俺の幼馴染が勇者様だった件
第223話
(あと数話でポーソリアル編は終わりです、結構長引いてしまってはいますが、もう少々お付き合いくださいませ。それにしても、キャラが勝手に動くとはよく言いますが、いざ自分の身に降りかかると勘弁してくれと思ってしまいますね笑)
「ベルはどこだ!」
ブラウニー君からの知らせを聞いた俺は、すぐさま彼女を探しに行く。彼の話だと攫った奴らは海に浮かぶ艦隊へ逃げていったらしい。一人で無鉄砲に突っ込まず助けを求めに来たのは偉い。ベルが捕まったのは完全に俺のミスだ、拉致をしたのは手だれの輩だったということから今のベルであれば複数人に取り囲まれると少々厳しい。それはまたブラウニー君も同じだ。
また遊撃隊として本軍とは派少し離れた地域での散発的な戦闘に赴いていたのも俺の指示や判断ミスと言える。この非常事態にも冷静に対応しようとする彼を非難する要素はかけらもないだろう。
ということで俺は半ば理性を失いながらも、残った思考をフル活用して"敵"の居場所を探し求める。ベルはファストリアにとっても、そしてこの五大陸(四大陸)にとっても重要人物だ。魑魅魍魎渦巻く王宮や貴族たちの思惑があろうがポーソリアルとしてはそんな内部事情は関係なく大変貴重な捕虜になりうる。ならば、出来るだけ身近においておきたいはず。
そして俺が下した判断は、敵の本陣。つまりあの前回の主力艦よりも明らかに巨大な艦体を誇る旗艦と見られる船に向かうこと。ど真ん中に突っ込むことになるが、このパワーアップにパワーアップを重ねた状態の今のヴァン=ナイティスであれば、周りを気にしながらは流石に少し難があったものの単独行動においてはたとえあの紫の光線であろうと有用な攻撃にはなり得ない。
「ぐはっ!」
「ん? おい、どうした! ってな、なんだ貴様!? もしかしてさっき命令にあった少年か?」
その判断の通り、大急ぎながらも無用な戦闘で彼女が敵陣内で窮地に立たされるのを避けるため魔法を用いて迷彩状態になった後、高速で飛翔し敵艦に近づくと。乗組員の一人が倒された相方を見やったところであえて姿を表し簡易的な尋問を行うことにする。
「余計な真似はするな。下手に動くとこいつとお前の首が飛ぶぞ」
「なにを!?」
「見ていなかったのか? 俺の魔法は全てを破壊する。勿論、この艦も、ほかのポーソリアル兵も何もかもをだ。お前の判断ひとつで数万人の命が左右される、よく考えて発言することだな」
「くそっ、魔王め!」
どうやら俺は短時間であるのに既にポーソリアル軍の間で魔王扱いされているようだ。だがそれは本来俺が望んだこと。そうなるように人間を超越した力を見せつけたのだから思惑はうまくいっていると言えるだろう。
「国を裏切ったと言われるのが怖いのか? 安心しろ、ここで聞いたことは誰にも話さない。ただ探し人の居場所を知りたいだけだ。手短に答えろ、この船に荒っぽい雰囲気の男たちが捕虜を連れてこなかったか? もし知らなかったら、尋問室がどこにあるのか教えろ」
「そ、そんな男のことは知らない。だが尋問室ならば喫水二階の左奥にある。真下がエンジンルームで、なにあった場合真っ先に死ぬことになる価格だ。これでいいのかーーぐあっ!!」
「ご苦労」
聴きたいことは聴け出したので、昏倒させた後見つからないうちに素早く艦内へ。うん、どうやら探知機のようなものはないようだ。結構ざるな警備なんだな。
「えっと、ここら辺か?」
そして、静音と迷彩を組み合わせ敵に見つかりにくくしながら移動し、目的地へ。その区画はかなり暗く、中の様子は明かりがなければほとんど確認できないほどだ。
「どこにいるんだ、ベル……!」
三角の形をした変な帽子を被った見張り? の兵士を倒し、中に入る。だがどの牢も"空っぽ"だ。言い方を変えれば、生きた人間はおらず全てが死体であった。
「これはひどいぞ……」
すえた血や臓器の臭い、腐乱した死体、最近のものだろう物言わぬ『被害者』たちが壁に寄りかかったりしている。みたところ、拷問のような跡が付いている身体もいくつか確認できたし、捕らえた兵士がどのような扱いを受けていたか想像に難くない。
「ベル、無事でいてくれよ!」
だが生きた人の気配はないし、リスクを承知で炎魔法で灯りを出して見渡してみたがやはり人影は見当たらない。この短時間で彼女を骨に替えたとも思えない。あのさっきの兵士が嘘を教えたようにも見えなかった、ここが懲罰房などではなく捕虜のための部屋であることは間違いなさそうだ。
「なぜだ、ではどこに……もしや、司令室に? 手元に置いておき交渉材料にするつもりか、もしくは高官や指揮官直々に尋問を行っているのか。くっ、時間の無駄だった」
仕方なく、尋問室をでる。こうしている間にも、ベルが酷い目にあっているかもしれない。早く助け出さないと!
