俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第19話


コンコン

コンコン

「はいぃ……」

俺は扉が叩かれる音で目を覚ます。

「ヴァン、入って良いか?」

お父様の声だ。

「えっと……い、今はだめですっ!」

「ん?   どうした、何かあったのか?」

「い、いえ、部屋の片付けをしていて」

「そうなのか?   私は別に構わんが」

「あの、言いにくいのですが」

「……わかった。少し待つ」

「すみません、お父様」

俺は慌てて部屋を片付ける・・・・・

「ベル、ベル、起きて」

俺は小声でベルを起こした。

「んー、なーに」

「お父様がきたっ、まずいよ」

「えー?   ……えっ!」

ベルも慌てて飛び起きる。双丘が揺れた。

「は、早く服を着てくれ」

「あっ……わかったわ」

ベルは急いで服を着、髪を整えた。

「よし、あとはこのベッドだけだな」

床の汚れはなんとか消したので、くしゃくしゃになっているベッドに生活魔法をかけ、綺麗にする。魔法って便利。

「ふう、片付いた」

俺は念のため部屋を見回す。うん、跡は残っていないな。

「お父様、もう大丈夫です」

俺はベルに椅子に座るようジェスチャーしながら、お父様に返事をした。

「わかった。入るぞ?」

カチャリ

「……ヴァン、少し来なさい」

「はい?」

お父様が俺を部屋の入り口まで呼びつけたので、俺はドアへ向かう。


「匂いは消しておけよ。一番大切なところだぞ」


お父様は俺の耳元でそういった。

「え……」

「貴族の間では常識だ。浮気がばれない10の方法にも載っている。お前も覚えておきなさい」

「うっ」

俺は恥ずかしさで顔が熱くなる。

「よし、ここまでだ。ベル、下へ来てくれないか。ヴァンはここで待っていてくれ」

お父様は声のトーンを戻し、ベルの方を向いて言う。

「おじさま、私だけですか?」

「お父様、俺はだめなのですか?」

「駄目だ、ベルだけだ」

「……わかりました」

ベルは少し落ち込んだ様子で返事をした。

「お父様、何故なのですか?   さっきから、何か俺に隠さなければいけないような用事が?」

2人ともならともかく、ベルを呼んで俺はダメなんていう用事が思いつかない。

「ああ、これは最重要事項なのだ。わかったな?」

「最重要事項、ですか……」

「その通りだ。ベル、早く来なさい」

「はい……」

ベルはトボトボとこちらに近づいてくる。

「ヴァンはこの部屋から出ないように。絶対だぞ?」

「うう、わかりました、お父様」

俺はこれ以上争っても仕方がないと思い、お父様の言う通り従う事にした。

「ヴァン、また後でね?」

ベルは申し訳なさそうに俺に微笑みかける。

「あ、ああ」

「では、行こうか」

お父様とベルは部屋から出て行った。

「……一体、何なんだ?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「おお、ベル。無事なのか?」

「はい、お父様。申し訳ありませんできた」

「良い。私ももう少し様子を見て伝えるべきであった。このネックレスはお前に渡そう」

お父様は銀色のネックレスを私に渡してくる。受け取ってよく見ると、ロケットは縁が金色で、本体は深い青色だった。

「開けてみてくれ」

「良いのですか?」

「ああ」

私はお父様の言う通りにロケットの蓋を開けた--


「こ、これは……」


そこには、一つの紙切れが入っていた。

「手紙……ですか?」

「そうだ」

紙切れの表面には、私の最愛の娘ベルへ、と書かれていた。

「読んでも、よろしいでしょうか?」

「ああ、構わない」
「うむ、少し待とう」

お父様とおじさまが了承したので、私は紙切れを広げる。

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我が最愛の娘、ベルへ

この手紙を読んでいる時、私はもうこの世にはいないでしょう。

魔王軍は私たちの必死の抵抗を嘲笑うかのように、毎日来ては決まった数を殺し去っていきます。私の知り合いも何人も殺されました。
この世界は危機を迎えています。人々の顔は暗く、明日の光も見ることができない人が大勢います。このでも、犯罪が横行し、路肩で倒れている人がいます。

しかし、私は思うのです。誰であろうと、光は必ず指すのだと。私にとっての光は、ベル、貴方でした。
今は遠くにいる貴方ですが、いかに離れていようと私の心に光を射してくれます。毎日毎日貴方の肖像画を眺めています。今はどのくらい大きくなっただとか、ヴァン君とは仲良くしているのかとか、色々と考えることもできます。
私にはその時間が今一番楽しいひと時なのです。

ベル、魔王はきっと恐ろしい方でしょう。もしかしたら、いつしかそちらまで魔王の軍勢が迫ってしまう時が来るかもしれません。
しかし、負けないでください。心が負けたら、人はそこで終わりです。私はどんなに辛くても、貴方のおかげで負けることはありませんでした。
私の娘なら、きっとわかってくれるはずです。お願いします、困難に立ち向かってください。さすれば、必ず道は開けます。

いつしか平和な世になることを、心から願って。

アリア=エイティア

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「お母様……」

私は、手紙を読みつい泣きそうになる。

「ベル……」

お父様も心配そうに私のことを見る。

「……お父様、大丈夫です。私はアリアの、アリア=エイティアの娘ですから!」

私は笑顔でそういった。

「そ、そうか。そうだな」

「うむ、ベルは強い娘に育ってくれた」

おじさまも笑顔で私に返事をする。

「はい、私は負けません、絶対に!」

「そうか、それは頼もしいな。さて、話に入ろうか」

お父様はそう言った。

「ヴァンに聞かせられないような話とは?」


「うむ、ベル。そなたは勇者に選ばれた」

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