仲良し家族、まとめて突然!異世界ライフ

ぷい16

本好きのクララ嬢

今後のこの小説の更新の時期の設定を緩めたいと思います。

決めたらまたお知らせします。





 エミールが新大陸に興味を持って、何やら動いている頃の麻宗家。

 朝、食後。クララは思案していた。

 本というのに興味をかれ、休みの日には、屋敷内の本を手当たり次第読んでいたのだが、いかんせん麻宗家は新興の貴族。赤ちゃんのための絵本はそれなりの豊富、中にはこの世界には無い日本の絵本も混じっていたが、それはさておき普通の本は他家と比べるまでも無く少ないのであった。

 大人向けの本を辞書片手に読んでいるときは楽しかった。世界が広がるような感じがことのほか心地よかった。

 でも、この家の本棚にある本で、読んでいないものはもう無い。そこで、


「エルビン兄様、ちょっといいですか?」


 エルビンは勉強している手を止め、


「何だい?クララ」


 クララは本が好きなこと、麻宗家にある本は粗方あらかた読み終えたことを話し、


「新しい本が読みたいのですけど、何か方法はありませんか?」


 目をウルウルさせながら聞いてくる妹。その表情にやられて何とかしてやりたいエルビン。


「それなら図書館に…、って僕たちのよく行く図書館は魔法学校校内だからクララには入りづらいか。スマホは…、まだ持っていないか。街に図書館なんてあったかな?」

「図書館?」


 クララは図書館を知らなかった。


「図書館というのはね、本がいっぱい置いていて、その建物の中でなら、本を読んでも良い場所だよ」

「本がいっぱい、そんな場所があるんだ」


 クララにはもう一つ考えがおよばない場所であった。


「本といえばかおる母様だな。一緒にかおる母様に聞いてみよう」


 エルビンとクララがかおるの部屋に向かっていると、ちょうど向こうからかおるが歩いてきた。


かおる母様」

「なぁに?2人ともどうしたの?」


 クララは本が好きなこと、麻宗家にある本は粗方あらかた読み終えたこと、エルビンに相談したらかおるに相談してみようという話しになったことを話し、


「それじゃぁね、私の部屋の本を貸してあげようか?」

かおる母様は私室に本をお持ちなのですか?」

「えぇ。そうよ。二郎も持っているはずよ」


 クララは笑顔になった。


ただし」


 ここでかおるは一言言っておく。


「ほとんどが日本語なのよ」


 エルビンは「あぁー」と言いながら落胆らくたん顔。するとクララは、


「日本語だったら何がいけないのです?」

「日本語は読むのが難しいんだよ。文字がやたらと多いし、書くのは難関だ」

「それが何がいけないのです?」


 エルビンとかおるは顔を見合わせる。


「だって、読むっていうより言葉の勉強だぞ?少し読めたらつっかえて、辞書を引いて、またつっかえて、辞書を引いて」

「ふふっ。楽しそうじゃないですか」


 そこでかおるは、


「コミュニケーションの魔法をかければスラスラと読めるんだけどね」


 エルビンは失念しつねんしていたと片手で顔をおおった。しかしクララは、


「それじゃぁ楽しみも半減じゃないですか」


 そこでかおるは、クララが今までどんな風に読書をしていたのかを聞いてみた。


「つまり、辞書を片手に読むのも楽しんでいるのね」

「はい」

「でもね、日本語の本は読むよりもっと辞書を引いている時間が長くなるわよ」

「そうなんですか?」


 かおるは少し考え、


「クララはどんな本を読みたい?」


 かおるはクララの興味のある傾向を聞いてみることにした。


「どんな本も楽しいです!」

「この屋敷にある本が少なすぎるからジャンルはしぼれないかぁー」


 かおるはまた、少し考え、


花菜香はなか風雅ふうが意外にも、子供に日本語の強い子供がたって面白いか。あ。それならガカスドロフ語を憶えてもらうのも…。うん、よし。クララ、何とかクララが読書を楽しめるようにしてあげるから、ちょっと待っていてね」


 かおるはそう言い残し、足早に自室へと戻って行ったかと思うと、すぐに戻って来て、


「じゃぁ、間に合わせで悪いんだけど、これでも読んでみて」


 かおるは2冊のアーメイヤス語で書かれた本をクララに渡すのであった。


「「かおる母様、ありがとうございます」」


 エルビンとクララの2人はかおるにお礼を言って、それぞれ自室へと戻っていくのであった。



 その後、かおるはミネルバと二郎の私室に訪れ、クララのことを話し、


「カオルさん、それ、本当にするんですか?」

「えぇ。日本では本はものすごく安いし、ガカスドロフ語の方は教えられる人間はいっぱいるでしょ?クララが面白いと思っている間だけでもいいのよ。他のことに興味を持つようになれば別に投げ出したっていいわけだし。まぁ、そんなに重く考えないでね」

「はぁ。そうですか。それなら私は別にかまいませんが」

「そう?じゃぁ決まりね!」


 その後、細々としたことを3人で話し合って解散し、かおるは準備をして転移魔法で日本へ行き、書物などを買いあさったり、サガンガ王国の麻宗邸やらバーンクリット公爵邸へ寄るのであった。



 昼食後すぐ、


「クララ、ちょっといい?」

「はい。かおるお母様」


 2人はクララの私室で話し合うことにした。


「クララ、ちょっとした家具を置きたいんだけど、どこがいい?」

「ではこの辺りに」

「分かったわ」


 かおるがアイテムボックスから取り出して置いたのは、小ぶりな本棚であった。そして、


「これは国語辞典。日本語の辞典ね。それからこっちは漢和辞典。日本語の文字に関する辞典ね。それから…」


 かおるは本について簡単に説明しながら今出した本棚におさめていく。クララはそれを信じられないという顔で見つめながら、1つ1つにうなずく。目は徐々にうるんでくる。


「それからこっちはガカスドロフ語の辞典に、こっちは童話ね。ガカスドロフ語はお母さんたちやお父さんが知っているから何でも聞きなさい。それから日本語は私かお父さんね」


 クララは気を取り直して、


「これ、みんな、もらっていいんですか?」

「えぇ。でも、興味が無くなったら別に読まなくていいわ。こっちも興味本位でしていることだし、そこは気負わなくていいわ。日本の本は安いしね」

「分かりました。ありがとうございます」


 クララは一筋涙を流し、かおるに抱きついた。そうして落ち着いたらもう一度かおるにお礼を言って、本を読み出すのであった。


 冷静に考えれば、あと数ヶ月でクララも受験し、どこかの学校に入る。学校に入れば大抵たいていは図書館がある。そうすれば問題は解決するのであるが、そこにみなが気付くのは、もう少し後のことであった。

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