俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第100話


「そこまでです、皆さん」

「ド、ドルガ様!?」

俺の顔がたくさん張り巡らされている部屋へ眩いばかりの光を伴い突然現れたのは、この世界を管理する神である、今話題に上がっていた女神ドルガドルゲリアス様その人であった。

俺は自然と床に跪く。以前畏まらなくてもいいと言われはしたが、その神々しいオーラを浴びて謙らずにはいられなかったのだ。

「ベルさん、それにそこのカオス。これ以上ヴァンさんに余計なことを吹き込むのは許しません。私たちはあくまでも神の一柱としてコトを片付けるべきです、既に約束を交わしている貴方ならまだしも、彼を巻き込むことは御法度ですよ」

ドルガ様は俺とベルの顔を慈悲の笑みという言葉が似合う微笑みをたたえて交互に見ながらそう仰る。

「カオス。貴方達の動きは残念ながら既に神界側で察知されています、こんなところで油を売っていていいんですか?」

そして一転してミナスには厳しい表情を見せる。

「なに?」

弓を構え臨戦態勢のミナスは目を細め眉を下げた。

「テロリストである貴方達が神界で許容されるはずなどありません、その行動は逐一監視され、危険な動きがあればすぐさま対応するように神達も準備していたのですよ」

え? でもベルがさっき、カオス破滅派?はその存在ごとドルガ様達変革派が押さえ込んでいて、神界全体を巻き込んでの平和的な解決方法を模索しているところだと言う話をしていたはずだが。
その言い方じゃあ、まるでドルガ様はカオスを罠に嵌めたようじゃないか。

「ド、ドルガ様。カオスのやつを匿っていらしたのでは? それにグチワロス……様と取引をしていたとか」

アイツは俺のことを己の手で轢き殺そうとしたのに、間違って三人目の人間まで殺してしまった。そのことを庇う代わりにカオスの計画をドルガ様預かりにするよう持ちかけていたと言う話のはずだ。

「グチワロスは、今頃神界の警備組織に捕まってしまっているはず。だってその垂れ込みをしたのは、他ならぬ私なんですから」

「え? な、なんでそんなことを?」

いくら敵対勢力の一員とはいえ、このお方は約束を交わした相手を裏切るような神様だとは思えないのだが。

「それは……あの人の身の安全を守るためです。ミナス。貴方がこちらに来た後、カオスは既に行動を始めてしまいました。今この世界を管理している神界のエリアは彼らに襲われています、幸い事前に察知したマキナ様が押さえ込んでくださっていますので、しばらくは大丈夫なはずですが。私もいつまでもここにいることはできません、ですので一緒に外に出ましょう」

「は? カオスが動き出した、だと? 適当なことを言って仲間割れさせようとしているんじゃないのか!?」

ミナスは怒りを露わにする。それほどまでに、神の世界の対立というのは酷いものなのだろうか?

「いいえ、事実よ」

ドルガ様は、いつかグチワロスが俺に見せたように壁の一面に大きく映像を映し出す。

そこには、俺がドルガ様と幾度か会話をした白い空間で、老人が複数の下手人を相手に戦っている様子が窺えた。
黒いローブをかぶっており、皆全く同じ身長。顔は闇で覆われたように確認できずそんな奴らが幾人も激しく動き回っている。
見た目は今まで俺たちが対峙してきたカオスとそっくりだ。

「これはっ……!」

ミナスも驚きを隠せないようで、構えていた弓を下ろしてしまっている。

「カオスは、"行動"を開始すると同時に私と手を結んだグチワロスを抹殺しようとしていました。そのことに思い至った私は、あらかじめリークをしグチワロスを保護するよう仕向けたのです。彼が殺されてしまえば、地球の管理権限を奪われてしまう。そうなると、他の泉……今の貴方達には養殖場と言った方がわかりやすいでしょうか? にも多大な影響を及ぼすことになってしまいます」

「グチワロス様の作戦が失敗したから、武力の直接行使によって革命を成し遂げようとしているというのですか?」

「ですが今頃グチワロスは捕られ移送されてているはず。流石にあの精鋭の人数を相手にしていては抵抗できないでしょうし----えっ!?」

「あ、あれ?」

「うそっ」

「グチワロスっ!」

そう言いつつドルガ様が映像を切り替えると、そこには何故かちゃぶ台の前に正座して呑気に湯呑みをすするグチワロスの姿があった。

「どうして無事なの? そんな、確かに出動したという報告は受けたはずなのに……」

ドルガ様はよほどグチワロスを捕らえられる自信をお持ちであったのか、それとも単純にアイツのことが心配なのか、酷く驚いた様子だ。



<ん? あ、もしかしてドルガさん? お久〜>


「!!!」

グチワロスが突然、こちらを向いてそのデフォルメ人形みたいな手をフリフリと動かす。

「ど、どうしてこちらのことがっ」

<もしかして知らなかったのかなぁ? 僕の部屋、覗かれた時のために逆探知できるように細工がしてあるんだよね。だから今相互方向に通信できるわけ>

ええっ、そんな技術を使えるのか。緩い見た目なくせに意外な一面だ。

「あ、貴方はどうしてそこに? 職員が逮捕しに向かったはずなのに」

<あ〜、あの人たちね。ご退室いただきましたよ。せっかく狭い部屋でゆったりと時を過ごしていたのに、急に襲われたものだから少し本気を出しちゃって。彼らには悪いことをしたなあ>

「じゃあカオスはっ!」

<もちろんお帰り願いましたよ? ちょうど逮捕しにきた人たちをやっつけた直後にきたものだから、そのままの勢いで戦闘をしたら意外と簡単に倒せちゃって。いやあ、仲間なのに悪いことをしたかな〜>

グチワロスってそんなに強かったのかよ、その見た目で一体どんな戦い方をするんだ? 全く想像がつかないぞ。

「そ、そうですか……」

ドルガ様はどう反応していいかわからない様子で微妙な表情だ。

「お、おい、グチワロス! お前このドルガとこそこそ約束を結んでいたんだろう! 何故そんなことをしたんだっ!」

すると、ミナスが代わりに話し掛ける。

<え、誰だっけきみ?>

「わ、わたしはミナス! カオスの一員だ! それでどうなんだ、何故密約など結んでいる。しかも、コイツは敵対派閥なんだぞ? 神界を己の手でより良い形に変えてやろうという信念はないのかっ。我々はそのような者の集まりだったはずだろう」

流石に下っ端の神の名前までは覚えていないようだ。その証拠に名前を聞いてもイマイチな反応しか返していないし。

<あー、まーそれは……というかドルガさん、マキナ卿の方は大丈夫なの? 僕はまだなんとかなったけど、あっち……というかそっちと言った方が正しいかな? に行っているカオスの方が断然数が多いみたいだし>

今露骨に話を逸らしたな。

「えっ、そんなに?」

<うんうん、カオスはその『ドルガ』のことを最重要拠点の一つとして計画を立ててきたからね。そりゃあもう全力で奪いに行くに決まってるじゃない。じゃそゆことなんで>

そして映像は強制的に切断されてしまった。

「マキナ様っっっ」

どうやらグチワロスの言い草からするにドルガ様が想像していた以上の勢力が襲っているみたいだな。

すぐさま再び最初に見た場所を映像に映し出す。

するとそこには、血の池の中に倒れ伏す数十人のローブ姿のカオスと、その中心にポッカリと空いた白い空間へしゃがみ込むようにして杖をつき微動だにしない老人の姿があった。

          

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