俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第153話

(いつも本作品をご愛読いただき誠にありがとうございます。毎日の投稿が、少しでも皆様の気晴らしになれていれば幸いです。より多くの方の心の安らぎになるよう、よろしければ、周りの人々に薦めていただければ嬉しく存じます)




「そうはさせるか!」

一瞬の判断だった。
相手の元は人間らしきなんらかの事情、そして今は魔物になってしまったという話から。俺は、『浄化の光』を出現させ突き刺した。
きっと、先ほどあの女指揮官に同じようにしたことが記憶に残っていた故の行動だろう。

「ナニヲスルッ!」

光をどんどん溜め込み輝くタコ。まるで海ホタルのようだ、ゆらゆらと揺れる触手がサイリウムのように見える。放置していたら何かが起きるのは間違いない。腕に光の剣を伸ばし、頭の先から急いで突き刺してやる。

「オギョッ!?」

タコはその大きな瞳を見開き、サメのように尖った歯がびっしりと三重になって生えている円形の口から宙によだれを飛ばす。

「ナンダ!?」

「何があったのかは知らないが、自棄になって俺たちの暮らしを破壊されても困るんだ! 大人しくしやがれタコ野郎!」

巨体を串刺しにしていく。そのたびに、触手を使い振り落とそうとしてくるが、障壁魔法で防御する。

「クッ、マケンゾオオオオ」

「おっ?!」

だが、タコは急に跳ね上がると、上下を真っ逆さまにして海面に自ら突っ込む

「ごぽっ」

「オオオオオオ! マダマダッ!」

「く、くるしっ」

海底面まで一気に下降すると、そのまま砂に俺を擦り付けるようにして横泳ぎする。くそっ、早く邪悪な気が抜けないのか! これほど巨大な相手を浄化するのは初めてなので、
思ったよりも時間がかかる。今では剣の一振りでコトを解決してきたからな。

『浄化の光』は、俺のステータスとは全く関係がないナニカを使ってその存在を顕現させているようだ。以前王都で捕縛された魔物を使って実験したときについでに調べたのだが、長さをある程度自由に変えられるとはいうものの、二、三メートルならまだしも長くなればなるほど集中力と時間が必要なことがわかっている。
おそらくだが、俺の数値ステータスに見えない精神力みたいなものに依存しているのではないだろうか? だとすれば、タコのこの攻撃はある意味正解かもしれない。

「息がっ」

いくらこの世界でも上位の強者であろう俺でも、インフレ格闘漫画みたいに水中でいつまでもバトルできるなんて身体にはないっていない。当然だが、人間としての延長線上に存在している。
こんなことなら、水中で息ができる魔法でも作っておけばよかった……こちらも、強くなったからと言って一瞬で魔法が使えたりするわけではない。クリエイト創造した魔法がきちんと効果があるものか確かめなければならないし、そもそもの話、この世界でスキルやギフトを使う時って制約が多いんだよなあ……

「もう、少しっ、ぽいか!?」

「グギギギギッ!」

しかしそれでも、五分以上潜っている感覚だがまだ息は持つ。とにかく、こいつの身体を貫いて、変身させている魔の力を抜き切らないと!

