俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第150話


「であるからにして、我らの要求する額は……」

神官によりとりあえずはあの女性が本当に『マリネ=ワイス=アンダネト』なる名であることと、ポーソリアル共和国の遠征軍総司令であることを確認できた。
後は尋問のプロにお任せして、会議室内では引き続いて各国首脳による戦後賠償等の話し合いがもたれている。

「それならば、私たちの方がより多くの兵力を注いでいます。三パーセントの増幅を求めます」

「そうなると、貴国の分を少々振り分けさせていただかなければならないのだが?」

「なっ!? 我らは特に増減を求めていない! 何故この二人の言い分のせいで、大切な国民に与えるべき益を逃さなければなるまいかっ! それに兵力ならまだしも、物資などを含めた総合的な国力の投入は他国に負けておらんぞ?」

…………まあご覧の有様なのだが。



各国にとっては、ポーソリアル軍が想定していたよりもずっと早くに瓦解してしまった為、各国の持ち寄った物資や兵力の消耗はそれほど多くはなかった。なので生きてしまった・・・・・・・兵が沢山がいるのでその分賠償を求めるバランスが崩れているのだ。
本来ならば、壮絶な戦いになることは必至。いかに俺のステータスが高かろうと、敵兵を皆殺しにしてはい終わり、というわけにはいかない。きちんとお互いが戦争をしましたという名目を作っておかなければ、どんな屁理屈を持って再び攻めてくるとも限らない。しかも今度はこちらがそうして対抗した連合軍ように違う国も引き連れてくる可能性だってあるのだ。

ポーソリアル側に下手に言い訳を与える要素を作るべきではないし、あまり派手にやりすぎるとどんどんと応酬が過激化していくのは目に見えている。戦争の落とし所のためにも、無力化プラス指揮官の捕縛というのが塩梅であった。
あんな以上な姿になってしまっていたので一時はどうなることかとヒヤリとはしたが、無事『浄化の光』によって元に戻ったので安心だ。それに、あの女指揮官は国家としても個人的にも何やら複雑な事情を抱えているようだという簡易的な報告も既に上がってきている。そこを突けば、ポーソリアルに対して更なる圧をかけられるかもしれない。

復讐は更なる復讐を生む。未だ相手国の全容が見えてはいないとはいえ、野蛮人であると侮られているならば、むしろこちらが一部でも紳士的な対応を見せ鼻をあかしてやるのも悪くないだろう。

……そもそもこんなに言い争っているのは、おそらくは俺のせいであるのだが。だって、ファストリア以外の各国に住まう人々は俺が勇者パーティに選ばれたからといっても、その実力は殆ど知らないのだから。旅の途中に国元に戻されて以降、竜の里以外外国に向かうことはなかったし。
なので本来お披露目の場であった魔族討伐は各国の残存兵力によりちまちま行われている状態であり、北方のベルたちがこれから届く兵力や物資によってどれだけ魔王側残党を押し返すかがキモになっている。

またもう一つは当然、ベルちゃん達の存在だ。こちらも、ドラゴンという恐ろしい存在についての共有意識はある。だが、その身から発せられる攻撃の威力も、俺の存在同様に実際にその目で見たものは殆どいない。せいぜい、ぽろっと人間の街にやってきた弱いハズレ竜が以前の旅魔王討伐の間にベル達の手によってなんとか討伐された程度だ。
つまり、人間が決死の作戦に出ようとしていたところに、予定外の味方が参戦した結果、その分の予め算出されていた物資や人間の消耗が"抑えられてしまった"のだ。

これには各国は裏で頭を抱えていることだろう。のでこうして戦後賠償の取り分を少しでも大きくして、予定外の出費の穴を埋めようとしているのだ。



そもそもの話だが、実はこの戦争において、兵を出すという名目で『口減らし』を行っている国が少なからずある。
ジャステイズの故郷、フォトス帝国のように普段から国民皆兵を謳っている国ならまだしも、魔族による侵攻でただでさえ国力が弱っている国は沢山ある。そのような国々は、ギリギリ使えるかどうかという臣民を徴兵し数合わせも兼ねてこの地に送り出しているのだ。
そうすれば、行きの食料等を用意しておけば、あとは大抵の兵は短期間の養成しか行なっていないのだからまともに戦うことはできず、単なる鉄砲玉扱いにできる。ポーソリアルの技術がどれほどのものか、南大陸の者以外は伝聞でしか知らないし、実際にその目で見る頃には戦艦やら未知の武装やらに殺されている寸法となる。

