俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第36話


--パン!

「ぐッ!?  グ、ぐオオおおおヲヲヲヲおオヲおを!」

俺は両手を前に突き出したのだ。そうしたら突然、テナードオーガとなってしまったテナード侯爵の腕が突弾けて破壊されたのだ。

「う、ウデガあああア!   みギウデがっ!   な、ナにをすル!   や、ヤメろォ!」

「え?」


よく見ると


俺の両手から、一筋の光が伸びていた。


「な、何じゃこりゃ!?」

「ヴァン、それは!?」

後ろで剣を構えるベルが、俺の手を見て驚く。

「わ、わからない!   一体何が?」

俺の手からは相変わらず光が伸びており、テナードオーガのあちこちを蹂躙していく。

「グガぁっ!   ヒダりうデっ!   ぐ!   グう……」

俺がうろたえている間にも、テナードオーガは苦しみ、段々と動かなくなっていく。

「に、ニンげん……ユウしゃ……ゆル、さ、ナい……ゾ」

そしてテナードオーガはそれだけ言い残し、そのまま前のめりに倒れてしまった。俺はその場から尻を起こし、慌てて飛び退く。

「はあっ、な、何なんだ……あれ?   光は?」

俺の手からは、いつの間にか光が消えていた。

「ヴァン、侯爵が!」

ジャステイズの声を聞き、テナードオーガの顔を見ると、何故か元のテナード侯爵に戻っていた。身体もほぼ普通の男性に戻っている。だが、両腕が破壊されグロテスクなことになっている。そして大量の血が流れ出ていた。

「やばいぞ!   くそっ、間に合え!」

俺はもう魔力のことを気にせずに、回復魔法をかけた。出血が段々と抑えられていく。

「はあっ、はあっ……」

俺は魔力の減少により、身体が怠くなっていく。しかしここで止めるわけにはいかない。

「ヴァン!   私も!」

ベルが一緒に回復魔法を掛けてくれる。

「あ、ありがと、う……ベ、ル……」

しかし俺はすぐに限界が訪れ、そのまま意識を失ってしまった--

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ヴァン!」

両腕が無くなってしまったテナード侯爵の治療をしていたヴァンが、倒れてしまった。

「ヴァン、大丈夫!?」


私はヴァンの脈を測る……大丈夫、心臓は動いており、息もしている。


「……良かった、ヴァン……お疲れ様、ありがとう」

先程何が起こったのかはわからないが、ヴァンのお陰でテナード侯爵の出血はすでに止んでいる。後は放っておいても今は大丈夫そうだ。

「デンネル、侯爵を!」

「了解した!」

私は後ろで腕を組みながら様子を伺っていた、力持ちの格闘家デンネルに、テナード侯爵のことを頼む。デンネルは先程引きずってきたのとは違い、今度は肩にテナード侯爵を担いだ。

「ヴァン、後は私が片付けるからね?   ごめん、ジャステイズ、エメディア。ミュリーのことは頼んだわ。ドルーヨは私と来て!」

私はどこかでアンデッドを正常化させているミュリーのことを幼馴染ペアに頼み、このことをいち早く報告してもらうため、話の上手いドルーヨに同伴してもらうことにした。

「わかった!」
「わかったわ。ヴァン君のこと、頼んだわよ?」
「僕かい?   ……わかったよベル。早く行こうか」

「ええ、皆ありがとう」

私はヴァンのことを優しく抱きかかえて、ドルーヨと共にそのまま王城へと転移した--


「……着いたわ」

私は王城の、ヴァンと再会した時に使った控え室へ転移した。そしてヴァンのことをソファに寝かせる。

「ベル、僕は先に陛下のところへ報告しに行くよ」

「あ、うん。頼んだわ」

私は勇者達が突然消えた事についての釈明と、今回の事件についての報告をドルーヨに頼んだ。

「取り敢えず、ベッドを用意してもらわないと」

このまま意識が戻る、までヴァンのことをソファに寝かせておくというのは個人的に忍びない。きちんとした所でヴァンを横たえたいのだ。

「誰か!   誰か、いませんか!」

私は部屋のドアを開け、侍女を呼ぶ。

「はい、どなた……勇者様!   一体どちらから!   それに、ヴァン様?」

侍女の一人がこちらへやって来、すぐに私がこの部屋にいる事に驚く。

関係ない話ではあるが、私は兜を被っているので、実は今の今まで顔バレをしたことがない。声も魔法で変声させているので、女性であるということすらバレていないのだ。

「うん、ごめんなさい、今はその話は後で……どこか寝室を貸してもらえる?」

「寝室、ですか。畏まりました、貴賓用の部屋で良ければ……空いている部屋がございますので」

「ありがとう、お願いするわ」

「いいえ、勇者様の仰せとあらば。ではこちらへ」

私は侍女の後ろに着いて、貴賓用の寝室やらとまで案内して貰った--


「ヴァン、お疲れ様。でもあの光は一体……私の光とは違う……」

私はベッドに寝かせたヴァンの頭を撫でながら、先ほどの光について考察してきた。頭を撫でているのは、唯私が気持ちいいからだというのは言わないで良いことであろう。

「私の光だったら、間違いなく侯爵は消え去っていた。でもヴァンの光はむしろ侯爵を元に戻すかのような……まるで破壊と再生みたい」

それに、今回の事件にカオスの奴が絡んでいるのは間違いないだろう。旅の途中に幾ら私達の邪魔をしてきたことか。早く潰しておけば、ヴァンに迷惑がかからなかったろうに。私のせいだ。きちんとお詫びをしないと。

「すー……すー……」

魔力不足で気絶してしまったヴァンだが、呼吸は安定している。このまま寝かせておいても大丈夫だろう。

「ヴァン……もっといちゃいちゃしたいなあ……折角愛し合えるのに、こういう時勇者って辛い」

凱旋も終わってないしね。って、あ!   誰にも言わずに転移してしまった。街中は今頃騒動になっているだろう。あとで騎士団にも謝らないと。

「凱旋の残り、どうしよう。王城から帰ってきたぞ〜なんて報告するくらいで終わらせてくれないかな?   この時間が永遠に続けばいいのに……」

私はヴァンの頭を撫でながら、一先ずの幸せを噛み締めたのであった。

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