妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第18話 ランジェリーショップ


流湖と服屋を見て周り1時間ほど。次のお店にやってきた。

「うーん、よくあるデパートなんかにしても、ここにしてもなんで服屋さんってこんなにいっぱいあるんだ? 見て回るのも大変だ」

「いいじゃん、色んなブランドの服が見られるし。それぞれのお店でやっぱりこだわっている所も違うし、似たような服でも雰囲気的に自分に合う合わないってあるんだよ? 男の人はよく時間かけすぎ〜なんて思ってるらしいけど、女の子って結構細かいところ気にするんだからね!」

「へえへえ」

店に入るたび、何故か俺にこの服は似合うのかとか、こっちはどうだとか聞いてくるもんだから、自分の服を選んでいるわけじゃないのに既にクタクタだ。後1時間もこれを続けると思うと、世にいる彼氏や夫男性諸君はよく文句も言わずに付き合ってやれるなと尊敬してしまう。

「もう。ほら、次はここだよ〜」

流湖が指差すは……ら、ランジェリーショップ!?

「えっ、ちょ、ちょっと」

「なに?」

「ここっ、下着売り場……だよな?」

そのお店の中には、色とりどりの下着が陳列してある。

「だから?」

「いや、だからじゃないだろ。流石にここはまずいって」

「なんで?」

「なんでって、こういうお店、男性がついていくにはせめてカップルとかそういう関係なんじゃないのか? っていうか、その、俺に下着選んでるところ見られてもいいのかよ……」

後半は声量がついしりすぼみになってしまう。

「べつに?」

「べつに?」

「べつに、気にしないけど? なんなら、さっきみたいに伊導くんが選んでくれてもいいんだよ?」

と、目の前に立ついじめっ子がニヤニヤしながらいう。

「そんなこと出来るわけないだろっ」

何を言ってるんだ、羞恥心とかそういうのはないのかこいつには。

「どうかされましたか、お客様?」

店の前で騒ぎすぎたせいか、店員がやってきてしまった。

「あ、いや、うるさくてすみません」

俺は慌てて頭を下げる。

「すみません、彼氏が恥ずかしがってしまって」

彼氏!?

「あらぁ〜、大丈夫ですよ。確かに男性が入るのは戸惑われるかもしれませんが、カップルで下着を見にこられるお客様って結構いらっしゃるんですよ。今夜はこれを着て欲しいとかわざわざ彼女さんにおねだりする男性もいらっしゃいますしね。うふふ、独占欲でしょうか?」

そんな話を聞き、俺はつい、流湖の下着姿を想像してしまう……や、だめだだめだ! 首を振り、慌てて妄想をかき消す。

「もうっ、伊導くんのエッチ!」

だがバレてしまっていたようで、顔を赤らめた流湖にジト目で睨みつけられてしまった。

「ち、違うから、何も考えてねえから!」

店員さんも、若いわね〜みたいな顔で見ないで!

「まあまあ、折角ですし見て行きませんか? 可愛い下着、揃えてありますよ?」

「本当ですか? ねえ、いいでしょ?」

と、今度は目をうるうるさせながら胸の前で手を組み合わせる。

「……くっ、ちょ、ちょっとだけなら」

「やった〜! 伊導さっすが〜」

「では、こちらへ」

ということで、俺はできるだけ周りに目を向けないようにしながら、店員さんと流湖の背中についていく。

「--ねえねえ、これはどう?」

「い、いいんじゃねえか?」

「じゃあこっちは?」

「悪くないな、うん」

「……これは?」

「ビューティフルだぜ」

「もうっ、しっかり見てよ!」

最初の10分ほどは真面目に感想を述べてやっていたが、やはりだんだんと恥ずかしくなり、次第に適当に返事をするようになってしまった。
だってこいつ、天然なのかわざとか、胸の前にわざわざ下着を持ってきて意見を合わせようとするのだ。好意はなくても、俺だって年頃の男子だ。同年代の女性の胸をつい意識してしまうのは仕方ないだろう?

