俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第6話

「むぐっ……」

「ん……はっ……」

ドルガ様は延々と舌を入れ続ける。俺は何故か一切抵抗することが出来ずにいた。

「…………むー? むー!」

だがそろそろ息が苦しくなってくる。俺は慌ててその背中を叩いて合図を出す。

「……ぷはっ……終わりました」

そうすると何分経ったかわからない頃、ドルガ様は俺の口からようやく舌を出し、唇も離した。

「あー……」

俺はどこか上の空でドルガさんのことを見つめる。気持ちがフワフワとしてとても気持ちが良い。こんなにめちゃくちゃにされたのは初めてだ。目の前に星が見えるぞ。
体を離した瞬間腰が抜け地面にへたり込んでしまうほどである。

ドルガさんは俺の唇と自分の唇を伝っている唾液を拭い、立ち上がった。

「ふう、ハジメさん、大丈夫ですか?」

「へ? らいじょうれす……はあっ」

俺もよろよろと立ち上がる。

「少し待って下さい。恐らく神気シンキに当てられたのでしょう。回復させますから」

ドルガさんはそういうと、グチワロスがやったみたいに、俺の胸に左手を置いた。そしてそのまま右手を俺の顔に翳し、目を瞑る。そうすると、ドルガさんの両手が光り出して、俺の中に何かが流れ込んできた。

「……終わりました。すみません、先に抗体を作っておくべきでしたね。これでもう、ハジメさんは神気に当てられるようなことはありません、ご安心ください」

「んはっ! ドルガさん、さっきの、き、ききき、キスは一体!?」

言う通りに、俺は夢から醒めたようにパッと意識がはっきりする。記憶は残っているため、今の行為を思い出して顔が瞬間湯沸かし器だ。

「今の接吻についてですが、こちらの世界に留まることができるよう、私の唾液を少し分け与えたのです。そうしなければ、失礼ですが貴方のような力の弱い普通の人間はすぐにこの空間から消失してしまいますので……説明も無しに、すみませんでした」

ドルガ様は頭を下げ、俺に謝ってきた。

「い、いえ、こちらこそ嬉しいやら気持ち良いやら……いいやっ! ち、違うくて、今のはその……」

「ふふっ、ハジメさんは可愛いのね」

「かっ!」

俺はさらに顔を赤らめ中途半端な姿勢でのけぞってしまう。

「あら、ハジメさん、そんなにされて……」

「え?」

ドルガ様は、俺の足元の方を見て何故か舌舐めずりをする。

「実はですが、人間とキスをしたら、女神はいけない気分になってしまうのよ……人間の唾液が私たちにとっては精力剤みたいなものらしいのだけど、そこら辺はまだはっきりわかっていないわ……まあとにかく何が言いたいかというと、発散させないと頭がぼんやりして仕方がないのです……ごめんね、ハジメさん……ううっ、でも、もう我慢できない!」

「はあ? 精力剤?? 発散?? ってド、ドルガ様!」

発情した女神様は床に膝をつきしゃがみ込むようにして俺の腰元まで顔を下ろした。






「……はあ、しゅごい……」

「すみませんでしたあ!」

俺はドルガ様に向かって渾身の土下座を繰り広げていた。何に対してかは言わずもがな、敢えて表現すれば俺の粗相についてだ。

「まさかヴァンさんがあんなに積極的だとは。でもお陰で一つわかったことがあるわ」

「わかったこと、ですか?」

「貴方といたすと、私の発情を抑えることができましたよね。これって凄い発見ですよ!」

「はあ?」

ドルガ様は再び興奮された様子だ。だが先ほどとはその性質が違うものではあるが

「一気に気分が落ち着いたの。本当なら私の身体を使って、私自身から高まった精力を抜かなきゃいけないんだけれど、今回は貴方に相手をしてもら後すぐさま落ち着いたの。だから、恐らく人間の体には精力を高めるだけではなく抑える効果も期待することができるかもしれないわ。これは大発見だわ! 『神学会』で発表してみようかしら?」

