妹が『俺依存症』を患った件
第16話 おててを繋ぎましょう
「取り敢えずこんなところか」
いつの間にか戻ってきていた真奈と流湖も含め一通り内装を見学した後、そろそろということでお暇することになった。
「今日はどうもありがとうございました」
流湖と勇二さんに向かって頭を下げる。貴重な時間を俺たちのために使ってくれたのだ、これくらい当たり前だろう。
「いやいや、何かあったら遠慮せずに相談してくれ。ところで何時ごろ入居するつもりなんだ?」
「そうだな、子供が秋休みのうちに引っ越しさせようと思うのだが、行けるか?」
父さんが答える。なるほど、それくらいなら、テストも終わってるし、部活見学も相まって妹と流湖とが親睦を深める機会にもなっていいかもしれないな。
「ああ、全然構わないぞ。じゃあ、それまでは部屋開けておくから、またな」
「世話になったな、恩にきる」
「いいってことよ。そうだなあ、せっかくだし、これ言っとくか?」
と、何かを口元に持っていく動作をする。もしかしてこんな昼間から酒飲みに行くつもりなのか?
「今からか? うーむ」
と、父さんはちらりと母さんを見る。
「私は構いませんよ〜。二人もいいかしら? それよりも、そちらの娘さんの方こそどうなんですか?」
「俺はいいぞ、一応このまま家具とか見に出かけるつもりだったんだから、一人増えたところでどうってことないし」
「私も、お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ? それに流湖先輩にまだ聞きたいこと色々あるからら」
「私も別に構いませんよ、この後家でゆっくりするつもりだったので。真奈ちゃんとももっとお話ししたいしね」
それにしてもこの二人は急に仲が良くなったな。真奈に至ってはいつの間にか流湖のこと名前呼びになってるし。
「あら、じゃあせっかくだし、四人でどこか食べに行くっていうのはどう? その後、良かったらだけど買い物も行ってみたいのだけれど」
「え! いいんですか!」
と、流湖が食いつく。
「じゃあ決まりだな。奥さん、娘のこと頼みますわ」
「いえいえ、こちらこそ主人のことよろしくお願いします」
「晩まで戻らんかも知れん、そっちは任せた」
久しぶりに共に時間を過ごすのだ、二人にはゆっくりさせてあげたほうがいいだろう。
「はいはい、程々にしてくださいね?」
「わかっている」
そうして二人はそそくさとどこへ出かけてしまった。
「あ、すみません、私も一度家に帰っていいですか? 準備をしなきゃなので。なんなら上がっていってくださいよ」
流湖が俺たちに向かってそういう。
「そうねえ、女の子には色々時間が必要だものね。じゃあ、お邪魔しようかしら?」
「はいはい、ぜひぜひ〜。真奈ちゃんいこいこ!」
すると流湖は真奈の手を取り歩き出す。
「あ、まってよお兄ちゃんも」
「はいはい」
「あらあら、うふふ」
そしてそのまま手を繋ぎ仲良さそうに話をする二人を見ながら、隣の折原家にお邪魔することとなった。
「はい、いらっしゃい。ここが折原家です!」
「「「お邪魔します」」」
流湖の家は今どきの洋風な家という感じで、玄関をあがると奥の方までフローリングが通っており、その廊下の途中にはいくつかの部屋の扉がある。俺の家と同じだな。
「じゃあ、私はすぐに戻ってこれるよう準備してきますので」
といった後上へ上がっていく。
その後30分ほどして、降りてきた流湖にわざわざお茶を出してもらい、また数十分ほど雑談した後、昼食を食べに出かける。
「じゃあ、どこにいこうかしら?」
母さんが手を合わせ、俺たちに問うてくる。
「買い物もしたいし、ショッピングモールとか?」
「私もそれで」
「私もお兄ちゃんについて行きます!」
「じゃ、決定ね」
そしてこの家から15分ほど、俺の家や高校とは反対方向にある駅に着く。
「えっと、ここから4駅くらいか」
改札を通り、プラットフォームへ。今日は振替休日ということもあり、老若男女でごった返している。
「そうだね、着いたらちょうどお昼時だね〜」
「今日は祝日だから電車を利用する人も多いわ、はぐれないように気をつけないと」
「ねえねえお兄ちゃん、じゃあさっきみたいに手を繋ごうよ?」
「え? うーんでもなあ」
あまり接触すると真奈の身体に良くないのでは?
