俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第250話


今日の午前中は魔法学科の目玉と言ってもいい『魔法行使』の授業の日だ。
魔法学科のメインである魔法に関してだが、座学では魔法理論、実習では魔法行使とこの二点に重きが置かれ、また更には今後学外での授業もあるという。

そしてその魔法行使の授業は、学園内に配置されている魔法専用の練習場で行われる。柱のない建物を屋根で覆った、大教会のような空洞状になっている(エンデリシェいわく『ドーム』というらしい)そこは、我々四十五人と教師が入っても余りある大きさである。それくらいの大きさでないと、魔法というものは伸び伸びと訓練できない代物だからだ。

「マリネ、今日も元気ですね」

「ああ、ばっちこい、だ!」

私の横にならび歩くこの娘はこの国の第三王女殿下であるエンデリシェ。私のバディ……つまりは寮での相部屋相手だ。
この学園においてはバディという存在が常に重要視される。学年が上がろうが、クラスが上下しようが、バディだけはよっぽどの事情がない限り九年間変わることがないのだ。つまり仲良くなっておかなければ学園生活で地獄を見る可能性もあるということ。その点、彼女とはすぐさま意気投合したため、私としては一つ安堵しているところである。
一年次のクラスは同じAクラス。しかも相手は学年入学主席と来た。しかしそれを傘に切ることもなく、自然体で接してくれているところがまた優等生らしい面だ。
入学してようやく二週ほどが経つわけだが、その肩書が一時的な名ばかりのものでないことを既に証明しつつある。先生方からも将来有望と目されて止まない、そんな娘がこのエンデリシェちゃんなのだ。

「それにしても、マリネは実技の授業となればテンションが高止まりしますね」

「当たり前だ。我が家は武の家系、力を手にしないものは落ちぶれものと見られてしまうのだ。女子供なぞ関係ない、そのためにこの学園に来たわけだからしっかりと身を打ち込まなければな」

一方の私、マリネ=ワイス=アンダネトも、ポーソリアル共和国という国の名家だ。国内の文と武を司る二代古家のうちの片割れであり、また父は共和国の元首である大統領の職を担っている。王族程ではないにしても、国内における権力は絶大であり、私自身もそのような家の人間と見られることは多い。
権力というものには並行して義務が伴うもの。私にとってそれは、この学園でできうる限りの学べることを吸収し、国家に貢献することだ。であるならば円滑な人間関係を構築しておくに越したことはない。周りに敵を作り学園内での居場所を狭めてしまえば自ずと学問に影響が出てしまうだろうからだ。

「マリネは攻撃魔法が得意だからね。私は後方支援に特化しているから、パーティを組むことになればバランスとしてはいいかもしれないわ」

と、私を挟んでエンデリシェの反対側を歩くのは、クラスメイトその二であるミナスだ。十歳にしても小柄なその身体は見ているだけでも癒される。まるで大人しめの猫のような雰囲気を感じ、時々無意識に頭を撫でてしまい怒らせることもあるくらいだ。もしや本当に頭の上にもう一つの耳が生えているんじゃないかとさえ考えたこともあるが、流石にそんなことはなかった。
彼女は私たちとは違い、いわゆる特権階級ではない。この学園内では少数派である、平民からの入学者となる。とは言ってもただの平民ではなく大商人の娘ではあるが。時としてそこら辺の木っ端貴族よりも大切に扱われるのが商人という存在、この学園でソレを持ち出すのは御法度とされてはいるものの、家の格として申し分はないだろう。

「そうだなあ。一年生の後期にはもう例の課外授業が組まれるというから、今のうちにシミュレーションをしておくのもいいかもしれないな」

「マリネが魔法剣士として前線のアタッカーを。私は中遠距離からの狙撃や敵の牽制。そしてミナスが支援系統で回復を含むバフ係というところでしょうか」

エンデリシェが視線を上に向けつつそんな予想を立て始める。

「ふうむ、そうか、そうだなあ……」

「ん? どうしたの、マリネ?」

「ああ、いやあ。その構成なら、もう一人前線に、できれば盾役を配置するか。もしくは私の代わりに後方から大火力の魔法で攻撃する人間がいればもっといいんじゃないかと思ってな。出来ればその両方、五人パーティで活動できれば面白そうなんだが……」