ドルガ様が何やら怪しげなことを言っている。神学会な?てあるのか。神様の世界って一体どうなっているんだ? 人間の世界とそう変わらないように思えてくるな。

「というわけでもう頭を下げなくても大丈夫です、ハジメさん。そもそも私が暴走したのが悪いのですから」

「そ、そうですか?」

「ええ、それにハジメさん、私の好みですもの」

「こ、好み……」

「タイプとも言われているわね? そんなにかっこいいとまでは行かないけれど、雰囲気が何だか好きだわ」

「雰囲気ですか……かっこよく無いとか言われた……ぐすっ」

「い、いえ、別に乏しめている訳ではないの」

ドルガ様は途端にオロオロと手を彷徨わせる。

「あの。本当に私の好みなのです。こう、女神としての本能をくすぐるというか……母性本能、は違うわね。神性本能とでも言うべきかしら?」

「よくわかりませんが、とにかく、もう先程のような失態は致しませんので……」

「ふふん、今度はもう少し落ち着いた状況で二人で会いたいものですね?」

ドルガ様は自らの唇を舌でぺろりと舐めた。舌舐めずりというやつだろう。いやに扇情的だが、怖くもあるな……Sじゃないと良いんだけど……

「こ、こほん」

俺は誤魔化すように咳払いをし、ゆっくりと立ち上がった。床は大理石のようなものでできているが、不思議と膝をついても痛くはなかった。これも神様(の世界)の力なのだろうか?

「一先ず必要な処置は終わったので、そろそろ転生するための下準備を始めましょうか?」

「下準備、ですか」

ドルガ様の提案はいまいちピンとこない。

「ほら、見た目はどうとか、どこに生まれるとかあるじゃない? 能力については、ある程度グチワロスが与えたようだから、私からは少しだけにしておくけれど、この世界での人体についてはこちらで決めないといけないのよ。だから、さっさと決めちゃいましょう? ハジメさんも早くニューライフを始めたいでしょう?」

「まあ、そうですね。それじゃあお願いします。まずは、イケメンで!」

「イケメンでね」

「髪の毛は今くらいが良いですね」

「髪の長さはセミショート位と」

「身長は170位で、体重は太っていない程度で。あんまりガリガリもいやなので」

「中肉中背と」

「目の色は、茶色でいいかな」

「目の色は茶色……身体についてはこれくらいで良いかしら?」

「はい。お願いします」

「じゃあ、次は身分設定ね。ゼロ歳からのスタートになるけれど、精神や知識はそのままだから安心してね?」

「転生ですから、そりゃそうでしょうね。それくらい何ともありませんよ! 俺にはレッツチートの夢があるんですから!」

「ふふっ、それは頼もしい、頑張ってくださいね?」

ドルガさんは美しいとは変わって可愛い笑顔で俺の方に微笑みかけた。こんな顔も出来るんだな、この人は。

「はい! あと、生まれについては……貴族でお願いします」

「貴族でいいのね?」

「はい」

「わかったわ、貴族と……」

「それと、友達がいればいいなあ、なんて……」

「同じくらいの生まれの子が欲しいのね? わかったわ、それも探してみる」

「後は、できるだけ貧乏は避けたいです……何かを学ぶにも、お金がいると思うので」

「そこら辺は安心してちょうだい。没落貴族としてスラム街に放っぽり出したり、はしないから」

「わかりました」

「後は?」

「んーと……それくらいですかね? 後は俺の力でどうにかしてみせますよ!」

「ふふっ、ハジメさんは頑張り屋さんになるわね?」

「さあ? どうでしょう?」

俺は惚けてみせた。

「あら、悪い子なの!」

そう言って、ドルガ様は俺の額にキスをした。先程とは違う、軽くて優しいキスだ。

「えっ?」

すると俺の身体が一瞬ではあったがポワッっと光った。

「ふふっ、ついでなので。これが私からの能力、女神の祝福よ。幸運値が上がるはずだわ」

「あ、ありがとうございます……」

こういうキスは本当に恥ずかしいんだよなあ……凛にされた時も……今は忘れよう。

「それじゃあ、頑張ってね? 私、応援するから! それじゃあ、いってらっしゃい!」

ドルガ様は俺のことを抱きしめた。そして、俺のことを光が包み込む。

「幸あらん--」


俺の異世界ライフはすぐそこだ--

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