俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第69話


「凄いですね、本当に尻尾が動くなんて」

「当たり前じゃ、お主らは二足歩行をせんのか? ドラゴン族にとっては同じくらい自然なことじゃ」

ルビちゃんの尻尾を見ながら、目を丸くするソプラ。

「ドラゴン族の方なんて、ヴァン様やベル様でなければきっと仲間にすることはできなかったでしょう。やはりお二人は人を惹きつける何かをお持ちなのでは?」

「そんなことないわよ、同行することになったのは成り行きだし。なにより皆の善意があるからこそのこのパーティだもの」

「そうでしたわね、失礼いたしました」

「我はちょっと事情があるから同行しているだけじゃけどな、まあ邪魔している分の手伝いくらいはする」

その夜、偵察した情報をみんなに共有し作戦を練った後。
一先ずの休暇を過ごそうと、皆で晩ご飯を食べていた。お父様の怪我もミュリーのお陰でだいぶ良くなったし、後はお母様を助け出して、盗賊をやっつけないとな。

「ヴァンも大きくなったもんだな。男子三日あわざれば刮目して見よとはよく言ったものだ。それが二年間になるのだから、よほどの成長だろう」

「お父様、恥ずかしいですよ。そんなに褒めないでください。俺なんてベルに比べたらまだまだなんですから」

「ヴァン……その、今でも勇者のことは引きずっているのか?」

「いえ、今となってはもう。それが世界の選択だし、俺には俺の出来ることがある。ベルたちには彼女にしかできないことがあるし、お父様やソプラにもそれぞれがその人だからこそ成せていることがあるでしょう。俺にはそれが、国軍指導官だったというだけです」

「大人になったな、一人の親として嬉しい限りだ」

お父様は、優しく微笑む。

「旦那様、そろそろお休みになられては? 明日には皆さん盗賊を討伐しに行かれるのですから、村を守れるのは旦那様だけですよ」

「そうだな、そうさせてもらおう。みなさんそれでは明日はどうかよろしくお願いします」

「いえ、僕たちもできうる限りのことを」

「ですね」

「であるな。盗賊如き、千切っては投げてくれるのである」

「怪我人が出た場合は私にお任せください」

「最悪の時は、われが森を燃やし尽くしてやるわ」

それはやめてルビちゃん。

「おじ様、きっとおば様を助け出してみせます。そして、以前の平和な村を取り戻しましょう」

「ありがとう、ベルちゃん。いや、今は勇者様だったね」

「は、恥ずかしいです……」

彼女は照れたように俯く。

「そうそう、君のお父様も、今は少し大変なようではあるが、無事でいらっしゃると聞いている。心配する気持ちもあるだろうが、私たちも伊達に領主をやっていない。また向こうに行くことがあったらお互い頑張ろうと伝えておいてくれるかな」

「はい、わかりました、そのように」

ベルのお父様であるエイティア男爵も、忙しいということで娘の晴れ舞台を王都まで見にくることはできなかった。
ベルも父親に会いたい気持ちでいっぱいだろうが、それでも我慢をして旅を続けているのだから大したものだ。

「では」

使用人とソプラを伴い、お父様は寝室へと向かうため廊下に消えていった。先程ミュリーに治療してもらったお陰で一人で歩けるようになっているので個人的には安堵する。

「さて、僕たちもそろそろ」

「そうだわね、幸いにも家屋を貸してもらえるってことだから、野宿せずに済むのは助かるわ」

この前立ち寄った村では、魔物による被害が大きかったため家屋の倒壊が多く、立場上俺たちが寝床を奪うわけにはいかなかったのだ。その時と比較してでの言葉であろう。
エメディアも(そしてベルやミュリーも)女性なのだから、旅の間文句も言わず我慢しているとはいえ本心では色々と気になることはあるだろうし。

