妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第24話 次の日、朝(全編真奈視点)


朝起きると、私は何故かお兄ちゃんの部屋にいた。

「……あっ、そうだった……」

だんだんと昨日の記憶が思い起こされる。
流湖先輩との縁談を聞いてもやもやしていた私は、下着姿を披露して、そして--

「ううううううううううううう」

私が犯してしまった過ちを振り返るたび、顔が真っ赤っかに暑くなり、足をバタバタとベッドに叩きつけ上下させてしまう。

「なななななんであんなことまで……あそこまでするつもりなかったのに……いやあああああ〜あ〜あ〜あ〜あ〜」

ベッドの上をゴロゴロと転がり、奇声を挙げる私。

「き、ききキスまでしてしまって……そ、そのあとは」

口に出すのも憚られる……お兄ちゃんの、その、あああそこを!?!?

「私、なにやってるんだろ……いやあぁあぁあぁあ」

ブレイクダンスを踊り、必死に記憶を消そうとする。が、もちろん消えてくれるわけもなく。

「はあ、はあ、はあ、ちぇけら……」

そういえば、いつの間にか服を着ている。きっとお兄ちゃんが着させてくれたのだろう。

「……どうしよう、顔を合わせられないよ」

どこに寝ているのだろう? 取り敢えず私は、自分の部屋へ戻ることにする。

「……いない」

そんなことするとは思ってはいないけど、やはり私の部屋にはいない。念のためクローゼットの中まで確認したが、服が吊り下げられているだけだ。

「下にいるのかな? もしもう起きてたらどうしよう……」

だがそうは言ってもどうしようもない。窓から飛び降りる……わけにもいかないし。私は未だ羞恥心を苛まれながら登校の準備をし、恐る恐る一階へと降りた。

「あら、起きたの。早いわね」

「お、おはようお母さん」

「真奈か。すまんが伊導のやつを起こしてくれないか?」

「え?」

見ると、なんとお兄ちゃんはソファに寝そべっていた。

「あっ」

ご、ごめんなさい、こんなところで寝ていただなんて……でも口にすると、昨日のことを両親に説明しなきゃならなくなるかもしれないので、心の中で謝っておく。

「わかった」

本当は寝ていて欲しいけど、学校があるから起こしてあげなきゃだし……

「お兄ちゃん、起きて」

身体を揺すり起こそうとする。

「お兄ちゃん?」

だが、なかなか起きてくれない。すると、

「ううーん、真奈、それはだめだぁ、キスは……」

「!!!!!!」

ね、寝言だよね? だが私はそれでも恥ずかしさからまた顔が熱くなってしまう。

「お、お父さん駄目みたい、起きないよ」

「ん、なんだと? 仕方ない……後で俺が起こす、真奈は先に学校に行きなさい」

「は、は〜い」

いつまでもこの空間にいたくはなく。

「あ、私ちょっと部活の用事があるから、もう行くね!」

勿論そんなものはない。

「え? あ、お弁当!」

「ありがとうっ、行ってきます!」

テーブルに置いてあった包みをサッととり、早足で家を出た。




「………はあ、どうしよぅ……」

「どうしたの、真奈? 元気ないようだけど?」

溜め息をつき、家に帰った後の対処法を模索していると、親友である三住理瑠みすみりるが話しかけてきた。

「いや、ちょっと……そう、お兄ちゃんと喧嘩をしちゃって」

「あれ、そうなの? 珍しいね、真奈がお兄さんと喧嘩だなんて」

「ま、まあね」

つい目を反らしてしまう。

「それで落ち込んでいたんだね〜、昨日はお兄さんから『補充』してもらったの?」

「え? う、うん、そそその時、ちょっと色々あってね」

そう言えば、昨日アレだけめちゃくちゃしたのに、いつもみたいに過剰摂取の状態にはなっていない。してしまったことは別として、検証してみなければいけないかもしれない。
今のところ、倦怠感や禁断症状などは現れていないので大丈夫だとは思うけど……

「ふーーん、色々ねぇ」

理瑠は何かに気が付いたのか、意味ありげな笑顔を見せる。

「な、なに?」

「もしかして、お兄さんにセクハラされちゃった? そりゃあ、こんな可愛い子に抱きつかれたりされたら、幾ら妹とは言えどもイケナイ劣情を抱いちゃうよね〜!」

私の頬を軽くグリグリと叩きながら、そんなことを言い出す。

「違う、そんなんじゃないよっ」

むしろ劣情を抱いてしまったのは私の方だ。

でも、お兄ちゃんの、ああああそこもちょっとアレがコレでテントがスカイツリーで……いやいや、駄目駄目、忘れないとっ!!

