俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第236話


「貴様、何者だ!」

「その通りだ、突然出席者の、しかも国家元首に攻撃するなど無礼極まりない! おいお前たち、何をボサッとしているのだ、さっさとその曲者を捕えんか!」

「「「はっ!」」」

お口チャックマンにされた首長の隣に座っていた別の国の首長が、慌ててやってきた自身の護衛に対し乱入者を捕縛する命令を下す。兵士たちは槍や剣を構え円卓の中心にたたずむ老人形態のエンドラを取り囲んでジリジリと距離を縮めていく。

「ふむ、そう殺気立つでないぞ? 相手を仕留めるときはこうやるものじゃ、こう……な」

「んっ!? ぐはあっ!」

「へぶしねっぐず!」

「こぅかごらぁっ!」

「みづゃさいでぃあーー!」

次々と倒れていく兵士たち。しかしエンドラはその場から一歩も動いてはいない。正に人外の超能力だ。
まあそれもそうだろう、一見老人ということで力が衰えているように見えるこの人(?)も、この姿が魔力を十全に溜め込んだままの本来の見た目。若返るとむしろ弱体化するという不思議な生態の方なのだから。

「ばば、化け物め!!」

「化け物? ふふふ、確かにワシは人間からすれば動く災害のようなものだろう。だがしかし、それはこちらから見れば人間が弱すぎるだけに過ぎない、とも言える。自分達の理解の及ぶ範疇でない存在を全てひっくるめて化け物』という枠に押し込めるのはお主らの悪い癖だ。この世界は人類だけのものではない。動物も生きていれば、そこから変化し独自の生態系を築き上げた魔族や魔物も存在する。本当はか弱い生き物のはずなのに、まるで世界の支配者であるかのように振る舞っている存在今の人間は誠に滑稽じゃな」

永き時を生きし老齢竜は、赤子に言い聞かせるようなゆったりかつ優しい口調でそう述べる。

「なにを!? 我々人類は進化してきた。社会の構造も、技術も、そして肉体も。魔法という力を発展させつつ、生存圏を脅かす敵を排除してきたっ。そちらこそ、ただ肉を喰らうしか脳のないそこらのケダモノと一緒くたにするでない!」

円卓から反論と非難の声が挙がる。またそれに頷く者たちも複数見受けられる。

「果たしてそうかのう? 己の利益を求め、テリトリーに侵入してこようとする外敵を排除する。それは人間だけではなく他の動物でも当たり前のことじゃ。それに、我らドラゴンも独自の生活圏を築き上げているぞ? 人のみが努力をしているという発想は大変危険なものじゃ。そのような考えを持っていたから、先日ファストリアを襲った魔物の集団の統率の取れた行動に対処するのが遅れたのではないのか? 所詮は野蛮な生き物、ただ突っ込んで来るだけだとただを括っていたら、要衝は簡単に突破され、一番護らなければならない土地であるはずの王都近郊にまで押し寄せられてしまった」

デーメゲドン要塞も、その後の王国中心部への進撃も、ただ単に突っ走って来ただけではなく、統率のとれた効率的な行動であった。であるが故に、しばらくは持つであろうと考えられていた防壁はすぐに打ち破られ、俺たちがポーソリアルを撃退している間にとんでもない被害を生み出してしまった。その中に、『魔族や魔物は野蛮な生き物だ、正面から押さえ込めば人類の英知には敵わないだろう』という思い込みがあったのは否定できない。

「ぐぬぬ……だがそれは、ファストリアがたまたまポカをやらかしただけであって!」

「しかし、もう一つ。そこの女が率いている……なんじゃったか? そうそう、ポーソリアル共和国。あの国は同じ人類であり、なおかつお主らよりも高度な文明を有しておる。もし百万が一、人類が魔物や動物より優れていると仮定しても、その人類同士の中でまた格差ができてしまっていては、威張れるものも威張れないと思うのじゃが? 一体その自信はどこから湧いてくるのか誠に不思議なものだのう」

まるで、というより明らかに挑発するような口ぶりでそう淡々と述べるドラゴンの王に対して、必死に反論を繰り返していた首長たちも今度こそ口をつぐんでしまう。

「さて、いらぬ口論が起こってしまったが、再度提案しよう。そこの青年、ヴァンを我らの仲間に迎え入れ、人類の無用な争いから解放してやろうと思うのだがどうじゃろうか? 実は、ワシの孫がそやつといわゆる恋仲になっておってのう、それもあって平穏な世界で暮らせるように手配してやろうと思っておるのじゃ。ヴァン自身はどうかの?」

