俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第40話


--目の前には、数え切れない程の人々がいる。その誰もが、一目に私のことを見つめていた。そして一番初めに目につくところには……

「まず、皆に謝りたい。先ほど、パレードを途中で抜け出してしまい申し訳なかった」

王城のバルコニー前に集まる人々を見渡す。声は変声の魔法で変えているため、出征の時と同じく男性の声だ。

「そこで、ここで今一度、皆に伝えたいことを伝えよう」

私は佇まいを正し、大きく息を吸った。

「皆、私は帰ってきた!」

私は人々に向かって叫ぶ。私が叫ぶと、途端に当たりが静かになった。

「帰ってきたのは言うまでも無い、魔王を滅ぼしたからだ!   魔王軍は、人類を支配さんとする闇は、今、打ち砕かれたのだ!」

私は聖剣を天に掲げ、高らかに宣言した。剣先に太陽の光が反射して、眩いばかりの輝きを放つ。そして--


「「「うおおおおおおお!」」」

「勇者様、万歳!」
「勇者様ー!」

人々は、皆一様に私のことを讃えた。

一番前の彼も、手を突き出し歓声を上げてくれている。良かった、心配したようなことは無かったようだ。

「……そして!」

私は、集中し、話を続けられるように、一際大きな声で人々に向かって叫ぶ。少し魔法を使って大きくさせているのは内緒だ。

人々は、私の声を聞くと再び静まり出した。

「……ここにいる仲間達もまた、私と共に魔王を、魔王軍を倒してくれた!」

私の後ろに並んでいる仲間達に注目させる。

「ジャステイズ!」

ジャステイズの名前を呼ぶと、彼は数歩前に出て、お辞儀をした。

「「「うおおっ!!」」」

人々は短く歓声をあげる。心なし、女性の声が多い気がする。

「ジャステイズ殿下、万歳!」

一部分からは、ジャステイズを殿下と呼ぶ声が聞こえてきた。恐らくフォトス皇国の者が来ていたのだろう。この瞬間に立ち会うことが出来て良かったと思っているといいな。

「エメディア!」

続けてエメディアも前に出た。ジャステイズに倣い、ペコリと頭を下げる。身長が低いせいか、頭を下げたらバルコニーの縁で身体が少し隠れてしまっている。またそれも面白い。

「「「うおおお!!」」」

再び歓声が上がった。心なしか男性の声が強いのは気のせいか?

「ミュリー!」

私が彼女のの名前を呼ぶと、少しわたわたとしながら前に出、お辞儀ではなく胸のあたりで手をかざし、細かく振った。別にお辞儀で統一したかったわけでは無い、個人のしたいようにするよう予め伝えてある。

「「「うおおおお!!」」」
「「「ミュリー猊下、万歳!」」」

今度はミュリーのことを猊下と呼ぶ声が聞こえてきた。ミュリーはその立場上、神聖会、教会の関係者から担ぎ上げられる立場である。まあ、単純にミュリーのことを敬っているものが殆どだと思うが。

「えへへっ」

ミュリーが小さく笑った。凱旋報告の間は、常に凛々しくしておいてくれと言ったのに……まあ、可愛いから良いか……

「次、デンネル!」

「うおおおおおおお!」

名前を呼ぶと、デンネルは堂々と大股で前に出て、叫び声を拳を天に突き上げた。

「「「うおおおおっ!!」」」
「兄貴ーっ!」

あ、兄貴って……どんな慕われ方をしているんだ?

デンネルも声に反応してそのまま頭の上で大きく手を振った。ぱ、パフォーマンスだから、うん……その呼ばれ方気に入っているの?

「……次に、ドルーヨ!」

ドルーヨは名前を呼ばれると、前に出て優雅にお辞儀をした。貴族のような、片足を前に出し片手を後ろに、もう片手を胸に当てる仕草だ。かなり様になっている。流石は大商会の会長、生半可な世渡り方はしていない。

「「「うおおおおお!!」」」
「「「「ドルーヨ様ーっ!」」」」

ジャステイズの時のような、女性の叫び声が聞こえてきた。しかも男性の声よりも大きい。ドルーヨの、まさかの人気振りだった。

「あはは」

ドルーヨは小さく笑い、右手を顔の高さであげる。

「「「きゃーっ!」」」

……黄色い声とはこのことかっ。寧ろ悲鳴だ。

しかも、見える範囲では倒れる女性までいた。嬉しすぎて失神するとか、色々と心配になってくる。

「……最後に、皆さんに伝えたいことがあります」

私は、先程までとは違う、落ち着いた声で人々に語りかけた。途端に、また辺りが静まり返る。仲間達は不自然にならないよう、後ろに下がり、私と同列に並んだ。

「……私達は、最初、8人で旅立ちました。しかし、旅の途中、誠に悔しい事に、二人もの英雄の命を奪われてしまいました。魔王軍との戦闘は、苛烈なものです。少しの差でも、一瞬で命を奪われてしまうのです。それが、あの二人でなければいけないなんて……」

