Kiss for witch
4話
「──ここが『玄武高校』……」
黒色の髪を腰まで伸ばした少女が、校門に立って校舎を見上げる。
「……全く……もういい加減、『魔法大戦闘』には疲れたわね……こっちでは魔法使いの目撃情報はそこまで出てないし、久しぶりにゆっくりできそう」
『玄武高校』の校門を潜り──その姿に気づいた教師と思わしき男性が、少女に声を掛けた。
「何をやっている、もう昼休みだぞ。すぐに職員室に遅刻の届出を──うん……? キミは……ああ、キミが転入生か」
「はい。申し訳ありません。少々道に迷ってしまい、ここに着くまでに時間が掛かってしまいました」
──嘘だ。
少女はこの学校に登校する──途中で、魔法使いに戦いを挑まれた。
そのせいで遅刻するハメになってしまったのだ。
「そうか……まあ、遠くから引っ越して来たって話だし、道がわからなくても仕方がないか……」
「申し訳ありません……一言こちらに連絡を入れれば良かったのですが、そこまで頭が回らず……」
「はぁ……わかった、今回は目を瞑ろう。それで、キミのクラスは?」
「あ、申し遅れました。私、今日からこの高校でお世話になる──」
どこか冷たい印象を与える微笑を浮かべ──少女が自己紹介をした。
「二年二組の破闇 刀華と申します」
──高校二年の四月。残り数日で五月になろうとする時期。
夜行と雲雀が出会ってから──ちょうど一週間が経とうとしていた。
───────────────────
「──はァ?」
──昼休み。
『学校活動応援部』の部室──になる予定の所で、夜行と雲雀は弁当を広げていた。
「で、ですからっ……いつ『魔法大戦闘』に巻き込まれるかわかりませんので……その……常に、魔力を維持しておきたいんです。私にも叶えたい願いがあるので、『魔法大戦闘』に負けるわけにはいかなくて……」
「あァ」
「それでっ、自身の魔力を強制的に回復させるなら、キスをするのが一番効率がいいんです」
「……ンでェ?」
「です、ので……百鬼くん。私とキスを──」
「ざっけンなボケがァ」
雲雀の言葉を最後まで聞かず、夜行が唐揚げを口に放りながら拒絶の言葉を吐き出した。
「な、なんでですか?! あの時はしてくれたじゃないですかっ!」
「あン時はテメェが具体的な方法をオレに説明しなかったから、抵抗できなかったンだろうがよォ」
「……百鬼くんは、私が『魔法大戦闘』で負けても良いんですか?」
「別に負けても命に別状はねェって聞いたしなァ……その場にオレが居合わせりゃァ考えるが、毎日毎日キスするってのァゴメンだねェ。つーかキス以外の方法はねェのかァ?」
「……魔力を回復させるには、キスなどの身体接触による直接的な魔力譲渡と、唾液などの体液による間接的な魔力譲渡があります。先日も説明した通り、普通の人から魔力を貰おうとすると、その人が干からびてしまうんです」
雲雀の話を聞きながら、夜行はパクパクと昼ご飯を食べ進める。
「ですが、百鬼くんは違います。無限とも言える魔力を保有する百鬼くんなら、他人に大量の魔力を譲渡しても問題ありません。その証拠に、先日のキスでは百鬼くんの体調に特に異変はなかったですよね?」
「あァ」
「参考までに言っておくと、あの時私は百鬼くんの体から、普通の人間百人分くらいの魔力を吸い取りました。それでもピンピンしているので、キスによる魔力譲渡が一番効率的だと言えます。どうしてもダメと言うなら……そうですね……」
もじもじと体を動かし、雲雀が顔を真っ赤にして言った。
「き、キスがダメなら──百鬼くんの唾液をくださいっ」
「お前マジで何言ってンだァ?!」
「間接的な魔力譲渡なら、本当は精液が一番良いのですが……贅沢は言いません! 唾液がダメなら血液を! いえ、それもダメなら、汗でも構いません!」
「オレが構うって話だってンだよォ!」
普段からは考えられない雲雀の言葉に、思わず夜行は声を荒らげた。
「……そ、そうですよね……こんな小さくて子どもみたいな私なんかと……キスなんて、したくないですよね……」
肩を縮こませ、雲雀がしゅんと顔を俯かせる。
──口の中に広がる、苦々しい感覚。
