俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第42話


「まさか自ら正体を明かすとは……」

俺達が勇者パーティに向かって歓声を上げていると、ベルがいきなり勇者の素性を明かし始めた。周りの人々は度肝を抜かれ、どよめいている。
それはそうだろう。男だと思っていた勇者様がまさか、年頃の女の子で、しかも初代勇者パーティの子孫だと言うのだから。
勇者の正体は俺のようなプリナンバーの者以外には殆ど知られていなかった為、約6000年の歴史の中で初めて、勇者という存在が世襲制だということが公に暴かれたのだ。

しかもその後国王陛下が現れ、プリナンバーのことに始まりこの世界の支配構造の改革、恒久的な世界平和への実現に向けての取り組みなど、自らの立場を捨てるような発言を繰り返したものだから、もう庭園は騒然という他ない状況だ。

それでも、民は皆国王陛下のお考えについていくことを厭わないのだから、陛下はやはり素晴らしい求心力、人心掌握術の持ち主だと思う。初代勇者の直系の子孫、生まれつき”もっている”ものがあるのだろう。

世の中には”帝王学”なるものもあるが、それは支配者が支配者たらん為の学問。支配者の座から降りることを表明しても尚、人々の心を付き従わせる陛下のお力には頭を下げざるを得ない。
俺なんて罵声を浴びせてやっとこさ兵士にへいこらさせる(訓練でしごくことも含めて)ことしかできないのだから。

そんなことを考えながら、陛下の演説を拝聴していると、不意に声を掛けられた。

「ヴァン殿」

「ん?」

「ヴァン殿、少し宜しいでしょうか?」

俺の横に、兵士が立っていた。出来るだけ目立たないようにこそこそとしている。

「何だ?   今は大事な時だろう?   お前も陛下のお言葉をだな……」

「あの、その、グアード様が大至急来るようにと」

「あ?   グアード……さんが?」

「はい、その通りで……宜しいでしょうか?」

「大至急か……」

もう少し、ベルのことを眺めていたかったのだが、仕方がない。陛下にも申し訳ないが、ここは引かせてもらおう。大至急と言うからには余程の用事なのだろうからな。

「わかった。すぐに向かおう。執務室で良いのか?」

「はい。ご案内しましょうか?」

「いや、良い。ありがとうな。お前はもう帰って良いぞ」

場所くらいわかるし、それに自分一人の方が早い。

「はっ!」

兵士はまたこそこそと立ち去っていった。

「……さて、厄介ごとじゃなきゃ良いんだけどなあ?」

俺は魔法で気配を消し、出来るだけ民の邪魔にならないよう急いで執務室へと向かった。


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--ガチャ

「失礼します」

俺は国軍元帥ことグアードの執務室へと入った。テナード侯爵の反乱の時にも来たな。部屋の中は書類がごった返している。

「おっ、来たか?」

ドアを開けた目の前の作戦会議用のテーブル奥にある椅子に、グアードが踏ん反り返っていた。

「はっ、ヴァン=ナイティス、只今参上仕りました!」

俺はまた軍の高官がいたら面倒臭いと思い、出来るだけ丁寧に挨拶をする。

「……くっ、ふふふ、ははは!」

「は?」

「ああ、いや、ここには私だけですよ、ヴァン様」

確かに、周りを見渡すとこの空間にはグアードだけしか存在していないようだ。と言うことは、俺は無駄に気を使ってしまったという訳か。

「な、何故笑ったのだ?」

俺は慣れない敬語を必死に使ったのに、誰もいないという羞恥と、それを部下に笑われたことが何だかムカついてきた。バルコニーでのモヤモヤした気持ちもまだ治っていなかったため尚更だ。

「あっ、い、いや、その、こんなしおらしいといいますか、従順なヴァン様を拝見するのは陛下の前くらいなもので……ついおかしく思えてしまい……も、申し訳ありません」

グアードは慌てて立ち上がり、頭を下げる。

「はあ……いや、それで用件は?」

ここで愚痴愚痴と溢しても仕方がないので、俺はさっさと用件を尋ねることにした。

「あの、ヴァン様、目元の筋は一体?」

「あ?」

俺は目元を擦ると、少しこびれていることに気がついた。よく見えたものだ。

「あー……気にするな、用件を言え。陛下の演説が途中なのに抜け出してきたのだ。大至急だというのだから、それ相応の用件なのだろうな?」

「賢まりました。はい、勿論であります。簡潔に述べますと、姫様が攫われました」

「は?」

姫?

「ですので、姫様が攫われました」

「姫様……?   って、何だっけ?」

この国に姫様何ていたっけか?

「ヴァ、ヴァン様!?   現在国内におわしますのは第三王女のエンデリシェ姫殿下に他なりません。まさか、覚えていらっしゃらないので?」

エンデリシェ?   エンデリシェ……うーん

「そんなやついたような気もする……」

「あの、ヴァン様は仮にも国防を司るお方、流石に国の重要人物であらせられる王女殿下のことをご存知ないのは如何なものかと……それに、ヴァン様が指導官に就任なされた時、国王陛下の横にいらっしゃいましたよ?   長髪の茶髪で、それはそれはもう見目麗しいお方ですのに……私とて、年甲斐もなく、無礼千万ながら”良い女”だと思えてしまいます」

「一回しか見たことねえのに覚えてねえよ」

それに、ベル以外の女のことなんて殆ど気にしていたかったからな。町のおばちゃんや、兵士の中に数人いることを記憶しているくらいだ。

「まあ、第三王女殿下は余り外に御出でになられませんからね。いつも動き回っておられるヴァン様と面識が無いのは致し方無いのかも知れませんが……とにかく、殿下が自室から消え去られてしまったのです!」

「消え去った?」

「はい、侍女メイドが国王陛下の演説の折に様子を伺いに部屋へと入ったのですが、いなくなっていたとの事で。朝食を運んだ時には確かに部屋の中にいらっしゃったとのことなので、何らかの事件に巻き込まれた可能性が……」

「うーん、自分で居なくなったってことは、無いのか?」

「先程も申し上げましたが、殿下は余り外出を好まれませんので……その線は薄いかと」

「城の中は探したのか?」

「めぼしいところは」

「目ぼしく無いところは?   あ、倉庫の中とか?」

「仮にも姫君、そのような薄汚いところに向かう意味がありません」

「は?   何言ってんだお前?   もしかしたら何らかの事情で向かわざるをえなくなったのかも知れないじゃ無いか?」

「は、はあ?   ですが……」

「お前らって肝心な時に使えねえな……もう良い!   わかった、俺が直々に城中を調べてやる!   お前達は一先ず解散しろ。余計な人手を出すな」

「ヴァン様お一人で?   幾ら何でもそれは」

「なんだ、俺の能力が信じられないのか?   お前達に教えているのはどこの誰だ?   直ぐ諦めるのか国軍のモットーだったか?   重要人物とか言うくせに、やることがざる過ぎんだよ。そんなんだから俺みたいな奴に教えを請うことに……はあ、疲れる。兎に角俺に任せろ」

「……御意」

グアードは頭を下げた。どう思っているかは知らないが、ちと言い過ぎたか?

「……まあなんだ、初動が早かったのは認める。知らせてくれてありがとうな、グアード」

「はっ……はいっ!」

グアードが途端に明るい顔になった。全く、わかりやすい奴だな。


俺は姫様とやらを探すため、召喚魔法を発動した--

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