私の呟きに反応したミナスに、そんな考えを提案してみる。

「確かに、三人じゃちょっと心許ないかもしれませんね。パーティ内でのダメージコントロールを考えても最低四人は必要だと思いますし」

一方のお姫様も、一度妄想を中断して相槌をうつ。

「まあそこは、今直ぐに考えなくてもいいだろう。後期授業は一月からだし、さらに言えば課外授業はその後半、五月ごろに集中的に行われるはずだ。連携を取りやすくするために親睦を深める時間を考えても、まだ一、二ヶ月は猶予があるだろう。ところで」

「はい?」

私はお姫様の方を向き、質問をしてみる。

「最近のエンデリシェはなんだかクラスの人気者になってしまったな。いつからそんなんになったんだったかな? 少し前までは、私たちと話をしていればそれでいいみたいな態度だったのに、何やら既にクラスの、特に女子のほぼ全てと仲良くなっているんじゃないか?」

「ああ、そうですね。実はこの前の選択授業の時、私のことをミナスが皆さんに紹介してくれたのですよ。なんでもそれまでは話しかけづらかったらしく、以降だんだんと話す仲の方が増えていった感じですね」

「なん、だと? ミナス、私ももっと友達を増やさなければ!」

「増やせば?」

「いや、そこはだなあ」

「自分の力で人脈を築くのも大切でしょ」

「連れないなあ……」

「そうは言いましても、マリネだって友人が少ないわけではないでしょう? 男子達ともよく話をしているではありませんか」

「んまあ、それはそうなのだが」

私の場合は女子と男子半々くらいの者とよく話をするようになりつつある。特に男子とは剣や戦闘の話をすることが多く、さすがは優秀成績者の集まりといったところか、いわゆる"話のわかるやつ"が多いのだ。なのでついつい性別なぞ気にせずに会話を弾ませてしまうのだが、その分一部の女子が話の輪に入り辛そうにしているのは把握しているつもりだ。しかし性分として武の話を振られるとついつい盛り上がってしまうので致し方ないことだと諦めている。私からアイデンティティを取り上げてしまえばただの粗暴な女になるだけだからな。

「どうせなら混交パーティなんて考えて見てもいいかもね」

「性別が、か?」

「うん」

ミナスの提案は一理あるかもしれない。純粋な力比べではやはり男性の方が優位なのは生物として覆せない事実、何かあったときのためにも男子生徒をパーティに加える選択肢も頭に入れておくべきかもしれない。

「私は構いませんよ。ああ、でも出来ればあまり下心のない方を……」

「そこは同意」

「だね」

等々、今後の学園生活についてお互いに相談をしつつ、朝の実践授業の場に到着する。

「やはり広いなここは」

「だねー。ドラゴンですら暴れられそうな広さだよ」

「流石にそれは無理があるのでは? ドラゴンといえば、この世界でもよっぽどの強者でなければ傷一つすらつけられない存在なのですよ? 御伽噺の騎士様が倒すような、世界の頂点に立つと言っても過言ではない種族なのですから、こんなところで暴れられたら学園どころか王都全域がひとたまりもありません」

「ちょっとした冗談なのに、エンデリシェは真面目に答えすぎっ」

「す、すみません」

「はいはい、二人とも早く着替えるぞ」

会話の流れがおかしな方向に向かう前に、さっさと更衣室に向かうよう仕向ける。そしていつもの通りにエンデリシェの豊かな身体と、ミナスの残念な身体を比べながら着替えを終え、いよいよ授業のスタートになる。

「さーて、今日は三人一組を作ってもらうぞー! 出来るだけ早くしろよな!」

と、早速指導教員の指示が飛ぶと。

「あ、この三人でいいよね」

「ですね」

「でも、何をするんだろうか? 『魔法行使』はまだ数回しかやっていないのに」

「作れたかー? では、今日の授業内容を紹介する! それは……彼らに勝つことだ!」

教師が声をかけると。どこからともなく三人組が現れた。

          

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