俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第71話


「盗賊かっ!?」

茂みは未だに揺れており、相手が出てくる気配はない。俺は防御魔法の障壁を展開しつつ、警告を発する。

「五秒数えるうちに出てこい! さもなくばこちらから攻撃する!」

俺はとりあえずの牽制にと手前の地面に水魔法の水球を放つ。

「ひっ!!」

「ん?」

「この声は?」

すると茂みから、一人の少女が現れた。

「ご、ごめんなさい……ぐずっ」

「うーんと、何してるんだ君?」

眉を下げ涙目になりながら出てきた日本でいうところの小学校高学年位と見られるその子は、俯いてスカートの裾を握りしめている。こんな娘村にいたっけかな? ちょっと記憶がないが、もしかすると他の村から引っ越して来た子かも知れないな。

住むところも奪われ周りの土地に助けを求める人達は後を絶たない。彼女もそんな一人だとしたら、あまりきつく怒るのはかわいそうだ。

「お主、こんな夜更けに何故あんなところに?」

デンネルも驚きつつも、俺も一番疑問なことを真っ先に尋ねる。

「えっとその、眠れなくて散歩していたら、二人の話し声が聞こえてきたので……見つかったら怒られるかなと思ってこっそりと隠れちゃったの、ごめんなさいっ!」

彼女はペコリと深く頭を下げる。

「なるほど、そうであるか……ならば先ほどの話も?」

「えっと、はい、殆ど全部聞いちゃいました」

「なんたることか」

「マジか、すまないデンネル、俺が話題にしたばかりに」

「いや、構わん。それよりも今は盗賊騒ぎの真っ最中だと言うのに少々不用心であるぞ? 気をつけないと。親御さんも心配しておろう」

デンネルはこちらに歩み寄って来た少女に目線の高さを合わせて話しかける。

「そ、そのとおりですよね……ごめんなさい。でもここ最近ずっと篭りっぱなしだったので、少しはお月様を眺めてみたくなってしまって」

と、彼女は空に浮かぶ大きな満月を指差す。

「おお、確かに綺麗であるな」

「まあそうだが……だと言って無茶をしちゃいけないぞ。俺たちがもうすぐ盗賊弾を片付けてやるから、それまでもう少し辛抱していてくれるかな」

「はい、わかりました! ありがとうございます、お兄ちゃんたち」

「それと、さっきの話は三人だけの秘密にしておいてくれよ。俺たちとの約束だぞ」

「はい、誰にもいいません! ですがその前に一つだけいいですか?」

「ん? どうしたのであるか?」

女の子は、満面の笑みを浮かべ、そして----



----貴方のことを丁度殺したかったんですっ⭐︎



「ぐおっ」

「は?」

途端、その子は素早い回し蹴りを繰り出し、しゃがんでいたデンネルの首を刈り取ろうとする。
しかし彼もさすがは格闘家というべきか、咄嗟に上半身をのけぞらせ攻撃をギリギリで交わした。

「くっ」

俺はすぐさま麻痺魔法を放つとともに、重力魔法も重ね掛けをしてまずは身動きを取れなくしようとする。
だが、相手はなんらかの障壁を用いて攻撃を阻止してしまった。

「ダメですよォ、魔法なんか使っちゃァ。私たちには効かないって知らないんですかァ?」

少女はニタリと気持ち悪く笑うと、腕を思いっきり振りかぶってくる。

「よけろっ」

デンネルに言われる前に、俺はそのスイングを後ろに飛んで避ける。伊達に昔から訓練して来たわけじゃない。しかし……

「なにっ!? ガッ!」

突如、その腕がグニャリと何倍にも伸びて俺の頬をぶん殴って来た。

「ヴァン!」

「あれれ〜、残念だなァ。今のもこの避けられないのかァ」

「な、なにがっ……」

今の攻撃は一体? 明らかにおかしな方向へ腕が曲がったし、しかも十分な距離を取ったはずなのに、人間の身体じゃあり得ないほどの長さだった。

「もしや、お主魔族であるか!」

「あら、残念ですゥ、流石に今のでわかりますよね、テヘッ⭐︎」

村人の女の子のフリをした魔族は、可愛らしく握り拳をこめかみにコツンと当てて舌を出してみせる。

「その通り、私は軟体の魔族スラミューイ。あれ? 貴方たちのお仲間のミュリーさんとなんだか名前が似てますねェ〜」

「お主のようなものと彼女を一緒にするでない! なにをしに来たのだ!」

「なにって、だから勇者パーティを殺戮しにきたんですよ。いい加減頭に来てましたからァ、こちらの損害も考えて欲しいものですね。補正予算を組むのが大変ですよ全くゥ。ああ、一応伝えておきますと貴方たちが倒したことを武勇伝のように語っている四天王やら十魔衆やら。あれって実は雑魚なんですよねェ。あ、魔王様は流石に本当にお強い方でしたよ? まさかの倒され方をしてしまいましたけど……でも、今は昔。我々魔族ももうすでに選挙によって新しい魔王を擁立しようとしていますョ!」

新しい、魔王? それに選挙ってどういうことだ? 一番強い奴が周りの者どもを治めるみたいなシステムじゃないのか。

って、それじゃあ魔族を全滅させない限り延々と魔王が現れるじゃないか!

