妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第41話 フードコートにて


四階の多目的フロアに着く。
ここにはフードコートや休憩所などがある。

ここのフードコートは、席がたくさんあるエリアと店舗がずらりと並んだエリアに分かれており、よく見るような真ん中に席があってその周りをお店が取り囲んでいる形態とは違う。

「とりあえず、席の確保からしましょう」

「じゃあ俺が座っておくよ」

となんとなく言うと。

「私も残りますよ、お兄さん?」

理瑠が席取りを志願してきた。

「そうか? じゃあ頼もうかな」

「ええっ、じゃあ私も!」

と、真奈まで同じことを言い出す。

「いやいや、二人で十分だろ。早くメニューを選んできなさい」

「ええ〜〜……わかったよ」

あまりごねるとみんなに迷惑と思ったのか素直に言うことを聞いてくれる。

「じゃあ、行ってくるわ」

「すぐ戻ってくるからねっ」

「ありがとうね二人とも〜」

と四人はそれぞれ好きなメニューがありそうなお店へと向かっていく。

「ここでいいかな?」

「ですねー」

8人分の席が空いている島があったので、2人で確保する。

「よいしょっと」

「ふう、既に結構楽しんだ感じありますね!」

と理瑠は椅子に背中を背中を預け伸びをする。
そのそこそこ豊満な胸が強調される。ニットだから尚更だ。

「そうだな。けどせっかくだしもとを取る気持ちでとことん遊び尽くせばいいさ」

「ですねー。ところで私のおっぱい、大きいでしょ?」

「ちょ!? なに言い出すんだよ」

「むふふ、視線に気がつかないとでも思いました? チラチラ見ているのバレバレですよ」

「す、すみません……」

そういえば、流湖も以前似たようなことを言っていたな。あの時は髪の毛だったが。

「でもお兄さんと私が付き合えば、幾らでも揉ませてあげるのに」

「いやいや、あのさあ……もう少し、恥じらいとかないのかな?」

「そりゃあ、私にだってそれくらいありますよ? ただ、お兄さんだから言ってるんですよ。わかってくれませんかねえこの女心に。普通はこんな大胆なこと言いませんってば」

「まあそりゃそうだろうけど。ってか今更だが、なんでそこまでアプローチしてくるんだ? 今は付き合うとか考えられないと何度も言ってるはずだが」

少なくとも、真奈の病気に治療の道筋が見えれば、考えなくもないが。

「振られたという状況と、その人を好きであるという感情は共存しますよね? だったら別に良くないですか? こんな可愛い女の子に好き好き言われ続ける男性なんてそんないませんよ普通」

「まあ確かに……ぶっちゃけ顔はいい方だと思うけど」

「でしょー? にひひ」

と顔を赤らめその綺麗な歯を見せて笑う。

「まあ、少しくらい羽を伸ばしてもいいんじゃないですか? 私が真奈のそばにいる時間も増えるし、何かとサポートできると思いますよ?」

と、これほど言っても引く気はさらさらないらしく、テーブルに乗せていた俺の手を取り掌を指で弄りだす。

「それは……」

俺が恋人を作ろうとしないのは、『依存症』の治療に注力するのに邪魔にならないようにしたいからだ。でも、そのことをわかっていてかつサポートしてくれるというのであれば、確かに絶対に考えられないという話でも無くなってくるとは思う。

