俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第234話


二日目……は飛ばして三日目の朝。前日は特にこれといった騒ぎはなく、粛々と会議が進められた。何故かといえば今後の魔王軍残党の残党(ややこしいがこういう表現が一番正確だ)による被害を抑えるため、五大陸に討伐用の組織とその拠点を構築しようという話だったからだ。
本来ならば一日目の続きを話す予定ではあったのだが、まだまとまりそうにないため一度間をおいて最終日までに結論をまとめておく方針に切り替えたのである。そんなこんなで、午前から日程をずらして話し合った内容の主たる議題がこれだった訳だ。

つまり、いわゆるところの『冒険者ギルド』である。

名称については未定だし、業務内容についても昨日一日では詰めきれなかったが、この合意に至ったのは大きい。各国が資金を出し合い共同運営することでどこかの国に肩入れするようなこともなく、また討伐が進む地域と進んでいない地域間での情報共有も容易になる。いわば国家の支援を受けた国家から独立した組織を作ることで、余計なしがらみに囚われず人々の命を救うことを最優先に活動できるように配慮しているのだ。
まあそうはいっても、何年も経てば癒着等の問題も出てくるのは間違いない。そこらへんは今後の詳細を詰めるときに徹底的に議論しておくべきだろう。今回の国際会議では大枠を決め、その後各国の官僚が話し合う形になっているので、今頃裏ではこの冒険者ギルドについても侃侃諤諤議論が交わされていることだろう。

そしてその少しは穏やかになった雰囲気のまま突入した本日。予定通りにポーソリアルとの交渉結果の公表及び和平の最終確認の判を押す作業ーーつまりこれを持って五大陸側の戦後処理の全てを終わらせる確認をする。各国の前で承諾することにより、これ以上和平を引っ掻き回すような再交渉を行わないことを約束するものだ。
またこれには裏取引でポーソリアルと結託し外患誘致を為そうとしていないことの宣言も兼ねている。対ポーソリアル防衛戦争が終わってから国際的な交流が活発になりつつあるこの四大陸の人間国家は、そのような相互監視の関係を構築しようという方向に進みつつある。またかの国のような強国がやって来て蹂躙の限りを尽くそうとするかもしれない。その時に、内部でゴタゴタと争っていては敵に付け入る隙を露出狂が如く見せびらかすも同義だ。

……その点で言えば、未だ南大陸の地が不安定な状況にあるのは気になる。治安も回復しきっていないし、ポーソリアルからもたらされたマジケミク魔導技術を研究開発し隣国との戦に用いようとするだろうことは安易ではあるが容易な推測だ。この国際会議でその点に関する議題も用意されているため少しでも火種を消すことができればいいのだが。

「それでは、ポーソリアルの代表団を統括している、シャキライネ=セビョン=マドルナ氏に挨拶をしていただきましょう」

呼ばれたシャキラさんが椅子から立ち上がり、一礼をする。

「この度はこのような場を設けていただき誠にありがとうございます。各国の皆様のおかげもありまして、我々の国の前大統領であるアンダネトによる野望と蛮行は本人と共に露と消えました。またポーソリアルと致しましても、今回の和平交渉をもって最終かつ不可逆的な解決となりましたことは大いに助かる結果となります。必ずや賠償責任の履行を為し、後腐れのない状態をつくれるよう全力を注ぎ取り組む所存であります」

共和国が攻めて来たことは、あのハゲの大統領の責任ということになりつつある。というよりもポーソリアル国内で率先してそのような世論を形成しているのだ。シャキラさんとしてはマリネを『父親に上手く使われかけたがその蛮行に見事抵抗した正義の女神』と扱うことで立場を守れるし、政府は政府で国家としての責任を示すことで対外的に本当はそんなひどい国ではないと言う印象を与えることができる。
もちろん、個別交渉を行った国の中には『そんなの知ったことか、責任は責任、言い訳するな!』と正論をぶつけ強気の姿勢で交渉に臨んだ国もあったが、周りの国の様子を伺ううちに考え直したのでオオゴトにはならずに済んだ。都合の良いようにも思えるが、それだけ周辺国家からの圧力が強かったというわけだ。この点では同調圧力が良い方に影響したといえよう(俺の件に関しては勘弁して欲しいところだが……)。

「そして、この場を設けてくださったファストリア王国にも多大なる感謝を。またヴァン=ナイティス卿がいなければ、今頃双方ともに一生癒えぬ傷を負っていたところ。その点に関しましても、改めて感謝の意を申し上げます」

シャキラさんはレオナルド陛下に加え、俺に対しても恭しく頭を下げる。いつもはマリネ関連であれこれ騒ぎ立てる人だが、こういう場ではしっかりとこちらを持ち上げてくれるところがどうも憎めない人だ。抑えるべきところはしっかりと、ということなのだろう。

「シャキラ代表ありがとうございました。さて、我々はこの場をもって共和国との戦にいよいよ本当の意味での終止符を打とうとしています。本日の議題であります、共和国と各国が結んだ条約について確認し合いたいと存じます。これは不正を防ぐためであり、また外患誘致の可能性を少しでも減らすための機会であります。条約の内容自体に他国が干渉することはご遠慮願いますが、内容について訊ねることは構いません。それでは、まずは我が国からーーーー」







ーーーーそして、昼休憩を挟んで、関係国の締結した条約の内容を全て読み上げ終わり。いよいよ本日三日目の会議も終わりというところで。

「では、そろそろ閉会のお時間がやってまいりました。明日四日目は各国の農産物、経済循環、行商人への関税等の報告及び取り決めを行いたく存じます。民一人一人の命がかかっている議題でありますので、自国の利益だけではなくこの五大陸全体の復興と発展に寄り添う形での合意を目指し議論を交わしていただけましたら幸いです。ではーー」



「少しよろしいでしょうか?」



「はい?」

キュリルベクレ宰相が締めようとしたその時。突然、シャキラさんが立ち上がり声を上げる。

「皆様にご提案がございます。我が国の大使館を、どこかの国に置かせていただきたいのです。一度、いえ、二度は刃を交えた身。このような提案は不躾と承知してはおりますが、たとえ敵同士とはいえ何かの縁。条約も結べましたことですし、これからは友好的な交流を為していけないものかと。それに、我が国もただでそのような提案をするわけではありません。我々の持つマジケミク、設置国とはその技術を共同研究したく存じます」

「「「「!!??」」」」

突然の提案に眉を潜めていた元首も含め、皆一様に顔色が変わる。当たり前だ、どこの国も条約で得られた分はせいぜい鹵獲したうちのいくらか。ポーソリアルは金は払えど技術は渡さないと頑なに断っていたため、そのせいで交渉が拗れ締結が遅れた国もある。もしや、このために首を縦に振らなかったのだろうか。
相手の言い分をきいてどうでも良い技術でお茶を濁す手もあったろうに、それすらしなかったのにはこの共同研究という"エサ"の価値を高くするためだったと見える。南大陸に流入した技術の解析も大変難しく、まだまだ時間のかかると見られていたため、大手を振ってマジケミクの導入を進められるのはこの五大陸で何歩も抜きん出るに等しい。

「それだけではございません。ヴァン=ナイティス……マジクティクス陛下には、我が国の領土の一部を割譲したく存じます」

「えっ!?」

今度は俺が声を上げる番だ。声だけではなく、椅子から飛び上がるように立ち上がりそのせいで余計と注目を集めてしまう。それを見たシャキラさんの笑顔がなんだか怖かった。


          

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