妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第14話 妹の部屋で『俺成分』補給、そして拠点へ


その日の夜、晩飯も食べ終わり、そろそろ寝ようかという時間になってきた。

「じゃあ、俺はもう寝るわ」

リビングでしていた勉強を切り上げ、俺はそろそろ寝ようと腰を上げる。

「はーい、お休みなさい」

「待ってお兄ちゃん、私も!」

妹もソファから立ち上がり、こちらに駆け寄ってくる。

「明日は下見に行くんだからな、寝坊するんじゃないぞ?」

父さんが晩酌を飲みながら言う。父さんこそ夜遅くまで呑んでいて大丈夫なのだろうか? まあ仕事終わりだし仕方ないか。

「わかってるって、じゃ」

「行こっ」

二人して、二階に上がる。

「それで、どうするんだ? 添い寝、やめておくか?」

「うん……病院でも言われたし、やっぱり少し我慢してみる。どうしてもしんどかったら、呼んでもいい……?」

「ああ、その時は遠慮するな。体調を崩してまで、無理に我慢する必要はない。あくまでどれくらい持つかを確かめるためだからな」

昨日までは、真奈も不安そうだったし、しんどいと訴えてきたら素直に添い寝してやっていたが、今日からはそろそろ少しずつでも接触する時間を減らして『俺成分』がどれくらい必要なのか、確かめていく必要がある。
病院の先生の言っていた通り、真奈の身体も気になるし。

「じゃあ私、寝るからね」

「ああ、お休み。念のため、部屋の鍵は開けておくから。どうしてもって時は遠慮せずに入ってきていいからな」

最初の頃は流石に恥ずかしかったが、こう何日も互いの部屋を行き来していると、だんだんと慣れて来たのだ。鍵も、以前は念のために毎日欠かさずかけていたのだが、かけなくなった。

そして互いの部屋に入って行く。おやすみ世界--





「……んん、今何時だ?」

枕元にある時計を確認する。

「午前2時か……もう少し寝ていられるな」

寝たのが午後11時ごろだったから、まだ3時間ほどしか寝ていない。7時には起きれば大丈夫なはずだし、それに最近色々とあったためかまだまだ眠い。

「よし、もう一眠り……そう言えば、真奈は?」

ふと、ベッドから起き上がる。と、隣の部屋から案の定と言うか呻き声のようなものが聞こえてきた。

「真奈?」

隣の部屋に向かい、ノックをする。

「真奈、大丈夫か?」

「お、お兄ちゃん? 入っていいよ……っ」

「おいおい」

ドアを開け、部屋の明かりをつけてやる。
ベッドに蹲った様子の妹は、汗だくになりながら小さく呻き声を上げている。

「お、おい?」

「あ、あはは、もう少し我慢できるかなって思ったんだけど……煩かった?」

「いやいや、そういう問題じゃないだろ。我慢できなかったら遠慮するなって言っただろ?」

「でも、折角だからどこまで耐えられるか試してみようかなって」

「馬鹿っ」

「いだっ」

頭を握り拳で小突き、ついで濡れたパジャマの上から抱きしめてやる。

「少しは我慢してみろとは言ったけど、こんな風になるまでとは言ってないぞ? 真奈の身体が一番大事なんだ、まさか、迷惑がどうとか考えてないよな?」

「ば、バレちゃった? てへっ」

全く、極端な妹様だ。


「くんかくんか、くふくふ、はああああ〜〜〜♡♡♡♡♡」


俺の首元に顔を埋めた真奈は、はふはふと鼻息荒く匂いを嗅いでくる。そしていつものように身体をビクビクと震えさせる。

こればかりはなかなか慣れないな。この前聞いてみたら、その、やはりいわゆる絶頂に近い状態だということだった。
真奈も、そういうことしてるんだな……とか考えちゃいけない想像をしそうになったが、鋼の精神で耐え切ったものだ。

くすぐったいが、俺は何も言わずそのまま30分ほど、抱きしめてやる。

それにしても妹とは言え、女の子ってやっぱり良い匂いがするんだな。汗をかいているからか、余計と強く感じる。顔も中々の美人だし、学校でもモテてそうだな。本人は俺のことが好きって言い張るから、残念ながら後輩どもにこの娘との恋が実る芽はないんだろうけど。

