俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第221話


陛下たちにこれからの"作戦"を話し、戦場に戻る。
どうやらあの紫の光線では幸いにも本陣がやられることはなかったらしく、連合軍側の重要人物は皆生き残っていた。

「それじゃあベル、行ってくる」

「うん。今更だけどやり過ぎないでよね」

「大丈夫だ、程々に痛めつけてくるからさ。そうだなあ、だいたい魔王って呼ばれるくらいでいいかな?」

「んもぅ、ヴァンったら」

お互いに今後の歩む道人生をわかった上での冗談を交わす。二人とももう後戻りができない状態が故のじゃれあいだ。彼女も俺と一緒に『魔の王』の一味になったのだから。

「さてさて、そろそろ戻っている頃かな」

空に浮かび、先ほど交渉をした場所まで向かう。
するとそこにはすでに、あの隊長格の男が待機していた。

「き、来たか……」

「ああ。それで?」

「…………その」

「ん? なんだ、早く言ってみろ。降参するのかしないのか。しないというならば、またあの死の炎がお前たちを襲うことになるぞ?」

「ぐっ……! お、お願いがある!」

「え?」

男は当然、空中で器用に頭を深く下げる。

「見逃して欲しいんだ。俺のことじゃない、こいつら空中部隊の隊員だけでも! あいつらは愛国心は強かれど、お前達を蛮族だなんだと蔑む奴らはいない。本当に任務に実直なだけなんだ」

「は? つまりは仕事で来ているだけだから許せと、そう言っているわけなのか?」

「そ、そうだ。虫のいい話だというのはわかっている。実際、武装をして領空侵犯をしている時点で戦争行為に加担しているし殺されても文句が言えないのも確かだ。でも、あいつらにも未来がある! 家に帰れば家族が待っていて、まだ幼い子供がいるやつだって何人もいる。食わすためにはどんな危険な命令でも聞くしかない、軍人の辛いところだ」

んー、なんだかなあ。

「そんなの、なんの理由にもならないだろう。自らソレを断られる事由を積極的に説明しているのに俺が素直に頷くと思っているのか? そっくりそのままお返しすればその時点で再び魔法や銃弾が飛び交うんだぞ。もっと上手く交渉すればいいのに」

「でも、俺にはこうするしかないんだ……どれだけ言い繕っても、結局はこちらのわがままなのだから。寧ろ開けっ広げに話す方が俺の気持ちを直に伝えやすいと思ってな」

「ふうむ」

こいつの言っていることに耳を貸してやる義理は微塵もない。家族が待っているとか、そんなの殺されたこちらの兵士にも当てはまることだし、それはあちらのソレも同じだろう。たまたまこうして交渉しているからといって、自分たちだけ空中部隊でも見逃して欲しいと打診するのはわがままを通り越して敵味方双方から傲慢と罵られても仕方のない行為。

「しかしそれは、背信行為というやつに当たるのでは? 例え逃げおおせたとしても、国に帰れば批判を一身に受けるのは目に見えている。そこまでして生き延びて、どうするつもりなんだ」

「それは……人間生きていたら何とかなる、最悪亡命でも何でもすればいいさ。ポーソリアルは強国とはいえ、敵対する国は幾つも存在する。それらの国に手土産を持っていけばそれ相応の待遇を受けられるかもしれない」

「なるほどな。そこまでして生き延びたいというのはある意味感心する。確かに、着の身着のままであろうとも雑草を食もうとも生きる意志が有れば何とかなることもあるというのに関しては同意しよう。だが、残念ながらそれ以外の部分については理解もできないし同意はしない」

「な、何故だ!」

俺が首を振って見せると、隊長は大変慌てた様子を見せる。

「それは、俺は俺の住む国を愛しているからだ。為政者であらせられるレオナルド陛下もそうだし、生まれ育ったナイティス村もそうだ。俺という存在を構成するあらゆる環境に感謝し恩返しをしている最中なのだから」

「つまり、俺とは思想が合わないと」

「そんな簡単な話じゃない。ウマが合わないからと言ってすぐさま殺したりするほど俺も殺戮に飢えているわけじゃない。ただ、俺が守りたいものを守るためにはこの力を十全に振るうしか他に方法がないことに気がついたんだ。目の前から一人でも生かして帰したら、俺が護りたいものを護れなくなる可能性が高まってしまうからな。自分が傷つくことで護れるものがあるならば、俺はその大事なものを傷つける奴らを排除する。人間だろうが魔物だろうが、な。だから、俺は『魔王』と呼ばれることを敢えて受け入れる。寧ろ自分から名乗ってもいいとさえ思っている」

「そんなの、ただ恐怖で支配しているだけだ! 全然素晴らしくとも何ともない!」

「素晴らしい? 素晴らしくない? 何の話だ? 俺は他人からの評価なんて気にしていない。実行に移すべきことをそうしているだけなのだから。例え護りたいものに恐れられたとしても、呆れられたとしても。無事にそのまま存在し続けてくれるので有れば満足だ。その点で言えば、仲間の命を護ろうとプライドも何もかもを犠牲にしようとするあんたと同じかもしれないな」

