俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第57話


翌日、王都から少し離れた草原に、公爵と立会人を連れて俺たちは決闘をしにやってきた。なお立会人はグアードである。陛下からの信頼も厚いため便利屋みたいな扱いになっているが、これでも一応は国軍元帥なんだよなあ……

「ふうむ、逃げ出したりはしなかっただけ褒めてやろう」

公爵は偉そうにふんぞり返って腕を組む。

「そちらこそ、今さら泣き喚いてやっぱやめなんて言わないでよね」

ベルもベルで、人目のないためか、敬語ではなく敵に向かって応対するような態度を取る。

「その減らず口が決闘終了まで続けばいいのだがな……二人同時に相手をしてくれるのかね?」

「ああ、当たり前だ。お前のような奴に割いている時間がもったいないからな」

わざわざ一人ずつ律儀に決闘をする必要もない。どの道このような事態を引き起こした公爵の先は長くないだろう。

「随分と短気なものだ、勇者様の婚約者という者は。おい! 連れてこい!」

「なんだなんだ?」

帯同していた勇者パーティの一人、ムキムキ格闘家のデンネル(みんなからはこれからは呼び捨てにしていいと言われているのでそうさせてもらっている)が急にざわついた草原の近くに生い茂っている森を見る。

ズン、ズン、と地響きが鳴り。



「グアアアアアアアオオオオオオオオオ!!!」



「「「!」」」

あ、あれは……ドラゴン!?

使用人らしき人間に首からぶら下がった鉄の鎖で引きずられるように連れて来られたドラゴンは、翼を広げ大きく咆哮する。

創作物で見たような、蜥蜴の頭に、トゲのついた蛇のような尻尾、鱗のある胴体からは大きな翼が生えている。
全体的に赤い身体をしており、腕が生えているのではなく翼から爪が飛び出ているタイプのずんぐりむっくりな西洋風ドラゴンだ。

「ふふふ、どうだ驚いたか? こいつを手に入れるのには大変苦労した。とある筋から入手したのだが、まあそれは今は置いとこう。とにかくこいつを見てまだ戦うというのかな?」

グフグフと公爵はドラゴンを見上げながら笑う。

「くっ……」

「ベル、どうしたんだ? ドラゴンとはいえ、チートのある俺たちなら簡単に倒せそうだが?」

ベルはドラゴンが現れた瞬間泣いていた剣を両手に構えながらも、一向に動く気配がない。苦々しげな表情を浮かべながら固まり、まるでいきなり強敵が現れたかのような反応だ。

デンネル他ついてきているドルーヨ、ミュリー、エメディアも連携の形を取ってはいるが、目の前のトカゲに襲い掛かろうとはしない。

「ふふふ、勇者様も随分と怖がっておられる様子。そう、ドラゴンに勝つことは至難の業。例え魔王を倒したパーティといえども、おいそれと勝たせはせんぞっ」

どういうことだ、この世界のドラゴンってそんなに強い生き物なのか?

「エメディア、魔法でさっさと焼いて仕舞えばいいじゃないか、何を躊躇しているんだ?」

「何言ってるのよ、ドラゴンに魔法は効かないって知らないの!?」

……え!?

「ぞ、それ本当か!?」

「本当よ! しかもドラゴンの鱗は歳を取れば取るほど色が鮮やかになって、その後また色褪せていくの。つまり目の前にいるドラゴンは、"油の乗ってる青年ドラゴン"ってことよ! その鱗は並大抵の剣じゃ傷一つ付けることができないしっ。爪の一振りで鋼の鎧を壊し、口から吐く炎は石の壁すら溶かしてしまうわ。さらに尻尾のトゲは毒もち、今こんなところで戦ったら私たち骨も残らないわよ!」

エメディアは足を竦ませながら杖を支えにそう解説する。
なんだそれは、つまりは最強ってことじゃないか!

