俺の幼馴染が勇者様だった件
第51話
ベルがアイコンタクトを取ってきたので、発言をフォローすべくようやく立ち上がる。
「あの、何をおっしゃって」
「待ってくれ、落ち着いて聞いてほしいのだが。実はだな--」
と、生まれ変わって今に至るまでの一部始終をできるだけ簡潔に説明する。
「……お二人がこの世界に転生をされていたとは。にわかには信じがたい話ではありますが」
「だと言うとは思ったが、これが真実だ。俺もベルも、同じ世界から生まれ変わって、こうして再び一緒になれた。だからベルのことを悪く言わないでくれないか、やはり今回の件は俺の軽はずみな行動が引き起こしたことなのだから」
具体的な言及はしなかったが、ここよりもずっと文明レベルの高い世界から来たこと。魔法なんかはこっちに来てから接したこと。本当の年齢はとっくに成人していることなど。話してもいいと思ったことはベルと共に説明をした。
「はあ、でも」
「二人の会話から察するに、エンデリシェも俺に何か想いがあるのかもしれない。自分で言うのも恥ずかしいが、鈍感な男だから、ついつい要らない行動を取ってしまったりもした、もしかしたらそれが余計と勘違いをさせる原因になったのかもしれない。でも、俺がこの世の中で好きな女性は間違いなくベル一人だけなんだ、だからごめん、この通り」
頭を下げ、ベルの言い分を支持する立場を明確にする。
「べ、別に私は……ヴァン様のことなんて……いいえ、そうですわ、私だって貴方様のことをお慕い申しております。でももう構いません、今はそれよりももっと衝撃的な話を聞いたのですから、気持ちが整理できませんわ……ですので、また今度正式にお断りの言葉を頂戴したく存じます」
「そうか、わかった。じゃあもう今日はお開きでいいかな?」
「ですわね」
「うん」
ティータイムをしているような空気でもないだろう、二人も提案に賛同するようだ。
エンデリシェは侍女に連れられ城の中で戻っていき、この中庭には二人だけとなる。
「ベル、転生のこと本当に言って良かったのか?」
「いいのよ、これでもエンデリシェとは密度の濃い時間を過ごしているから。ヴァンに対する態度は別にして、人間として信用信頼できないわけじゃないから。すぐさま誰かに言いふらしたりはしないわ」
「そうか」
いつのまにか展開していたサイレントの魔法で、周りに話を聞かれることもなかったし。侍女達も立場を弁えているので、主人の内緒話に不必要に突っ込んだりとだらしのない行動はしない。
「ところでヴァン、エンデリシェに抱き着かせた理由は結局何だったの?」
「えっ」
いまそれを蒸し返すのか……
「エンデリシェの気持ちに気づいていた、わけじゃないみたいだけれど、お仕置きって言って密着していたらしいじゃない」
「その説明はこの前したじゃないか」
「そうだわね、でも納得した訳じゃないわ、何故あんな行動を取ったのか今一度丁寧に説明して頂戴」
「ああ、わかったよ」
宿舎の俺の部屋にテレポートした後正直な気持ちを話し始める。
「--ふうん、なるほど。若気の至り、ねえ」
「はい、まったくもって申し訳ございません」
床に正座をし、ベルの顔を上目遣いで見上げる。
「むむむむむう〜〜〜ま、まあ確かに、年頃の男性だし? 何年間も我慢させていたのも確かだし、ヴァンだって国軍で頑張っていたみたいだし」
「ど、どうも」
「でも私だって我慢していたのはわかるよね?」
ベルは黒いオーラを出しながら仁王立ちをする。
「ヒッ」
「私もヴァンに会いたいのを我慢して、魔王討伐を頑張っていたんだよ? 臨月の妊婦ばかりを襲って中の胎児から体液を吸い取る魔物とか。女の子ばかりを襲って足元から上へ少しずつミンチにしていく魔物とか。人間の皮膚を剥いでそれを被り入れ替わる魔物とか。色々酷かったんだからね」
「そんな敵もいたのか」
「でもそんな時に支えになったのは、魔王を倒せばヴァンにまた会えるって、あなたのいる世界を守るっていう気持ちだったんだよ? なのに帰ってきてみれば、他の女性とイチャイチャイチャイチャ……私じゃなかったらきっと刺されてるよもう」
「そそそそうですか」
ベルがそれほどまでに俺のことを想ってくれていたのに、俺は要らぬ下心で彼女の気持ちを踏みにじっていたのか。
恋人の世界はちょっとした行動が二人の関係に溝を作ってしまうことはよくあるらしいが、俺が正にそのようなことをしてしまっていた。
「ただでさえ、女神様に貴方の初めては奪われたしまっているんだよ? まさかもう忘れたわけじゃないよね」
「いえ、覚えております!」
「いや、それもそれで複雑なんだけど」
はあ、とため息をつき、ベッドにボスリと腰掛ける。
「とにかくいまここで宣言して、その態度によって許すかどうか決めるから。どうぞ」
「宣言……えっと……ベルさん、俺が間違っておりました。大切な彼女である貴女の気持ちを踏みにじるような行為を平気でなしてしまったことは深く深く反省しております」
正座からの土下座を惜しげもなく披露する。
「今後は他の女性にうつつを抜かすことなく、ベル一人に情愛も性愛も向けるように気をつけて生きていきます、どうかこの場は許していただけませんでしょうか……!」
「ふむ……わかったわ、本当に本当ね?」
「はい、嘘はつきません、貴女の心をそこまで傷つけてしまっていたなんて、俺が愚かでした。軽率な行動は慎みます」
それに、あの薬を飲まされてからの一週間ちょっとは本当にしんどかった。意識していなくても女性の匂いを嗅いだり、つい胸に視線が向かうなど性的な気持ちに少しでもなったら薬の効果が出るし。
夜はもちろんベルと同じ部屋で寝泊まりしているので、その姿を目に入れる機会も多い訳で、一分に一度発動する制限された状態でも延々とイキたくてもイケない苦しい状態が続くことになってしまった。
なので当然他の女性と接触したくないという気持ちが高まった。
今日のティータイム中もエンデリシェ様にオドオドとした態度を訝しげに見られたし、今日以外も彼女がなぜかやたらと俺に接触して来ようとするので避ける癖がついてしまったくらいだ。
ベルの方からすれば、彼女の持ち出した三色の薬の効果は充分あっただろう。
国軍の指導中も女性隊員をまともに見ることが出来ず、言い訳するにも本当のことを言うわけにはいかないので、変な目で見られた。
「そうね、口から出任せという感じではないか……それじゃあ、今ここで私とエッチしよう?」
「え?」
ベルは着ていた上着を脱ぎつつそう催促をする。
「大切な彼女なんでしょ? じゃあ私が満足するまで、徹底的に愛してくれるよね」
「は、はい、もちろん」
「決まりね、サイレントと人よけの魔法を掛けておくから、存分に楽しませてもらうから」
「あの、本当にいいの? こんな俺とエッチしてくれるなんて」
「逆に聞くけどヴァンは私とはしたくないんだ」
「いえいえ、是非よろこんで!」
俺はここを逃せば今度こそ本当に嫌われる可能性が高まると思い、一晩中彼女が満足のいくまで愛したのであった。
          
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