俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第45話


「ん……ここは?」

俺は確か、意識を失って……え!?

「なっ!?」

俺は飛び上がるように身体を起こした。辺りを見渡すと、見覚えのある光景が広がっていた。

「い、医務室?   でも、あのお花畑で俺は……」

間違いない、魔力も減っている感じがする。魔法を発動した事は俺の妄想などではないようだ。だが現にここは城の医務室。そして俺はそのベッドの上に寝かされているようだ。指導官に就任してから何度か訪れた事がある為、見間違えるような事は無い。

ふと枕元を見ると、花瓶に薔薇が刺さっていた。

「ば、薔薇……」

俺はその赤い薔薇を睨みつける。

「……動くわけ無いか」

しかし、触手が襲ってくるわけでも、棘が飛んでくるわけでもなく、只々白いだけの壁に少しばかりの彩りを持たせているだけである。

「あのメルヘンな世界はどこに行ったんだ?   第三王女はどこに?」

俺はもう身体を動かせる事を確認し、ベッドから降りた。その時--


「あら、気がつきましたか?」


「え?」


カーテンで仕切られた、俺の隣のベッドから女性の声が聞こえてきた。俺はカーテンをゆっくりとスライドさせる。


「こんにちは、ヴァン様。ご機嫌麗しゅう」


そこには、金髪の美少女が居た。


「失礼ながら、だ、第三王女殿下……ですか?」

ベッドの上に居座る女性は、グアードから見せて貰った似顔絵とそっくりの女の子だった。

「ええ、その通り。私はエンデリシェ=メーン=ファストリア。ご存知の通り、ファストリア王国の第三王女です。まだ寝ぼけてらっしゃるのかしら?   会うのはこれで二回目ですわね。それで、もうお気分は?」

第三王女殿下ことエンデリシェは、落ち着き払った様子で尋ねてきた。

「ええ、お久しぶりであります。気分は良好であります」

年下と言え、一応は目上である為言葉遣いには気を使う。王女様だからな、粗相のないようにしなければ何が起こるかわからない。

二回目、ということは、グアードの言う通り、俺が就任する時に国王陛下へ謁見した場にいらしたということだろう。覚えて無い以上、下手なことを言うべきでは無い。

「それは良かった。さっきまでずっとうなされていたから……」

「うなされて?」

「ええ、薔薇がどうとか、『落ちるー!』   とか叫んでいましたよ」

「そ、そうでありますか。ご心配をおかけしたようで」

薔薇……まさかな……?

「いえ、私のせい、というのもありますので。こちらこそごめんなさい」

「はい?   殿下の?」

「少し、その、実験をしていまして……」

「実験ですか?」

なんとなく予想がついてきたぞ?

「はい。他人の夢を操作できるかどうかという実験なのです。実験に必要な薬を作るには、医務室にしかない材料が必要だったので……恥ずかしながら、作成に失敗してしまい、医務室中に薬の成分が広がってしまったのです……ごめんなさい、ヴァン様」

やはり、そうだったか。

つまり、俺が見たのは夢であって、夢の世界で俺は必死に薔薇と戦っていたという訳なのか。

「そうでしたか……あの、殿下。恐縮ですが、お部屋に戻られることをお勧めしますよ」

「何故ですか?   まさか何か事件が!?」

「はい、事件といえば事件ですね。グアード元帥から、殿下が行方不明になったと聞いて、この医務室に探しに来たのです」

俺は、一部始終を殿下に説明した。

「--ヴァン様!」

「は、はい!?」

あらかた話終わると、殿下がいきなり俺の両手を握って来た。

「その、私をどうやって見つけられたのですか!」

「あ、ああ、それはですね、召喚魔法で虫を使って……」

「召喚魔法!   その歳で!?   もっと詳しく教えて下さいませんか!」

殿下は顔をぐいっと俺の目の前まで近づける。綺麗な瞳とぷるんとした唇に思わずドキッとしてしまった。

「えっ、あの、ですから殿下の捜索願が……」

確かに召喚魔法は熟練の魔法使いで無いと使えないような高度な技ではあるが、今は殿下の探究心よりもグアードの心を落ち着かせる方が大事だ。俺は必死になだめにかかる。

「あっ、そ、そうでしたね……ご、ごめんなさい、つい興奮してしまって……」

俺の説得により、殿下ははどうにか落ち着きを取り戻した。

「召喚魔法についてはまた時間のあるときにお話ししますので。それで殿下、医務室の者は?   殿下をお部屋にお送りする話を通さなければいけないのですが?」

さっきから、医者や看護師などが一人も見当たらない。

「す、すみません!   実は、彼らも私の薬のせいで……」

殿下曰く、医務室にいる者にはいつも実験に付き合ってもらっていて、今日も試しに薬を使わしてもらおうと思っていたところ、自分含め全員が眠りに落ちてしまったそうだ。俺が確認したところ、職員たちはベッドに寝かされていた。エンデリシェ様は実験をする時にいつも付けているマスクを今回もしていたので、自分は眠らなくて済んだらしい。地べたに寝かしておかずに、ベッドまで運んだだけでも良心的というものであろう。

職員たちは自然に起きるのを待つしか無いらしい。薬が失敗作な故、無理矢理起こして何か起こっても問題だからだそうだ。

「……成る程、事情はわかりました。ですが、そもそも何故医務室にいることを誰も知らなかったのでしょうか?」

お付きのメイドすら、殿下の居場所を把握していないだなんておかしいと思うのだが。

「それはですね、いつもは侍女に伝えた後にここへ来るのですが、今日は何故か誰も捕まらなくて、伝えることができなかったのです。何か大きな催しでも開かれるのでしょうか?」

「え?」

殿下はご存知無いのか?

「え?」

俺の声に、殿下が不思議そうな顔をする。

「あの……ゆ、勇者が帰還したのですが……」

「…………ええーーーっ!?」

や、やっぱり知らなかったのか……

「ゆ、勇者って、ベルですよね?」

「えっ、は、はい、そうですが……殿下はベルのことを?」

「当たり前です!   ベルと私は友達なのですから!」

な、なんだと……そんな話聞いたことねえぞ。

「そうでありましたか……とにかく、ベルが魔王を倒して凱旋しにこの王都へ戻ってきたのです。それに、お父様、国王陛下も演説をなされていましたよ。それもご存知なかったのですか?」

「は、恥ずかしい話ですが……研究に気を取られてしまい、恐らく聞いていても聞き流してしまったのかなあと……え、えへへ」

「はあ……」

殿下は実験大好きっ娘バカというやつなんだろう。

「そうですか……魔王が……ぐすっ、良かった。良かったです……」

「で、殿下……」

殿下が泣き出してしまった。嬉し泣きではあるのだろうが、少し対応に困ってしまう。

「……ベルが頑張ってくれたんですよね……わかりました、ありがとうございます、ヴァン様!   侍女に伝えられなかったことは本当にごめんなさい。兎に角、早く皆さんを起こさないとですね……でも、私そういう魔法は使えないので……ヴァン様なら、なんとかなりませんか?」

「自分がですか……わかりました。やってみます」


俺は、ベッドの上で未だに夢の世界にいる職員に向かって回復魔法を使った。

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