俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第29話


「--で、その時にジャステイズがお酒を一気飲みしたの!   そしたら何といきなり脱ぎだして……うふふ、今思い出しても、あの時のジャステイズの『俺の話を聞けええええ!』は笑える……くふふ」

「ぐっ、ベル、やめてくれ……」

ジャステイズは顔を両手で覆い隠し苦悶の表情を浮かべているかのような声を出す。うん、これは恥ずかしいな。日本でもこの世界でも、酔っ払った時の失敗談というのは良くあることらしい。俺はあっちでもこっちでもまだ酒を飲んだ事が無いので、実際どんな思考になってしまうのかはわからないが。

「何で?   面白いじゃない。それにヴァンにはもっとジャステイズの事知ってもらわないとね?   喧嘩したままじゃ駄目でしょ?」

ベルはそこまで考えてこんな馬鹿な話をしているのか。流石、仲間を取りまとめる存在なだけある。人間関係のフォローが上手い。嫌、上手くならざるを得なかったのかも知れないな。

「そ、それでももう少し話があるだろう?」

「まずはこういう話からの方が、取っつきやすいでしょ?   いきなり魔王軍の幹部を滅多刺しにした話をするの?」

「そ、それは……」

「ね?   だから、他の皆の話もするからね!」

ベルが”にしし”、とでも言いだしそうな顔を浮かべ宣言する。ジャステイズ以外の4人は戦々恐々といった感じだ。これは皆旅の中で何かしらやらかしているんだろうな……俺も気をつけよう、これからの共同生活において、この手の弱みを握られるのは拙そうだ。既に浮気という大きな弱みを握られているわけだが。

「エメディアなんか、そんなジャステイズの身体を見て、頬を赤くしながら、『あっ……』何て、漏らしちゃって、可愛いの!」

「やめてっ!   ベル、それは駄目!」

エメディアさんが身を乗り出して話を止めようとしてくる。しかしベルは俺の方にぎゅっと抱きつきそんなエメディアさんを交わす。たわわな胸が当たって色々ともどかしいですベルさん。

「えっ、エメディア?」

ジャステイズがエメディアさんの方を向いて驚いた顔をしている。何に対して驚いているのだろう?   裸を見られた事か、それともエメディアさんが頬を赤くしていた事か?

「うう……だ、だって、ジャステイズは昔よりも筋肉が付いてたり、机に片足を乗せて叫んでいる姿が何故かかっこよかったり……はっ!   何言わせてんのよ!」

「ぐほおっ!」

エメディアさんがジャステイズの頬を平手打ちした。ジャステイズはその勢いで首がグリッと曲がる。

「あっ、ご、ごめんなさい、ジャステイズ!」

「うう、嫌、大丈夫だ……ベル、もういいだろ?」

「えー……仕方ない、次は飛んでドルーヨの話でも」

「何故ですか!?   そこはミュリーさんの話に移るところでしょう!?」

ドルーヨさんがベルに向かって抗議する。

「ふええっ!   わ、私ですかぁ……?」

ミュリーさんはそんなドルーヨさんを見てあわあわとした様子だ。

「ドルーヨ、男は諦めが肝心だ。商売においても決断力が大事、とよく漏らしていたでは無いか?」

デンネルさんがドルーヨさんの方を向き言った。

「それとこれとは話が別ですよ!   そんなことを仰るのであれば、デンネルさんの話からでどうですか?」

「むっ?   私の話か?   良いぞ、ベル、好きに話すが良い」

「良いの?」

「うむ、大丈夫だ」

「わかった。じゃあ、あれは東の大陸のヨムツ王国での時なんだけど--」


--そんな話を幾分かした後、部屋のドアが叩かれ、開かれた。最初に、謁見の間から部屋まで俺を案内してくれたメイドさんだった。

「失礼します。勇者様、仲間の皆様、国王陛下がお呼びです」

「陛下が?」

「凱旋の打ち合わせをしたい、との事で」

「ああ、そのことですね。わかりました。皆、行こっ?」

「ああ、馬鹿な話をして、少しは休まったしな」

デンネルさんがソファから立ち上がりながら言う。先程まで弄られていたのだが、存外楽しかったらしい。思うに、こうして落ち着いて話ができる環境に居られることが、何よりの安らぎなのだろう。魔王討伐などという苦労に比べれば、少しの失敗談なんて酒のつまみ程度なのかもしれないな。

「ええ、そうですね」

続けて他の人々も立ち上がる。俺はどうすれば?

「ベル、俺は?」

「ヴァン様は、グアード様のところへと」

「グアードの?」

「ええ、別の用事があるとか。詳しくは先方に手お願い致します」

「あ、ああ。わかった。すまないベル、そういう訳だから、ここで一旦お別れだな」

「ええ、そう見たい。残念だけど……」

「また直ぐに会えるわよ。今生の別じゃないんだしね?」

エメディアさんがベルの方に手を置きながら、宥めるように言った。少しだけ、子供に諭されている大人の図に見えてしまうと思ったのは内緒だ。。

「うん……じゃあ、ヴァンまた」

「ああ、仲間の皆さんも」

「ああ」
「ええ」
「は、はいっ!   また!」
「うむ」
「はい、後ほど」

皆それぞれに挨拶を返してくる。出会ったばかりの俺にも優しく接してくれる、良い人たちばかりだ。まあ、決闘騒ぎがあったが、あれはまた別の話だしな。

「では皆様、私について来てください」

「はい、お願いします」

メイドさんがベル達を引き連れて、部屋から出て行った。

「……さて、行くか」

グアードの用事とは何だろう?

