俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第25話


「ジャステイズ!   止めなさい!」

ベルの叫び声が聞こえる。

……ぐっ、咄嗟に防御魔法を使えて良かった。危うく頭から潰されるところだったぜ。

「何故邪魔をする!」

ジャステイズは両手持ちの、所謂長剣を構えていた。見た感じかなりな高級品だ。

「ジャステイズ、貴方何をしているかわかっているの!?」

「何?   僕は邪魔者を排除しようとしているだけだ!」

女の人とジャステイズが言い合っている。誰だ、この人は?   頭に魔法使いが使う帽子にローブ、長い杖(スタッフと呼ばれるやつだ)を装備している。後ろ姿しかわからないが、髪の色は黄緑色だ。

「エメディア?   どうして?」

「ベル、大丈夫?   侍女が呼びに来た途端、ジャステイズが駆け出していったから、慌てて追いかけたの。そうしたら、そこの男性を斬り殺そうとしていたから、吹き飛ばさせてもらったわ。貴方も大丈夫?」

エメディアと呼ばれた女性は、俺の法を振り向きそう言った。身長やら顔つきやらがロリロリしている。この人もベルの仲間なのか?

「は、はい。大丈夫です」

「そう、貴方はそのまま大人しくしていてね?」

「は?」

「<風よ大いなる力を我に与え給え!>」

エメディアさんは呪文を唱えた。すると、空気が切り裂かれる音がし、ジャステイズの剣が火花を散らして真っ二つに折れた、

「なっ!」

「エメディア、何しているの!?」

「ベル、今は貴女も大人しくしていて!」

エメディアさんはかなり必死な様子だ。状況が明らかにおかしい。

「え、う、うん」

「エメディア、まさか君がここまで邪魔をするとはっ!」

ジャステイズは怒りで歯を剥き出しにしている。

「<水よ、その力を示せ!>」

しかし、エメディアさんは無視をし、呪文を再び唱えた。

「ぐごぼおっ!」

すると、ジャステイズがいきなり苦しみだした。喉を両手で押さえ、何やらもがいている。い、一体何が起こったんだ?

「エメディア!?」

「ベル、こいつは今はジャステイズじゃない!」

「何を言っているの?」

「ジャギードの牙があったでしょ?   あれの後遺症が出ているの!」

「なっ!   じゃあ、今ジャステイズは……」

「ええ、人間じゃなくなっている」

え?   に、人間じゃなくなって?   それにジャギードの牙って?

「……ど、どうするのよこれ?」

ベルは未だにもがいているジャステイズを見ながら呟く。

「……無理だわ」

「で、でも!」

「貴女の聖魔法でも、この呪いを解くことはできない。それはわかっているでしょ?」

「試さないとわからないわ!」

「いいえ、失敗すれば貴女も危ないのよ!」

「くっ……」

二人の会話を聞くに、ジャステイズは何かしらの呪いによって暴れている?   ようだ。つまり、先程の態度も呪いのせいという訳か。ん?   聖魔法なら、俺も使えるぞ?