「え!? は、はい、そう、ですね」

当然最初から俺に振られるべき話題だったが、流れるように指名されたので考える時間が足りず言葉に詰まってしまう。

しかし。

「……申し訳ありませんが、俺は、竜の里には行けません。陛下の領土を割譲するという話も正直あまり好ましいとは考えておりませんので。と言いますのも、あの土地、ナイティスの土地はファストリア王国にあるからこそ意味があるところだと思うからです。先祖代々、王国の庇護下のもと静かに暮らしてきた村が魔物に滅ぼされてしまった。そのことに関しては悲しみの一点ではありますが、一方でまたいらぬ騒動で祭り上げれらるのも、それと同じくくらい苦しいことだと思うのです。死者の肉体が、魂が宿る土地をこれ以上周りの人間に荒らされたくない、大変身勝手かつ不敬な考えではありましょうが、今回の会議で出された全ての提案を却下させていただきます存じます……如何でしょうか?」

ようやく重い口を開いた俺の回答により、大半の参加者はホッとした様子だ。やはり同じ人類であって人外の存在が自分達の管理下ではないところに行かれるのは怖いのだろう。
これはベルにも適用される話だが。彼女の場合はその肩書、威光を利用しようと画策している・いた為政者が多い。例え現状のステータスが大幅に減衰していたとしても、『魔王から人類を救った』という功績とそれにすがる人々の希望が手からこぼれ落ちるのは避けたいと考えているはずだ。
俺がどこかの地に移住する、または独立するということはそれらのメリットを全て放棄することとなってしまう。利用できるものは利用し、不必要なものは無感情に切り捨てることができるのは為政者として大切な気質だ。だがそれを向けられた方は溜まったものじゃないが。

「…………そうか、私はそれでも構わない」

「陛下?」

すると、まず最初に反応したのはレオナルド陛下だ。それを聞いて進行役の宰相閣下が訝しげな顔をする。

「なに、確かに我々は己の利益を求めすぎた。そもそもが民主化を推し進めようとしているのも、そのような一部の上流階級による統治をなくし凝り固まった国家体制を少しでも変革するためであった。まあ全てを、といかないのは人と人が交わる以上仕方のない方ではあるがそこはまたゆっくりと調整していけばいい。しかし、いつの間にか突然現れた少女と少年の力に頼り切りになり、それがいつの間にか当たり前となってもいた。その間違った状況を改善するためには、今ここで彼らの言い分をきちんと聞く耳を立てる必要がある。どうだろうか、ポーソリアル、そしてドラゴンの王よ」

陛下は名指しした両名を見渡す。

「私たちポーソリアルは、先ほども説明しました通りそのような意味で申し上げたわけではございません。ヴァン殿には今一度再考していただけると助かるのですが……」

ううむ、シャキラさんたちは俺にポーソリアルとどういう関係を保ってほしいと考えているんだ? マリネが国に帰りやすいようにとかそういう配慮も含まれているのだろうか?

「なるほど、なるほど。確かにヴァンの想いを組まないわけにはいかない。だがーーーー」

今度は最後に残ったエンシェントドラゴンの番。エンドラからもレオナルド陛下と同じ空気を感じたところでーーーー




ーーーー世界が、一瞬にして白黒になった。




「えっ!?」

突然の状況に頭がついていかない。ど、どうなっているんだ!? しかも声が出ない。思考はできるが身体も動かず、まさにときが止まったかのようだ。

「ワシにも時間がないのだ、ヴァンよ。久しいな」

「えっ、どちら様、ですか? エンドラ様……じゃありませんよね、この雰囲気オーラは」

「その通り。ワシは神じゃ」

「神? でも、俺が知っている神はドルガ様とグチワロスだけでーーぐうっ!?」

エンドラの姿をした神を名乗る何者かが俺の頭に手を置く。と、ドクンッ、と、脳内が激しく疼く。

「ワシは失敗したのだ。この展開は望むことではない。やり直しに付き合ってもらうぞ?」

「が、あっ、なに、がっ、おこって?!」

そして次第に視界が黒くなり、いよいよ立って居られなくなった俺は地面に倒れ伏してしまった。


          

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