周りのお客さんからも時折微笑ましいものを見るような視線を感じるし、いい加減このお店を出たいのだが……

「ほら、これはどう?」

と、流湖は容赦なく次のモノを見せてきた。

「ぶっ、なに持ってんだよ!?」

手に持っているのは、明らかに夜のアレに使うような、ブラジャーの前面とショーツの下の方に不自然な切り込みが入った下着セットだった。しかも縁の部分以外の布は全て半透明でスケスケだ。

「うふん、今夜は寝かさないわよ〜」

と、立ったまま態とらしくしなを作る。

「や、やめろよ。だから羞恥心とかないのか!」

その気がなくても変な想像をしてしまうだろ!

「ちゃんと見てくれないからでしょ。ほら、今度は真面目だから。こっちとこっち、どっちがいい?」

と、二種類の下着を取り、見せてくる。

片方は、上下お揃いの小さな花柄が描かれている黄色の下着。
もう一つは、上下で少しだけ色が違う、無地で所々にフリルのようなものがついた、淡いピンク色の下着だ。

「そ、そうだな……」

これは真面目に答えないと怒られそうだ。

「こっち、かな」

と、俺はピンときた方の下着を指差す。

「わかった、じゃあこれ買ってくるね!」

「え? いいのか?」

「うん、これがいいの。ありがとう、先に外に出ていていいよ? 試着もしたいし。それとも……みたい?」

と、頬を赤下から見上げるように俺のことを覗き込む。

「っ……! そそそんなわけないだろ、じゃあ俺行くからっ!」

なんなんだこいつ、こんな顔もできるのかよ……ちょっと雰囲気に流されそうになったぜ。

「はあ、疲れた……」

出来ればもうしばらくは、いや二度と来たくない。俺にはハードルが高すぎたのだ。まるで無謀な戦いに身を投じた兵士の気分だ。

「あれ、お兄ちゃん?」

と、お店から少し離れたところにあるベンチに座って項垂れていると、よく聞き慣れた声が耳に入った。

「ん、真奈か。もう買い物は終わったのか?」

真奈と母さんの二人は、買い物袋をぶら下げこちらに寄ってくる。

「うん、大体欲しいものは買えたよ。お兄ちゃんのも、適当に選んでおいたから後で確認してね」

「そうか、ありがとう」

「あら伊導、流湖さんはどこ?」

「ああ、今精算してると思うぞ」

「へえ、何か買ったのかな」

「あ、ああ……アレ」

と、俺は見るのも憚られる方向に、顔を背け指を刺す。

「え、ランジェリーショップ……? まさかお兄ちゃん、流湖先輩と!?」

「今はそのことについては聞かないでくれ、俺の精神力はゼロなんだ」

フッ、と昔人気だった漫画のボクサーのように口元を上げる。

「あ、二人ともどうも。もう終わったんですか?」

と、そこで流湖がもどってきた。新しい買い物袋をぶら下げているのを見る限り、どうやら先ほどの下着は本当に購入したようだ。

「先輩、お兄ちゃんとあそこのお店に行ったって本当ですか?」

「え? 本当だけど? それに、伊導くんに選んでもらっちゃった、てへ〜」

「!!!!!…………お兄ちゃん、立って」

「え?」

「私も、いく」

「は?」

「私も、選んでもらうから!」

「なに言ってるんだよ」

「そうよ真奈、また行くところあるんだから」

「いやっ、私も行きたい!」

と、真奈は駄々をこねる。

「ふうむ……お母様、いいんじゃないですか? 私もまだ買い物したいですし。それに、伊導くんや真奈ちゃんの話も聞きたいです」

さらに、流湖まで援護射撃をし始めた。

「あらそう? そうねえ……」

頼む、頼むお母さま……!

「じゃあ後30分だけ、二手に分かれましょう」

「やった、お母さんありがとう」

なん、だと。

「じゃあ私たちはあちらへ。真奈ちゃん、楽しんできてね」

「はい! ありがとうございます先輩! じゃ、いこっかお兄ちゃん」

「…………ハイ」

そうして俺は、強制的に連れられて、再び地獄の戦場へ----

          

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