俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第110話


「…………久しぶりだね、アデス。君まで出てくるとは思っていなかったよ」

「はい、御君。その時から長きにつきどれほど待ち焦がれたこと無限大。我が組織も随分と大きくなりまして、誠感謝の極。そのお手を煩わせたましたこと恐悦至極」

「いいよ、そのために代わりに担ってあげてたんだからね」

「ははあ、ありがたき幸せなれば、いよいよもってかまわないと判断?」

「ああ。存分に暴れてくれたまえ。君の前においては他の神々の戦いなんで児戯に等しいからね」

「その慧眼が曇っておらぬことを証明してきます故、それでは閑話休題」

「うん、がんばってね〜…………さて、そっちも動いてもらおうか、オーディジアス」

「あら、ワタクシが隠れていたこともお見通しだったのですね? 主サマ」

「まあ一応僕もアレ・・だからね。それ相応の力を有しているとは自負しているよ? まあそれもずっと前が全盛期なわけだから、今じゃあどのくらいかなんてわからないけれど。僕より強い神もたくさんいるだろうさ」

「ほほ、そんなご謙遜を。例えワタクシたちが万人束になったところで敵いません」

「だといいけどねえ。子はいつか親を抜くもの。親知らずみたいにね」

「親知らず、でございますか?」

「ああいや、なんでもない。ちょっとした"地球ジョーク"さ。さて、ではそちらも動いてもらおうか。天高く住まう神と、血の底に潜む神。どちらが強いかな?」

「それは勿論、ワタクシ達の方でございますわ。ではでは」

「うん、ばぁい…………さて、そろそろ人間の皆さんにはご退場願おうかな。今はまだその時ではない、と言ったはずなんだけど。カオスにも困ったものだなあ。じゃあ行こうか--ベルくん」

神は、仰向けに寝転ぶ少女を抱き上げた。













「ふう、ふう、な、なかなか、やるなあ、少年よ!!!
まさか、ここまで、強いとは!」

「そ、そちらこそ、流石は闘神。一筋縄じゃ、行かないなっ!」

下階層に飛ばされた俺だが、なんとか生き残ることはでき。意識を失ったドルガ様を安全な場所に隠れさせ、元王女謹製の治療薬をガブ飲みで再び戦闘モードと入った。
お腹がタポタポして苦しいし、エンデリシェからも『あまり飲み過ぎると逆にお身体に障りますのでほどほどに』と言われてきたが。こうなっては仕方がないと割り切ろう。

そして幾ばくかの戦闘を経て、今は双方結構な傷を負っている。
初めはこんなスーパーヘラキュロス状態には敵わないかと思ったが、拳を交えてみると思ったよりも戦えたのだ。
見掛け倒しというより、俺自身のパワーアップの限界がドルガ様も含めて想像以上に高かったということだろう。
しかしその反動というか、やはり身体を酷使したデメリットもあったみたいで、負わされた傷とは別に体内もダメージを負ってしまっている。

だが、ここで闘神を倒しておかなければ、彼我の戦力差を詰めることは出来ないだろう。カオスと変革派、改革を嫌うその他大勢の神々の三つ巴になっているのだから、カオスだけではなく背後から撃たれることも想定しておかなければならないのが厄介なところだ。

事前に聞いていた勢力比は1:2:7くらいということだった。ここで武力では十二神イチ、つまりほぼ全ての神の中で一番と言ってもいいのが目の前のヘラキュロス。ヤツをどうするかで戦乱の結果如何も変わってくるのは想像に難くない。

「だが、そろそろ終わりにしよう。もう時間がなくなってきているのでな。いつまでもヴァン氏に構っていられるわけではない」

「それはこちらも同じだ! いくぞ……!」

恐らくは、これが最後の衝突となるだろう。どちらが勝つにしても、この一撃に全てをこめなければ!




「--おらあああああああっっっ!!」

「--いけええええええええええ!!」

お互いに目一杯力を込めた渾身のストレートが打ち出される。そしてそれが互いの頬に当たる----ことはなかった。




「そこまでである、主等」




「「!?!?」」

突然、その顔の間に黒いモヤで出来た腕のようなものがスルッと入り込み、左右に向けた手のひらでそれぞれの拳を受け止めてしまった。

俺たちは息を合わせたようにサッと飛び退く。

「ふむ、雑魚というわけではなさそうな次第。ならばこちらも全力でいかせてもらう所存」

「だ、誰だ!?」

「神、なのか?」

カオスとはまた違った、黒は黒でも漆黒をさらに漆黒に浸けて染め上げたような全身を覆うローブを纏っている。
しかも、そのローブは所々がボロボロで、前が開かれている。のにも拘らず、その身体や顔はその一切を確認することができずただ真っ黒一色だ。まるで暗闇がそのまま自らの皮膚で編んだローブを着ているかのよう。見ているだけで意識が吸い込まれる気さえしてくるほどだ。

「名乗るほどのものでは無。ただ一言言えるのは、『ぬし』は今ここで死ぬという事。では然らば然らばの御用心」

ぬし、ということはどちらか一人が敵のターゲットなのか? と無意味な考察をしつつ、その言い回しで明らかに味方では無いことを確信する。

「!!」

「くるぞ!」

自然と一時共闘の形となるヘラキュロスと横に並び、構えをする。だが、相手がそれを一瞥? する気配を感じた。



「ああっ! わかって……なに----カハッ……!」



それとほぼ同時に、突然ヘラキュロスの全身がサイコロステーキに様変わりした。



「え? ヘラキュロス……?」

サイコロステーキは切り口から一斉に多量の血を吹き出し、そのまま綺麗に落下する。立体的な階段のように整った段々となったそれは、赤黒い塊となってモノもいわない。

「雑魚。雑魚い、雑魚雑魚。これが闘神? 笑止千万」

どう、やったのだ? 全く見えなかった。いや、敵は微動だなしていなかった。ならばどうやって? 魔法? しかし、魔力は感じなかったし、何より体をバラバラに切り刻むような攻撃であれば余波がどこかしらに残っているはずだ。
それすらも、全くなにも感じることはできない。一体なにがどうなっているのか、頭が理解するのを拒否している感じだ。

「おい……おい! なんなんだお前! 何故ヘラキュロスを殺した! ん? も、もしかしてだが、変革派の仲間なのか?」

意味不明な行動に一瞬怒りを覚えるが、すぐに思い直す。そもそもヘラキュロスは敵であって、死んだことは残念では有るが、カオスの勢力が減ったのは喜ぶべき事だ。

「変革派? ああ、『ラグナロー』。肯定。ただ、主は誰故? そちらに転がっているのは、確か……女神ドルガドルゲリアスと記憶」

「そ、そうだが……」

ラグナロー? 変革派の別名称なのか? 今までの会話では出てこなかった単語のはずだが……しかし、一応仲間であるみたいなので会話には応じるべきだろう。

「俺は、変革派の協力者だ。地球という世界からドルガ様の管理するドルガという世界に転生して、そこから成り行きで神界での争いに加担することになったんだ。というかそっちこそどちら様? 味方、でいいんだよな?」

「味方。同じ勢力に所属する者を指すなら同意。しかし我は其方を認識していない故、取り扱い方法に困惑」

「ううっ……あれ、ヴァンさん……? ヘラキュロス様は? それに、そちらは……」

「む、暫定指揮官の起床を確認。これよりの指揮権の譲渡を指示」

「暫定、指揮官ですか? 私が? あの、失礼ですがどちら様で」

「我? 我の名は『アデス』。今の神界の有様を憂う主神の遣。そして、ラグナローの本来の指導者であると宣言」

          

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