「!! ここか!」
俺は艦内から一度出て、司令室のある艦橋の窓を覗く。すると、予想通りそれっぽい半面を窓に囲まれた大きな部屋があった。しかも中にいるのは。
「アンダネト大統領! 国家元首直々に来てくださるとは、大層なこって。余程今回の戦に勝つ自信があるのだろう。だとすれば捕縛を指示したのもヤツかもしれないな」
俺を誘き出すための罠か? と一瞬考えもしたが、例えそうであろうと関係ない。立ち塞がる壁は全て吹き飛ばせばいいだけなのだ。
「おりゃ!」
そして有言実行、壁ならぬ窓に体当たりしてぶち破り、中に。
「!! 何者だ!」
こちらに気がついた敵兵の一人が誰何する。もう姿を隠す必要はないだろう。
「!? お前は、魔王!」
その他の兵士たちもすぐさま武器を構え、いつでも戦闘を始められるようにする。緊迫感が司令室を覆う。
「そうだ、魔の王ことヴァン=マジクティクスである! 無知暴虐の蛮族に拐われた妻を取り返しに来た、どこにいるのだ、早く答えるのだ!」
それっぽい言い回しをしてみる。うーん、個人的に微妙かな、練習しておこう。
「ふっ、そう慌てるな少年よ」
相対するは、敵将であるポーソリアル共和国大統領オールドリン=ニュウ=アンダネト。身長二百センチはあろうかというスキンヘッドの巨漢。
「ここに」
「はっ!」
兵士の一人が奥にある死角となった小部屋から誰かを連れてくる。
「!! ベル!」
「ふぁん! たふけへ!」
猿轡をされ、縄でガチガチに縛られている探し人が遂に現れた。よかった、それ以外に目立った傷はなさそうだ。また捕まってそれほど経っていないのもあっただろう、もう少し遅ければ……想像したくもない。
「今助けてやるからな!」
「ふふ、だから言っているだろう? そう慌てるな、と」
「何がだ、お前たちは今ここで一瞬にして殺せるのだぞ、さっきの攻撃を見ていなかったのか? 大統領閣下のご慧眼も余程の節穴と見受けられるな」
「それで挑発しているつもりか? 弱い犬ほどよく吠えるというが、正しくお似合いの言葉だ。いや、この場合は虫けらの方がより正確かな?」
周りの部下たちから嘲笑が湧き起こる。
「強がりはよせ、本当に死にたいのか? 今ここでお前たちを殺せば停戦交渉の時にややこしくなるから生かしておいてやっているだけだ。それに、こちらには重要な手駒も控えている。言っている意味はわかるな?」
「ああ、アレか。私の娘のことか」
「そうだ」
因みにマリネさんは例の如く王城で軟禁である。今更余計な真似はしないだろうが念のためロンドロンドには連れてきていない。
「それがどうした」
「なに?」
「ポーソリアルは大統領制、お前たちの国のような独裁者が一方的に民を詰るシステムではない。私が死んでも副大統領が代わりを務め、すぐに後任の選挙が行われる。王が死んだだけで狼狽えるような未開の部族と一緒にしないで欲しい」
「それでも、このままポーソリアルに乗り込んで国をめちゃくちゃにすれば? 傀儡政権を立てることも可能だ。お前の理論はあくまでポーソリアルという国が国の体をなしていることが前提。従属国となればその理屈も通用しなくなるとは考えないのか」
こんな言い合い間違いなく無駄な"議論"ではあるが、ここで下手に攻撃に出れば後々尾を引くのは確実だ。責めて大統領だけでもベルと入れ替わりに捕虜にできれば……しまったな、もう一人くらい連れてくればよかったか?