爪は一つ一つが人の頭くらいあるし、尻尾のトゲはドルーヨさんの腕を上回るような太さだ。
体高5メートル、全長は20メートル以上といったところか。並みの肉食恐竜よりもデカい図体は、見ているだけで確かに恐ろしく感じる。エメディアが震える理由もわかる。

「ぐははははは! どうだ、降参するなら今のうちだぞ?」

「ベル、どうするっ」

ジャステイズも焦りを隠せない様子でリーダーの判断を仰ぐ。

「取り敢えず、戦うしかないわね……ここで諦めたら、ミュリーがどうなるかわからない。最悪、ドラゴンごと他国に亡命されてしまうかもしれないわ。魔王の脅威があったとはいえ、討伐するまでも目立った行動を起こさなかった王国と非協力的な国は存在するから、調教されたドラゴンに加えて賢者を連れていくことができればそれなりの対応をされるだろうし」

そうか、ここで逃げ出せばミュリーがどうなるかわかったものじゃない。例え怪我を負おうとも、戦わずして逃げるという選択肢は最初から存在していないということだな。

「ふむふむ、話はまとまったかね?」

「ええ、返事はひとつ、受けて立つ、よ!!」

「ふふふははははは、ひひひひひ! どうやら今代の勇者様は勇敢ではなく蛮勇なだけのようだ、ならば話は早い。"間違えて殺してしまう"かもしれないが、それは構わないな?」

「ええ、不慮の事故で決闘相手が死んでしまっても、仕方がないという、規定があります。勿論故意にやったと判断されれば問答無用で負けとなりますので」

グアードが冷静に回答する。流石軍人だ、こういう場面でもある程度の落ち着きはあるようだ。

「わかった、では始めようぞ!! 使用人、鎖を離すのだ!」

「はははひゃいっ! ……えっーー」

ーーパクリ

「えっ!?」

「まあっ」

「うおっ!?」

「うぬっ?」

「きゃあっ」

使用人が鉄の鎖を離した瞬間、ドラゴンの口が大きく開き、パックンと丸呑みしてしまった。
そのまま咀嚼をすると、口元からはだらだらと赤色やら黄色やらの液体が地面に垂れる。

「うっ、なんということだ、しかしそれだけ威勢がいいということだな、ぐふふふふふふ! ドラゴン、いけ、その二人を喰らい尽くせ!」

公爵が支持を出し、ドラゴンが再び大きく吼える。

しかし俺は思った、このドラゴン、本当に調教されているのか? と。たかが1日程度で、公爵の言うことを聞くようにでいるものなのかと。

そして……

「えっーー」



ーーパクリ



「モゴモゴ……ペッ。ぎゃあああおおおおおお!?!?」

先ほどの使用人と同じように公爵を丸呑みしたドラゴンは咀嚼し始めるが、何故かすぐに吐き出してしまう。公爵は上下が分離した死体となってその場に転がり落ちた。
ジタバタと両脚で地団駄を踏む姿はどことなく苦悶の表情を浮かべているような気がするな……

「ど、どうしたの?」

「わからん」

「なんなのであるか」

「ううっ、二人も死者が……」

「今のうちに逃げる!?」

どうしようか、しかしこのまま放置しておくのは明らかにまずいよな、すぐそこには王都があるのだから。

「なあベル、転移魔法でどこかに逃してやれないのか!」

「無理よっ、ドラゴンに魔法が効かないのはその周囲に薄い魔力の膜を張っているからなの。その膜を使って飛んでいるとも考えられているわ。だから転移魔法を使おうと思っても他の魔法と同じく効かないと思う」

「そうなのかっ、困ったな」

そうこうしているうちに、ドラゴンは立ち直ったようで、首からぶら下がっている鎖をクチバシで持ち上げ引きちぎってしまった。

「ぐおおおおおおおお!!!」

まるで不味いものを喰わされたのは俺たちのせいだと言わんばかりに敵意を向けてくる。

「くるぞ!!!」

ドルーヨが皆に声をかける。
ドラゴンは飛行機のように真横に翼を広げると、そのまま地面を走り突進してきた。

          

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