葵雪(きせつ)さんちのご長男っ!〜キョウダイ同士で結婚できると発表された次の日から四姉妹のアプローチが凄い件について

柏木イズモ

第5話 学園での葵雪家〜主に長女(千春)

「ということから貴方にも非があるでしょ?だからもう一度、二人でちゃんと話し合いなさい」

 昼休み。私はとある女子生徒から悩みを相談されていた。その悩みとは彼氏とのいざこざだ。

「先生、ありがとうございました!」

 その女子生徒はスッキリした表情で帰っていった。

「ふぅ……」

 たまたま悩み相談を受けたところ、それが好評だったらしく、今ではこうやって昼休みや放課後に悩み相談を受けることが多くなった。
 あとたまに、私目当てでくる男子生徒が多数。

「彼氏、ねぇ……」

 私は男女交際の経験は一切無い。
 学生の頃は毎日までとはいかないが、頻繁に告白されていた。でも結局、誰とも付き合わなかった。多分、その頃から惹かれていたんだと思う。

「千春ねぇ— —!」

「ひゃっ!?」

 慌しい足跡が聞こえたと思えば、急に保健室のドアが勢いよく開いた。その人物は弟の四季である。

「必殺、魔球投球っ!」

「ちょっ、投げないでよねっ!」

 そして私に向けて何か投げてきた。投げてきた物を見るとメロンパンだった。しかも数量限定で滅多に手に入らない倍クリームメロンパン。
 ずっと気になってはいたが、昼休みは悩み相談を受けていて、購買部に行く頃はすでにこのメロンパンは無くなっている。
 でもなんで四季がこのメロンパンをくれたのかしら?

「これ、なに?」

「えっ、メロンパンだけど?」

「知ってるわよっ!これ、どうしたのよ?」

「どうしたって購買部に行って買ってきた」

「どうして買ってきたのよ?」

「えっ、だって千春ねぇ食べたそうだったじゃん」

「えっ……」

 今まで一度も言ったことないのに…。

「と顔に書いてある」

「えっ、嘘っ」

「嘘」

 ムカついたので一発叩いてやった。
 四季は叩かれた背中をさすりながら近くの椅子を私の前まで持ってきて座った。

「それで、お弁当なんて持ってきてどうしたのよ?」

 メロンパンを渡しにきたのならまだしも、四季の手元にはお弁当が入った巾着袋があった。

「陸が委員会で昼休みいない。それで俺、ぼっちなのよ」

 陸とは四季と一番仲の良いシスコン気質の男友達である。

「あら、他の友達は?」

 そう聞くと四季の眉間にしわが寄った。

「……朝、やらかした」

「どうせ、私たち姉妹関係の事でしょ?」

 四季が男子から恨まれる原因は私たち姉妹関係が九割である。

「ご名答。酒のツマミにでもしてくださいな」

「飲まないわよ?」

 すると四季はいそいそと弁当箱を開けた。中身は彩りどりのおかずが入っていてとても美味しそうだ。作ってくれたのは四女の冬羽である。

 葵雪はみんな優秀であると思う。
 次女の夏々子は頭脳明晰で人からの絶大な信頼を得ている。
 三女の秋奈は普段はああだが、生徒会長としての働きは申し分ない。
 四女の冬羽は一番年下にも関わらず、家事を完璧にこなすお母さん的なポジションにいる。
 そして長男の四季は運動神経抜群で、誰とでもすぐ仲良くなれる。

 一方の長女の私はというと……正直、誇れるものが何か分からない。
 
 長女とは下の子たちの面倒を見ないといけない
 一番しっかりしてないといけない
 なんでも出来ないといけない
 なんでも一番じゃないといけない

 こんな優秀なキョウダイたちを持ち、自然と自分でプレッシャーをかけてきた。
 でも葵雪家はみんな優しかった。
 特に四季は私に対し、まるで同年代の友達みたいに接する。でも私はそれが嬉しかった。
 そして本気で好きになった。
 だからこそ、姉弟としてでもなく、擁護教諭と生徒としてでもなく、一人の女と男として、彼を見たい。

「ねぇ、四季」

「ん?なに?」

 お弁当をモグモグと食べる四季は不思議そうに私を見た。 
 夏々子には抜け駆けしないでと釘を刺されたが、思い切って聞くことにした。

「もし、よ……。もし、私に好きな人がいるって言ったらどうする……?」

「無論、盛大に祝う」

 聞いた私がバカだったかしら?

「でも……」

 四季は食べる箸を止め、私の方を向いた。

「千春ねぇのことを適当に扱う奴には任せられない」

 その真剣な眼差しに思わず吸い込まれる。

「……もし、私がそんな人と付き合ったら?」

「そんときは俺が相手をぶっ飛ばすっ!」

 ぶっ飛ばすとは随分物騒な……。

「その前に千春ねぇ、付き合えるかなー?」

「ちょっとそれ、どういう意味?」

「だって千春ねぇ、ポンコツだし」

「うっ…」

「酒弱いし」

「うっ…」

「寝相悪いし」

「うっ…」

 気にしている事を遠慮なしにグサグサと言う四季。地味に傷つく……。

「でも」

 そう言ったと思えば一拍開け、また口を開いた。

「人一倍頑張り屋で、優しくて、面倒見もいいし、おまけに綺麗だし」

 初めて聞いた。
 四季が私の事をそう思ってくれていたなんて…。

「うーん……。やっぱり良い人がすぐ見つかるなっ!」

 その太陽のような笑顔にどれほど救われたか。そしてどれほど惚れたか。
 この笑顔を見ているとふと、思う。
『あぁ、やっぱり好きだな』と。

「さっきも悩み相談、受けてたの?」

「え、えぇ……」

「じゃあたまには千春ねぇも悩み相談、してみる?」

「えっ、誰に?」

「俺に?」

「……じゃあ悩みを言うわ」

「おう」

「最近、うちの弟が生意気な件なんだけど」

「身内の相談は受け付けません」

「ふふっ」

 ずっと一緒に居たいと思える相手。それが葵雪四季という男の子である。
 
 だからこそこの四季争奪戦、負けるわけにはいかない。


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