冗談や嘘ではなく、雲雀は本気で落ち込んでいるらしい。
「あー……あのなァ? オレァ別に、お前がちんちくりんだからキスをしたくねェって言ってるワケじゃねェ」
「ちんちくっ……?!」
「付き合ってもいねェ男と女が、お互いを好き同士でもねェのにキスするってのァ問題があンだろォ? いくら魔法使いと戦うっつってもなァ。だからまァ……魔力の譲渡は、必要な時だけだなァ」
そこまで言って──ふと、室内に予鈴のチャイムが響く。
どうやら昼休みは終了のようだ。
「ほら、予鈴がなったぞォ。とっとと教室に戻ろうぜェ」
「……はい」
弁当を片付け、夜行たちは文化部棟を後にする。
そのまま自分たちの教室に向かい──ふと、夜行と雲雀は歩みを止めた。
──二年二組の教室の前に、見た事のない少女が立っている。
腰まで伸びた長く綺麗な黒髪に、整った美しい顔。身長は夜行と同じくらいだろうか。少女の凛々しい顔つきと相まって、どこか気が強いような印象を与えてくる。
どこのクラスの生徒だろうか──そんな事を考えていると、少女も夜行たちに気づいたのか、こちらに視線を向けた。
──ゾクッと、夜行の背筋に寒気が走る。
「──っ」
隣の雲雀が、少女の視線を受けて息を呑んだ。
──なんだ、コイツ。
夜行の本能が、危険信号を発している。
立ち姿でわかるほど、精錬された姿勢。今この瞬間に攻撃を仕掛けられたとしても、いつでも迎撃できるよう、少女の足は前後に開かれている。
加えて──少女の体から放たれている、鋭く冷え切った覇気。
間違いない──コイツ、強い。
「……何か用かしら?」
美しい微笑を浮かべ、少女は夜行に一歩近づいた。
対する夜行は──動かなかった。
「別に用なンざねェよォ。自分のクラスに見慣れねェ奴がいるから見てただけだァ」
「そう……アナタ、逃げようとしないのね? 私と初めて会う人は、みんな私を怖がるのに」
「あァ? オレがお前を怖がるだァ? なンでオレより弱ェ奴の事を怖がらなきゃならねェ?」
「……へぇ? アナタが、私より強いの?」
「見てわからねェかァ?」
夜行と少女のやり取りを見ていた周囲の生徒たちが、一触即発の雰囲気に目を奪われる。
数秒ほど正面から睨み合う二人──と、何かに気づいたのか、少女は形の良い眉を寄せた。
「……? この感じ……」
「あァ?」
「……魔法……? それに、この魔力の量……」
「─────」
ぶつぶつと何かを呟く少女。
周りにいる生徒たちには聞こえないかも知れないが──目の前にいる夜行には、ハッキリと聞こえた。
──魔法。それに、魔力と口にした。
つまり、コイツは──
「アナタ、名前は?」
「……百鬼 夜行だァ」
「そう、百鬼君ね。アナタの事は、しっかり覚えておくわ。私は破闇 刀華よ。どうやら同じクラスみたいだし、よろしくね」
「はン」
差し出された刀華の手を払い除ける──寸前、チャイムが鳴った。授業開始のチャイムだ。
「あら……このチャイムって、授業開始のチャイムよね?」
「あァ」
「そう。なら、仕方ないわね」
クルリと身を翻し、刀華が教室の中に消えて行く。
ずっと夜行の後ろに隠れていた雲雀が、ようやく声を漏らした。
「こっ──怖かったぁ……」
「テメェ、何オレの後ろに隠れてやがンだァ?」
「だ、だって! ……あの人、とても怖かったですし……百鬼くんもいきなりケンカを売っていましたし……怖くて百鬼くんの隣になんて立っていられませんよぅ」
「はァ? 喧嘩なンか売ってねェっつーのォ。アイツが売ってきた喧嘩を、オレが買ってただけだァ」
「……何が違うのかわからないんですけど……」
「──ほらそこー。もう授業は始まってるぞー。席につけー」
「あ、は、はい!」
教室に向かって来る教師の言葉に、夜行と雲雀は大人しく教室の中に入って行く。
「……鴇坂ァ」
「はい?」
「──アイツ、多分魔法使いだァ」
「……え?」
おそらく、先ほどの刀華の言葉が聞こえていなかったのだろう。雲雀がキョトンとした表情で夜行を見上げる。
「な、なんでわかるんですか?」
「オレの体を見て、魔法やら魔力やら呟いていたからなァ……ンなピンポイントな言葉、魔法使いしか使わねェだろォ」