「いいんじゃない? 真奈ちゃんの病気の話聞いたけど、まだあまり無理はさせないほうがいいと思うな」
「え?」
「あら、真奈話して良かったの?」
「うん、正々堂々戦うために、流湖先輩にも知っておいて欲しかったから」
どうやら真奈は知り合った人に自分の病気を隠すつもりはないらしい。その病気と真剣に向き合おうという姿勢は立派だ、兄として素直に嬉しい。
「だからね。今日くらい、繋いであげてもいいんじゃない?」
「そう、かなあ。まあ、電車に乗っている間くらいなら……」
10分少々と考えれば、まあいいかな、と甘いことを考えてしまう。
「はい! どうぞ!」
と、右手を差し出してくる。
「仕方ないなあ……」
こんな笑顔で言われたら、なかなか断りづらい……これは俺も、自制する心を養わなければ。二人暮らししている間に流されてしまいそうだ。
「んっ……!」
真奈の手を握ってやる。と、ビクリと身体を震わせた。
「えへへ、お兄ちゃんのこと、感じるよ?」
おい、顔を赤らめるな、勘違いするだろっ。
「むぅ……はい! どうぞ!」
と、今度は流湖が左手を差し出してくる。
「え?」
「私も、はぐれちゃいそうだもん。いいでしょ?」
「はあ、まあ……」
とはいうが、妹ならまだしも女子と手を繋ぐのは少し躊躇われる。
「ほらほら」
すると流湖の方からギュッと俺の右手を握ってきた。
「あらあら、うふふ。伊導もやるわね」
母さんがニヤニヤし俺の顔を見るが、そんなんじゃないからな。あくまで臨時の措置だ、致し方ない。と自分に言い聞かせる。
「くっ」
それを見た真奈が、悔しそうな顔をする。いや、流湖は真奈みたいに俺に対する好意は無いと思うぞ。好きな人と最近接触する機会が増えて嬉しいってこの前も言っていたからな。
確かに可愛い顔立ちをしているし、性格も良いが、仮に俺が好きな人だとしても、そんな事わざわざ言うわけがない。なので脈なしだ。
「なに、どうしたの真奈ちゃん? 何か言いたいことでも? あ、きたよ〜」
メロディが鳴り、電車がやってきた。そしてこのまま流湖を先頭に縦一列になって乗り込む。歩きにくいぞおい。
「ふう、なんとか乗れたね〜。手を繋いでいてよかった」
「まあ、確かにそうかもな」
乗客からは時たま、『こいつ爆発しろよ』とでも言いたげな視線を感じるが、俺は無視する。これは成り行きでこうなっただけで、好きでこうしている訳じゃないんだからな!
そうして10分少々経ち、目的地のモール前の駅に着いた。
改札を出ると、大きな広場があり、その奥にこれまた巨大な建物が建っている。
「久しぶりに来たなあ、ここ」
中学に入る前、家族で来て以来か。なので3年以上来ていないことになるな。
「そうなんだね、最近またリニューアルしたらしいし、色々なお店見て行こうよ」
「へえ」
このモールは定期的に中身をリニューアルすることで有名で、そのたびに客足が増えているため経営陣は中々のやり手だと評価されている。
「ほら、いこうよお兄ちゃん流湖先輩! 時間がもったいないよ? お母さんも待たせてるし」
「あらあら、良いのよ? 今日の主役は子供たちなんだから」
「すみませんお義母様、じゃあ取り敢えずは地下一階のレストラン街に行きましょう〜」
今何か不穏な単語が混じっていたような……気のせいか。
「私、ハンバーグが食べたいな。お兄ちゃんもでしょ?」
「ん? ああ。そうしようかな」
妹が話しかけてきたため、思考を中断する。
「じゃ、じゃあ私もそうしよっかな〜。お母さんも洋食屋でいいですか?」
「いいですよ」
というわけで、昼食は洋食レストランに決まり、俺たちは地下一階に向かうのであった。
          
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