「あの、お二人さん?」

「何、ヴァン!   ごめん、今は話している時間はないの!」

「どうしたのかしら?」

「俺、聖魔法使えるんだけど?」

「え?   そ、そうだったわね。でも、私でも出来なかったのに……」

「貴方は聖職者?」

「いいえ、普通の人間です。ベル、一応やってみようか?」

「だ、駄目っ!   失敗したら、貴方に呪いの魔力が流れ込んでしまうの!」

「えっ、マジ!?」

「本当よ」

エメディアさんが肯定する。

「……だが、やってみなきゃ始まらないだろ?」

「それはそうだけど……」

「今もジャステイズは苦しんでいる。それを救えなくて、プリナンバーを、勇者の子孫を誇れないだろ?」

「ううっ」

「心配するな、ちょこっとしてみるだけだから」

「貴方、そんな気持ちでこの呪いは解けないわ。遊びでやるなら今すぐ止めて」

「エメディアさん、でしたね。安心して下さい、ジャステイズも貴女も、ベルの友人なんでしょ?   中途半端な気持ちではやりませんから」

「し、しかし」

「ベル、そういう訳だから」

「えっ、ヴァン!」

俺はジャステイズに向かって手を突き出す。

「んーと……ほい!」

俺は解呪の魔法を使った。その瞬間、ジャステイズを優しい淡い光が包み込む。

「ぐっ、ぐおおおおおおおお!」

ジャステイズは口から水を吐き出しながら、暴れ始める。

「ベル!」

「エメディア!」

二人は、ジャステイズの周りに防御魔法を張り、円柱状に透明な壁を作った。

「ぐがあああぁぁぁ!!」

ジャステイズの口から溢れる水が段々と黒ずんだものへと変わっていく。

「あと少し!」

俺は更に魔法の力を強める。

「おおおおおおおおお……」

水が出切ったかと思うと、口から真っ黒な丸い塊がフワフワと浮き出てきた。

「なっ!   ベル!」

エメディアさんが叫ぶ。

「くらえ!」

ベルが両手を黒い塊に突き出すと、黒い塊がボロボロと崩れ始めた。そして数秒たった頃には、跡形もなく消え去っていた。

「ふう……これでどうだ?」

「ヴァン……す、凄いわ」

ベルは驚いたと言った様子で、俺に笑顔を向けてきた。

「そんな……あ、ありえない……」

一方エメディアさんは驚愕の表情を浮かべ、ふるふると震えている。

「ううっ……」

床に伏せていたジャステイズは、次第に呼吸をし始めた。

「これで終わり、か?」

「ええ、そのはず」

「唯の一般人が……?   でも、プリナンバーがどうとか……嘘……」

エメディアさんは変わらずブツブツと一人呟いている。

「ベル、それで、これはどういうことなんだ?」

ダメ元で使った聖魔法が効いたが、そもそも何故ジャステイズは暴れ始めたんだ?

「その、魔王軍の幹部に--」

ベルの説明によると、魔王軍の12人の幹部の中に、虎型の魔族(知性を持った魔物を魔族と呼ぶそうだ。人間側、俺たちは全て魔物と呼んでいたが、魔王軍は分けて読んでいたらしい。恐らく軍の統率のためだろう。)であるジャギードという者がおり、そのジャギードを倒すときにジャステイズが噛まれたそうだ。そして噛まれた所に呪いが残ってしまった。この呪いは強い嫉妬欲が出た時に発動するもので、今回は恐らく俺の存在を妬んで発動したとの事。今まで発動しなかったのかと聞くと、ジャギードを倒したのは魔王城でのことだったので、呪いにかかってからそんなに時間が経ってなかったため、今まで発動する事は無かったとの事だった。

つまり、今の流れは俺がこの場にいたから起きた騒動とも言える。これ、俺のせいにされるの?

「成る程、俺はそのジャギードとやらの呪いを解呪した訳だな」

「そういうこと」

「じゃ、あの黒い塊はなんだったんだ?」

「あれは、その呪いの素。強い呪いは、一旦解呪しても違う人に移ってしまうことがあるの。だから、ベルの力で消滅させたのよ」

エメディアさんが答えた。

ベルの力……先のを見るに、一撃必殺というものだろう。四年前にハイオーガを倒したのもあんな感じの力だったらしいし。もしかして、あの頃から勇者としての力に目覚めていたのか?   覚醒は未だに謎が多い。俺もまだ判明していない覚醒があるからな。

「うう……」

そんな話を3人でしていると、ジャステイズは気が付いたのか、小さく呻き声を上げ起き上がった。

「!   ジャステイズ、大丈夫?」

「あ……ぼ、僕は?」

「あのね、よく聞いて。ジャステイズはさっきまで呪いのせいでおかしくなっていたのよ--」


ベルがジャステイズに説明をした。

「そ、そうだったのか。確かに、ヴァン君を見た時に、心の中に黒いものが……す、すまなかった。そしてありがとう、助かったよ」

ジャステイズは俺たちに向かって頭を下げた。

「ジャステイズ……もう、大丈夫なのよね?」

エメディアさんが心配そうな顔でジャステイズを見る。うん?

「ああ」

「そ、そう」

エメディアさんは本当に安心したようで、溜息をつきながら両手を地面につけた。杖も一緒に床に落ちる。

「あの、ベル?」

俺は小声でベルに問う。

「……察して」

「はい」

こうして、この場はなんとか収まったのであった。

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