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「今から話す事は、内密な話にして欲しい。いや、実際には直ぐに露見することかもしれないが?」

国軍元帥執務室に着いた俺は、部屋に入るなり、グアードからそう宣言された。

「はあ?   どういう事だ?   文脈がおかしいぞ、グアード」

「まずは話を聞いて欲しい」

部屋には、グアード他国軍の重鎮達が揃っていた。その為、俺に対してはいつもみたいに敬語ではなく、国軍トップとしての口調だ。建前、というやつだな。仮にも国の対外軍事力を司るトップとしての威厳やらを守らなけれればならないのだろう。グアードが敬語なのは2人で話をする時や、聞かれても問題がない相手の前でだけなのだ。俺としては敬語はやめてほしいのだが、グアード曰くヴァン様は我が師ですから、との事だ。俺にはよく分からないが、そう言うものらしい。師匠なんて俺にはいなかったからな。強いて言えば、ドルガさんやグチワロスの奴が俺の後見人みたいなものであるくらいか。

「テナード侯爵が、王都に向かって反旗を翻した。現在、25万の軍を持ってこの王都オーネへと進軍中との事。斥候からの情報によると、あと2日くらいで王都1キロ付近にたどり着くらしい。非常に鬼気迫っている状況だ。」

貴族の、反乱?   それも王都の直上、北方の自治を任されているテナード侯爵だ。更に侯爵といえば、王族の親族である公爵の一つ下、普通の人々では最高位の爵位だ。そのような貴族界でも地位が高い人物が、一体なぜ?

「グアード……さん、一体それは?」

俺は念のためさん付けでグアードに聞き返す。

「どうやら、どこから情報を掴んだのか、勇者が帰ってきた事を察知し、国に対する利権を奪われるかもと思ったらしい。これは今の所、我々の推測でしかないが。しかし、テナード侯爵は確かにその王都を魔王軍から守る立ち位置を持って、少なくない利権に預かってきた。既に汚職も多々見つかっているが、悪い事に文官はその情報を脅されて握りつぶしていたらしい。つまり、一言でいうと焦っているという事だ」

「なるほど……」

勇者が無事帰ってきた。それはすなわち魔王が討伐されたも同義。北方を大量の兵を用いて守る理由も、それにかこつけて利権を漁る理由もなくなるかもしれないという事だ。

「実に浅ましきことなり!」

グアードの右隣にいる人物が叫んだ。こいつは、ジャムズという参謀長だ。参謀長であるが、その手腕からグアードの右腕として名を馳せている。その為発言力も強いはずだ。

「ジャムズ、落ち着け」

「ぐ、グアード様、ここは早めに手を打たないと、王都が瞬く間に堕とされてしまいますぞ?」

今度はグアードの左隣に立つ人物が恐る恐る発言をした。こいつはブテー。国軍大将だ。しかし見た目がハゲのデブであり、とても軍人には見えない。登りつめるうちに位のみを追い求めたタイプだろう。発言からも自信というものが見られない。

「むむっ」

グアードが目頭を指で押さえ呻る。

「……グアードさん、その兵士は、殺すつもりでしょうか?」

「ん?   ヴァン、それはどういう意味だ?」

「もし殺さなくても良いなら、俺一人で片付けてきますよ?」

「何を言っておるのだ、貴様!   国軍の指導官だか何か知らないが、一人の人間で25万もの兵を相手に出来るわけがなかろう!」

ジャムズが叫ぶ。まあ、最もな反論だ。

「なっ!   ヴァン様!   それはいけません、ここにお呼びしましたのは、あくまでご意見を伺う為でありまして」

「グアードさん」

「ですから……あ……こほん、だから、余計な真似はしなくても良い」

焦る気持ちは分かるが、折角の使い分けが台無しになるぞ?

「皆様のお気持ちはわかります。しかし、たとえ敗れたとしてもたかが一人の男が死ぬ程度。国としては損害がないでしょう?」

「ぐぬ……しかし、無用な混乱を招く恐れがあるやも」
「ヴァン、と言いましたかな?」

ジャムズがまだ何か言いかけたが、そこに様子を伺っていたブテーが口を挟んだ。

「あ、はい」

「ヴァン殿、時間稼ぎ、として出陣してはくれませんかね?   勿論、単騎でですが」

「時間稼ぎ?」

「ええ、その発言を分析する限り、おそらくそれ相応の力を持ち合わせてはいるのでしょう。国軍の指導官であることは事実ですし、多少実力について裏付けることも出来ます。どうですかな?」

おお、見た目よりも出来るぞ、こいつ。妥当な分析だ。ジャムズどブテーの役割が逆な気がしてならない……

「ええ、俺はそれでも大丈夫です。俺としては、黙って見過ごすわけには行かないのですよ」

「ヴァン様……」

グアードが熱い視線を俺に送ってくる。だからやめろって!

「……こほん、まあ、確かに一人死んだくらいで大局に影響を与えるまではいかないかもしれないが……しかし、無用な混乱は避けると違ってくれませんと!」

ジャムズが念を押してした。

「ええ、勿論です。無用な混乱はね。グアードさん、これで宜しいですか?」

「え?   あ、ああ、そうだな……頼んだぞ、ヴァン指導官!」

「もちろん!」

さて、さっさと片付けますか!

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