ただけだってば、ね?」

彼女は泰斗の隣に座ってその肩に寄りかかる霞に対して同意を求める。

「うんっ、激励の意味も込めてねっ。だからほら、皆にお菓子買ってきたのっ、後で分けてね?」

と鞄の中からビニール袋を取り出し見せてくる。

「おお! ありがとう霞!」

「い、いや、これくらい彼女として当然……」

「嬉しいよ、ありがとうございます二人とも」

「うん! 私たち頑張りますー」

大迫くんたちも喜んでいる様子だ。

「流湖、ありがとう。気を使わせてしまっているかな」

「そう思うならもっと抱きつかせてくれてもいいんだよ〜?」

「それとこれとは別だろう……とにかくありがとな、頂戴するよ」

霞から袋を受け取ると。

「ねえ、せっかくだからちょっと演奏して見せてよ」

「え?」

「だねだねっ、泰斗のカッコいいところみたい!」

二人は並んで手を組み頼んでくる。

「うーん、だがまだ練習中だし恥ずかしいな」

「でもいいんじゃないか? 予め人前で演奏する練習機会があるのはいいことだと思うが」

難色をします泰斗に、大迫くんは説得の言葉をかける。

「わたしもいいよー」

「じゃあ伊導くんは?」

「俺は……あまり上手くないが、それでもよければ」

泰斗と同じ気持ちは勿論自分にもあるが、だが大迫くんのいう通り、身内でブースの中で練習しているだけよりも、二人に聞いてもらって感想をもらった方がよりいいバンドになる気はする。それに来てもらった手前すぐに追い返すのもちょっと気がひけるしな。

「んじゃ決まり! ねえ、泰斗くんもいいでしょ〜?」

「まあ、そこまでいうなら……下手でも笑わないでくれよな?」

「大丈夫っ、泰斗はいつでもカッコいい私の王子様だからっ」

「霞……」

この二人のイチャイチャは今に始まったことではないのでスルーしておこう。気合が入りすぎて空回りはしないで欲しいものだ。


          

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