「……一緒にするな、この化物め!! 貴様に頼んだ俺が馬鹿だった! もう知らん、撤収・・する!」

「戦地で敵に背を向けるつもりか?」

「そうだ。こんな危ないところさっさとおさらばしたいからな」

「はっ、臆病風に吹かれたか? まあ俺の攻撃がたまたま外れる・・・・・・・かもしれない・・・・・・が、少なくともこの戦場にいる限りそれを責める味方は誰もいないだろう。それともそちらには態々敵の攻撃に当たりにいけなんて意味不明な命令を下す上司がいるのか? まあそれとは別にお前も死ねば良かったのにと他の部隊の遺族に罵られる可能性はあるかもしれないが、そんなところまで面倒は見きれないぞ」

「感謝する、『魔王」よ」

隊長は今一度、深く頭を下に向ける。

「魔王に頭を下げる、ね。少し前までなら人類の敵としてそれこそ全世界から罵られたかもしれないな」

「ふっ、確かに。では」

「ああ。御武運を、なんちってーーーー」



ーーーーキュイィーーンン!!



「「!!」」

部隊長が一旦敵陣に引こうとした瞬間、突然紫色の光が俺たちに、襲い掛かった!

「……っぶねえ!!」

だが、俺は瞬時に障壁を展開し何とか二人ともを収める。コンマ単位での差によりなんとか部隊長が蒸発・・するのを防げた。

「い、一体どうして!? 俺は味方だぞ!」

光線は斜め下、海上から撃たれたため空の彼方に伸びていきそのまま消失する。

「恐らくは捨てられたのだろう。俺と交渉しているところを狙って戦力が多少減ろうとも諸共撃ち落とすつもりだったんだ」

「そんなっ、俺は見捨てられたというのか!?」

部隊長は当然怒りをあらわにする。でも俺に向かって怒鳴りつけるのは違うと思うぞ。

「わざわざ言わないといけないか?」

「……すまん、八つ当たりだ」

「いい。しかしこうなるともはやどちらが蛮族なのか……手段を選ばず勝てばいいなんていうのは先進的な国家と言えるのかねえ」

「耳が痛いな……くそっ、くるぞ!」

「ああ」

遠くから、別の部隊がこちらに向かって高速で空を飛んでくる。地面には、連合軍の隙間を縫って魔法使いが展開しているのも確認できる。

「くっ、どうする!」

「撃ち落とす、いや、撃ち殺す。今更文句を言うなよ」

「いいや、もう俺はポーソリアルから見捨てられた身。後は野となれ山となれだ。味方を集めて避難する、おそらく俺も狙われることになるだろう。愛国心はあるが、今の政権にはぶっちゃけ辟易してきたんだ。しばらく隠居をするのもいいかもな……だが、嫁さん達をどうするか」

「それなら、俺が回収してやるよ」

「は?」

部隊長は訝しげに眉を釣り上げこちらを見つめる。

「どうやるってんだ魔王様よ」

「簡単だ、転移だよ転移」

「転移?」

「魔法を用いた瞬間移動だ。あの大陸だろうがひとっ飛びだぞ、まさに秒もかからない瞬間的な技だからな。因みに家族はどこに住んでいるんだ?」

「それは……後にしてくれ! くるぞ!」

「おう! だがそう慌てるな。『サチポカ』!!」

俺は周りを取り囲む敵兵に対して、『サーチアンドアポカリプス』を放つ。魔導兵器で武装していようが一瞬にして命を失い、地上へ落下していく。この高さなら死体も無事では済まないだろう。また真下に陣取る魔法使い達にも攻撃は追尾する。地面を土埃が覆い、ものの数秒でこちらを撃退しようしていた数百の戦力は逆に壊滅してしまった。

「な、なんて強さだ……小説なら数行で描写できてしまいそうな早技だな」

「やけに具体的だな? えっと、とりあえず次の敵が来る前にその部隊員とやらをここに集めてくれ。さっき言った転移で安全なところに運んでやるよ」

「わかった、頼む」

そして部隊長は空を駆け回りに行く。

「それにしても舐めた真似をしてくれるなほんと……停戦の意志がないなら、今度こそ全滅してやる!」

俺は先程不意打ちで光線を放ってきた敵艦どもに向かって『サチポカ』を放ち撃沈していく。

「地上にいる奴らも見せしめにやってしまうか。魔王だからな、きちんと恐ろしさを植えつけてやらないと」

そのまま下降し、地上に降りる。だだっ広い海岸近くの平地は攻撃の余波によってボコボコに凹んでしまっていた。そこを味方の兵士たちが呆然と眺めている。

「あっ! ヴァン部隊長!! た、大変です!」

すると降り立った直後、見覚えのある人物が焦った調子で話しかけてきた。

「あ、確かブラウニー君だっけか? どうしたんだ? この攻撃なら見ての通り俺がやったものだが。やっぱり本陣で何か問題になってたりする?」

「そ、そうではありません! ベル小隊長が! 勇者様が!」

「!?」

その知らせを聞いた俺は、頭の先から爪先まで、自分でもコントロールできないくらいのとてもない激情に包まれた。


          

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