俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第83話


そうして手続きが終わり、謁見の間へ。やはり戦闘の影響が自分でも思っているより大きいのか、ここ王城についてからだいぶ倦怠感が増してきているが、まだやるべきことがある。せめて陛下と面会はしなくては。それに疲れているのは他のみんなも同じだろう。ベルがいないこういうときこそ、パートナーである俺が責任を持って肩代わりしてやらないとな。

「どうぞお入りください。今回はコトもコトですので簡略式の謁見となりますので陛下は後からいらっしゃいます」

「はい、わかりました」

謁見の方法に文句はない。急な話なので寧ろ面会できるだけでも御の字だろう。

「緊張するわ。ヴァンは陛下とお会いするのは慣れているのですか?」

「え? まあそうですね。お母様もご存知の通り、おれを引き上げてくださったのは陛下なのですから」

「そう……ナイティス騎士爵家がプリナンバーの家とはいえ、私は嫁入りですからお会いしたことは数度もありませんし……この前のパーティにも参加できませんでしたしね」

「そういえばそうでしたね。まあ、村があんな風になってしまっていた以上来られなかったのはなるほど当たり前だと思いましたけど」

お母様は緊張した面持ちで己の両手を合わせぎゅっと握りしめている。

「今は先ずは一連の出来事を伝えるのみです。お話は僕たちがさせていただきますので、陛下からお声がけがあるまではじっとしていただいていればそれで大丈夫ですよ」

同行しているドルーヨが、気休めのつもりなのかそのようなことをいう。なおエメディアはルビちゃんとサファイアちゃんと一緒に客間でお留守番だ。
流石にドラゴンだけを置いて謁見する訳にはいかないし、連れてくるにもルビちゃんならまだしもサファイアちゃんがどのような性格のドラゴンなのか俺たちにもわからない以上、城の中に止まらせるので限界なのだ。
下手に追い出すとまた先ほどのように騒ぎになると困るのもあるが。なのであっちは三人である意味相互監視の状態になっているというわけだ。

「は、はい」

そうして三人揃って中へと入る。
扉の前で侍女から聞いた通り、今回も以前のように陛下が後からご入来される簡易的な場となる。

「この部屋、こんなに広かったのでしたっけ? 以前ヴォルフ様と訪れたときは余りにも緊張していて全く周りのことが見えていませんでしたが……」

お母様も少し落ち着きを取り戻したのか、謁見の間を見渡しながらボソリとこぼす。もちろん首を動かしてキョロキョロするわけにはいかないので、目だけを動かしてある程度の観察をしているだけだ。

「まあ、一応は王城でも最重要な施設の一つですからね。それ相応の作りになっているのですよ」

確かに改めて見てみると、吹き抜けの天井は十メートルはあろうかという高さで。天井には荘厳な神話を模した絵画が一面に描かれている。その天井からは、幾本もの真っ白で頑丈そうな柱が床へとその重みを支えるように伸びており。
床と壁は大理石のようなもので作られており、その床の上、中央には縁が金色の赤い絨毯、地球でいうところのレッドカーペットが部屋の入り口から奥の玉座が安置されている段まで真っ直ぐに続いている。
左右の壁からは迫り出すように廊下が通っており、バルコニーのように使って下の様子を眺めることができるようになっている。

「俺はもう何回も使っているが……ここに流れる独特の雰囲気には未だに慣れないな」

謁見の間はもちろん普段は余り使われることがなく、いつにおいてもそこに入るものは他の部屋とは違った空気を感じることとなる。
陛下と会うことに皆緊張しているからだ、と言われればそれまでかもしれないが、そうではないこの部屋自体に流れる静謐な空気が人々をそうさせているのだ。

そうして小声で話を進めるうちに、いよいよ謁見者がひざまずく指定の位置まで歩み寄った。ここを越えると何があろうとも問答無用! というラインがあるのだ。

いよいよという時になり、お母様は物静かになってしまう。先ほどは緊張していても話す余裕はあったようだが、今は緊張をほぐす余裕すらないようだ。
まあこれが普通の下位貴族の態度だろう。俺だって初めて謁見するとなった時は大層緊張したものだ。