それを防いでしまったのが、これまた俺たちというわけだ。
各国が抱える本来の兵士は、どさくさに紛れて火事場泥棒隣国に侵攻しようとする国への牽制に使いたいという思いもある。ならば余計に各国としては、そろそろ役立たずになる老人達や、畑仕事にも使えるかどうかわからない病人・障害者等の弱者をこっちに回して、とりあえず抵抗しましたよポーズをとっておけば、戦後にそれなりの賠償を求めることができる。

そんな大人の事情が絡んだ故に、今こうして賠償をどれほど取るか揉めているのだ。



さらに問題なのが、賠償の総額についてだ。当たり前だが、ポーソリアルがどれほどの財力がある国なのか、俺たちはまだ詳しく知ることはできていない。
とりあえず、本来各国が貰うはずだった必要な最低限の額は補償してもらい、その上で、生き残った兵の帰還分・物資の処理にかかる余計と嵩んだ分を、この五大陸における平均的な物価と敵の戦力を比較してまとめて請求し、その中のパイを分け合うことになっている。

本当なら、それぞれの国の元首などがそれぞれ勝手にポーソリアル共和国と交渉すればいいのだろう。だが、それをすれば間違いなく天井知らずになってしまう。
というわけで、この案をレオナルド陛下が提案なされたところ、各国も渋々従ったのだ。

ファストリアは少なくとも、この五大陸の雄と呼べるほどの大国である。今代の勇者であるベル、それに俺。また神聖教会の存在。さらには突如参戦した、勇者と親しげなエンシェントドラゴンの血族。
それら諸々を勘案し、各国代表はただでさえ己の国が弱っているのに逆らうのは愚策だと理解したのだ。

「--諸君、少々よろしいか。尋問が一通り終わったようだ。これから私は話を聞いてくる。興味のある者はついてきてもらいたい。その間、一時散会としよう。あまり煮詰めても、良い案は出ないだろう。堂々巡りになるのは避けなければ、時間の無駄だ。言い合っている者は一度頭を冷やしてくることをお勧めする」

陛下がそうおっしゃると、円卓に座る周りの元首達も疲れていたのだろう、肩の力を抜き大半は了承する。まだ言い合っている者もいるが、お付きの人達が宥めているのでそのうち落ち着くだろう。

「さて、では。ヴァン=ナイティス、折角だ。付いて来たらどうだ」

「よろしいのですか? 陛下」

「かまわん」

椅子から立ち上がった陛下に声をかけられ、了承した俺は近衛騎士に守られる陛下の後ろに着く。
また、首脳陣の幾らかも同行する意思を見せた。

「では参ろう」

「はっ!」

案内役の兵に先導され、地下に作られている尋問室へと向かう。

と。

「<おい、ヴァンっ! 大変なのじゃ!>」

「<ん、なんだ?>」

突然、ルビちゃんから念話が送られて来た。

「<魔物じゃ! 魔物が現れたのじゃ!>」

「<なに? 今どこにいるんだ? そんなに慌てるような相手なのか>」

どうも、かなり逼迫した話し方に聞こえるが。

「<海じゃ! 海を見よ! お主こそ何をしておるのじゃ、なぜ気付かない!?>」

「え、海?」

「どうした、ヴァンよ」

「あ、いえ、申し訳ありません。少し、失礼してもよろしいでしょうか?」

「ん? 何か急用でも思い出したのか?」

「ええと、それが----」



「----でんれー! 伝令〜〜〜!」



陛下の問いかけに答えようとしたとき。突然、兵士が廊下の奥、屋敷の入り口方面からやって来た。

「何事だ!」

近衛がすぐさま槍や剣を構える。

「で、伝令であります、皆様方! たった今、魔物が、魔物が現れましてっ!」

「魔物だと? やけに焦燥しているようだが、強敵なのか?」

「ははあっ、それが……」


----ズズズゥゥゥン……


「な、なんだ!?」

突如、地が揺れ、皆して慌てて建物の壁に寄りかかる。

<たいひー! たいひーっ!>

<うわあああ!!>

同時に、屋敷の外があわただしくなり。

続いて、赤黒い閃光が窓の外の景色を包み込んだ----

          

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