「ほんと? でも、嫌なことがあったらすぐに私に相談するんだよ?」

「う、うん、ありがとう……」

理瑠は、二人羽織のように私の後ろから覆いかぶさり、まふで猫のように頬擦りしてきた。

「あれ、真奈ちょっと体温高くない?」

「そ、そうかな?」

「気をつけなよ、そろそろ風邪をひきやすい季節になってくるんだから」

「うん、ありがと」

そして雑談をしていると、担任である田島先生がやってきた。

号令を終え、ホームルームが始まる。

「えー、皆さん知っての通りに、約1ヶ月後の10月20日には合唱コンクールがありますね。それに関して、今週から週に二回、昼食後のホームルームの時間を伸ばし歌の練習の時間を取り入れます。既に2年、同じことを経験しているのでわかると思いますが、ホームルームまでに机などを片付け練習ができるように準備しておいてください」

『はーい』

田島先生は一見小太りで髪の毛を気にし始めている中年のおじさんという印象はあるが、実はクラスではいい担任として評価は高い。生徒のことも親身に考えてくれるし、実際私も先日真摯に対応してもらった。

「月並みな言葉ではありますが、思い出にのこるコンクールになるといいですね。これもすでにわかってはいると思いますが、当日にはクラスごとの順位付けもなされる予定です。折角なので、上位入選を狙っていきましょう。では、その他の連絡事項は--」

そうしてホームルームが終わり、午前の授業を受け、昼休みに。

「真奈、真奈って歌も結構うまいよね」

「え? そうかな?」

理瑠と一緒に昼食を食べていると、そんなことを言ってきた。

「うん、やっぱ美術だけじゃなく、芸術全般に才能があるんじゃない?」

「そ、そんなことないよ、言いすぎだよ」

私は慌てて否定する。

「またまたあ。ねえ、お兄さんとはカラオケ行ったりしないの? その歌声で魅了しちゃえばいいのに」

「なに言ってるのよ、理瑠。だからそんなんじゃないってば……それに、受験もあるのにカラオケなんて行けないよ」

「でも、一応推薦書書いてもらえるんでしょ」

「まあ、それはそうなんだけど」



巻間高校には、推薦入学が二種類あり、いわゆる特待生としての部活などの一芸を使った受験なしの入学制度。
こちらはかなりの狭き門で、理瑠はバレー部員として既に推薦が決まっている。このまま何事もなくいけば確実に入学することになるだろう。

もう一つは、推薦書を書いてもらった上での受験ありの制度。こちらは一般の入試とは別の日に試験を受け、枠もまた一般受験者と別に設けられている。

ちなみに試験日は2月8日だ。あと4ヶ月半位か。

私が受ける予定なのはこちらだ。県立とは言うけれど、実際はこの地方の子供が入学することがほとんどで、あとは一部の部活に入りたい生徒が他所からやってくる位だ。
なのでそれほど狭き門というわけではないが、それでもやはりどこの中学にも推薦狙いの生徒はそこそこいるらしい。決して気を抜いてはいけない。



「じゃあさ、少しくらい、羽を伸ばしてもいいんじゃない?」

「うーん、どうだろう」

「今度の秋休みなんてどう?」

「秋休みか……」

だが、秋休みには引越しに高校の見学もあるんだよね。

「何か用事があるの? なら、夜ならいいでしょ? 晩ご飯食べて、そのあとカラオケ行って。また帰ってきて、真奈の家でパジャマパーティしようよ!」

「え? 理瑠も来る気なの?」

「そうだよ? 駄目?」

と、目を潤わせ懇願してくる。

「うう……わかった、夜なら空いてると思うし……お兄ちゃんに聞いておくね」

「やったー! 真奈大好きっ!!」

「きゃっ」

理瑠は身を乗り出し、両頬に口付けをしてきた。

「もう、理瑠ったら」

「えへへ〜」

でもどうしよう、お兄ちゃんに聞くなら、その前に昨日の出来事をどうにか取り繕わないと……カラオケなんてとても行けたもんじゃないよね。と、今更ながら気がつく私だった。

          

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