「お母様、大丈夫ですよ。陛下は心の広いお方です。少しの粗相くらいで腹を立てたりはなさりませんよ」

「え、ええ。ありがとうヴァン……正妻かつ母である私よりも息子の方が慣れているというのは少し複雑な気分ですね」

その場で皆で片膝をつき頭を下げる臣下の礼を取って数分するのち、控えていた官僚が陛下のご入来を告げる。

いよいよ陛下の御登壇だ。

カツカツ、と数人・・の者が歩く音が聞こえる。陛下のご入来とご退場の時は目線ですらその顔を見ることは許されていないため、恐らくは近衛騎士が一緒に歩いているのだろうと推測される。

そうして俺たちの目の前で止める雰囲気を感じ、続いて陛下がこちらに向かって声をかけられた。

「面をあげよ。許す」

「「はっ」」

「ひゃ、はっ」

お母様もワンテンポ遅れて返事するが、仕方ないだろう。貴族たちの集まりでそのご尊顔を、と言うならまだしも、陛下と直接対談するという一生に一度あるかないかの場なのだから。

そして顔を上げると--そこには陛下だけではなく、エンデリシェ第三王女殿下のお姿が。

「!」

一瞬声を出しそうになるが、我慢をする。びっくりした、どうしてこんなサプライズみたいなことを? 殿下とは以前の中庭でのお茶会以来となるな。

「うむ、ご苦労である、勇者パーティの者たちよ。今回は至急の報告があると聞き謁見の場を用意した。また、エンデリシェについては其方たちに報告したいことがあるので連れてきた。さて、騒ぎについては既に把握をしておる。何せ我が家を襲われたのだからな」

陛下は冗談めかしたように仰る。

「だが、先ずはそちらからの言い分を聞こう。宰相、頼む」

「はっ」

後ろに立つ者たちの中から陛下の側近、王国初の女性宰相であるシルベッテ=キュリルベクレ閣下が羊皮紙を手にとる。

彼女は元は軍人であったが、のちに文官に転向すると言う異例の経歴だ。途中で鞍替えしたにも関わらず、平民上がりから一代かつ若くして爵位を授かり、宰相という"文"を束ねる最上位の役職にまで上り詰めた。

なお、"武"を束ねるのはあのグアードである。二人の間には犬猿の仲だの、いや実は愛人だのと様々な噂が飛び交っているのだが、今は関係ないだろう。

「まず我々がここにやってきた理由から述べさせていただきます」

俺がスラミューイの件について簡潔に述べる。ドルーヨもそれを補足するように、盗賊団のことや城でのサファイアとの出会いについて説明した。

「ふむ……あいわかった。ドラゴンについてはそちらで保護をしてもらうこととしよう、異論はないな? 既に一匹、いや一人連れていることだしな」

「御意」

「近衛及び軍に至急伝えてくれ。今後一切あの青いドラゴンに手を出すなとな」

「御意!」

脇に控えていた軍人の一人が、敬礼をしたのち走り去っていく。

つまりサファイアちゃんに関しては、不問とするということだろう。それにドラゴン相手に法を持ち出してあーだこーだ言っても何の意味もなさないのだろうし。むしろ俺たちが彼女たちを管理してくれた方が楽だということだろう。

「そして肝心のお主たちがここに戻ってきた理由だが……私もお主たちの仲間が神聖教会まで運び込まれたことは聞いている。それだけの激戦を成したということであろう。王都からわずか一週間にも満たない距離にそのような強敵が潜んでいたとは恐ろしいことだ。警戒態勢を強めなければならないだろう」

陛下は渋い顔でそう仰る。

「ともかく、強大な魔族を最小限の被害で退治してくれたことに関しては礼に尽きる。また後に褒美を出させて貰おう」

「「ありがたき幸せ」」

「もちろん、最小限と言っても、沢山の民が犠牲になったことは大変遺憾である。暴虐非道な魔の者による行いを非難するとともに、ナイティス村に対しての弔い及び復興支援をする」

「ありがたき幸せ……ありがとうございます、陛下……」

お母様は涙を流された。

          

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