妹が『俺依存症』を患った件
第21話 その日の夜
帰りもまた人混みに揉まれ(今度は流石に手は繋がなかった)くたくたになりながらも、なんとか流湖の家まで帰ってきた。
「あ、パパ帰ってるみたい」
確かに、家の明かりがついている。
「ただいま〜」
「おう、帰ったか、どうだ? 楽しかったか?」
「どうも流湖さん、お邪魔してきます」
父さんと流湖の親父さんは、自宅で呑み直していたようで、テーブルには酒やらつまみやらが広がっている。
「どうも〜、って、もう。パパお酒飲み過ぎ!」
「あなたもよ、もう晩ご飯の時間なんだから、それくらいにしてちょうだい。今日はここで作らさせてもらうから」
「いやあ、すみませんな奥さん、つい。どうぞ、キッチンは好きに使って貰って構いませんので」
「いえいえ、うちの人も結構飲む人なので。ではお言葉に甘えて」
「あ、私も手伝う!」
「では私も〜」
と、女子二人も母さんの後ろに引っ付いてキッチンへと向かう。
「おう坊主、ちょっとこっちこいや」
「え、はい」
俺は何故か流湖父に呼ばれたため、荷物を置きテーブルの椅子に座った。
「お前、流湖のことどう思ってるんだ?」
「え?」
「雄導から聞いたんだけどよ、妹さん、坊主のことが好きなんだって?」
二人は、急にそんな話をし始める。
「はあ、まあ、そうみたいですね」
「だが、こいつらはそれを諦めさせようとしてる。じゃあ、うちの流湖のこと貰ってくれりゃあいいじゃないか」
酔ってるからか、それとも本当にそう思ってるのか、勇二さんはそんな突拍子もないことを言う。
「えっ!?」
「今そんな話をしていたんだよ。俺の娘と雄導の息子、つまりお前さんが付き合ってくれればなあってな」
片膝を立て酒を煽りながら、とんでもないことを言ってのけているぞ。
「いやいや、それは……流湖の気持ちもあるでしょうし。それに、あいつ好きな人いるらしいんで」
「へぇ、そうなのか? まあ、一応考えておいてくれや。時代錯誤だって思うかも知れねえが、俺としてはそうなってくれたら嬉しい。流湖には母親を亡くしてから色々と迷惑をかけたからな。早く幸せになってほしいんだ」
「パパ、伊導くんとなんの話ししてるの?」
すると流湖がやってきた。
「あ? ああ、ちょっとな。お前たちの話をしていたんだよ」
「私たちの?」
「二人で付き合ってみたらいいんじゃねえかってさ。雄導も前向きなようだぞ?」
「えっ……ええええ!?」
と、流湖は一瞬で沸騰したように顔を真っ赤にする。
「いやいやいや、そんな、私と伊導くんがなんて。恐れ多い」
お、恐れ多い?
「なんだ、恥ずかしがってんのか? お前、好きな人がいるらしいな」
勇二さんはニヤニヤしながらそう言う。
「そ、それは……そうだけど」
流湖は何故かこちらをチラチラと見ながら何かを言いにくそうにする。
そうか、いくら友達だといっても、異性の前で好きな人の名前を出すのは憚られるのかな?
「ほうほう、なるほどねぇ」
と、勇二さんは何かに気づいたようでその笑みを深くする。
「と、とにかく、パパは余計なことしないでよっ。私にも私の事情っていうのがあるんだからね!」
「なんだ、勇気のねえやつだなあ。言っちゃえばいいのに……」
「うるさいっ、パパのバカっ。それとそろそろお酒片付けてよね!」
そう言って、流湖はキッチンへ戻っていった。
「おい、親に向かってバカはねえだろう、全く」
親の心子知らず、子の心親知らず。勇二さんの言い分もわからないでもないし、流湖の想いも尊重するべきだ。
しかし、お付き合いの相手が俺だなんてなんだか引け目を感じるな。美人なんだし、芸術の才能も持ってるんだし、世の中にはもっとお似合いのやつがいるだろう。
「まあまあ勇二、流湖さんにも彼女なりに必死に生きようとしているんだ。子供の成長を見守るのも、親の仕事だと思うぞ?」
「お前は甘いなあ、そんなこと言ってると、孫の顔も見られなくなるぞ? ただでさえ晩婚化だって言われていんのに」
「その心配はない……はずだ。なあ、伊導?」
「え? 俺?」
「きちんといい嫁さん捕まえて、さっさと孫の顔を見せろ。真央も安心するぞ。勿論、妹以外とだけどな」
父さんも酒に酔っているからか、普段言わないようなことを口にする。
「そりゃ違えねえ、近親相姦はご法度だぞ」
勇二さんは父さんの顔を見、またまたとんでもないことを言い出す。
おいおい、子供の前でなんてこと言うんだこのおっさんっ。すぐそこに俺の妹やアンタの娘もいるんだぞ!