「!!?? これは、何事です!」
するとそこに、見知った金髪ロングの女性が。共和国にいた時俺にやたらと突っかかってきたマリネスキーのシャキラ参謀だ。
「おお、いいところに来たなシャキラ参謀」
「はっ、して、こやつは確か。なぜこのような場所に敵が!」
「詳しいことは今はいいだろう。それよりも砲撃の準備は整ったか?」
「はっ、いつでも可能であります」
「そうか、やれ」
「はっ」
シャキラ参謀はそのままついて来ていた部下に指示を出す。
「おい、まさか!」
「その通りだ。ふふふ、貴様の持つ力が異常なのは分かった。だが、その異常が取り除かれた戦場に我らの砲撃を加えればどうなるか? ははは、あっははははは!!」
そして未だ敵味方入り交じる戦場に向かって、沈め切れなかった艦から数え切れない本数の紫の光が放たれた。
          
「ベルはどこだ!」
ブラウニー君からの知らせを聞いた俺は、すぐさま彼女を探しに行く。彼の話だと攫った奴らは海に浮かぶ艦隊へ逃げていったらしい。一人で無鉄砲に突っ込まず助けを求めに来たのは偉い。ベルが捕まったのは完全に俺のミスだ、拉致をしたのは手だれの輩だったということから今のベルであれば複数人に取り囲まれると少々厳しい。それはまたブラウニー君も同じだ。
また遊撃隊として本軍とは派少し離れた地域での散発的な戦闘に赴いていたのも俺の指示や判断ミスと言える。この非常事態にも冷静に対応しようとする彼を非難する要素はかけらもないだろう。
ということで俺は半ば理性を失いながらも、残った思考をフル活用して"敵"の居場所を探し求める。ベルはファストリアにとっても、そしてこの五大陸(四大陸)にとっても重要人物だ。魑魅魍魎渦巻く王宮や貴族たちの思惑があろうがポーソリアルとしてはそんな内部事情は関係なく大変貴重な捕虜になりうる。ならば、出来るだけ身近においておきたいはず。
そして俺が下した判断は、敵の本陣。つまりあの前回の主力艦よりも明らかに巨大な艦体を誇る旗艦と見られる船に向かうこと。ど真ん中に突っ込むことになるが、このパワーアップにパワーアップを重ねた状態の今のヴァン=ナイティスであれば、周りを気にしながらは流石に少し難があったものの単独行動においてはたとえあの紫の光線であろうと有用な攻撃にはなり得ない。
「ぐはっ!」
「ん? おい、どうした! ってな、なんだ貴様!? もしかしてさっき命令にあった少年か?」
その判断の通り、大急ぎながらも無用な戦闘で彼女が敵陣内で窮地に立たされるのを避けるため魔法を用いて迷彩状態になった後、高速で飛翔し敵艦に近づくと。乗組員の一人が倒された相方を見やったところであえて姿を表し簡易的な尋問を行うことにする。
「余計な真似はするな。下手に動くとこいつとお前の首が飛ぶぞ」
「なにを!?」
「見ていなかったのか? 俺の魔法は全てを破壊する。勿論、この艦も、ほかのポーソリアル兵も何もかもをだ。お前の判断ひとつで数万人の命が左右される、よく考えて発言することだな」
「くそっ、魔王め!」
どうやら俺は短時間であるのに既にポーソリアル軍の間で魔王扱いされているようだ。だがそれは本来俺が望んだこと。そうなるように人間を超越した力を見せつけたのだから思惑はうまくいっていると言えるだろう。
「国を裏切ったと言われるのが怖いのか? 安心しろ、ここで聞いたことは誰にも話さない。ただ探し人の居場所を知りたいだけだ。手短に答えろ、この船に荒っぽい雰囲気の男たちが捕虜を連れてこなかったか? もし知らなかったら、尋問室がどこにあるのか教えろ」
「そ、そんな男のことは知らない。だが尋問室ならば喫水二階の左奥にある。真下がエンジンルームで、なにあった場合真っ先に死ぬことになる価格だ。これでいいのかーーぐあっ!!」
「ご苦労」
聴きたいことは聴け出したので、昏倒させた後見つからないうちに素早く艦内へ。うん、どうやら探知機のようなものはないようだ。結構ざるな警備なんだな。
「えっと、ここら辺か?」
そして、静音と迷彩を組み合わせ敵に見つかりにくくしながら移動し、目的地へ。その区画はかなり暗く、中の様子は明かりがなければほとんど確認できないほどだ。
「どこにいるんだ、ベル……!」
三角の形をした変な帽子を被った見張り? の兵士を倒し、中に入る。だがどの牢も"空っぽ"だ。言い方を変えれば、生きた人間はおらず全てが死体であった。
「これはひどいぞ……」
すえた血や臓器の臭い、腐乱した死体、最近のものだろう物言わぬ『被害者』たちが壁に寄りかかったりしている。みたところ、拷問のような跡が付いている身体もいくつか確認できたし、捕らえた兵士がどのような扱いを受けていたか想像に難くない。
「ベル、無事でいてくれよ!」
だが生きた人の気配はないし、リスクを承知で炎魔法で灯りを出して見渡してみたがやはり人影は見当たらない。この短時間で彼女を骨に替えたとも思えない。あのさっきの兵士が嘘を教えたようにも見えなかった、ここが懲罰房などではなく捕虜のための部屋であることは間違いなさそうだ。
「なぜだ、ではどこに……もしや、司令室に? 手元に置いておき交渉材料にするつもりか、もしくは高官や指揮官直々に尋問を行っているのか。くっ、時間の無駄だった」
仕方なく、尋問室をでる。こうしている間にも、ベルが酷い目にあっているかもしれない。早く助け出さないと!