「……なるほど」
「──さて。それじゃー早速だけど、自己紹介をしてもらおうかな?」
「はい。わかりました」
担任の先生が教室に足を踏み入れ──その隣に、刀華が並び立つ。
「破闇 刀華です。色々と事情があって、ここから遠く離れた所から引っ越してきました。どうぞ、よろしくお願いします」
「それじゃー破闇の席は……うん。百鬼の横が空いてるね。ほら、あそこに金髪の悪そうなやつがいるだろう? 君の席はその隣だ」
「わかりました」
担任に促され、刀華が夜行の方へと歩いてくる。
「よろしくね、百鬼君」
「……あァ」
───────────────────
──その日は特に何事もなく、放課後を迎えた。
夜行も荷物をまとめ、雲雀と共に文化部棟へ行こうとする──寸前、背後から声を掛けられた。
「百鬼」
「あァ? ……川上先生かァ。なンか用かァ?」
夜行と雲雀の担任──川上先生が、夜行を呼び止めた。
その川上先生の隣には──刀華が立っている。
「この後、予定はあるかな?」
「……いや、特に何もねェ」
「なら、破闇に校内の案内をしてくれないかな?」
「……オレがァ?」
「うん。破闇が百鬼に校内を案内して欲しいって希望してね」
「お願いできるかしら、百鬼君?」
「つっても、オレもそこまで校内に詳しいワケじゃねェからなァ? 最低限、授業で使うような所にしか案内できねェぞォ?」
「充分だよ。というわけで、頼めるかな?」
「……チッ、わかったわかったァ」
ありがとね、と言い残し、教室を出て行く川上先生。
──クイクイと、夜行の制服の袖が引っ張られる。
そちらに視線を向けると──そこには、雲雀がいた。
「あの……」
「話は聞いてたなァ? オレァコイツに校内を案内しなきゃならねェから、部室に行くのァ少し遅れるぞォ」
「はい、わかりました。では先に行ってますね」
「あァ」
教室を後にする雲雀を見送り──夜行は、刀華に視線を向けた。
「ンじゃ行くぞォ……時間を掛けるつもりァねェから、シャキシャキ付いて来いよォ」
「えぇ、わかったわ」
黒色の髪を腰まで伸ばした少女が、校門に立って校舎を見上げる。
「……全く……もういい加減、『魔法大戦闘』には疲れたわね……こっちでは魔法使いの目撃情報はそこまで出てないし、久しぶりにゆっくりできそう」
『玄武高校』の校門を潜り──その姿に気づいた教師と思わしき男性が、少女に声を掛けた。
「何をやっている、もう昼休みだぞ。すぐに職員室に遅刻の届出を──うん……? キミは……ああ、キミが転入生か」
「はい。申し訳ありません。少々道に迷ってしまい、ここに着くまでに時間が掛かってしまいました」
──嘘だ。
少女はこの学校に登校する──途中で、魔法使いに戦いを挑まれた。
そのせいで遅刻するハメになってしまったのだ。
「そうか……まあ、遠くから引っ越して来たって話だし、道がわからなくても仕方がないか……」
「申し訳ありません……一言こちらに連絡を入れれば良かったのですが、そこまで頭が回らず……」
「はぁ……わかった、今回は目を瞑ろう。それで、キミのクラスは?」
「あ、申し遅れました。私、今日からこの高校でお世話になる──」
どこか冷たい印象を与える微笑を浮かべ──少女が自己紹介をした。
「二年二組の破闇 刀華と申します」
──高校二年の四月。残り数日で五月になろうとする時期。
夜行と雲雀が出会ってから──ちょうど一週間が経とうとしていた。
───────────────────
「──はァ?」
──昼休み。
『学校活動応援部』の部室──になる予定の所で、夜行と雲雀は弁当を広げていた。
「で、ですからっ……いつ『魔法大戦闘』に巻き込まれるかわかりませんので……その……常に、魔力を維持しておきたいんです。私にも叶えたい願いがあるので、『魔法大戦闘』に負けるわけにはいかなくて……」
「あァ」
「それでっ、自身の魔力を強制的に回復させるなら、キスをするのが一番効率がいいんです」
「……ンでェ?」
「です、ので……百鬼くん。私とキスを──」
「ざっけンなボケがァ」
雲雀の言葉を最後まで聞かず、夜行が唐揚げを口に放りながら拒絶の言葉を吐き出した。