「あっ、今ちょっと"ヤベエ"って思ったでしょ? まあ人間の感覚で言う300年くらいかかって毎回選ばれるので、貴方たちには関係ない話ですから、お気になさらず。でも、先代魔王様の派閥があまりにも雑魚すぎて人間にそれほど被害を与えられなかったので、こうして私たち元老院がでしゃばっているんですよねェー……なのでそういう点では貴方たちにとって絶望以外の何者でもないでしょうね、フフフ」

なにを、なにを言っているんだ? ベルたちが頑張って倒して来た魔族たちが彼らにとっては『雑魚』だったと言うのか?
それに元老院とはなんだ、選挙といい彼らの世界には複雑な組織体系が存在していると言うのか。魔族の社会は俺たちが普通想像するような魔王によるワンマン経営じゃなかったのか?

実は奴らのこれも作戦の一部で、俺たちを困惑させようと作り話をしているのかもしれない。間に受けるのは尚早だ。

「何をゴチャゴチャとっ。お主のその姿、いい加減化けの皮を剥がしてやるわ!」

「おいっ!」

デンネルは地面に踏ん張ると自身に強化魔法をかけ、スラミューイと名乗る魔族に向かいひとっ飛びで駆け出す。だが----



「--ゴフッ」



「デンネル!!」

彼のお腹を目にも留まらぬ速さで鋭いトゲ・・のようなものが貫き、穴を開けてしまった。いや、あれは腕だ。先ほど俺を殴ったように腕を伸ばし、その先端をランスのように尖らせたのだ。スラミューイは伸ばした腕を縮ませクネクネとうねらせている。

「ありゃりゃ、軽く撫でたつもりだったのに、もう満身創痍ですかァ? やれやれですゥ〜」

少女の顔とまだまだ若い女性の声をした魔族は、元の人間の形に戻した手のひらを上に向けて嘆息しながら首を横に振る。

「くっ、しっかりしろ!」

俺は慌てて倒れかけたデンネルの体を支える。

「何事だ!」

するとその時、村の方から村人がやって来て、俺たちの姿を見るやすぐさま剣を抜いた。

「待ってくれ! 戦うな、それよりもベルたちを早く!」

「お、おう! わかった!」

村人は俺の話を書き終わるか終わらないかくらいで反転し、再び村の中へと戻って行く。

「あれ、いかせていいんですかァ?」

「なにっ?」

「どうなっても知りませんよォ」

スラミューイ再びニタリと笑う。

「なにがおかし----」



----ズオオオオォォォォンン!!!



「!!??」

お腹の底まで響くような地響きが鳴ったと思うと、村の方から太い黒煙がモクモクと立ち上がり始めた。

「ああ〜、いい音しましたねェー! おっといけないいけない、因みに今のは私じゃなくてドラゴンさんのですよ。少々想定外ですゥ〜」

「ルビちゃんか!」

村の中でなにが起こっているのか見に行きたいが、ここにデンネルを置き去りにするわけにもいかない。

「なにがどうなってるんだ! 俺にも転移魔法が使えればっ……!」

本当は早く覚えておきたいところだったが、魔力が足りないと例の制限が掛かってしまっており習得することが出来なかったのだ。

「盗賊もお前の差し金なのか!? お母様まで利用してなにをしでかすつもりだ!」

「ああ、あの盗賊なら使い捨ての駒です。村の勢力の小手調べにちょっと私の力を貸してあげたら、なんと領主の妻を拐ってきてしまいまして。あれは貴方の母親だったのですねェ」

「今すぐに解放しろ! あの人は関係ないだろ!」

「そう言われましても、盗賊の首領は私じゃありませんしィ。ま、貴方たちを殺した後に盗賊は処分するつもりだったので、その時にでも解放して差し上げますよ」

スラミューイはニタリニタリと笑顔を浮かべる。が、すぐに眉を下げガッカリとした様子を見せる。

「ううーん、そろそろ話すのも飽きて来ちゃいました⭐︎ せっかく待ち伏せしたのですが、余りにも貴方たちが弱すぎるんで逆にムカついて来ましたね。それじゃあさっさと死んでくださ〜ィ!」

          

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