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二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

閑話 やぶられた必殺技


 邪神ダゴンの出現に、おびえるばかりだったディープワンズが活気づく。

 表情には出さなかったが、ライオネルは内心で舌打ちした。
 あのまますみっこでガタガタ震えてくれてれば良かったのに、と。

 数にして四十匹以上も残っているのだ。まともに戦える戦力差ではない。

「もっとも、ダゴン一匹でも勝算なんか立たないんだから、ディープワンズが加わっても加わらなくても変わらないんだがな」

 ゼロにいくつかけ算をしても答えはゼロである。

「サリエリ! いきますよ!」
「わかったよぅ~」

 ミリアリアがアイシクルランスを、サリエリがイフリートカノンを撃ち出す。 『希望』の最大火力である合体技フレアチックエクスプロージョンだ。

 まずは大技で機先を制する。
 発想としては間違っていない。

 一発でダゴンを無力化できれば最高だが、そこまでいかなくともかなりの数のディープワンズば潰せるだろう。

「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるぅ るるいえ うがふなぐる ふたぐん」


 しかし、ダゴンの口から不気味なしゅが流れだし、衝突するはずだった氷の槍と火焔球が軌道を逸れ、あさっての方向へと飛んでゆく。
 そして戦場のはるか遠くに着弾。

「極低温と超高温が接触して起こる大爆発。それがフレアチックエクスプロージョンの正体だ。判っていれば対策なんか簡単だよな」

 衝突させなければ良いだけなんだからとダゴンがせせら笑った。
 サリエリの表情は普段通りつかみどころがないが、ミリアリアは完全に青ざめてしまっている。

「なんで……?」
「びびってるな、大魔法使い。てめえの怯え、美味しくいただくぜ」
「く……!」

 ダゴンの言葉に、慌ててミリアリアが両手で自分の頬を叩き、怯懦の虫を体外に追い出そうとする。
 戦場だ。計算外のことなどいくらでも起きると必死に言い聞かせて。

 だが、簡単に震えはおさまらない。
 大丈夫だと自分を励ませば励ますほど、蛇のように恐怖が首をもたげてしまう。
 ダゴンの顔が愉悦にゆがむ。

 ミリアリアの細い肩をぽんと叩き、ライオネルがダゴンを睨めつけた。

「自分の兵隊が死んでいくさまを観察して正解にたどり着いたってわけだ。さすがに悪魔様はお頭がよろしゅうございますね」

 片頬をゆがめて煽る。

 フレアチックエクスプロージョンというのは、複雑な術式でもなんでもない。
 それなのにどうして他に使うものがいないのかといえば、禁呪指定されたことで使い方を魔術協会アカデミーが教えないというのがひとつ。

 高温の魔法と低温の魔法をぶつけたらどうなるんだろう? などと酔狂なことを考える魔法使いなど滅多にいないし、いたとしたも大爆発に巻き込まれて死んでしまうのが関の山だ。

 現実問題、実験したミリアリアとサリエリは瀕死の重傷を負った。

 生きていたのは、チームにたまたま大司教クラスの回復魔法が使えるメイシャがいたからにすぎない。
 普通は死んで終わりである。

 だから使い手が自然発生する可能性はほぼゼロで、戦訓として取り入れるのも至難だ。
 なにしろ近くでフレアチックエクスプロージョンに巻き込まれたら、観察どころの騒ぎではなく、消滅してしまう。

「アンタは魔法の正体を知るため、観察できる距離で使わせたかったんだよな。そのためにインスマスどもをけしかけた」

 姑息な手だとライオネルが皮肉を飛ばす。

「正解だぞ。軍師ライオネル。てめえらが調子こいて二回も使ってくれたからな。どういう魔法なのかすっかり判ったよ」

 ダゴンが笑いかえした。
 皮肉など、分厚い皮膚にすべて跳ね返されてしまったようだ。
 まあ、悪魔というのは味方の犠牲も気にしないから。

「そんなことよりライオネル。魔法使いばかり気にしていた良いのか?」
「なに?」

「はぅっ……ぅぅぅ……」
「ぅぁ……ぇぇぇぇ…………」

 ふりかえれば、メイシャとユウギリが地面に膝と両手をつき、えれえれと嘔吐としていた。
 意味不明な光景に、一瞬、ライオネルが言葉を失う。

「俺の祝言が魔法を逸らすためだけのもののわけねえよな。いまより、いや、もともとこの地はクトゥルフの庭だ。頭を垂れて許しを請え。至高神くそやろうの使徒ども」




 聖域ホーリーフィールドの悪魔版のようなものだろうか。
 至高神の恩寵あつい二人が大ダメージを受けてしまった。

 他方、ディープワンズは息を吹き返す。
 手に槍を掲げて、一気呵成に『希望』へと殺到する。

 どうする?
 ライオネルが逡巡した。
 珍しいことに。

 ミリアリアはショックから立ち直るのにまだしばらくかかるだろうし、メイシャとユウギリは魔域・・の影響で大ダメージ。

 戦力がほぼ半減という状況の中では、彼ほどの軍師といえども咄嗟に打開策が出てこなかったのだ。

「母ちゃん! わたしが時間を稼ぐから!」

 その間になんか作戦考えて! と、丸投げなんだか信頼なんだか判らない言葉を残し、アスカが単身で突撃を敢行する。

「仲間のために時間稼ぎの単騎突入か。泣かせるな、英雄アスカ」

 死ぬ気かとダゴンが笑った。

 どんな英傑だって、たった一人ではやれることが限られる。
 ディープワンズは単身で戦ったってオーガーより強いのだ。それが四十三対一。なぶり殺しになるだけである。

「単騎じゃない! 七宝聖剣にはみんなの力が宿ってるんだから! みせてやる! 剣に宿れ万能の極光! 其は朋友サリエリの力なり!」

 叫びとともに、アスカの身体が白銀の燐光に包まれた。

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