私は、声のトーンを落とす。その代わり、魔法による拡散を大きくし、出来るだけ揺らぎの無い声になるように努める。”思ってもいないこと” をここまで演じきれる私を誰か褒めて欲しい。

「……彼と彼女は、私達にとって、とても大切な仲間”でした” 。皆さんには、どうか、その栄誉を讃えて欲しいのです。この場にいなくても、彼らが人々の為に戦った事は事実なのですから……」

私が伏し目がちにそういうと、仲間達も頭を下げる仕草をした。

「……私達は、彼らの健闘を一生忘れる事はありません、どうか、オイディオとノマに拍手を……」

私は言葉を終え、両手を叩き合わせた。

--パチパチパチ

仲間達も同じく拍手をする。

--パチパチパチ

人々もそれにつられ、それぞれ拍手をした。バルコニーの隙間からは、十字を切る人の姿も見える。彼も、他の人と同じく拍手をしてくれていた。私はそれを見て複雑な気持ちになってしまう。

「……ありがとうございます。彼らも皆さんの想いを受け取ってくれた事でしょう」

私は顔を上げた。そして拍手が止む。私はそれを見、再び大きく息を吸い込んだ。

「……皆!   私達8人は、今一度宣言する。人類の手に平和が戻った事を!」

私は、今日一番の声でそう宣言した。


--うおおおおおおおっ!!!


こうして、勇者の凱旋報告は、一先ず事無きを得たのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「皆、私は帰ってきた!」

鎧を着込んだベルが、俺たちに向かって叫ぶ。声は2年前に聞いた時と同じく、男性のものだ。


--2年前の様子が、脳裏に蘇る。あの時と、今の俺は、違う。成長したんだ--


そう、俺はベル達の凱旋報告を見るために、王城のバルコニーがある庭園へと来ていた。立ち位置は一番前だ。ベルのことをすぐそこで見る事ができる。

「帰ってきたのは言うまでも無い、魔王を滅ぼしたからだ!   魔王軍は、人類を支配さんとする闇は、今、打ち砕かれたのだ!」

ベルは聖剣を天に掲げ、高らかと宣言した。剣先に太陽の光が反射して、眩いばかりの輝きを放つ。そして--


「「「うおおおおおおお!」」」


「勇者様、万歳!」
「勇者様ー!」


老若男女、一切の関係も無く、一斉に歓声を上げた。中には泣いている人もいる。俺も合わせて両手を突き出し歓声を上げた。


--ベルは良くやってくれた。女性なのに、何一つ怖じ気付かずに出征していき、こうして無事に戻ってきてくれた。しかも魔王を滅ぼすというとても大きな功績を掲げてだ。何を躊躇う必要があろうか。今はただ、純粋に喜ぶべきだ--


「そして!」

ベルが再び声を発すると、人々はすぐに静まりかえった。皆、勇者が何を言うのか興味津々なのだ。

「ここにいる仲間達もまた、私と共に魔王を、魔王軍を倒してくれた!」

ベルが後ろに立つ仲間達に注目を集める。そして一人ずつ紹介をし始めた。


--皆、誇らしげな顔で俺達に挨拶をする。俺もあそこに立ってられたら……嫌、そんな事は無い。俺だって、ベルの事を待つという大切な仕事を成し遂げたんだ--


そして最後に、この場に立つ事が出来なかった者の紹介もする。予想はしていたが、やはり……ベルも辛いものがあるのだろう、悲しそうな態度だ。

--パチパチパチ

人々が、二人のために拍手をする。神聖会では、亡くなった兵士を、下を向きながら拍手をして送り出す風習があるからだ。特に功績を挙げた軍人などの葬儀で良くされる行為である。今回はまごう事無き英雄だ。人々も躊躇無く拍手をする。
中には十字を切っている人もいた。十字を切る、とは、兵士では無い普通の人を送り出す時の行為である。兵士では無く、家族として送り出したい身内がする事も多い。勇者の仲間は人類の家族、という事なのだろうか?   どちらにせよ、この大陸には敬虔な信徒が多い為、こうした風景は珍しいことでは無い。

「……ありがとうございます。彼らも皆さんの想いを受け取ってくれた事でしょう」

ベルが顔を上げた。人々は弔いの行為を止める。

「……皆!   私達8人は、今一度宣言する。人類の手に平和が戻った事を!」

ベルが、一際大きな声でそう宣言した。そして、


--うおおおおおおおっ!!!


歓声が辺りに轟く。俺はそんな様子を見ながら、同じく叫んだ。叫んで叫んで叫んだ。そして何時しか頬には冷たいものが……俺はそんな事も気にせず、ひたすらベルに向かって勝鬨を上げ続けた--

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