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妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第64話 『拗ねる』という感情


「おい、どうしたんだ?」

俺は慌てて真奈のもとへ寄る。

「流湖先輩がお兄ちゃんと結婚したら、私の居場所はどこになるんだろうって……お兄ちゃんのいない人生なんて考えられないのに!」

「ええっと、まずは落ち着こう、な?」

と、えぐえぐと泣く妹の身体をさすってやる。

「ぐずっ、ぐずっ、ぎゅうにごめんなざい……今日ここに帰ってきても誰もいなくて、お兄ちゃんがいないと静かで寂しいなって……それで、先輩のおうちでおじいちゃんたちとお話ししている時も、『流湖ちゃんが流湖ちゃんが』ばかりだし……この空間に私がいたらきっと邪魔者になるって思って、ここに帰ってきて」

「なるほど、それで俺が帰ってきたとき、向こうじゃなくてここにいたんだな」

「うん……でもやっぱり寂しくて。私がいなくてもお母さん達は先輩と仲良く暮らせるってことに気がついたら、捨てられる気がしてきてしまって……ねえ、お兄ちゃんは先輩と結婚するの?」

顔を上げ、涙目で見つめてくる。

「いいや、前から言っているが、真奈の依存症を治すことが一番だ、それまでは付き合う気はないよ」

「でも、心変わりするかもしれないじゃない? それに、私のこの体質が治った時には、結婚したらお付き合いする人が出てくるでしょ? それが流湖先輩だったら、きっとおじいちゃん達も喜ぶし……」

真奈は相当思い詰めているようだ。何がここまでネガティブにさせているのか。本当に流湖のことばかり話に出ていたからというだけなのか?

「真奈。なんでそこまで泣くんだ? じっちゃん達も真奈の話を聞いてあげるって別れ際に言っていたじゃないか」

「でもそれは、私が孫だからだよね? 私は流湖先輩と違って、どこまで行っても身内なの。身内だから、お兄ちゃんと結婚したらいけないことになっているし、おばあちゃんたちも孫以上の存在としては見てくれない。私の世界には皆が来て欲しいのに、皆の世界には私はいなくてもいいってことなの?」

そしてまた泣き出してしまう。

「…………真奈」

「な、なにっ」

「真奈はきっと、嫉妬しているんだよ」

「嫉妬?」

「そうだ。流湖はじっちゃん達にとって初めて会う人だろ? 色々と話を聞きたいのは当たり前だ、それに真奈だってさっき流湖に仲良くなる権利? を譲ってあげていたじゃないか」

やけにしおらしくはあったが、彼女のことを気遣ってか同行するのを遠慮していたのは確かだ。なのに何が気に食わないというのか。

「私だって、空気くらい読むよ? それについて行っても、どうせ流湖先輩の話ばかりになるだろうし……」

ううむ、なるほど……つまりこれはアレだな。

「わかった、今の真奈は、"拗ねて"いるんだ。さっきの俺は、流湖に嫉妬しているからだと言ったけど、多分それだけじゃないな」

「拗ねて……?」

妹は驚いた顔で俺のことを見つめてくる。

「私が、拗ねて皆を困らせているってこと?」

「そうだ。駄々をこねているんだよ。つまり、今まで真奈はおじいちゃんたちが来ても、俺と母さんたちとの身内だけで話をしていただろう?」

「それは、うん」

「そこに、新しい風が吹き込むように流湖という外部からの存在が加わった。実際、以前は俺や真奈が孫可愛さからか二人の出す話題の中心になってたよな?」

「それはそうだけど」

「んで今日は終始流湖の話題になっていた。勿論、真奈の言う通り途中で『俺依存症』の話もしたのだろう。けれど、いつも話をしている"孫"よりも、初めて出会った"孫の婚約者候補"の方とついつい話をしたがるのは当たり前だ」

真奈の態度を見る限り、おそらく病気のことについてはそれほど話し込むことがなかったのだと思う。そこは浮かれていたであろうじっちゃん達の対応もちょっと不味かったとは思う。