「近親相姦じゃないから大丈夫だ」
「はっ、どうだかな」
ん、なんの話しだ? 父さんが苦々しげな顔をしているぞ。
「坊主は知ってるのか?」
「いや、教えてない」
「なんなら、俺から言ってやってもいいぞ?」
「やめろ! タイミングは自分たちで決めるから……その件については放っておいてくれ」
「へえへえ、わかりましたでさぁ」
それっきり二人は黙りこくり、酒を煽るだけになる。話の流れが掴めない。二人はなんの話をしているのだろうか?
「あなた〜ご飯よ〜!」
するとその空気を壊すように、キッチンから母さんの声が聞こえてきた。
「まあ、今日はこの辺にしておこうや。また時間が合えば呑もう」
「そうだな。伊導、片付け手伝ってくれ」
「ああ、わかった……酒臭っ」
テーブルの上の片付けを手伝い、ダイニングへと向かう。
そうして俺たちは折原家で夕食を終え、若干千鳥足の父さんを伴って自宅へと戻った。
因みにメニューはカレーライスだった。
「お兄ちゃん、今日はごめんなさい」
夜、部屋で勉強をしていると。妹が俺の部屋にやってくるや否や、床に正座をして頭を下げる。
「どうした、急に?」
「昼間の、お店でのこと……どうしても我慢できなくて。流石に無理やりすぎたよね?」
「ん、別に気にすることはないぞ。真奈の体調管理が一番大事なんだからな」
「ありがとう、お兄ちゃんが私のお兄ちゃんでよかったよ」
「なんだそりゃ」
ははは、と思わず笑ってしまう。
「ほら真奈、こっちこいよ」
「え、いいの?」
「少しくらいなら大丈夫だろ」
と、腰掛けるベッドの横やスペースをポンポンと叩いて示してやる。
「じゃあ……」
と、真奈はそこへゆっくりとお尻を下ろした。
「今日は楽しかったな。買い物もできたし、パフェも食べたし、流湖先輩とも仲良くなれた」
「ああ、そうだな」
一部アクシデントも発生したが、それ以外は確かに楽しいお出かけだった。真奈も、将来と先輩との仲を深めることができたようだし。俺としても、友達と妹の仲がいいのは嬉しいことだ。
「それとね……実は、お兄ちゃん達の会話、キッチンまで聞こえていたんだ」
「え」
あの、二人で付き合ったら云々って話がか?
「私、それを聞いてすごくショックだった。それに、そのあと帰ってきた流湖先輩も満更じゃなさそうだったし……」
「そ、そうなのか」
流湖のやつ、何考えてるんだ? 好きな人いるのに。
「私それを見て改めて思った。お兄ちゃんと付き合うのは私なの、抜け駆けなんて許さないから。生まれてから14年間、ずっと一緒だったのは私なのに……先輩には悪いけど、そんな親の言いなりみたいな方法で渡すわけないから」
「お、おい? 真奈?」
真奈は立ち上がり、服のボタンを一つずつ外し始めた。
「何してるんだ、やめなさい」
「えへへ、お兄ちゃんは私のもの……」
俺は止めようとするが、真奈はスルスルっとパジャマを脱ぎ、ついでに下も下ろしてポイと投げ捨ててしまった。
「……ど、どう?」
そこには、下着姿の妹が立っていた。
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