「な、なんでですか?! あの時はしてくれたじゃないですかっ!」
「あン時はテメェが具体的な方法をオレに説明しなかったから、抵抗できなかったンだろうがよォ」
「……百鬼くんは、私が『魔法大戦闘』で負けても良いんですか?」
「別に負けても命に別状はねェって聞いたしなァ……その場にオレが居合わせりゃァ考えるが、毎日毎日キスするってのァゴメンだねェ。つーかキス以外の方法はねェのかァ?」
「……魔力を回復させるには、キスなどの身体接触による直接的な魔力譲渡と、唾液などの体液による間接的な魔力譲渡があります。先日も説明した通り、普通の人から魔力を貰おうとすると、その人が干からびてしまうんです」
雲雀の話を聞きながら、夜行はパクパクと昼ご飯を食べ進める。
「ですが、百鬼くんは違います。無限とも言える魔力を保有する百鬼くんなら、他人に大量の魔力を譲渡しても問題ありません。その証拠に、先日のキスでは百鬼くんの体調に特に異変はなかったですよね?」
「あァ」
「参考までに言っておくと、あの時私は百鬼くんの体から、普通の人間百人分くらいの魔力を吸い取りました。それでもピンピンしているので、キスによる魔力譲渡が一番効率的だと言えます。どうしてもダメと言うなら……そうですね……」
もじもじと体を動かし、雲雀が顔を真っ赤にして言った。
「き、キスがダメなら──百鬼くんの唾液をくださいっ」
「お前マジで何言ってンだァ?!」
「間接的な魔力譲渡なら、本当は精液が一番良いのですが……贅沢は言いません! 唾液がダメなら血液を! いえ、それもダメなら、汗でも構いません!」
「オレが構うって話だってンだよォ!」
普段からは考えられない雲雀の言葉に、思わず夜行は声を荒らげた。
「……そ、そうですよね……こんな小さくて子どもみたいな私なんかと……キスなんて、したくないですよね……」
肩を縮こませ、雲雀がしゅんと顔を俯かせる。
──口の中に広がる、苦々しい感覚。
冗談や嘘ではなく、雲雀は本気で落ち込んでいるらしい。
「あー……あのなァ? オレァ別に、お前がちんちくりんだからキスをしたくねェって言ってるワケじゃねェ」
「ちんちくっ……?!」
「付き合ってもいねェ男と女が、お互いを好き同士でもねェのにキスするってのァ問題があンだろォ? いくら魔法使いと戦うっつってもなァ。だからまァ……魔力の譲渡は、必要な時だけだなァ」
そこまで言って──ふと、室内に予鈴のチャイムが響く。
どうやら昼休みは終了のようだ。
「ほら、予鈴がなったぞォ。とっとと教室に戻ろうぜェ」
「……はい」
弁当を片付け、夜行たちは文化部棟を後にする。
そのまま自分たちの教室に向かい──ふと、夜行と雲雀は歩みを止めた。
──二年二組の教室の前に、見た事のない少女が立っている。
腰まで伸びた長く綺麗な黒髪に、整った美しい顔。身長は夜行と同じくらいだろうか。少女の凛々しい顔つきと相まって、どこか気が強いような印象を与えてくる。
どこのクラスの生徒だろうか──そんな事を考えていると、少女も夜行たちに気づいたのか、こちらに視線を向けた。
──ゾクッと、夜行の背筋に寒気が走る。
「──っ」
隣の雲雀が、少女の視線を受けて息を呑んだ。
──なんだ、コイツ。
夜行の本能が、危険信号を発している。
立ち姿でわかるほど、精錬された姿勢。今この瞬間に攻撃を仕掛けられたとしても、いつでも迎撃できるよう、少女の足は前後に開かれている。
加えて──少女の体から放たれている、鋭く冷え切った覇気。
間違いない──コイツ、強い。
「……何か用かしら?」
美しい微笑を浮かべ、少女は夜行に一歩近づいた。
対する夜行は──動かなかった。
「別に用なンざねェよォ。自分のクラスに見慣れねェ奴がいるから見てただけだァ」
「そう……アナタ、逃げようとしないのね? 私と初めて会う人は、みんな私を怖がるのに」
「あァ? オレがお前を怖がるだァ? なンでオレより弱ェ奴の事を怖がらなきゃならねェ?」
「……へぇ? アナタが、私より強いの?」
「見てわからねェかァ?」
夜行と少女のやり取りを見ていた周囲の生徒たちが、一触即発の雰囲気に目を奪われる。
