二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第234話 決戦


 あの昆虫人間みたいなモンスターたちが『葬儀屋』だとはちょっと考えにくい。
 けど『葬儀屋』と同程度の戦闘能力を持っているものとして作戦を立てた方が良さそうだ。

 そしておそらく『固ゆで野郎』と同じレベルの敵もいる、と。
 サリエリがライノスっぽいって言っていたからね。

「……よし、撤退だ」
「母さん母さん。落ち着いてください。ここまできて撤退してどうするんですか」

 現実から逃げようとする俺の肩を、ゆっさゆっさとミリアリアが揺すった。
 やだよう。
 逃げさせてくれよう。

「ゆーてミリアリアさんや。『葬儀屋』と『固ゆで野郎』を同時に相手にして戦うってことですよ。それで勝てるような作戦を立てろってことですよ」
「大丈夫。母さんならできます。余裕です」

 やめて。そんな信じ切ったキラッキラの瞳で見つめないで。

 とはいえ、逃げても意味がないのも事実なんだよな。
 せっかくここまで奪い返した階層をくれてやるのもシャクだし。

「母ちゃんが勝てって言ってくれたら、わたしは誰が相手でも勝つよ! ジョシュア兄にだってニコル兄にだって!」

 どーんと胸を叩くアスカだ。
 覚悟は立派だけど、そういう命を惜しまない戦い方はダメだぞ。
 生還してこその勝利なんだから。

 アスカの頭を一撫でしてから、俺は六人に作戦を伝えた。
 全員がこくりと頷く。

 その顔を見て緊張感を確認するのがいつものことなんだけど、メイシャだけやや緊張しすぎな気がするな。
 普段はもっと鷹揚な感じなのに。

「大丈夫か? メイシャ」
「もちろんですわ」

 返ってきた笑顔は普段通り。
 けど、言葉の前に挿入された一拍の沈黙を俺は見逃さなかった。

「勝つ算段はしてあるから、力みすぎるなよ」

 なにしろこの娘は、自分自身のことを後回しにする傾向がある。
 俺がそのことに気づいていなかったため、グリンウッドでは大怪我をさせてしまった。
 同じ失敗を二度するわけにはいかないからな。

「ネルママも、無理をしてはいけませんわよ。わたくしたちの行いは、ちゃんと至高神様が見ていてくださいますわ」

 いかにも聖職者らしい言い回しをして聖印を切る。
 なんだか、いっぱしの口をきくようになったわね。この娘も。
 でも、ちょっと違和感があるな。

 普段ならもっとこう「肉にかじりついても勝て」くらいのことを言いそうなのに。

「わたくしをなんだと思っているのですか? ママは。肉ならさっき食べましたわよ」

 うん知ってる。
 この小部屋に逃げ込むと同時に、メグからおやつをもらっていたわよね。あなた。




 まずはユウギリの曲射で戦端が開かれる。
 受けるのは青カブトムシ、黒カマキリ、金クワガタに銀クワガタ。
 固そうな甲虫連中じゃない。

 そうきたか。
 ていうか、やっぱり逃げずに仕切り直したね。
 ここが勝負どころと読んだな。モンスターたちも。

 場所は、さっき戦ったホール。
 小細工抜きで戦いやすいフィールドを選び、必勝の構えをとってきた。

 つまり、重戦士たちが防御を担当して相手の疲弊を誘い、隙を突いて軽戦士が攻撃するという『固ゆで野郎』の普段の堅実な戦い方を捨てたってこと。
 いまは、リスクを背負っても前進して勝ちを掴みにいくっていう『葬儀屋』のやり方に近い。

 そう思いながら見れば見るほど、本当に『固ゆで野郎』や『葬儀屋』を相手にしているような気分になってくるな。

 重戦士じゃなくて軽戦士がユウギリの矢をさばくなんて、まさにって感じだよ。

 となると、次は当然。
「ぴるるるるるる」としか聞こえない鳴き声とともに、敵陣から無数の攻撃魔法が飛び立つ。

「ミリアリア!」
「判ってます! マジックミサイル! 全方位誘導オールレンジマルチロック!」

 虚空に現れた、やはり無数の魔力弾が放たれ、敵の攻撃魔法をすべて空中で撃墜していく。
 一発の取りこぼしもなく。

 ミリアリアは必死の形相だ。
 敵の魔法も、ただまっすぐ飛んでくるわけではなく不規則な軌道を描いている。
 なかには大きく迂回して飛んでくるものまであるんだ。

 それにも対応してミリアリアの魔法が食らいついていく。
 コントロールするのは大変なんてレベルじゃないだろう。

 敵の魔法は逃げる。ミリアリアの魔法は先を読んで追いかける。その先を読んで敵の魔法が逃げる。さらにその先を読んで迫る。
 そういう、頭がおかしくなりそうな駆け引きが、俺たちの頭上で二十も三十も同時におこなわれているのだ。

 実際、ミリアリアの小さな鼻からはポタポタと血が垂れてるし。
 頭の働きに身体が追いつかなくなってるのだ。

「でも、絶対に全部撃ち落としてみせます! 絶対にです!」

 気迫の叫び。
 撃ち漏らしがあったからメイシャが大怪我をしてしまった、というのも記憶にあたらしいからね。

「ま、一番ちっこいミリアリアが頑張ってるんスから、こっちだって頑張らざるをえないスね」

 メグの声が一瞬聞こえ、キンキンキンと乾いた音とともに、でかい鉄串みたいなものが床に落ちる。
 たぶん敵陣から投げつけられた飛び道具だ。

 隠形していたメグが気づいて迎撃してくれたんだろう。
 そのためには隠形を解かないといけないから、リスクのある行為なんだけど、彼女もまた必死だということである。
 勝利を掴むために。

「メグ助かる! アスカ、サリエリ、いまだ! いけ!!」

 感謝を捧げ、俺は敵陣を月光で指した。
 敵の魔法使いはミリアリアとの攻防で手一杯になっている、という確証を得たから。

 このタイミングで飛び道具を使うというのはそういうこと。
 いま突撃されるのが嫌だというなによりの証拠である。

「合点!」
「しょうちのすけぇ~」

 元気な声と気の抜けた声とともに、ふたりが突進していく。
 どうでも良いんだけど、その意味の判らないかけ声はどこで憶えてきたんだい?
 

 

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