「ゴゲッ!?」

「!」

一定の深さに達したところで、いきなりタコが動きを緩めた。

「ゴギェ、ニンゲ、ン、ヤメ、ロオオッ!」

「もしかして、やったのか?!」

速度を遅めつつ、触手をのたうちまわらせる。
遂には、海底に留まり、何やら苦しげにその大きな瞳を動かし始める。

「ハ、ハイッテクルナアアアアッ! ワタシノナカニ、オブツヲサシコムナ!!」

「そうはいくか、最期まで付き合ってやる! 覚悟しろ!」

「プゲッ、ポギョッ、オペブチナッ!?」

俺は進むのをやめたタコを、今度はこちらから引き摺り回しながら海面へと持ち上げる。

「いい加減に、くたばれ化け物おおおおお!」

「ゴポポポポポッ!」

銛漁の要領で、引っ張られるタコ。
すると、その触手の先っぽが干からびるようにして黒ずんでいくのが見えた。

「ダ、ダメ、ヤメ、ロ……! ワタシノ、ジャマ、ヲ」

「どんな理由があるにせよ、放っておくわけないだろう! いい加減諦めろ」

「アアアアアアアアアッ!」

さらには、差し込んでいるその胴体までもが、次第に縮んでいく。空気の抜けた紙風船のように皺皺になっていく様は少しシュールだ。

遂に海面に到達し、そのまま空中に引き摺り出すようにして持ち上げていく。
大きな音を立てながら水柱が立ち昇り、タコの巨体はいつしか十数メートルほどにまで小さくなっていた。

「ホオオッ!」

「うぉっと」

タコはすると、『浄化の光』を軸にしながら突如回転し始める。
頭の天辺に穴が空き、そこから俺の腕から伸びる擬似的な剣が抜け落ちた。

「なにっ!?」

「フハァ、フハァ、ヤッタ、ゾ!」

「んなことありえるのかよ!」

体の上下から黒い粒子を垂れ流しながらも、当初からすれば随分と小さくなったタコは干からびた触手を再び自切するすると、その切った触手を開いた穴にぶち込んだ。
穴にすっぽりとはまった触手は生き残っている部分がウネウネと動いていて気持ち悪い。宇宙人か何かかよ……

「ヨ、ヨクモヤッテクレタナ、ニンゲンヨ! モウヨウシャセン!」

「まだ抗うつもりか、いい加減大人しくお縄につけ!」

「ソウイウワケニハイクマイ。コノチニイルニンゲンヲスベテホロボス、ソレガシメイナノダ!」

「またかっ!」

最後の抵抗なのか、三度口に光線を溜め始めたタコ。

しかし、『浄化の光』は体から抜けただけでまだ残っているぞ!

「今度こそこれで終わりだ、タコ野郎!」

「グギギギギ! シネ、クソガキ!」

俺は剣を今度は口元に直接差し込もうと空中浮遊しながら敵に突っ込む。

「うおおおおおおお!」

「キシャアアアアアッ!」

そして、光が口腔を貫くと同時に、赤黒い光線が俺の全身を覆い尽くしそのまま後方に向かって伸びていく。
けたたましい音を立てながら水柱が何本も立ち上がり、海面を荒らしていく。
一方の俺も、相手を串刺しにするよう横から必死に『浄化の光』を伸ばす。

「グギッ、ゴキャッ、マケ、ナイ! シ、シネ、ニン、ゲ……ン!」

タコは触手を使って俺を拘束するが、もはや何も問題はない。

「これで今度こそホントのホントに、チェックメイトだ!」

俺のステータスが光線の威力を上回り、遂に背中にかけて貫き通す。



「ゴポポ----! ムネ、ン……」



タコの動きが固まると同時に、光線が段々と細くなっていく。そして水柱がこちらに近づいてきて、背後で一際大きな水しぶきを上げながら海面が爆発する。

タコの胴体がさらに小さくなっていき、触手も次々と萎れていく。
最後にその黄色い大きな目が充血し、飛び出るようにし見開かれる。
そのまま、眼球はグルグルと右往左往と高速回転しながら、なんとこちらに向かって飛び出してきた。

「うげっ」

慌ててそれを避け……ついでになんか使えるかもとさっと拾って倉庫に突っ込む。き、きもい……

「ゴポ……ポ……」

眼窩から血を垂れ流しつつ、どんどんと縮小していく。
そして最後には、一人の女性の姿となった。

「ん!? また裸!?」

その女性は、濃い紫色に染められた髪を伸ばし放題にしており、お尻の辺りまで背中を覆ってしまっている。前の方は片側が口元あたりまで垂れ下がっており、その顔面の全容を見ようと髪をのけると。

「えっ、どうしよう」

なんと、その覆っている方の眼窩右目が、先ほどのタコのように抉れてしまっていた。

「と、とりあえず陸に戻ろうっ」

俺はベタベタに汚れている女性を抱えながら、転移魔法で丘の上にある屋敷まで瞬間移動した。

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