「我はどこでもいいのじゃが、まあ人間の家具というのは中々よく作られてあるもんじゃからな」

「我輩は見張りをするのである」

デンネルが言う。今までは村人たちが夜の見張りを立てていたが、たまには休んだ方がいいと俺たちが代わることを申し出たのだ。

「あっ、折角だしそれじゃあ俺も」

「交代制にしましょうか、まずはデンネル様とヴァン様。次にベル様と私とエメディア様、最後にドルーヨ様とジャステイズ様ということで」

「それでいいだろう、三時間くらいで交代でいいかな」

「うん、それでいいと思うわ、じゃあ決定で」

「え、我は?」

ルビちゃんが首を傾げる。

「ルビちゃんは……寝てていいわよ、戦闘が始まったら村ごと燃やしそうだし……」

「であるな」

「ですね」

「だな」

「うん」

「だわね」

エメディアのあきれ顔と同じく皆一様に声を揃えてやれやれとした視線で我儘っ娘を見る。

「な、なんじゃ! 確かにこの前はちょっとやりすぎたかもしれんが、仕方なかろう!」

以前立ち寄った村で魔物を討伐した時に、村の建物まで一緒に燃やしてしまって平謝りだったのだ。反省はしているようだが、単純に力加減ができていないのであろう。別に虐めているわけではなく、振るうべき時にその力を使ってもらおうというだけだ。

「はいはい、一緒に寝てあげるからね」

「ほ、本当なのじゃ?」

「もちろん」

「そ、そこまでいうのなら今日は身を引いてやろう。ありがたく思うことじゃな!」

ルビちゃんはエメディアと一番仲がいいため、彼女のいうことは結構聞くのだ。

「エメディア頼んだわ」

「今更だけどね、まあこの娘結構あったかいから助かるわ」

「我は暖房ではない!」

「ごめんごめん」

「ふんっ」

そう怒って見せてはいるが、頭を撫でられて尻尾がピコピコ揺れているので実際にはそんな怒ってはいないようだ。

「ヴァンも頼んだわよ、何かあったらすぐに起こしてくれていいからね」

「ああ、でも無理するな、ゆっくり寝てていいんだぞ。どの道明日の朝になるまでは動けないんだし」

夜中に強襲しようという提案もあったが、暗闇の中で罷り間違ってお母様を殺す、または殺させてしまうようなことがあれば大変だということで朝から堂々と退治しに行くこととなったのだ。下手な小細工をせずとも、俺の鳥を用いた偵察から察するに戦力的にはこちらの方が充分上回っているだろうとの判断からだ。

「うん、ありがとう。デンネルも、いつも悪いわね、こういう立ち回りばかりさせて」

そしてベルはパーティでいつも見張りを率先して買って出てくれているデンネルに対しても礼を言う。彼はゲームで言えばタンク担当のようなポジションだからだ。襲われても彼ならば皆が準備を整えるまである程度一人で耐えることができるという判断である。

「構わないのである。二年間積み重ねてきたものは決して無駄にはなっていないゆえ。我輩も寧ろ修行になる分助かるのである」

「うふふ、デンネル様は頼もしいですわね」

「そ、そうであるか、うむ」

お? 珍しくデンネルが照れているぞ。

「ごほん。ともかく、ヴァンの言う通りに皆遠慮せずに身体を落ち着かせるべきであろう。寝不足で作戦に失敗したら元も子もないゆえにな」

「そうだわね、行きましょうかルビちゃん。お休み皆んな」

「またなのじゃ!」

「ばいばい」

「お休みなさいませ」

そしてそれぞれ割り当てられた家屋へと向かう。大体今は夜の9時か。3時間ごとならば、12時くらいには交代することになるな。その後はゆっくりと休ませてもらおう。

「俺たちも行こうか」

「うむ」

デンネルとこうして二人きりになるのはなかなか珍しい感じがするな。いつもは皆が気を利かせてくれているのか、ベルと一緒の部屋で寝ているからだ。

「ここら辺でいいであるか」

「だな」

村の外れまで歩き、盗賊の拠点がある森の方向に向けて陣取る。

「さて、どうやって暇をつぶすであるか」

「デンネルはいつも何をしてるんだ?」

「大体はトレーニングであるな。後は瞑想であるか」

「ふうん、瞑想か、やってみようかな」

「おお、丁度いいのである。我輩も一度誰かに教えてみたかったところなのだ」

「じゃあ頼む」

そして二人で地面に並んであぐらを組んだ。



          

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