「!! ここか!」
俺は艦内から一度出て、司令室のある艦橋の窓を覗く。すると、予想通りそれっぽい半面を窓に囲まれた大きな部屋があった。しかも中にいるのは。
「アンダネト大統領! 国家元首直々に来てくださるとは、大層なこって。余程今回の戦に勝つ自信があるのだろう。だとすれば捕縛を指示したのもヤツかもしれないな」
俺を誘き出すための罠か? と一瞬考えもしたが、例えそうであろうと関係ない。立ち塞がる壁は全て吹き飛ばせばいいだけなのだ。
「おりゃ!」
そして有言実行、壁ならぬ窓に体当たりしてぶち破り、中に。
「!! 何者だ!」
こちらに気がついた敵兵の一人が誰何する。もう姿を隠す必要はないだろう。
「!? お前は、魔王!」
その他の兵士たちもすぐさま武器を構え、いつでも戦闘を始められるようにする。緊迫感が司令室を覆う。
「そうだ、魔の王ことヴァン=マジクティクスである! 無知暴虐の蛮族に拐われた妻を取り返しに来た、どこにいるのだ、早く答えるのだ!」
それっぽい言い回しをしてみる。うーん、個人的に微妙かな、練習しておこう。
「ふっ、そう慌てるな少年よ」
相対するは、敵将であるポーソリアル共和国大統領オールドリン=ニュウ=アンダネト。身長二百センチはあろうかというスキンヘッドの巨漢。
「ここに」
「はっ!」
兵士の一人が奥にある死角となった小部屋から誰かを連れてくる。
「!! ベル!」
「ふぁん! たふけへ!」
猿轡をされ、縄でガチガチに縛られている探し人が遂に現れた。よかった、それ以外に目立った傷はなさそうだ。また捕まってそれほど経っていないのもあっただろう、もう少し遅ければ……想像したくもない。
「今助けてやるからな!」
「ふふ、だから言っているだろう? そう慌てるな、と」
「何がだ、お前たちは今ここで一瞬にして殺せるのだぞ、さっきの攻撃を見ていなかったのか? 大統領閣下のご慧眼も余程の節穴と見受けられるな」
「それで挑発しているつもりか? 弱い犬ほどよく吠えるというが、正しくお似合いの言葉だ。いや、この場合は虫けらの方がより正確かな?」
周りの部下たちから嘲笑が湧き起こる。
「強がりはよせ、本当に死にたいのか? 今ここでお前たちを殺せば停戦交渉の時にややこしくなるから生かしておいてやっているだけだ。それに、こちらには重要な手駒も控えている。言っている意味はわかるな?」
「ああ、アレか。私の娘のことか」
「そうだ」
因みにマリネさんは例の如く王城で軟禁である。今更余計な真似はしないだろうが念のためロンドロンドには連れてきていない。
「それがどうした」
「なに?」
「ポーソリアルは大統領制、お前たちの国のような独裁者が一方的に民を詰るシステムではない。私が死んでも副大統領が代わりを務め、すぐに後任の選挙が行われる。王が死んだだけで狼狽えるような未開の部族と一緒にしないで欲しい」
「それでも、このままポーソリアルに乗り込んで国をめちゃくちゃにすれば? 傀儡政権を立てることも可能だ。お前の理論はあくまでポーソリアルという国が国の体をなしていることが前提。従属国となればその理屈も通用しなくなるとは考えないのか」
こんな言い合い間違いなく無駄な"議論"ではあるが、ここで下手に攻撃に出れば後々尾を引くのは確実だ。責めて大統領だけでもベルと入れ替わりに捕虜にできれば……しまったな、もう一人くらい連れてくればよかったか?
「!!?? これは、何事です!」
するとそこに、見知った金髪ロングの女性が。共和国にいた時俺にやたらと突っかかってきたマリネスキーのシャキラ参謀だ。
「おお、いいところに来たなシャキラ参謀」
「はっ、して、こやつは確か。なぜこのような場所に敵が!」
「詳しいことは今はいいだろう。それよりも砲撃の準備は整ったか?」
「はっ、いつでも可能であります」
「そうか、やれ」
「はっ」
シャキラ参謀はそのままついて来ていた部下に指示を出す。
「おい、まさか!」
「その通りだ。ふふふ、貴様の持つ力が異常なのは分かった。だが、その異常が取り除かれた戦場に我らの砲撃を加えればどうなるか? ははは、あっははははは!!」
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