妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第61話 伊導、意外な設定が明らかになる


--月曜日、昼休み。

「うおおおおお! よこせええええええ」

「私のおにぎりいいいいいいい」

「ウラアアアアアアアア!!」

「くせあふじこp」

俺は久しぶりに、流湖と共に昼休みすぐの購買戦場を訪れていた。相変わらずの熱気だ。

しかし一つ変わったことがある。それは、売り場の面積が広がったことだ。
これで渋滞も回収されるかと思いきや……まさかの大混雑である。

今まで購買を利用してきた層に加え、『リニューアルしたらしいから行ってみようぜ!』という購買ニワカ層(?)が来るようになったのだ。まるで新しいアトラクションが増えたテーマパークのような理由で、更なる混沌が巻き起こってしまっているというわけだ。

流石に初日ほどではないが、それでも以前と変わらぬ騒がしさに辟易してしまう。

「あーーー!! 私のメロンパーン! なんで〜〜〜〜」

あっ、流湖の声だ。どうやらお気に入りの『濃厚クリーム入りメロンパン』を確保できなかったようだ。

因みに俺は様子見勢である。残った商品で十分だからな。

「はあ、はあ、くっ、なんて厳しい戦いっ……! これが購買の恐ろしさっ」

などと戻ってきた流湖はよくわからないことを言い、地面に膝をついてしまう。髪も所々が跳ね、制服も乱れてまるで歴戦の兵士が如く有様だ。

「流湖、大丈夫か? それに服と髪の毛がすごいことに」

「えっ、いやん、みないでよ〜」

彼女は胸を描き抱くように恥ずかしがる。

「すまんすまん、トイレで直してきたらどうだ?」

「うーん。あっ、そうだ、伊導くんがやってよ!」

「はあ?」

いきなり何を言い出すんだ、思わず変な声を上げてしまったぞ!

「服と髪、綺麗にしてよ〜」

「いやいや、流石にまずいでしょ」

「ほら、あそこで」

と、廊下の端を指差す。

「駄目なら……今夜あなたのお家に行って全裸で裸踊りするよ?」

「な、なんだと」

「因みにマスターキーもあるから」

「……くっ、背に腹は変えられないか」

流湖め、最近無駄にアクティブになりやがって。乙女としての恥じらいはないのかとか、大家だからといって勝手に侵入していいのかとか言いたいことは色々あるが、本当にしそうな雰囲気があるので素直に従ってやることにする。

「じゃ、よろしく〜」

と彼女は気をつけの姿勢を取る。

「お、おう」

そうしてスカートや制服のリボン、最近寒くなってきたので着ているのであろうセーターの裾などを直してやる。

「は、恥ずかしいな……」

「なんで伊導くんが恥ずかしがるのよ? 私の方が恥ずかしいってば〜」

「じゃあ頼むなよ……」

「私の気持ちに気づいていてそういうこと言うの〜?」

と、自らの唇に指を当てる。それをみて俺は、先日の多目的トイレでの件を思い出し少しドキリとしてしまった。

「はい、こっちもね!」

と続いてなんの躊躇いもなく頭を差し出してくる。

「はいはい……」

出来るだけ傷つけないように、手で撫で付けたり指で掬ったりと、整えてやる。
ふうむ、こうしてじっくり触るとなかなか綺麗な髪をしているな。ウェーブのふんわり感もどことなく気持ちいいし。