数秒ほど正面から睨み合う二人──と、何かに気づいたのか、少女は形の良い眉を寄せた。
「……? この感じ……」
「あァ?」
「……魔法……? それに、この魔力の量……」
「─────」
ぶつぶつと何かを呟く少女。
周りにいる生徒たちには聞こえないかも知れないが──目の前にいる夜行には、ハッキリと聞こえた。
──魔法。それに、魔力と口にした。
つまり、コイツは──
「アナタ、名前は?」
「……百鬼 夜行だァ」
「そう、百鬼君ね。アナタの事は、しっかり覚えておくわ。私は破闇 刀華よ。どうやら同じクラスみたいだし、よろしくね」
「はン」
差し出された刀華の手を払い除ける──寸前、チャイムが鳴った。授業開始のチャイムだ。
「あら……このチャイムって、授業開始のチャイムよね?」
「あァ」
「そう。なら、仕方ないわね」
クルリと身を翻し、刀華が教室の中に消えて行く。
ずっと夜行の後ろに隠れていた雲雀が、ようやく声を漏らした。
「こっ──怖かったぁ……」
「テメェ、何オレの後ろに隠れてやがンだァ?」
「だ、だって! ……あの人、とても怖かったですし……百鬼くんもいきなりケンカを売っていましたし……怖くて百鬼くんの隣になんて立っていられませんよぅ」
「はァ? 喧嘩なンか売ってねェっつーのォ。アイツが売ってきた喧嘩を、オレが買ってただけだァ」
「……何が違うのかわからないんですけど……」
「──ほらそこー。もう授業は始まってるぞー。席につけー」
「あ、は、はい!」
教室に向かって来る教師の言葉に、夜行と雲雀は大人しく教室の中に入って行く。
「……鴇坂ァ」
「はい?」
「──アイツ、多分魔法使いだァ」
「……え?」
おそらく、先ほどの刀華の言葉が聞こえていなかったのだろう。雲雀がキョトンとした表情で夜行を見上げる。
「な、なんでわかるんですか?」
「オレの体を見て、魔法やら魔力やら呟いていたからなァ……ンなピンポイントな言葉、魔法使いしか使わねェだろォ」
「……なるほど」
「──さて。それじゃー早速だけど、自己紹介をしてもらおうかな?」
「はい。わかりました」
担任の先生が教室に足を踏み入れ──その隣に、刀華が並び立つ。
「破闇 刀華です。色々と事情があって、ここから遠く離れた所から引っ越してきました。どうぞ、よろしくお願いします」
「それじゃー破闇の席は……うん。百鬼の横が空いてるね。ほら、あそこに金髪の悪そうなやつがいるだろう? 君の席はその隣だ」
「わかりました」
担任に促され、刀華が夜行の方へと歩いてくる。
「よろしくね、百鬼君」
「……あァ」
───────────────────
──その日は特に何事もなく、放課後を迎えた。
夜行も荷物をまとめ、雲雀と共に文化部棟へ行こうとする──寸前、背後から声を掛けられた。
「百鬼」
「あァ? ……川上先生かァ。なンか用かァ?」
夜行と雲雀の担任──川上先生が、夜行を呼び止めた。
その川上先生の隣には──刀華が立っている。
「この後、予定はあるかな?」
「……いや、特に何もねェ」
「なら、破闇に校内の案内をしてくれないかな?」
「……オレがァ?」
「うん。破闇が百鬼に校内を案内して欲しいって希望してね」
「お願いできるかしら、百鬼君?」
「つっても、オレもそこまで校内に詳しいワケじゃねェからなァ? 最低限、授業で使うような所にしか案内できねェぞォ?」
「充分だよ。というわけで、頼めるかな?」
「……チッ、わかったわかったァ」
ありがとね、と言い残し、教室を出て行く川上先生。
──クイクイと、夜行の制服の袖が引っ張られる。
そちらに視線を向けると──そこには、雲雀がいた。
「あの……」
「話は聞いてたなァ? オレァコイツに校内を案内しなきゃならねェから、部室に行くのァ少し遅れるぞォ」
「はい、わかりました。では先に行ってますね」
「あァ」
教室を後にする雲雀を見送り──夜行は、刀華に視線を向けた。
「ンじゃ行くぞォ……時間を掛けるつもりァねェから、シャキシャキ付いて来いよォ」
「えぇ、わかったわ」
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