「そして半分放置状態の真奈は、自分でも気づかないうちに拗ねてしまった。こんな感情は初めてなんじゃないか? 俺たちは真奈のことを可愛がりすぎたんだ。つまり親バカ家族バカをこじらせていたんだな。相手をしてもらえるのが当たり前な環境にいたせいで、他人が自分を差し置いて家族の話題の中心になることが許せなかったんだよ」

「そ、そんな、そんな子供みたいな理由で私が!? 確かに、言い表せない寂しい感じと嫉妬を感じていたけれど……」

と先ほどまで涙を流していた妹は頬を膨らませる。

「それだけじゃない。自分でいうのも寂しい感じはするが、俺には仲のいい女子というのは特にいなく、また勿論彼女なんて存在もできたことがない」

イコール年齢だからな。

「あ、当たり前だよっ、お兄ちゃんには私がいるじゃないっ」

「そう、それだ。真奈がいつも俺のそばにいた。だから、周りの皆は気を使って近づいてこなかったんだよ。俺も、元々モテる方というのはわかっていたからな」

実の所、『伊導くんには真奈ちゃんがいるから』、『二人は兄妹とは思えないほど仲が良いよね』などと女子からはもちろん男子からも生暖かい目を向けられていたせいで、俺の青春は高校生になるまで始まることはなかったのだ。
おそらくシスコンとでも思われていたのだろう。実際はブラコンなわけだが。
勿論そんなことになっているなどと真奈に話したことはないので、今初めて知ったはずだが。

「えっと……つまり、私はお兄ちゃんの人生を縛っていたってこと?」

「ま、言ってしまえばそういうことにはなるかな?」

「そんな……」

と妹はショックを受けたように固まってしまう。

「俺がそばから離れるはずがない、私が皆に見捨てられるはずがない。そういう自信と思い込みがあったから、今回流湖ばかり相手にされているのを見て、自分の感情の整理ができなくなってしまったのだと思う」

「ええ……私がそんな幼稚な……ううっ」

真奈は未だに認められないみたいで、頭を抱えて蹲ってしまう。

「つまり、真奈はまだまだお子様だってことだ。なに、あんなに寂しそうにしていて、ここに帰ってきて大泣きするもんだから、一体どんな大事件が!? と思ったが、考えてみれば簡単だったな」

「…………」

「真奈、大人になりなさい。いつまでも家族の中の『妹』でいるんじゃない。自分から、『伊勢川真奈』にならないと。今のままだと、さっき言っていた"家族"でしかないぞ? 俺と結婚するしないはともかく、もっと精神的に成長していかないと」

「…………うん……」

だいぶ落ち込んでいるようで、頭から手を離しはしたがそのまま項垂れている。

「なに、今は可愛いもんだよ。もっと大きくなったら、それは"ワガママ"、"幼稚"に変わっていくんだから。父さんや母さん、俺に、じっちゃんばっちゃんだって、みーんなひとりの人間なんだぞ? それぞれの人生があって、それぞれの感情や思想を持っている。家族として、血の繋がった者たちとして接することは何も悪いことじゃない。でも、いつまでも真奈一人に構ってあげられるわけじゃないし、こうして外から誰かがコミュニティに入ってきたら、そっちに話題が行くのは当たり前だろ?」

まあ今回は、流湖という俺のことを好きな女性でかつじっちゃんたちが気に入ったっていうのも大きかっただろうけどな。

「それに新しい感情を知れてよかったじゃないか。俺たちも過保護すぎたんだということが判ったんだし。たまたま、拗ねるという感情を理解させる機会がなかった。言葉は知っていたけれど、これほどまでに強くその感情を与えられる機会がなかった。人より少し、学習する機会が遅くなってしまっただけなんだ。だからこれからは、自分の感情をもっとコントロールしていく術を身につけていけばいいだけだ。な? そんなに難しくはないだろう?」

「そう、だね。わかった、明日皆に謝るよ。ワガママでごめんなさいって、もっと大人になれるように頑張りますって」

「そうだ、それこそ俺の妹だからな」

「えへへ♡」

頭を撫でてやると、嬉しそうに微笑む。

そうしてそのまま、『俺成分』を必要な分だけ摂取させて二人とも眠りについた。

          

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