俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第48話


「な、何だ?」
「何事だ!」
「あ、あそこ!」
「なっ……!」
「誰だっ!」

医務室の職員たちが指差す先には、何と--


「ちょ、ちょっと、ヴァン?   何をしていたのかしら?」

「べ、ベル!   どうしてここに!?」


何と、バルコニーで国王陛下と一緒に演説しているはずの、俺の幼馴染にして恋人である、勇者ベルが佇んでいた。

「どうしたもこうしたも、ヴァンの魔力を感じて追っかけたら……ひ、ひ、姫様と何をしているのかしら?」

「な、何って!」

ベルはどうやら俺と第三王女殿下という組み合わせを見て、何か勘違いをしてしまったようだ。ここは、取り敢えず落ち着かせないと。

「べ、ベル?」

殿下も、ベルのことを見、少しオロオロとした様子で問いかける。

「エンデリ……姫様も、何故ヴァンとこんなところに?   そ、その男は……」

「その男は?」

「……わ、私の、幼馴染なのです!」

えっ?

「なにーっ!」
「あんな綺麗な子と、ヴァンさんが?」
「それよりも、あの子は一体誰なんだ!?」
「ふ、ふつくしいっ……!」

職員は、ベルの発言に驚いている。が、それ以上に突然現れた女の子の正体が気になるようだ。

そうか、ここの職員は、殿下の薬のせいで、勇者の凱旋について殆ど知らないのだろう。つまり、ベルが勇者だということはまだ知らないわけだ。いつかはバレるのだろうが……

「お、幼馴染、ですか?   ヴァン様はそのようなことは一言も」

殿下も同じく驚かれたようで、俺のことをじっと見つめる。嫌、ベルとの関係性なんて一度も聞かれなかったし……

「あー、まあ、そうですね」

「な、何と……勇者と幼馴染なんて、流石はヴァン様ですっ!」

「う、うおっ!?」

殿下が、目をキラキラさせて俺の両手を振り回す。な、何故そんないきなり俺のことを持ち上げる!?

「先程の魔法といい、召喚魔法といい、尊敬します!   更に、国軍の指導官で、尚且つ勇者の幼馴染だなんて……そうなのですね、ベルが話していた男の子とは、ヴァン様のことだったのですね……!」

えっ、ベルの方は殿下に何か話していたのか?

「勇者!?」
「勇者様!?」
「お、女の子だったのか!」

「「「う、うおおおおお!」」」

職員の方はと言うと、ベルが勇者だと判った瞬間、堰を切るように雄叫びを上げ始めた。男女関係なく、突然の英雄の来訪に喜んでいるようだ。

それもそうか、彼らにしてみれば、今この瞬間、魔王及び魔王軍が倒されたことを知ったことになるのだから。

「ほうほう、あの子が勇者様なんだね?」

今まで黙っていたテザーさんも、勇者様ベルの登場に反応し、俺に問いかけてきた。

「はい、その通りです。勇者ベル、彼女こそが、魔王を討ち滅ぼした英雄です」

「そうかい、そうかい……良かったね、あんた……」

……恐らく、亡くなった旦那さんのことを想い浮かべているのだろう。テザーさんは感極まったのか、少し涙目だ。

「勇者様、バンザーイ!」
「魔王よ、人類は勝ったぞ!」
「母ちゃん、仇は勇者様がとってくださったよ!」

職員のテンションは更に盛り上がり、少ないながらも、バルコニーでの歓声に負けず劣らずの勢いだ。


「うっさい!!!!」


だがベルは、そんな声をかき消すかのような大声をあげ、一瞬にして黙らせてしまった。

「「「…………」」」

騒いでいた職員は、水を打ったかのように鎮まりかえる。そしてベルは部屋の中をずかずかと歩き俺の許まで来た。

「……ヴァン、ちょっと来て?」

ベルが俺に向かって手を差し伸べる。

「えっ?」

「良いから」

さっさと来いと言わんばかりに、手を更に近づける。

「でも……」

流石にこの場の混乱を、このまま放置していくわけには……

「ヴァン様、その、行ってあげて下さい。この場は私がなんとかします。元々私のせいでヴァンが巻き込まれたのですから」

「そ、そうですか?   すみません、殿下」

「何を言っているの?」

だが、ベルは殿下のことを睨みつける。

「ふぇっ?」

「エンデリシェも来るのよ」

「あっ、えっ?」

「良いから」

「……わ、わかったわ……」

二人とも、最早敬語では無くなっている。というか、傍にいる俺の方が緊張してしまうくらいの空気なのだが……

「ヴァン、それに姫様。この場はあたしに任せな。勇者様も、それで良いかいね?」

「あっ、はい。お願いします」

流石に何十歳も年上の女性には睨みつけられないのか、少し柔らかめの返答だ。だが、滲み出る空気は正反対だ。

「それじゃあ行くわよ?」

「あ、ああ」

俺は未だに出されているベルの手を恐る恐る掴む。

い、痛い……これは相当怒っているな。心当たりは無い事もないが……

「はいぃ……」

一方の殿下は、俺の服の袖をそっと掴む。こんな場面でもしおらし可愛く見えるからやめて欲しい……

「……」

ベルに一瞬睨まれた気がしたが、何も言っては来ない。そしてこの体勢のまま、俺達3人はしっちゃかめっちゃかになってしまった医務室を後にしたのであった。



「で、どういうことなの、ヴァン。そしてエンデリシェも!」

俺達は、医務室近くの空き部屋へと入り、俺とベルが並んで、そしてエンデリシェ殿下が向かい合う形で対面していた。俺の手はベルに依然握られ支配されたままだ。

「どういうこととは……?」

「だ、か、ら!   何故エンデリシェとヴァンが、あんなところで一緒にいたの?   し、しかも、近かったしっ!」

「何故と言われても……成り行きとしか」

「はあ?」

「アッ、スミマセン」

怒った時のベルってどうしてこんなに怖いのだろうか……女性は皆こんな感じなのかな……

「べ、ベル?」

「何?」

「ひっ」

殿下が助け舟を出そうとして下さったようだが、ベルの威圧に一瞬にして負けてしまったようだ。この二人の関係性も気になるな。

「……取り敢えず、きちんと説明して。二人で良いから」

「お、おう」
「わ、わかりました……」


俺達は、医務室での出来事を詳細に話していった--

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