「流湖の髪、ずっと触っていたくなるな……」

「ほうほう、やってもらっている方も気持ちいいですぞ。というかそれってもしかして告白〜?」

「あっ、ご、ごめん、そんなつもりはなかったんだ、すまない」

「ええ〜、そんな否定する必要ないのに……」

と流湖はいじけたふうにいう。

「はい、これでいいか」

「うむうむ、苦しゅうない」

「なんだそれ、殿様かよ」

「むしろお姫様? なんちゃって、ふふっ。じゃあ戻ろっか」

「ああ。あれ、そういや昼飯はどうするんだ?」

「あっ……」

彼女は一気に涙目に。

「しゃあない、今からでも何か残っているだろうし、見に行くか?」

「そうだね〜、くそ〜メロンパーン!」

どんだけ好きなんだあのメロンパンのこと。

そうして適当に残っていた売り物を買い。

「お、帰ってきたか」

「遅かったねっ」

教室に戻り、泰斗と霞と合流する。

「いやあ、未だにあんな混雑しているだなんて」

「秋休み明けには拡張されたんだろ?」

「そうなんだが、余計と人が増えてしまったみたいでな。あれはもうしばらくは収まりそうもないな」

時間が経てば、一見さんの奴らは消えて行くだろうけど。

「流湖、それなに?」

「『エビグラタン梅マヨおにぎり』……これしかなかったの。しかも値段的にもこれ一つしか買えなかったし」

「なんだそりゃ、酷え名前の商品だな、食べられるのか?」

泰斗の言う通り、名前のインパクトが凄すぎるだろう。本当にこの中身なのだとしたら考えた人のセンスを疑うぞ……

「伊導は?」

「俺は何も買えなかったからな」

「え、そうだったの? じゃあこれ食べる?」

と、食べさしのおにぎりを差し出してくる。

「いや、遠慮するよ。というか食べられるのかそれ?」

流湖は澄ました顔をしているが。

「意外と美味しいよ?」

「マジかよ」

「流湖って実は悪食? これ、ちょっと食べなよっ」

霞が弁当のおかずを指す。

「え、いいの? ありがと〜! 今度何か奢るね」

二人で"あ〜ん"をしている。うむ、見る人が見たら萌えていそうだな。

「うん、じゃあ一緒にパンケーキ食べに行って欲しいっ」

「おーけー、覚えておくね〜」

「霞さん、俺にも……」

とおかずを分けた友達想いの彼氏さんが口を開けるが。

「泰斗は駄目っ」

「ええ、なんで」

「こ、今度私の家で……ね?」

「あ、おう……」

ええ、そんな顔を赤らめるような"あ〜ん"って一体どんななんだよ。

「むう、二人が羨ましいな〜ほんと」

とこちらをチラチラと見つつおにぎりを頬張る流湖。

「何がだ? だから彼女とかは今はすまないが」

「わかってるわかってる、でも言うのは自由じゃない?」

「まあ、それはそうだが」

この調子じゃいつか暴走しそうで怖いぜ……

「あ、なあ、伊導。この前聞いておけば良かったけど、バンドのこと、どうする?」

「ん? ああ、文化祭のか」

テスト明けのホームルームで文化祭でライブを開くことが決まった際、泰斗から提案されていたのだが、保留になっていた。

「そうそう、クラスのやつに声かけてみたら、二人やってもいいってやつがいてさ。伊導が入ってくれればちょうど四人なんだが」

「そうだな……因みに俺は何をする予定なんだ?」

「するならばキーボードだな、出来そうか?」

「キーボードか……昔、ピアノをやっていたから出来ないこともないぞ?」

「えっ!? まさかの新設定!?」

流湖がびっくりしたようで叫ぶ。

「いやいや、新設定ってなんだよ。それに何を隠そう、中学の時には三年間合唱コンクールでピアノ伴奏したんだぞ」

「ええ〜、そうなんだ!」

「意外っ」

「なるほど、真奈ちゃんの方は美術の才能があって、伊導は音楽の才能があるわけだな」

「才能って言うほどじゃないさ。習っていたから弾けるってだけで、レベルも高いわけじゃないぞ?」

中学校に上がる前に辞めてしまったからな。それからはたまに家で暇つぶしに弾いてみたりする程度だし。それもアパートに引っ越してからは全くだな。

「じゃあ決まりでいいかな?」

「ああ、折角だし、バンド組むか!」

こうして泰斗とクラスメイトとで、文化祭で演奏することが決定した。

          

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