「--もうそろそろいいかな?」

「ん、もう大丈夫か?」

「うん。これくらいなら、なんとかなると思う。あまり一緒にいたら、また反動が大きくなりそうだし」

「わかった。でも汗だくだぞ、本当に大丈夫か?」

「もう、お兄ちゃん! 女の子にそういうことを言わないの!」

ポカポカと胸を叩いてくる。

「あ、ああ、すまん」

「ちょっとシャワー浴びてくるから、寝ても大丈夫だからね? ごめんね、起こしちゃって」

「嫌、気にするな。とにかく無理はせずに、それでいて色々と試して行ければ良いんだからさ」

「うん、わかった。お休みなさい、お兄ちゃん」

「ああ、お休み」

そして自室に帰った俺は、今度こそ朝まで眠りこけるのであった。







「おはよ、お兄ちゃん。朝だよ!」

「んぁ……? 今何時?」

「8時」

「うぉっ!?」

しまった、寝坊してしまったか。
妹が起こしてくれなかったら大変なところだった、折角の下見の日なのに。

「起きてこないから起こしてきてってお母さん達が。9時には出たいから、用意しておけってさ」

「ああ、ありがとう。体調はどうだ?」

「うん、そうだねー……いつもよりは、落ち着いた感じするかな? でも、全然元気だよ?」

今日はツインテールにしているその髪の毛がぴょんぴょんと跳ねる。

「そうか、ならいいんだ」

よっこいしょ、とベッドから降り、俺は着替えを探す。そしてあまり服装に気を使う方じゃないので、適当に見合った服を着ることにした。

「って、すまんが出て行ってくれないか」

「え、なんで?」

真奈はなぜか、ベッドに腰掛け足をぶらぶらさせている。

「なんでって、着替えるから」

「私は気にしないよ?」

首を傾け、可愛げにそういう。

「俺が気にするの!」

いやいや、何を言ってるんだ全く。どさくさ紛れに見学しようとするんじゃないっ!

「ほら、出て行った出て行った」

「え〜〜〜」

ぐずる妹の背中を押し、部屋を追い出す。

「お兄ちゃんの意地悪っ」

あんかっべー、と、舌を突き出す。そんなことされたって駄目なものは駄目だからな。

俺はため息ひとつ、下に戻って行った妹を見てから部屋の扉を閉めさっさと着替える。やはり鍵をかけておいたほうがいいか……? いや、でもいざという時に困るし、くっ、妹のムーブが怖い!

そんなことを考えながら下に降りる。と、案の定みんな揃って起きていた。

「おはよう」

「遅いぞ」

父さんがいつも通り新聞を読みながら言う。

「おはよう伊導。ほら、早く朝ごはん食べてね」

「ああ」

用意してもらった朝食を食べ、出かける準備をし。

いざ、新居の下見へ向かう。

「二人暮らしと言っても、以前言ったと思うが俺たちがすぐに見に行ける距離だからな。うちから歩いて10分ほどの場所にあるアパートだ」

アパートか、そりゃ流石に一軒家ひとつって訳にはいかないよな。

その通り10分ほどして、一つの物件が見えてきた。

「ここだ」

見た感じ築30年ってところか? 二階建ての近代的な鉄筋のまさにアパートって見た目の建物だ。

「借りる予定の部屋は、二階の角部屋だ。ちょうど空き部屋だったらしく、割引価格で提供してもらえた。お前からも、大家さんにきちんとお礼を言うんだぞ」

そうなのか、そりゃありがたい。うちはそこそこ裕福とは言え、安く済むものに無駄に金を使う必要もないしな。

「ああ、わかった」

そうして一階の一番手前にある部屋のチャイムを鳴らす。ここが大家さんの部屋らしい。

「はーい、どちら様…………あれ、伊導くん?」

「えっ、折原?」

中から出てきたのは、最近仲良くなりつつある隣のクラスの女子生徒である折原流湖その人だった。

          

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