理瑠は真奈の親友だし、ちょっと今は俺のことで? たまにギスギスすることもあるけれど。関係自体はとても良好なものに見える。

「おっ? 今一瞬、それもありかもって顔しませんでした?」

「は? し、してないわっ」

「ええー、本当ですかー?」

「っっ」

と、手に持つ俺の掌を指でなぞりながら言う。くすぐったくてムズムズする。

「あっ、二人ともなにイチャイチャしてるのー! だから理瑠だけにしたくなかったのに……」

するとそのタイミングで、真奈が帰ってきてくれた。手には予約のための、料理ができるとアラームが鳴る機械を持っている。

「あちゃー、残念でしたねー。もう一押しだったのになあ……まあ、頭の片隅にでも入れておいてくださいね?」

「はあ」

ようやくこの空間からか解放された安心感でため息をつく。こんなにぐいぐいくる子は真奈以外では初めてなので、正直戸惑ってしまっている自分もいるのが事実だ。

「なんの話してたの二人とも?」

「まあ、少しな……」

言ったらまた怒り出しそうだが。

「お兄さんとは雑談してただけだよ? ほんとほんと、流石にそこまで抜け駆けしないってば」

と白々しい嘘を吐く。

「じゃあなんで手を握っていたの?」

妹はジト目で自らの親友のことを睨み付ける。

「えっと、手相占い?」

「むむむ、絶対嘘でしょー! お兄ちゃん私もあとで抱っこして!」

「ええっ、今の話となんの関係があるんだよ!」

要求が巨大すぎる。せめて手を繋ぐとかならまだしも。

「お兄ちゃんなんて知らないっ。なんて理瑠のこと庇うのよ」

「別に庇ってはいないぞ、俺は嘘はついていない。理瑠がついただけだ」

「えっ」

ここはすまないが売り渡させてもらうぞ。

「ほら、やっぱり。お兄ちゃん私が怒ると焦って取り繕うとするから、ちょっと拗ねたらすぐに白状すると思ったもん」

ええっ、まさか真奈がそんな強かなことを考えていたとは……

「と言うわけで理瑠、後でオシオキ・・・・ね」

「むうううう〜〜〜」

そんな恨めしそうな目で見ないでくれ。平穏な兄妹仲のためだ。

「おっ、なに喧嘩してんだ?」

「真奈ちゃんどうかしたのっ?」

泰斗と霞も帰ってくる。やはり食事も二人一緒に選んで回っていたようだな。

「大丈夫です、ちょっとおいたが過ぎた子が居ただけですので」

「そうっ?」

「はは、理瑠ちゃんまた泰斗になんか言ったのか?」

「くっ、真奈が悪いんです! もう少しだったのに……」

「これは再教育が必要なようね……」

真奈は目のハイライトを消し理瑠のことを見る。

「ひっ」

「こわっ」

「泰斗も浮気したら、同じことするから……覚えておいてね」

俺のは浮気じゃないが。

「ハイ、気をつけます霞様」

ただいちゃついているだけだと思っていたが、既に尻に敷かれ始めているみたいだ。
どんまい、泰斗。そしてざまあ。と全国の皆様の声を代弁させていただこう。

「じゃ、じゃあ私たちも選びに行きますねー」

「そうだな。ちょっと行ってくるわ」

「おう。気にせずゆっくり選べよ」

「理瑠は私のもとで監視ね」

「ええっ、お兄さんに奢ってもらう約束はっ」

「そうだぞ。昼飯くらい好きに選ばせてやれ。真奈、最近カリカリしすぎじゃないか? 必要ならちょっとくらい接触してもいいんだぞ」

「えっ、本当!」

と先程までの怒り顔から一気にぱっと花を咲かせる。

「ああ。だからこの場は、な?」

「うん、わかった……ということで、理瑠。今回はもういいよ。でもお兄ちゃんはいつまでも私のお兄ちゃんなんだからね!」

とビシッ! と人差し指を突きつける。

「はーい」

「本当にわかっているのかしら……」

多分また先ほどのようにグイグイくるんだろうなあ。まだで会って数日なのに、何がこの子にここまでさせるのであろうか?
まあ、好きと言われて嫌な気分はしないのは確かだが、ちょっと疑問には思う。

「じゃあお兄さん、皆さん帰ってきたところで行きましょー!」

「あれ、そういえば流湖は?」

まだ帰ってきてないぞ。

「あれ、確かに。もう戻ってきていると思ってましたが、姿が見当たりませんね?」

「流湖ならさっきすれ違った時に、『料理はすぐできるらしいからお店の前で待ってる』って言ってたけどっ」

「そうなのか。じゃあそのうち戻ってくるだろう。理瑠、行こうか」

「はーい!」

「じゃあここは後は頼んだ」

「おっけー」

そうしてお店を選びに店舗エリアまで行くと。

「--だからやめてください!」

「なんでだよ〜いいじゃねえか〜、いいことしようぜえ〜?」

「い、いやっ」

みるからに不良とわかる奴らに絡まれている流湖が見えた。


          

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